54話:解説
最近の戦いがバグっていたので忘れがちだが、スクラップはまともな知性を有していない。
どのくらい知性と言うか判断力が欠如しているかというと、塔の外での戦いに反応して塔の内部のスクラップが行動することは基本的に考えなくて良い。
“反射”的な行動はあるが、知的生命体ならば当然の”判断”というものは無い。
「よく聞くんですけど、具体的な例とかあります?」
うーん。例か。
そうだなぁ、ある程度集団でその反射は共有されるが──。
塔を挟んで二集団がいたとして──
片側をデカい爆発で倒したところで、もう片方が見に来ることは”有り得ない”。
「そんななんですか」
そーだよ。
音とか振動とかで反応しないんだよね。攻撃や接近は危ないんだけど。
だから外のスクラップって無視して塔を攻略しても実害あんまり無いんだよね。
この前、俺とタコ野郎だけで塔に殴り込みに行った時は、攻撃力不足なのと被害出したくなかったから、外のスクラップ完全放置したくらいだし。
塔の中枢コア止めると、勝手にどっか行っちゃうしな。
「なるほど」「だからコマンダーが危険視されるのですね」
そう。コマンダーが危険視されるのはそれだ。
知性が存在しないスクラップが、論理的な判断力・行動力を獲得してしまうのが原因だよ。
スクラップ個々にも知性と言えるかどうかわからないけど、判断力のレベルが上がるし。
そうでなくても同一思想で行動する機械の軍団とか恐ろしいことこの上無いからね。
ということで、野外でのスクラップは実はそんなに怖いものじゃない。
不意の遭遇戦なんかやらかさない限り、基本的に先制攻撃が出来る。
行動基準が突然変わらない限り、塔の外での戦闘はかなり安全に運べる。
正直、傭兵としては近づかない限り無視したほうが都合がいいくらいだ。
まぁ大体航路とか、進行方向に出くわす場合が多いから、結構戦うことが多いんだけどさ。
一番危ないのは互いに接近していることに、気づかずに突然乱戦になる場合くらいかな。
「ああ、だからギアにレーダー積む機体が居るんですね」
そうだねぇ。できれば移動にレーダー機は一機居ると都合が良い。通信能力も上がるしね。
都市間通信レベルの出力は”慣例的”に避けられるけど、ここから【バスティオン・キャリア】の位置まではセーフって感覚かなぁ。
「”塔の落下位置になる”んでしたっけ? 正直、ジンクスだと思うんですけど」
でも定着してるジンクスというか、都市間同盟法でも書かれてるレベルの禁止事項だよ。
体感的には都市間通信は”かなり危ない”気がする。
「カラスさんが危ないって言うなら止めておいたほうが良さそうですね」
「その機会はなさそうです」
「要塞街に帰還中の【バスティオン・キャリア】が大丈夫とは、基準がわからないですね」
感覚なんだよねぇ。
そこがわからない場合は、短距離の通信だけにしておくといいよ。
「そんな状況だから通信技術が発展しないんですよ」
コテツの意見に賛同したいが、ジェネレータ製造の方が遥かに重要だからなあ。
技術者はだいたい、都市の防御とギアの量産、ジェネレータ製造に費やされちゃうね。
「ままならないですね。遥か太古の技術を取り戻すには先が長そうです」
主星との通信が出来たんだっけ。すげぇなぁ遥か太古は。
さて。
チュートリアル戦闘です。
ライフルマン居ないな。残念。
いや、あいつは武装と機動力が貧弱だとかなり強いスクラップだ。
なんたって攻撃力が非常に高い。
連射速度そのものは比べ物にならないくらい遅いが、威力そのものはレールランチャーと同じくらいであり、集団になるとだいぶ危険だ。
正直、要塞街の砲撃専用ライトフレームと比べたらライフルマンの方が優秀だと思う。
さて。方針です。
ビーストは対した素材にならないし、ライフルで簡単に倒せるので順番に処理します。
まずそれからやってみようか。この位置からなら一方的に倒せるでしょ。
「先程の話だと、外のスクラップ倒す理由は無さそうなんですが」
いいか、コテツ。
そこに居る機械生命体はな。
すべて、倒せば、最低限鈍器か、盾になる。
「はあ?」「ええ──」「想像と全然違うんですが──」
下層はスクラップがひしめく駐屯地みたいなもんだからな。
攻略済みで無い限り、確定で戦闘が発生する。
なるたけ被害を抑えたい。だから出来うる限り、盾が欲しくなる。
ということで破壊したスクラップを盾にしようという算段ですね。完璧な理論だ。
「いやいやいや」
何がおかしい。ギアはな。すごく蛮用を要求される兵器なんですよ。
高級装備一式揃えてる騎士団とか、上級傭兵相手にすると有り得ないと思うけどさ。
俺は、さっき、最悪無手かな、と言った。
アレは本気だ。
頭数がいれば無手でも塔は攻略できる。多分【飲んだくれ傭兵団】どもは出来る。
だからこっちにライフルの弾ほとんど回してくれたんだろ!
あっちなんか射撃武器持っていったのセドリックだけだぞ! 斧とか持ってったけど!
「そうでしたね──」「先程のは本気だったんですか──」
まぁ、こちらは新人が居るからね。
グラハムとタコ野郎が攻略に参加してくれるなら話は変わったんだけどね。
解体作業指揮と資金交渉は誰か割り振らなきゃいけなかったねぇ。
【キャタピラ脚】は騎士三人と戦った結果ボロボロで使い物にならないし──
いやタコ野郎ほんとすごいよ。
この前の相手の全騎士と戦って、全部ほぼ抑えきってたのあいつだけだもん。
弾切れはマジでどうしようもなかったけど、補給機がいれば完封できたんじゃないかな。
あー。だめだ。無限に雑談が出来る。集中力が切れてる。
「カラスさん、結構人に教えるの好きですよね」
育ての親の一人が学者で教師なんだよ。似たのかなぁ。
さー。仕切り直し。話長くてごめんねぇー。
「いえ、楽しいです」「エリシア様に気に入られるのすごくわかります」
そうー?
まずはメイドのお嬢様方々のために!
盾兼鈍器を手に入れるために!
ビーストを一方的にボコりましょう!
*
重い。そして遅い。だが堅牢かつ堅実だ。
これが【ハッチポッチ】の評価である。正直そんなに悪い機体ではない。
最近乗ってた機体が【ハルバード】とか【オンボロ】だから本当に重く感じるが、ただ単に出力の差だろう。
アルマとヒルダ。新人傭兵のメイドさん二人が生き残るなら確実と言える機体だ。
目前に居るのはビースト四機。
既に落下から時間が経っていて、植物や苔が生え、薄い霧に包まれた塔のクレーターの、周辺に増築された設備の周りをうろちょろしている。哨戒というほどでもなく、本当にうろちょろしている。
「アルマ機、他のスクラップ確認できません」「ヒルダ機、別スクラップ集団が遠くに居ますが、距離的に大丈夫です?」
大丈夫かなー。ダメだったら対処するよ。
俺とコテツが前衛やるけど、ライフルだけで片付ける方針でいこう。
処理順番と方針を先に言うね。
手前の方から集中して攻撃、同時に攻撃するのは二人まで。
そんな攻撃力を集中しなくても倒せるから安心して。的当てをする感覚でやろう。
倒す、よりも相手の邪魔をする。
そして、絶対に移動しないこと。前衛を信じろ。攻撃だけに集中する。それが役目だよ。
走ってくるやつを叩き落とす認識でやっていけば勝てるから。
大丈夫。メイドさんたち。安心してくれ。深呼吸深呼吸。
少なくとも、俺を相手にするよりは絶対強くないから。
「カラスさんが乗った【グラスホッパー】で都市戦とか、おそらく考えうる最悪の組み合わせですからね。ヴァレリアン卿の【ハルバード】相手にするより分が悪いと思いますよ」
それほどじゃないと思うけど。
「そんなに」「あれよりはマシと考えたらドラゴンとでも戦えそうです」
ドラゴンは質量がとんでもないから強さのジャンルが違うかなぁ!
流石に俺もドラゴン単独で狩れないし。空中に居たら流石にどうしようもないからね。
はい、じゃあやるよ。アルマとヒルダ。射撃開始~
「はい!」「いきます!」
【ハッチポッチ】二機が静止し、ライフルを構え、撃った。
ぱすぱすぱすぱす。
──外した、なぁ。
「すみません!」「あれ、なんで??」
アルマは狙いが甘かっただけだが、ヒルダは盛大に外している。セッティングミスか?
ビーストも反応したな。こちらに駆け出してきている。
攻撃があったなら命中しなくても流石に対処される。
だけど、こっちに向かってきているが、坂の上だから時間がかかるからまだ一方的に殴れるね。
はい落ち着け~。コテツも撃つぞ~。
「はいはい。右側対処します。左おまかせしますね」
おうさ!
俺の【ハッチポッチ】も、コテツの【オンボロ】も射撃を開始した。
型落ちで弱々しい連射音だが、そんなに悪い武装じゃない。
威力も標準で量産に向く武装で、弾も安い。
まぁその安い弾薬をやりくりしなきゃいけない状況だが、数を揃えるのには向く装備で初心者には助かる装備だろう。
現にビーストは命中させた弾で接近の勢いを削がれている。よし、転んだ。
順当! コテツ、中央の二機にターゲット移行!
アルマ&ヒルダは転倒したやつ対処!
「はい」「了解です!」「りょーかいです!」
落ち着いたのかアルマは転倒したやつに当たり始めた。よしよし。
代わりにヒルダのほうは、なんか全然当たらん。
機体のセッティングミスを疑うが、俺も同じ機体使ってるのでそれは無いだろう。ノーコンか?
「なんでぇ!?」
よし、ヒルダ。弾が無駄。
前に出て構えて盾になれ。
「酷いー!」
弾薬1発ですら節約しなきゃいけないの! 諦めて!
ビースト達はその両目に搭載されている対人レーザーによる射撃をこちらに向けた。
動かず攻撃しないヒルダ機を盾にし、被害を軽減。
「おお。そんなに衝撃ないんですね」
所詮対人レーザーだからな。
生身だと凄まじく危険だが、防御専念したギアのコアフィールドを貫けるものじゃない。
「転倒してたビースト沈黙です!」
よしよし。アルマは射撃に慣れてきたね。順調。
コテツ、近づいて来た機体の対処任せる。近接に自信は?
「流石にあまりないですが、やってみせます」
おーけー。一番近い一機任せる。
アルマは遠い機体対処。ヒルダ動くな。攻撃を大人しく食らっておけ。
「やっぱり酷い〜!」
ノーコンなのが悪いよ。
アルマ、右に対処! 左は無視! コテツに任せろ!
「はい!」
「行きますよ」
【オンボロ】のレーザーチェーンソーが起動するギャリギャリとした音。クレーターを上がり飛びかかってくるビースト。
コテツはそれを弾き飛ばし──【オンボロ】も弾き飛ばされた。
「うわっ。なんですこれ!? 斥力エグいんですが!」
あー。最大回転にしたな?
それ扱いが”ちょっと”難しいんだよ。
具体的には殴るタイミングで、全部要求される出力が違うと思っていい。
「何でこんなピーキーなもの使ってたんですか!?」
いやだって。俺使えるし。
「カラスさん基準で考えないでくださいよ!?」
えー。まぁいいや。俺が対処するよ。
コテツ、アルマのフォローにスイッチ。残り任せる。
レーザーブレードは逆に斥力弱めで好きじゃないんだよなぁ。
シャードブースター点火。細かく足を接地して、位置と踏み込み調整。跳躍を重ね素早く接近。熱線と斥力の刃を形成して、シャードブースターの推進力を逃しつつ、ほんの少し跳躍。落下速度を加算させて斜めから振り下ろし、ぶった斬る!
どっせい!
弾き飛ばされたビーストを綺麗に両断。
そのまま反撃警戒して即座に退避。よし。
「ヒルダ、見ました今の?」「アルマ、私には動きが違いすぎて意味がわからない」
あんまり参考にしなくていいよ。【飲んだくれ】どもの方が参考になる。
「うーん。僕はレーザーチェーンソー使うの無理ですね。戦闘終わらせたら交換したいんですがいいですか?」
うん。そっちも片付けたようだし、休憩含めて話し合いをしよう。
前途多難すぎるようだからな!
今年の投稿はこれで終了だと思います。
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