61話:猛進
わかりやすいボス戦回
塔の上層。門の前。
壁面を覆った発光する苔の隙間に、光を透過する鉱石がいくつか点在していた。
それは空に浮かぶ赤い月の光を通し、天井から降り注ぐ赤月光の輝きが広場を染め上げていた。
赤く反射する鈍い斜光のもとで、その巨体が姿を晒し鎮座していた。
それは膝を付き、その場を静止しながら、門の前に現れる侵入者を待ち続けていた。
大きく窪んだ表情の無い顔。
硬質で文様が描かれた装甲。
抜け殻の如き虚ろな空洞群。
血管のように巡らされた蔦。
巨体から繰り出される膂力。
──虚巨人──
「大きい」
ヒルダが呟いた。
そうだな。ギアの四倍近い巨体だ。
塔に居るスクラップとしては最大級のサイズだ。
「見てわかる硬い装甲です。現状の武装で貫けるか怪しいです」
アルマが弱音を吐いた。
そうだな。かなりの重装甲だ。
なんか見たことあるな、あれ【ドグウ】の外装じゃないかな。ここで作られたのかなぁ。
「射撃武装も内蔵式ですか、武装破壊は難しいですね」
コテツが冷静に分析した。
そうだな。顔と胴体各部から出てくるエネルギー砲は破壊が難しい。
純粋な攻撃力の押し付け合いが必要になるな。
さて、特徴を説明する。
ギアより大きくて重くて力が強くて装甲が厚いだけ!
つまり、面白みが無い! 実はあんまり強くないぞ!
「油断ならないということしか並べられて無い気がしますが」とアルマ。
「これに近接戦挑めって言ってます!?」とヒルダ。
え?
本当に強いと思ってる?
おかしいな。
傭兵の間では訓練用というか、おもちゃみたいな扱いしかされないんだけどな。
「先程の言い方ではそうなりますって」
コテツが冷静に突っ込む。いや、わかるよ。
でもさ。あれ、ただ単にデカいライトフレーム程度のスクラップだぞ。
「ライトフレームですか?」
「フットマンのことかな」
ああ、メイド二人だとその呼び名か。まぁ変わりはないよ。
一見、なにもかもギアがグレードアップしたものでしかないように見える。
だけどギアと違ってシャードを積んでいない。つまりコアフィールドがない。
装甲で阻まれるだろうけど、こちらの攻撃は減衰無しで届く。
挙動もギアと同様の四肢の動きしかしていない。
ってことは、ギア4機で囲んで攻撃し続けていれば自然と終わるよ。
どちらかというと、時間かかるけど防御優先で安全に対処すれば終わりかな。
ちょうどいいから機動の練習もしようぜ。
「ああ、カラスさん基準だとその程度なんですね」とコテツが納得した。
「目標としているレベルが高すぎませんか」とアルマが不安げに呟いた。
「やっぱりアレと近接戦するのは危なすぎない!?」とヒルダが喚いた。
おっと不安かメイド二人。
慄いているようだが、気にすることはない。
いいか、よく聞け。
そこの巨人より、俺のほうが、強い。
君たちは既に最上位傭兵と戦ったことがある。
性能の差はあれど、それに比べたら格段に倒しやすい相手だし、戦いやすい状況だ。
都合の良い経験の機会なんかそう訪れないんだから、腹をくくって殴り込みに行け。
最悪、全機潰されても俺ひとりでぶっ飛ばしてやるから安心して挑戦しな。
「「厳しい~」」
なんだよ。優しいだろ?
先輩としては新人をちゃんと導いて扱かないと、成長しないんだよ。
それと下手に指示待ちになっても、傭兵の仕事を舐められても困る。
だから早めに自分達主導での戦いを経験させてやる、って意図でやらせてもらってる。
意見あるなら聞くぞ。
「納得しました。そして安心しました。やってみせます」
「うん。手も足も出なかったあれに比べれば、戦いようがあるって分かっただけだいぶマシ」
おーいいね。やる気があるようで何よりだ。
ということで作戦方針。
俺は具体的に指示はしない。
ヒルダとアルマに基本任せる。
近接戦のヒルダを中心として、戦闘を構築。好きにやってみろ。
アルマはヒルダとだけ連携を取る。俺達は気にしなくていい。考えて援護してみな。
コテツは完全にサポートに回る。
サボってもいい。援護してもいいが無理はいらない。
機会があったら1発蹴りくらいは入れてみろ。
俺もサポートと妨害に専念。
爆発物ぶん投げる程度だと思ってくれ。
でも俺がダメだと判断したらあいつをぶっ飛ばす。
以上、問題はないな。
「分かりました」「了解です」「やってみせます!」
よし。じゃあ、門番戦行くぞ~。
「「「おー」」」
*
「行きます!」
ヒルダがシャードブースターを使い、迷いなく真っ直ぐに駆けた。
それと同時に残りの三人で射撃を開始する。
虚巨人はその巨体をゆっくりと動かし、射撃を装甲で受け止めた。
俺とコテツはターゲット分散のために左右に機動する。
コテツは断続的に射撃を行い、確実に装甲を削る選択をしていた。真面目だな。
アルマは機動せず射撃に徹した。ヒルダの接近支援に一瞬を費やすのだろう。
だが、虚巨人は近づいてくるヒルダを迎撃するため、攻撃に転じた。
虚巨人は膝立ちのまま大きく腕を振りあげ──
天井近くまで持ち上げたそれをヒルダに向けて振り下ろした。
激震。塔が激しく揺れる。
砂埃が舞い、天井からパラパラと砂が落ち、硬質な塔の地面が剥がれ割れる。
腕を振るった。たったそれだけで、地面を揺らすほどの圧倒的膂力を知らしめた。
これが虚巨人だ。
だが、"地面"に当たったということは。
「ヒルダ! 大丈夫!?」アルマの叫び声が聞こえる。
砂埃の先には、右手のガントレットで攻撃を逸らしたヒルダ機の姿が居た。
あのガントレットは【ハッチポッチ】の肘まで覆っており、盾のように扱うことが出来る。
それで上からの攻撃を斜めに逸らし被害を最小限に抑えたのだろう。
機動ではなく、防御による対処でほぼ無傷。
盾と格闘の扱いを教えて二日しか経っていないのに、見事な対処と絶賛したい気分だ。
しかし静止。静寂。
機動を止め、虚巨人が再び動く時間を作ってしまった。
──どうしたヒルダ!
俺の問いかけに反応し、ヒルダ機から声が漏れ出した。
「えへ」
ヒルダが。
「えへへへへへへへ」
笑った。
「なにか、なにか見えました! えへへへへへへへ!」
笑いが漏れ出して止まらないようだ。
今の圧倒的な暴力が降り注ぐ一瞬。
自分の命が危険に晒された刹那。
なにか掴んだな──!
「ひ、ヒルダ──?」
お。アルマがドン引きしてる。
常識的な反応だな! それに捕らわれてるうちはダメだぜ!
「いや僕も分かりませんよ」
お前もかよ。小さくまとまってるんじゃ成長しないぞ。
ヒルダ! いいぞ! ナイス狂気!
そのまま近接戦の狂乱の中踊ってみせろ! 行け! やれ! ぶん殴れ!
「はい! カラスさん! もっと前に出てみます! うぉぉぉぉぉ!」
「「ええぇー」」
突然狂い出したヒルダに常識人二人は着いていけそうになかった。
*
ヒルダは接敵し、格闘戦に移行した。
技術は未熟。機動は稚拙。攻撃は軽率。せっかく学んだ防御も杜撰だ。
初心者丸出しの操作の典型とも言えるだろう。
だが。
「行ける! 今なら行ける! いや、今しか行けない!!!」
勢い!
ヒルダは今のこの瞬間の狂気に全賭けした。
ガントレットで殴る。レーザーブレードを振るう。ロケットを自分を巻き込んでぶっ放す。
デタラメな連続攻撃。しかしそれは成立しており、ギアの四倍にもなる巨体を圧倒していた。
「ヒルダ! やりすぎ! 引いて!」
「だめ! 止めない! 引いたらもう"来れない"!」
「何を──」
アルマの声は困惑で満ちていた。いや、わかるよ。何言ってるかわからないと思う。
でも、ギアを操作していると圧倒的に集中出来る"ゾーン"のようなものがあるんだ。
機械弄っていてもたまに入れるが、今の防御でヒルダは偶然そこに入ったのだろう。
なら俺は止めない。止めようとも思わない。
ヒルダは今一瞬ごとに学んでいっている瞬間なのだ。
止めるなんて教官役としては不要なことだ。
俺に出来ることは、虚巨人を一瞬でも止めること。
ヒルダの集中を阻害しないように、虚巨人の背後に回り込み、右手で武器を投擲した。
くらえ! 手投げ式即席フライアイボム!
肩辺りに命中。エネルギーの暴走が始まり、虚巨人へ電磁式の衝撃が走る。
フライアイをあんまり加工せずに過充電状態にさせたものをぶん投げるだけ! 簡単武装!
安い! 結構威力が高い! 雑魚処理すればいっぱい手に入る! 誤作動が多い!
5回に1回はろくに稼働しないダメな武器だが、数撃ちゃ当たるの方針の雑な武装である。
だが【ハッチポッチ】の膂力による投擲は、それそのものが結構な威力を持つ。
結構なダメージを稼ぐことが出来るだろう。まぁオマケの武器だ。存分に味わえ。
妨害により、虚巨人はターゲット選択を見誤り、近接戦闘に専念することは出来ないようだ。
コテツは、なんだか装甲を剥がすような射撃を繰り返しており、エネルギー武器を持て余しがちな戦い方をしていた。右手エネルギーライフルは威力が高めだから温存しているのもあるだろう。
アルマは同僚の豹変による困惑が射撃攻撃の精度に響いていた。雑な攻撃しか出来ていない。
だが、最低限の仕事は熟せたようだ。
ターゲットがアルマに移行し、虚巨人のくぼんだ顔が光った。
──アルマ! 盾構えろ!
「──? あっ! は、はい!」
思わず指示したが、本人も認識出来ていなかった。注意散漫だぞ。
虚巨人は顔全体からエネルギーの奔流をアルマ機へと放射してきた。
「ぐうぅぅぅ!」
アルマ機の全身を覆う程に拡散されたエネルギー波は、【ハッチポッチ】の装甲を焼き焦がしていった。
防御移行が遅く、コアフィールドの防御も充分でなかったと思う。
そんなに威力は高くないから大丈夫だとは思うが、内装まで響いたかもしれない。説教だな。
その間に俺とコテツ、そして狂ったヒルダが攻撃を加えていく。
虚巨人も反撃としてヒルダ機をボコボコに殴っていく。
足を止めての殴り合いは、明らかに質量が大きい虚巨人の方が圧倒的に優位だ。
しかし、的確に致命的な一撃を逸らし続け、この瞬間のヒルダの勢いは確実に虚巨人を追い詰めて行った。
俺とコテツの妨害は成功しており、虚巨人のターゲットが全員の排除へ移行した。身体のくぼみのいたるところから全方位に拡散レーザーを投射。
こんなもので俺達を仕留めるには至らない。所詮は威力もそこまで高くない副武装だ。
俺もコテツも冷静に対処し回避した。アルマは盾も構えずに命中した。集中力不足です。
「今だぁっ!」
全方位攻撃で出力が落ちたのか、虚巨人の防御が疎かになった。
その瞬間を狙い、ヒルダがレーザーブレードを振るい、虚巨人の腕を切り落とした。
大戦果。ナイスだ。
が、ふたりともボロボロだな。
「あ、やるんです? 任せていいですか。今回は不調です」
うん。任せさせてもらうぜコテツ。
ヒルダは悪くなかったけど、あとはやるよ。いまので多分集中力切れたでしょ。
「届かなかったぁ! あとカラスさんお願いします!」とヒルダが悔しがった。
「すみません、何も役に立ちませんでした! お願いします!」とアルマが嘆いた。
はいはーい。じゃあ──
カラス式、虚巨人はこう狩る。レクチャーだ!
シャードブースター起動。
後ろから接敵。"左右の手"で掴みかかった。
左腕のレーザーチェーンソーを起動。
右手と"左肩の腕の手"を使い、虚巨人を登攀!
そのついでに登った経路を全部、チェーンソーで撫で斬りしていく。
ぎゃりぎゃりぎゃりと切断に特化させた回転数で熱線刃を押し当て続けた。
背中を斜めに一閃しながら移動。
首裏まで到達。そのまま左腕のチェーンソーを首に押し当て、首の切断を狙う。
虚巨人も暴れまわるがこの程度では剥がれることは無い。
【ハッチポッチ】の信頼できる握力と、適当にくっつけた"エイプ"の増腕は安々と振りほどけるものではない!
首に大きく切れ目を入れて、ついでにロケットで砲撃。爆散。頭部が吹っ飛んで行った。
そのまま手を離し、チェーンソーを引っ掛けるような回転数に変更。
斥力頼みに攻撃しながら、チェーンソーを推力として移動。
元頭部を翻るように乗り越え、前方部に移動。
回転を切断に特化させるように修正、そのまま落下したままチェーンソーで縦に一閃。
前面を両断。
後ろと合わせて、斜めに断ち切った形となった。
ロケットで追撃。爆発。
今の爆発で虚巨人の斜めに入った亀裂は決定的なものとなり、左右にズレて倒れた。
ふう。
終わり!
「なんの参考にもなりませんね」
「一人で倒せるって慰めかと思いましたが事実だったんですか」
「やっぱりすごすぎて何もわからないんだけど!?見えたと思ったけど遠すぎる!」
おかしいなぁ! やってることは単純なんだが!
でもまぁ、総評は後にするとして──
門番、撃破だ! みんなおつかれ!
以前にも言った気がしますが、作者は戦闘はすべてキャラ任せにしています。
なのでヒルダは勝手に覚醒しました。ぼく、知らないっすよそんな展開!




