63話:監視
「あの。撃った側が言うのもなんですが、文句言っていいですか」
どうぞ。
「せめて避ける素振りとかしません? 微動だにしなかったの少し悔しいんですけど」
いやぁ。お前、俺が銃弾を見た後で避けられるの知ってるだろ。
殺意とか何もなかったし、不意打ちもされなかったし、丁寧に前フリまでされたからな。
それに──
弾も出なかったしさ。
「本当に見えてたんですね。どういう動体視力しているんですか」
見えるやつは結構いるぞ。スナイパーネキとか音速を越える速度の弾丸を視認できるし。
撃たれてから回避できるのは俺くらいだと思うけどな。
それより、ちゃんと音が鳴ったってことは、先に空包作っておいたの? マメだね。
「ええそうです。空包ですよ」
コテツは消炎が燻る銃を、ゆっくりと地面に置いて手を広げ、降参した。
何かやろうとしても、俺がすべて対処できる距離だしな。
「反撃で撃ち返されて殺されると思ったんですけどね」
ああ、そういうことか。
“先月”までならそうしてたよ。
だけど俺もちょっとやらかしたもんでね。
ハレーに感謝しておけよ。
「あのリザードマンに──? ああ、なんかあったんですか。しくじったなぁ」
どうやら目論みが外れたらしいな。お前らしくもない。
さて。これは自殺願望かなにか?
今の行動、説明する気、ある?
「ええ、そうですね。申し訳ないことをしました。
反撃で殺されても仕方がないと思っての行動ですが、かなり意味があります。
今、権限がいくつか解除されたんですが、少しくらいは話せますね」
今? 権限?
「今です、僕が貴方を撃ったこと。その事実を僕は欲していました。
面倒なものに未だに縛られ続けていると思ってください。
僕の脳は”外”のゴブリンと同じような状態に陥っていると思っていいです」
ううん? なんでゴブリン?
「ああいえ、そうか。未だに原因分かってないんでしたっけあれ。気にしないでください」
めっちゃ気になるわ。
「聞きたいことがあれば、話せる範囲で話しますよ」
うーん。コテツに聞きたいことはいくらでもあるんだが──
そうだな。
まずは、一番聞きたいこと──
コテツ、お前の元の所属と立場を教えてくれ。
何処の、何者だったんだ?
「ああ、いいですね。
自分の制限の範囲内で、いろんなことが一度に説明できそうです」
コテツは姿勢を伸ばし、手を後ろで組み、肩を開き、踵を揃えた。
いつもの気怠そうな雰囲気の街の整備士から、一瞬でその姿を変えたコテツは──
「自分は惑星ノス防衛宇宙軍所属。
戦時臨時編成部隊の技術大尉コテツ────いえ、少佐に今、昇任しました。
惑星ノスを守るために”神”と戦い、敗れて散った軍隊の生き残りですよ」
軍人そのものだった。
*
「口惜しいことに詳しい説明は出来ないと思ってください。大したこと知らないですし、喋れる権限が付与されていません」
医療ポッドのパーツをギアの両手で抱えて、塔の中層から降りながら俺たちは喋っていた。
しっかり腰を据えて喋りたいところだが、なにしろ時間が無い。もう解体作業班が到着してしまっているだろう。長居すると契約違反になる可能性がある。
「ただ、少なくとも惑星ノスを守る側にいた事、侵略側の【天使】である貴方を撃つことでやっと一部の機能制限が解除されました」
機能制限。
ちょうど最近、【ハルバード】に搭載されていた”生体ロック”のことを思い出す。
先程、脳と言っていたな。なにかに、未だに縛られているらしい。
「技術士官だったもので白兵戦の機会はありませんでした。だから冗談みたいな昇進した割に、佐官にはなれてなかったんですよ」
コテツは楽しそうに喋る。
やっと誰かに喋ることが出来た。そのような空気すらある。
「カラスさん。本当に、洗いざらい何もかもお話してあげたいつもりはありますが、それは出来ません」
何で?
「昨日話していた、都市間通信の話があったじゃないですか。個人的には迷信の類だと思っているんですが、条約を作った当時は正しい情報を持った人物が居たんでしょう。当時を知るものが、いまいち理解しないまま追加したんですね」
なんで今、都市間通信の話をしているんだ。
コテツの話の脈絡が分からない。
下層に移動する昇降機を動かし、移動しながらコテツは俺に語った。
「”神”は未だに僕を見ています」
“神”か。
先程も言った単語。
それが何を示しているか分からない。
だが、それこそがコテツの真の敵なのだろう。
「喋り過ぎると”僕目掛けて塔が落ちてくる”と思うんですよね。僕一人で潰されるならまだしも、アルマさんとヒルダさん、【バスティオン・キャリア】を巻き込む訳にはいきません」
塔が落ちてくる。
それが俺に何も話せない理由か。
おい。というか俺は? 漏れてない?
「え? その程度じゃカラスさん死なないでしょ? 何言ってるんですか」
流石に塔が落ちてきたら死ぬっての!
圧殺は防ぎようがねえよ!
「はははご冗談を」
お前なぁ!?
出てくる情報がデカイ割になんだこの軽さは。
「ということで僕は色んなところの裏切り者です。
上手く使って、度々情報を叩いて引き出してください」
裏切り者してるのに軽いなぁ。
「なにせ500年以上前に滅んだ組織ですからね。義理はあってももう義務は無いかなと思いまして」
そう、それだ。
お前、なんでそんな若いの?
話を聞くに、お前ははるか太古を生きていたはずだ。
要塞街上層部みたいなエルフどもには見えないし、あいつらも老化しないわけじゃない。
医療ポッドを使ったところで、外見が若すぎる。
どういうことなんだ。
「僕、つい最近まで凍らされて寝てたんですよね」
ん?
どういうこと?
「詳細は省きますが、今まで冷凍睡眠の処置をされていました。理解できなくて構わないんですが、はるか過去から未来に送り出された様なものです。
ビックリしましたよ。起きたら500年以上経ってたんですから」
よくわからないが、中々に壮絶な経験をしたらしい。
そりゃあ、なにもかも変わり果てた世界を見ることになっただろうな。驚いただろうよ。
「僕からしたら社長のライブラリにある”異世界転生”した感覚のようなものです。しかも装備も無しに、ですよ。いやぁ、馴染むのに苦労しました」
逆にあれだけ馴染んでたのがすげえよ。
親方の下で働いていた普通の作業員にしか見えなかったぜ。どんな適応力してるんだ。
「そもそも僕、元々普通の技術者ですよ。なにせ戦時に徴兵されましたからね。だって戦時臨時編成軍ですよ。肩書き酷すぎません?」
ああ、うん。確かに酷い肩書きだと思った。
そしてボロ負けしていたのもよく分かった。
「あ、僕即席教育された人なので、脳のハッキングとかはやらない方がいいですよ。
僕が死ぬだけならまだしも、それをトリガーにして多分、塔が落ちてきます」
うわ、絶対しないでおこう。
死んで欲しいとか思わないし、そのつもりもない。
なにせこれから傭兵やって生きてくんだろ。
なら生命は大事にしておけ。
もう捨てるなよ。
今を生きてるんだからさ。
ちゃんと、生きていこうぜ。
「はは、耳が痛い。大事にさせてもらいますよ」
コテツは呟いた。
「やっと、僕も、これからを生きていけそうです」
そして俺たちは、塔を後にした。
月は三つとも登っており、俺たちを照らしていた。
【バスティオン・キャリア】も既に到着しており、砂埃を撒き散らしながら、陽気な喧騒を共に連れてきた。
塔の攻略は、これで終わった。
*
「こちらセドリック! ドラゴンだ! 増援頼む!」
「火力が足りないです!」
「弾が足りねぇ!」
「だめだ! 倒せねぇぞ!」
「ブレス来るぞぉ! 総員構えろぉー!」
「「「「「うわぁぁぁぁぁ」」」」」
通信越しの悲鳴が聞こえ、直ぐにあちらの塔の上層部で閃光が迸った。
わぁ。貫通したなぁ。
「あかーん! あっちの塔の攻略が終わっとらん!
カラスはん! コテツはん! 増援行くやでぇ!」
「作業員を下ろすだけの時間は稼ぐ! 一瞬で決着を付けろ!」
タコ野郎が唸り、グラハムが荒れた指揮を下した。
ワイバーン居たから警戒してたけど、あっちの塔に居たのかぁ。
「締まりませんね。行きましょうか」
はぇー。またドラゴンかぁー。面倒くさい〜。
でも、しゃーない。もうひと仕事行くかぁー。
「はよせぇ! 遅れたら契約違反で破産やで!」
それはお前のせいだろうがよぉ!?
火力不足の中でドラゴンと戦う羽目になった俺たちの戦いは案の定、盛大にグダった。
なんとか解体作業員が中に入る直前くらいに塔を攻略できたが、各機ボロボロの酷い惨状だ。
次はもっとマシな計画でやれよ、ほんとに。
コテツとハレーは元々主人公として書こうとしてました。
あと以下の設定があるのですが、今までの文章がちょっとフェアじゃないand設定が食い違っちゃった部分があるのでお蔵入りです。
今更ですが、世界観の参考のひとつにアークナイツがあります。
つまりメイドとかセドリックとかにケモ耳が生えてる、かも。
没パート:
そういやさ、気になってたんだけどお前の種族、なに?
「人間ですよ」
へぇ、"聞いた事ない種族だな"。
「ええ、そうです。
この世界で唯一の、人間です」




