62話:使命
大きいイベント何も無しで順当に終わりました。
これにて一件落着です!
反省会は後だ。まずはやることをやるぞ。
誰か負傷しているやつは居るか。
「そもそも被弾してません」
「機体は焼けましたが、私は無事です」
「 身 体 痛 い ! 」
はい、ヒルダ治療!
そりゃ虚巨人とあんな殴り合いをしてれば身体も痛くなるわ。
傍から見ていても結構ギリギリだったろ。よくもまぁ全損しなかったな。
アルマ、治療を手伝ってあげてくれ。
あの殴り合いなら、多分骨くらい折れてるだろ。
「ほらヒルダ! コックピット開けなさい! あとさっきのなに!? 私怒ってるんだからね!」
「やだー! アルマ優しくしてー!」
メイド二人がわちゃわちゃしているな。精神状態は良さそうだ。
あとは、やるべき事をやってさっさと終わろう。
俺は門の方を向いた。
門は虚巨人を倒したため既に開いている。
この先の中枢ユニットのシャードクリスタルを回収すれば、この塔も動作を停止する。
今回は丁寧に下層と中層からスクラップを排除したため、ゆっくりでも問題はない。
「でも、確か目標期限、そろそろですね。時間無いですね」
そうだな、【バスティオン・キャリア】が到着するまでの時間も後少しだ。
こんなハードなスケジュールを設定した馬鹿げた理由はタコ野郎にある。
タコ野郎は塔の確保を終えてないのに解体権を売った。
マジで即金が必要だからって違法ギリギリ――
いや実際はめちゃくちゃに違法な行為をやらかしている。
それの所為で、なんとか辻褄を合わせるために俺達は戦っていたわけだ。
今【バスティオン・キャリア】はタコ野郎が手配した解体業者達でパンパンに詰められているだろう。
実はこの塔の攻略が完了できていなかった場合、みんな仲良く破産していた所だった。
コワイ!
アルマとヒルダには悪いが、中枢コアはさっさと回収させてもらおう。
「手伝いますよ」
手伝うこともないんだけどな。まぁ着いてきなよ。
俺とコテツは機体を駆動させ、廃棄塔制御室へと踏み込んだ。
*
制御室。静寂の部屋。
傷一つない床と壁、稼働の止まった操作盤。
壁を這うケーブルは静かに脈動を止めている。
部屋の中央に浮かぶシャードクリスタルは脈動しながら、鈍く青い光を放っていた。
外のメイドたちの声も聞こえないほどに、音を吸収した沈黙の世界。
乾いた冷たい部屋は心臓が止まるのを待っていた。
シャードクリスタルを回収すれば廃棄塔の機能は停止する。
俺は【ハッチポッチ】を動かし、いつものように右手で──
「取るんですか」
コテツが呟いたその声は、質問ですらなかった。
意図は分からない。声からはなんの感情も感じられなかった。
振り向きながら、腕を止めず、シャードをゆっくりと掴み取った。
「ああ」
俺はコテツの声に何も反応を返さなかった。
シャードクリスタルの鼓動が止まり、光が収束した。
廃棄塔全体が微かに震え、その機能を停止した。
コテツは、ひとり、呟いた。
その声を、俺だけが聞いていた。
「 人類、負けたんだなぁ 」
*
塔から降りて、キャンプに戻って俺達は休息を取った。
既に周囲にスクラップの影は無い。
稼働が停止した塔からはスクラップたちは自然と離れていくからだ。
俺は、アルマが淹れてくれた茶を飲みながら身体を休めていた。
ふー。
美味しい渋みとスッキリした口当たりが、疲れた身体と乾いた喉に染み渡る。
いいねー。やっぱ本職さんが淹れてくれたお茶は美味しいわ。
「ありがとうございます」
アルマはにっこりと笑いながら空いたコップにおかわりを注いでくれた。
コテツは疲労で眠そうにしながら茶を飲んでいた。
ヒルダは包帯で各部を固定し、仮設ベッドに転がされている。
【バスティオン・キャリア】到着次第、治療ポッドに叩き込む予定だ。
はーい。このまま反省会やるぞー。
「はい」「ええ、分かりました」「やだー!」
えー。まずはコテツ。お前近接しろって言ったのにやんなかったなぁ。
「タイミングを見失いました。援護を優先していたと言い訳します」
まぁいいや。そこまで重要じゃない。
ただ今回みたいな大型相手にできる機会あんまりねぇからな。
次アルマ。とやかく言うつもりはない。
課題は自分で理解しているはずだ。何もかも不足してたからな。
「はい、存じています」
最後、ヒルダ。
「あの! 見えたの! なんか落ちてくる腕が止まって見えて!
なにやればいいか分かったというか! どうやれば生き残れるか分かったというか!
腕ちょっと上げるだけでよかったっていうか!」
落ち着け落ち着け。
まず、あれだな。
作戦ガン無視で、他の人に合わせることもなく不要に突っ込んだな。
アルマの話も全く聞かない、周りも見ない、教えた防御の話とか全く守らない。
虚巨人相手に足を止めて殴り合うとか正気?
【ハッチポッチ】も動くのが不思議なくらいボロボロ、作戦から考えると不要なダメージだ。
「うぐっ! で、でもぉ──!」
言い訳しない。事実だけを見ろ。
だから作戦としては0点、落第だ。
だが今日、先程のあの戦い。
その目的としては100点だ。
「へ?」
俺は好きにやってみろと言った。
そして大型相手に一歩も引かずに殴り合う経験なんてそう出来るもんじゃない。
正気じゃなかったが、虚巨人相手に正面対決なんて二度とない経験だ。
最高の経験になったろ。
「はい! なんか一生殴りあっていたかったです!
同じことやれって言われても、もう多分できないですけど!」
まぁ、無理だろうな。
あんな過集中状態なんて”特殊な能力”でもない限り、簡単には入れないだろ。
入るために特殊なルーティンをやってるやつも居るが、具体的な方法は聞かない。
タコ野郎は硬貨の音を鳴らすだけで入れるって聞くがあいつは特殊だ。参考にするな。
さて。
アルマとヒルダ。それにコテツ。
君等の力を見せてもらった。
その資格があると判断する。
今日から、お前らも傭兵だ。
ようこそ、こちらの世界へ。
俺の言葉に、三人は何も言葉を発しなかった。
しかし、緩い笑顔を返し、ゆっくりとその言葉を受け止めた。
*
「塔の攻略完了を【バスティオン・キャリア】に連絡入れておきました。
すぐにでもこちらに進路変えて向かうそうです。
なので、いまのうちに治療ポッドを回収しておきましょうか」
少し仮眠したコテツが、俺を略奪に誘った。
このままだとタコ野郎の契約の関係上、倒したスクラップとシャード以外は全部取られちゃうからな。
撃破したスクラップも装備を作るのにだいぶ消費してしまった。
元々、ワイバーンとギガース程度しか儲けにならないとは思っていたが、それにしても使いすぎた。
それでもギア数機をメンテナンスするくらいの額にはなる。
しかしこの損害の具合を考えると、殆ど消えるだろうな。
先に略奪して少しでも稼ぐのは、悪くない提案だ。
ヒルダは負傷で動けないしアルマも疲労している。
二人を休ませつつ、金目のものだけを回収する。
コテツの提案に快諾して【ハッチポッチ】を稼働させた。
俺とコテツは、心臓を失った塔に再び出向いた。
*
中層。
治療ポッドの部屋。
発光する苔の仄暗い明かりに照らされ、俺たちは治療ポッドの残骸を回収していた。
残骸と言えど、これをパーツ単位に分解し組み直せば、再び治療ポッドとして使用できる。
俺とコテツは黙々と、コックピットから出て回収作業を開始した。
パーツごとにバラす分解作業を分担し、少しでも回収できるように指を動かしていた。
俺は悩んだ。
聞くべきか、どうするべきか。
この部屋での発言、制御室での発言、コテツの能力、その隠し事。
ここで聞かないこともできる。
だが、コテツはおそらく俺が知りたいであろうことを確実に知っている。
しかし、切り出し方がよく分からない。
そうして、お互い無言で作業を続けていると、コテツが言葉を発した。
「カラスさん。先に言っておきますね。
これでも僕は貴方を信頼してますし、信用しています」
かちゃ、かちゃ。
パーツを弄り、俺を見ないままコテツは呟いた。
「尊敬していると言ってもいい。
荒いですが仲間思いで実力があって、責任感もある。
残りの人生を貴方の下で生き続けるつもりはありました」
平坦な、淡々とした諦めの入った言葉。
かちゃ、かちゃ、かちゃ。
かちり。
何かを組み上げて、コテツは立ち上がった。
「でも残念です」
コテツが俺に銃を構えて──
「僕、貴方の敵なんですよ」
引き金を引いた。
鼓動を止めた塔に乾いた銃声だけが反響した。
わぁー悲劇!




