60話:疑念
今回のミッションは派手な事件など無い、ごく普通の塔の攻略です
つまり、後は門番を倒して終わりですね!簡単!
まずね。
最初に言っておくと俺が悪かったよ。
管理不届きというのかな。俺が管理してない状態で進むのは本当に良くなかったね。
それは大前提ね。みんな悪くない。
で、聞くんだけど。
──何が起きたの?
ヒルダが半泣きで答えた。
「なんだかめっちゃデカイボールみたいなのが転がってきてぇ──」
アルマが呆然としながら答えた。
「なぎ倒されて、レーザートラップに引っかかりました」
コテツが疲れた声で答えた。
「で、二人をなんとか突き飛ばして、僕が受け止める羽目になりました。
そして、そのまま押し出されて、塔に空いた穴から外に投げ出されました」
うん。なるほど。
で、それに追従した俺が落ちた訳ね。ふーん。
起きたらいきなり落下してたからマジでビビったわ!
死ぬかと思ったぁ──ありがとうコアフィールド。
デカいボールはローリーポーリーっていうやつだ。
一応中型スクラップの枠だけど突撃くらいしかしてこないから対処は楽。
ただ、狭い中層だと大きいから危険なスクラップだ。下層だと避けて終わりだけどね。
うーん。
【ハッチポッチ】でも【オンボロ】でもパワーあるから受け止められたと思うんだけどな。
「驚いて引いちゃいました」とヒルダ。
「びっくりして何も出来ませんでした」とアルマ。
「受け止めるという発想にまで時間がかかりました」とコテツ。
あ"ー。経験不足がやっぱり響いたなぁー。
マジでごめんね。せめて塔の外に出るまで気を抜かないほうが良かったわ。
「落ちたところに居たスクラップとも戦いましたしね」
うん。下も片付けておくべきだったかな。
ビースト相手だとしても、あの状況だとコテツも立て直すに時間かかったね。
近接戦で振りほどく前に何度か攻撃食らったからな。
さて。切り替え!
被害状況報告!
「轢かれました! 盾でガードしましたが盾がちょっとダメな気がします!」
「弾かれてレーザートラップに引っかかりました。ダメージは中程度だと思います」
「押されて一緒に落ちました。ビーストの攻撃も含めてダメージが大きいです」
俺は着地できた。ほぼダメージなし。
「あの状況から、よく着地出来ましたね」
空中制動には自信あるからな。
【ハッチポッチ】のシャードブースターの出力は弱めだからギリギリだったけど。
はぇー。余裕あったら門番は新人二人に任せようと思ったけど、これは厳しいかな。
俺とコテツが塔の外から登ってくるまで時間ロスしちゃったからあんまり時間無いしね。
ヒルダ。盾はダメになったことだし、このままレーザーブレード持つか?
このまま近接役を熟してみろ。
「二つ持っているので二刀流とかやるのかと思いましたが」
やるつもりは元々あんまりなかったよ。グラハムみたいな連撃は元々無理だしな。
ただ"こんな武装"使ってるから予備、というか盾代わりにはなるかなって。
でも、エネルギーに余裕があるヒルダが持つほうが良いでしょ。
色々動けるようになったと思うし、やってみな。
「は、はい! やってみます!」
よし、いい返事だ。
アルマは、機体がダメージを負ってるけどポジション的にはそのままで大丈夫かな。
「行けると思います」
コテツどうする?
「まぁ、砲撃ならなんとか。機動は無理ですね」
了解。なら俺とヒルダでなんとかしよう。
各員修理キット使って修復しておいてくれ。
その間に俺が門番までのルートを開拓しておくわ。
「了解です」「わかりました」「はーい」
追いつけそうなら追いついてくれ。そうじゃなくてもすぐ戻る。
じゃあ行ってくるわ。
*
前から通路いっぱいに転がってくるローリーポーリーをぶっ飛ばしながら進んだ。
妨害しているのは大した強さでもないスクラップ達であり、トラップも見てから対処できるようなものばかりだった。
やはり経験不足がダメージに繋がったな。
体感したことで、以降気をつけるだろうしいい経験になったと思ってもらおう。
門を解放する鍵穴も差しもんも簡単に発見できた。
これでこの塔の中層の攻略は終わる。あとは門番を倒して終わりだ。
だが。
これは意図したことではない。正直そんな気も、計画もなかった。
俺の気の緩みと、新人たちの経験不足と、ダメージと、判断ミスと、時間不足。
それらが繋がり、結果的にひとりになってしまった。
つまり。
"アレ"を調査する機会が訪れてしまった。
ヴァレリアン卿の報酬。その書類の文面を思い出す。
『──”【天使】の幼体”に関して──』
『──【天使】とは、我々が指揮官と呼ぶ存在の、その完成形である人造生命体であり──』
俺は今まで探し方を間違っていた。
中枢施設においてシャードクリスタルの代わりに、コマンダーが生成されるスペースがあると信じ込み、そこをひたすらに探し回っていた。
違っていた。俺は騙されていた。
探すべきは中層。
ルートから外れた一室の、朽ちた扉をこじ開け、朽ちた医療ポッドの場所を探しあてた。
割れたガラス。壊れた機械。漏れ溢れて緑に濁った循環液。
苔が生え、蔦がまとわりつき、稼働できそうなものは一つも無い。
地面の苔を【ハッチポッチ】の足で蹴り、削る。ただの塔の堅牢な床しか見えない。
手で蔦を掻き分け、塔の壁面部までたどり着く。硬質な壁と水が流れる植物の管しかない。
滝のように水が溢れ出て【ハッチポッチ】を濡らした。
今の捜索は、壁を伝う配管を無駄に切っただけに終わったらしい。
どこだ。
どれなんだ。
なにかあるか。
なにもないのか。
そうして、時間を無駄にした。
微かに、後続達が歩いてきている足音を聞き、俺は探索を諦めた。
「なにをしてるんですかカラスさん」
呆れた声でコテツは俺に問いかけて来た。
俺は事前に用意していた、でまかせの嘘を吐いた。
ああ、門までのルートを開拓し終わった後、治療ポッドが置いてある部屋があったからな。
売れるもんが無いか先に目星を付けておこうと思ってよ。
全員の機体の修復は終わっていた。
万全とは言い難いが、門番とは満足に戦えそうなコンディションだ。
「治療ポッドですか。確かに活用出来れば売れそうですね」
「苦手なんだよね。循環液に浸かるのあんまり好きじゃない~」
アルマとヒルダも修理が終わったのか気楽でリラックスした口調に戻っている。
どうやら休憩も出来たらしい。いい傾向だ。
今は金欠だからな。
先に確保するのも悪くないと思ったんだが、戻るべきだったな。悪い悪い。
「そんなところには誰もいませんよ。先へ進みましょう」
そうだな。無駄足を踏んだ。行くとしようか。
俺はそう答え、ほぼルートを把握した俺を先頭として、門番への道を歩み始めた。
もう後は、門番を倒し、シャードクリスタルを確保してこの塔の攻略は終わりだ。
気合入れて行くぞー。
「「「おー」」」
*
【ハッチポッチ】の鈍重な歩行でコックピットが揺れる。
発光する苔に照らされ、俺達の道行きは明るい。
ところどころの通路は蔦のお陰で暗いが、この暗がりからスクラップが襲撃することも無い。
俺が先導しているため、アルマとヒルダは雑談する余裕すらあった。
中層のスクラップは大半は撃退済みだ。リラックス出来るのであればそれで良いだろう。
後方のコテツは、背後からの奇襲を警戒するように一応言っておいた。
不要だとは思うが、この手の役割分担に慣れてもらおう。
ただ、コテツは疲れ気味だ。
正直、休ませてやりたいが、先程の件もある。
このまま一気に攻略し、それから休ませる判断をして、コテツもそれを了承した。
この程度の塔の、中層の道を間違えることは無い。
俺は的確に道を指示し、判断し、順当に中層を攻略していった。
簡単な塔だ。もうトラブルは発生しないだろう。
だから俺は判断とは別に思考を続けられた。
歩きながら、俺は先程のコテツの言葉を、頭の中で反芻していた。
疲れた上での発言だったのだろう。ただ、お前は致命的な事を言った。
──『そんなところには"誰もいません"よ』──
コテツ。
お前、何を知っているんだ。
この塔にはもうトラブルはありません。あるのは人間関係だけです。
ペース落とすって言ったあと、笑えるくらい記述スピードが落ちたので試行錯誤中です。
でも忙しいのは本当なんだ……




