65話:経過
一年経った。
この一年間は【八本脚運輸】の交易を優先した。
護衛として【バスティオン・キャリア】に乗り、仕事をしながら荒野を移動し続けていた。
その間、塔は落下情報を各街に共有し、他の傭兵に任せて一旦放置する方針だ。
流石に各機体もボロボロだったし、基礎資金が枯渇気味だった。だから一年もの時間を使い、資金体力を獲得する方針としたのは妥当だと俺も判断した。
この間は、要塞街と農業協働連合の農場、それとたまに海賊略奪同盟の港街を行き来するだけの平穏な日常を過ごしていた。
流石にスクラップやゴブリン、傭兵崩れどもの襲撃は結構な回数発生していた。
しかし、大規模な襲撃はなく、【バスティオン・キャリア】が大きいダメージを受けたことは一回もなかった。
経営方針に関してはタコ野郎とグラハムを中心としてぶん投げて、ざっくり意見を言うだけに留め、俺はハンガー内の機体整備と改造、そしてヒルダの訓練に注視させてもらった。
ヒルダはもう射撃への適性が皆無という妙な適正をしていたのですっぱり諦めさせた。
しかし、一年前のギガースとの戦いで殴り合いと生存に関するコツや、見切りのようなものを掴んだらしい。格闘への意識のこだわりが出来上がっていた。
そのため、生身での俺を相手にして戦闘訓練を行い、格闘技術を身体に叩き込んだ。
元々貴族出身のメイドは戦闘技術をある程度仕込まれていることが多く、一定の基礎を仕込まれていたため多少教える程度だった。
そのままギアを使って緩やかな組み手。ひたすらに身体に挙動を覚えさせた。
ゆっくりと操作を行うことで動作確認をし、それを反復させることで、瞬間ごとの操作の迷いを減らす狙いだ。
そして、実践としてスクラップやゴブリン相手に戦闘。
生死が掛かる状態で実際にどこまで出来るかを確認し、理想と現実を常に意識させた。
その問題点を洗い出し、フィードバック。再挑戦。
ただこれを繰り返す。
そうしていたら、ヒルダは駆け上るように俺から格闘技術を吸収していった。
たった一年だ。
その短い時間で、別働隊の前衛を任せ切っても良いと、俺は断言できる。
知らない相手にでも「強力な前衛」と言い切れる程、納得できるレベルに到達していた。
まだ出来ることは限られている。
だが、このまま独立したとしても格闘技術だけで充分やっていけるだろう。
逆に、アルマに関しては得意傾向が似ているコテツを指導員とさせていた。
元いた軍隊式の指導方法なのか、コテツの教え方が上手いのか、射撃と機動の技量は明確に上昇したと感じている。
初期はちょっと俺も見ていたが、育成方針に問題を感じず、コテツに完全に任せっきりにしてしまっていた。
実際にやるなら似たようなことを俺も実践していただろう、練られた訓練計画を共有させてもらっている。
だが、結果として本人の技量への影響は緩やかになってしまっていた。
命中精度は悪くない。だが戦場での取捨選択が遅めで、後衛として少し不安が残る結果となってしまっている。
だが、一年でこの状況ならばそこまで不足しているわけではない。
求めすぎだ。と個人的には思う。
比較するとヒルダが成長しすぎているだけであり、普通の傭兵としたら充分だろう。
これが新人二人の育成の状況である。
──では、実戦でその成果を見せて貰うとしよう。
*
移動牧場。
塔の落下に備え、ブロック単位に分割した足場に脚部を装備することにより、移動を可能にした農場である。
農業協働連合は小さい単位を”農村”と呼び、それらをかき集めた集合体として構築されている。
移動牧場や農場をひとつの”村”と扱い、ここに知的生命体が住み、生活を営んでいる。
力持つ豪農達は、連合の農場の総数は千を越えて存在していると豪語している。
恐らく少し盛っているが、それでもその数は膨大であった。
この生産力が農業協働連合の最大の強みであり、この都市間同盟の範囲内の諸国における、豆類と穀物を中心とした食物供給を維持し続け、知的生命体の腹を満たす大事な役割を担っている。
しかし、移動農場は連合の範囲の外縁部に配置されており、その能力は、広く多く安く、を信条とする作りをしていた。
なによりも生産量を優先したものであり、かつ、いざとなったら”捨てる”決断を可能にした安さで構成されている。
つまりは防衛において難点があると言わざるを得ない。
その結果、頻繁に襲撃が発生することになってしまっていた。
今のように。
「カラス先生! ゴブリン見えた! ライダー7機! 輸送キャリアがいっぱい! その上にもいっぱい!」
「予想通りですね。農場との連携はどうしますか」
農場のライトフレームとAGには期待するな。
防衛に専念してもらわないと、すぐやられるくらい”弱い”と思っていい。
個人的には、四脚の【ケンタウロス】が居るなら回して貰いたかったが、あっちも駆けずり回ってるだろう。
「そうですね、はあ。コテツさんが居れば狙撃して貰えたのですが」
そう、アルマがボヤいた直後。
遥か遠くの別の農場で閃光が輝き、上空から光条が斜めに地面を貫いた。
あの位置は【グラスホッパー】だな。あっちも始まったなぁ。
「ドワーフのおじさんたちも分散させてるくらい範囲広いんだから贅沢言わない! 行くよ!」
そう言って、ヒルダが機体を前進させた。
さぁ、防衛戦だ。
ライダーのうち2機くらいは通してもいい! それくらい農場の連中にやらせろ!
それ以外は全部仕留めろ! ヒルダ! ”号砲”を撃て!
「あいさ~カラス先生~!」
ヒルダのギアが素早く位置取りを完了させ、その両肩部を展開し、正面に向けた。
アルマとヒルダの機体は【ハッチポッチ】をベースに改修した機体へと変貌していた。
それは普段は破損を防ぐように肩に取り付けられた羽で守られており、充分なエネルギーを充填させた初手でしか使うことは出来ない。
「いっくぞ~!」
羽はそのまま増幅装置となり、指向性を強化するパーツと変貌した。
溜めこまれた振動で羽は震え、前方へとそれを解き放った。
指向性衝撃波装置。
前方範囲に向けて衝撃波を撒き散らす音響兵器である。
方向さえ間違えなければ必ず命中する代わりに、威力は控えめだ。
ギアが相手だと小型機程度しか損傷できず、盾を構えれば確実に受け止めることが出来る程度の破壊力しかない。
だが、ライトフレームである小鬼型に乗ったゴブリンには致命的な破壊をもたらす事になった。
ギアならばシャードジェネレータから供給されるコアフィールドにより、その威力を軽減することが出来るが、ライトフレームには衝撃を吸収する機構は無い。
つまり音響兵器の一撃は回避出来ず、かつ防御出来ない強力な一撃へと変貌する
音の波を輸送キャリア一つにぶち当て、ゴブリンどもを直接"シェイク"させた。
あの一撃だけでは、全滅とはいかないだろう。
だがその、"中身"へと深刻なダメージを与えることは確実に出来たはずだ。
「ヒルダが居ると楽ね」
アルマはヒルダのギアの後方に位置を調整した。
ヒルダの後方に移動する挙動は、一年前から何度も繰り返した鉄板の行動である。
左手の盾を構えながらゆっくりと機動し、そして砂埃を吹き上げながら着地。
そして攻撃を開始する。
右肩のオートキャノンをゴブリン相手にばら撒き牽制。
そのまま右手のレーザーライフルを撃ち、輸送キャリアの一つに直撃させ爆発させた。
「アルマが居ると楽~」
小鬼型の反撃、それは音響兵器により深刻なダメージを与えたヒルダに集中した。
バズーカ、グレネード、ロケット砲。すべて高威力の弾頭であり、ギアでも命中すればダメージは免れない。
しかし、それは足を止めたヒルダ機の両手に装備された大型ガントレットにより、受け、止め、弾くことに成功。無傷とは言わないが、ダメージを最小限に留めた。ほぼ足は動かしていない。
虚巨人の腕部から作成された硬質かつ巨大なガントレットを駆使した防御により、ゴブリンどもの雑多な攻撃を難なく捌く。
ヒルダが乗る機体は【パヴェ―ズ】と名付けられた。
足を止めて動かず、巨大な腕で攻撃を捌くことで効率の良い防御力を獲得した鈍重な機体である。
「アルマ! 右から来る"ライダー"の対処お願い! 左はやる!」
ヒルダは【パヴェーズ】の腕を操作し、腰部にマウントさせた手斧を投擲。
ビーストスクラップに騎乗した、小鬼型の一機にぶち当て、それを沈黙させる。
流石に近ければ当たるから投擲武装くらいは装備させておいた。今回は命中したらしい。
射撃武器は先程使用した指向性衝撃波装置と、腰部にマウントされた手斧のみと割り切った機体である。
そのため、射撃機との連携を前提とした運用にしていた。
「任せて。ばら撒くのは得意だから」
アルマは、アホどもの悪い影響をいっぱい受けてすっかりと"擦れて"しまった。
右肩部のオートキャノンをばら撒く。以降弾を打ち尽くすまで止める気が多分無い。
右手のレーザーライフルを効率よく射撃。チャージが終わったら即発射している。
そして左肩部の、デュアルグレネードをライダーに叩き込み爆発させた。
「火力、楽しい」
アルマはグレネード教へ入門してしまったらしい。嘆かわしい。
反撃とばかりに少しばかりばらまかれるが、左手の大型盾により防いだ。
【ファランクス】と名付けられたギアは、高火力と高防御を両立した機体だ。
動かすたびにアルマは楽しい、楽しいと連呼してしまっている。
多分、ヒルダから遅れて"何か"を掴みかけているのだろう。悪い方向性に、だが。
さて、どうやら"通信によると"状況は順調らしいな。
信じて良かった。"戻らなくて"大丈夫なようだ。
作戦通り、俺は"王"の顔を拝謁しに行くとしよう。
いくぞ、【クロスガード】。
楽しい楽しい逆侵攻だぁ!
アルマが突然スれました。知らん……なにそれ……
【飲んだくれ】の二人とコテツの影響です。悪い男達に酷いことされちゃった。悲しみ。




