余暇話:拉麺
ラーメンを作ろう。俺は衝動的に行動した。
雨季では無いが雨が降り、【バスティオン・キャリア】を濡らしている。
濾過装置を経由して、船の中で大量の水分を獲得することができた。
水資源に非常に余裕がある状況だ。共用のシャワールームはさぞ混雑していることだろう。
タコ野郎の鉄板室は本格的な調理ができる設備を揃えている。
というより、鉄板が完全に余計な設備なだけで普通の調理室だ。趣味全開だな。
そこを借りて俺は無心で料理をすることにした。
なにせ、順調で暇なのだ。整備も訓練も一段落し、襲撃も軽いものだ。
書類仕事からは逃げているが、こんなにも船付き傭兵が楽だとは思っていなかった。
だからちょっと余暇時間として休暇を貰い、俺は料理をしようと決心した。
だから今回は、ラーメンを作ることにしたのだ。
水道管のバルブを捻り、流れ出る水を深い寸胴鍋で受け止めて水を張った。
鍋の中に塔で取れた植物群。根菜と葱とキノコを数種類、ついでに匂い消しの香辛料と塔の壁に張り付いていた貝らしきものを投入。これが味のベースになる。
そこに、解体したスクラップの可食部も追加。荒野で取ることが出来ない栄養素が鍋に染み込み、複雑な旨味を生み出してくれる。
タコ野郎曰く、海賊略奪同盟の領域にある海の中にある海藻と似た味が出せるらしい。
火にかけて、煮込む。
水が沸騰したあたりで、太卵蛇の骨の山を投入。
太卵蛇は伝説によれば食用の鳥の変わりに品種改良された蛇であり、長期冬眠が可能で生育が楽なため一般家庭まで浸透している食材だ。
卵も一日に何個も取れる庶民の味方だ。
今回は蛇ガラのスクラップスープとさせてもらう。
ぐつぐつと煮込む。度々凄まじい勢いで出る灰汁を丁寧に取り除きながら、このスープ作りには何時間もかかるため麺とタレを用意する。
小麦粉は、農業協働連合自慢の小麦から作られている。
この世界において最も繁栄したとされる植物のうちの一つだ。
小麦、大豆、とうもろこしは主星から持ち出され、そして未だに知的生命体の主食となっており、更にはこの星に植え付けられ続けている。だったか。
これを巡り凄まじい論戦と激闘が繰り広げられたらしいが、何もかも与太話に過ぎない。
うん。暇になると、このあたりの事を喋ってくれた教師の話をよく思い出す。
あいつは今何してるんだろうな。まだ元気に人を巻き込んで塔に籠もってるのかな。
ぼけーっとしながら、加水しながら粉をよく混ぜる。
それと塔産の”よくわからんが麺が固まる”水を少量加えてよく捏ねる。
これにより弾力があるモチモチした麺が作ることが出来る。
いろいろと試行錯誤して探し当てたのは塔にあった水だ。
管の中の水も飲めるやつと飲めないやつがあるが、飲めない方じゃないとだめだった。
ただの水だけではダメだ。味が変わる。
こねてのばしてまたこねる。
のばしてこねてまたのばす。
整えて。よし。一段落。冷暗所に置き寝かせる。
この間にタレを作ろう。
大豆! これは神の食材である。最悪大豆さえあれば知的生命体は長期間生存できる。
栄養的に足りないものがあるのは承知の上だが、これほどまでに加工と応用の幅が広い食材は無いだろう。
故に、大豆に付随する各種加工調味料、つまり醤油か味噌のどちらかが一般的なラーメンのタレである。
今回は醤油ベースのタレとしよう。
まぁそこまで複雑なことをやるつもりはない。
市販品三種類くらいと、トランクでこの前作っておいた酒二種類を混ぜるだけだ。
調理用の酒を作らせておいて良かった。トランク回収されちゃったからな。
だばだばだば。目分量。量とか測る気は無い。
ペロッと舐めて──ちょっとバランス悪いな。調整。いい感じ。
よし、終わり。
油は太卵蛇を焼いたものから溢れ出したものを使うとする。これは市販品でいい。
この間に、どうせだから冷蔵庫に入っていた跳豚肉を味付けして茹でておこう。
タコ野郎は簡単に使っていたが、これ相当高い代物じゃないのか?
農業協働連合に近いとはいえ、ツチノコ肉と鎧陸海老以外の動物性食肉は貴重品だ。かなりの量の肉が冷蔵庫の中に存在していたが、これ一式で安いライトフレームくらいは買えるんじゃないか?
でもタコ野郎相手だし、遠慮なく使わせてもらおう。
お前のものは俺のもの。
タコ野郎のものは俺のもの。
借金以外はなんでも貰うぜ。
実の所、最近の俺の扱いに不満がある。
だから、逆にあいつに対しても、扱いを雑にしてやろうという魂胆だ。
なので、あいつのものは一通り勝手に使っていいと思ってる。
そもそもこの部屋も勝手に使ってるしな。文句言われたところで終わるまで使うぞ。
ツチノコ卵も茹でておいて、醤油と甘い酒を混ぜたタレで味付けしておこう。
卵は栄養価が高く、ツチノコが毎日産んでくれるお陰で要塞街でもポピュラーな食材だ。
これがまた美味いのだ。ラーメンとの相性も良い。
茹でるというより、実際は蒸して作ってもそこまで変わりは無いらしい。
半熟くらいにしたいので、だいたい10分を目安として火にかけてすぐに水で晒す。
水で晒すことで煮崩れもしなくなる、うん。いい感じ。
後はタレを作って容器で浸すだけだ。だばだば。おっけー。
ふう。
とりあえず下準備は出来たな。
「すごい匂いだね。何作ってるのカラスさん」
お。ヒルダがふらふらと鉄板室まで寄ってきたな。
ラーメン作ってるんだ。まだ出せるもんは無いぞ。煮込み中だ。
俺は灰汁を取り除きながら答えた。
「ラーメン? なにそれ」
人類の永遠の口の永遠の友だよ。
米も用意しないとならないな。
ラーメンにはライス。これは主星から語り告げられた偉大なるルールである。
ただ、ちょっと貴重なものだ。基本的には病気の発生で主食が全滅することを防ぐ意味合い程度で、畑の余ったスペースで作られている。
大密林では水栽培されていると聞き、あちらでは主食とされているらしい。
味わいが明らかに違うと聞くが、今回はラーメンのお供の役割だ。味はそこそこで充分。
水で研ぎ、研ぎ汁を捨てて水に浸水させる。
あとは適当に鍋で蒸らすだけで完成だ。
「なにか手伝うことある~?」
うーん。今、一通りの作業は終わったからな。どうするべきか。
そうだな。ガレージの作業員のアホどもを呼んできてくれないか。
最近の激務が終わったからな。一段落ついたことだしあいつらに振る舞ってやる。
あとは食べたそうなやつを適当に呼んでこい。
そのつもりの量を作ったから、全員食べられるだろ。
「はーい。すぐ呼んでくるね~」
頼むぞ~。
さて麺でも切って待ってるか──やべ。伸ばす棒が無い。
ヒルダ~!!
鉄パイプ持ってきて~~!!
*
「美味い!」
「すごい!!」
「やばい!!!」
「売れる!!!!」
鉄板室は大混雑した。
出すものは、ラーメンとライスだけ。
具材は味付け茹で卵と焼豚の切り身。あと塔で取れたシャキシャキとした長い葱だけ。
簡単な代物だ。海賊略奪同盟の特産品である海苔が追加出来ればいいんだが、めちゃくちゃ高いしな。諦めよう。
食器を各自、食堂から持ってきてもらった以外は、やることはまぁそこまで苦じゃないので、一人で捌いている。
「お前、こんなに料理上手だったのか」
なんだよセドリック。意外か?
なんたって超絶美少女だぜ。料理上手じゃなきゃな。
「超絶美少女(笑)が作る料理じゃないな」
おっとなにか揶揄するような言い回しが聞こえるが──
死んだ親父から伝授されたものだよ。あのアホ、なんかよくわからんが料理に詳しくてなぁ。
だけど油っこい料理ばっかりだから男臭い料理ばっかり得意になっちまった。
「うわマジで醤油ラーメンだ。すごい。本当に凄い。
ラーメンが食べられるとは本当に思いませんでした──ちょっとすみません。涙が──」
コテツが、なんか泣きながら食べてる。
お、おう。大丈夫か。お前のそんな姿初めて見るんだが。
「もちもちの麺。すっきりした醤油ベースの味わいと鶏油っぽい油の香り──
うう。ライスまである──ちょっと、いやほんとごめんなさいマジで涙止まんないです」
そっか。なんか大変な思いしたのは知ってるが、なにか刺激したのなら何よりだ。
伸びる前にゆっくり食えよ。
「カラスはん!!! 売れるやでこれ!!!」
やめとけタコ野郎。
俺は今回、完全に道楽で作ったから良いが、これ一杯ですらかなり値段が張るぞ。
そう、すごく高価だ。うん。
めちゃくちゃ高いぞ。
「三回も言った──!」
「うわやだ! ぜったい値段聞かないでおこう!」
メイド二人が戦慄した。ははは。マジの道楽飯だからな。
塔産の食材使いまくってるし、肉とかも色々使ってるからな。
俺が傭兵で、自分で好きに取ってこれるから出せる料理だぞ。やめとけ。
「いや、諦めん──! この味は諦められへん──!
絶対に流通ルートを確保して見せる──カラスラーメンを作って見せるやで!」
おう、名前くらいは貸すからいつか勝手にやってくれよー。
ロボットアクションSFで一話丸ごとラーメン作って食べるだけという暴挙
つい最近までが実質第一部だったので、当分こういう余暇回をぽつぽつ出していきます。




