52話:精算
戦いが終わり、カラスに次なる戦場がやってくる――!
次の地獄とは一体――!
赤字だ!
「赤字や!」
「赤字ですね」
【バスティオン・キャリア】へのんびり帰還した俺達は、この不毛な戦いの収益を計算する羽目になった。
まだ要塞街から出てはいないが、ほぼ出港直前と言って良い状態だ。
なんだか状況を察するに、騎士サマや”デカ耳”がうまいことやってくれているらしい。
逃走するように出港する必要は無いらしいとタコ野郎とコテツが判断していた。
まぁ、この二人が言うなら大丈夫なんだろう。
思考を完全に二人に任せっきりにした俺達は、一夜まるまる宴会に費やした。
──酷いことになった。うん。バカみたいなテンションの宴会になった。
あたまいたい。うっ。記憶が—―
さて、そんな昨日の所業を抱えながら、俺達は執務室で軟禁されていた。
俺とタコ野郎、コテツとグラハム卿、それにメイド達。
知識階層出身者+αの面々をかき集めて俺達は楽しい事後処理を余儀なくされた。
収支計算だ。つまり地獄の意味合いと同義語である。
今回かかった費用の書類をかき集め、倒さなければならない!
恐ろしい二日酔いの頭痛を抱えながら、だ。
つらい!
──そういや、セドリック生きてる? 大丈夫?
「ドワーフたちに、しこたま飲まされたのでダメですね。
ちょっと危ない量飲まされたので治療ポッドに入ってもらっています」
そんなに飲まされたのかよ。あいつら加減ってものを知らないのか。酒乱どもに付き合う羽目になったセドリックも大変だな。
しかし、せっかく救出したんだから、そんなしょーも無いことで生死の縁を歩かせないで貰いたい。
いや、俺も飲ませた気がする。いい。気にしない。あいつらのせいにしておく。
「あかん! こんなん起業半月で潰れてまう!
なんとか騎士サマ巻き込んで支払い遅らせてもらわんと、首回らへん!!
【バスティオン・キャリア】買うのにも借金しとるからな!
うわ~当分自転車創業やぞ~!」
うへぇ。マジかー。
「ううむ。これは酷い。最低でも早急に塔のひとつでも攻略しないと即座に破産するな」
グラハム卿が書類の束を処理しながら、唸るように愚痴った。塔産の茶だったらあるぞ。飲む?
「やめとき。カラスはんのはめっちゃ渋いやで」
「いや、頂こう。乾燥珈琲はどうも合わなくてね。
この束を処理したら休憩する。半分ほど捌いたぞ」
助かる~。いやほんと、グラハムを捕まえて良かったわ。この船、知識階層少ないからな。
「ワイの友達にはあんまりいい声帰ってこなかったからなぁ。星見くらいは確保したかったんやけど」
「星見は無理ですね、実働員確保出来ただけでも良しとしてください。はい追加です」
「ぐええ〜! 堪忍や〜!」
知識階層となる高等教育を受けているものは、要塞街の人口の2割にも満たないんだったか。
確か都市同盟通信あたりが算出した統計だが、これでも他の街に比べて要塞街は多い方なんだっけ。
「防衛に長けた王が居る都市だからな。知識層の確保は出来ている」
裏付けありがとう。
なんか普通に管理側の仕事を回しているコテツがおかしいだけで、第一セクターに存在する高等学校を除けば、住民は読み書き計算程度は最低限教えられる程度の学習しか出来ない。
法的に最低限の学習は出来るように教育されるが、それも話を理解できる大人になってからだ。
「雇ったゴブリンたちの2割は文字書けないです。単純労働に割り振らさせて貰ってますよ」
コテツの言う通り、子供といえど働かねばならない家庭も多く、特に多産になるゴブリンあたりの種族は酷いことになっている。
「やっぱ騎士はエリートやなぁ。コストかかってるだけあるわ〜」
その分、騎士と貴族は特権階級になっているが、幼少期から教育を初め、エリートになるために人材の教育に多大なコストを支払っている。
立場があるのならば成すことを成す。ノブレス・オブリージュというやつだ。
処刑するのであれば、その人材を俺達に寄越せとぶんどって来る方針は正しかったようだ。
「そういや、エリシア嬢からの連絡だと、「騎士二人はそのまま持っていってくれ」と言われたんよ! グラハムはん、うちでコキ使わせて貰うやで〜!!」
「──敗者には従う以外の道はないさ。いいだろう。まずはこの地獄を生き残るところからだな──」
残念だったな。この八本脚運輸はよく分からない業務でいっぱいだぞ! 覚悟しろよ!
あと、アルコールが抜けたらセドリックも巻き込むことが確定している。
お前ら休む暇は無いと思えよ! 貧乏隙無しだ!
「ええ、そういえば少なくとも、【飲んだくれ傭兵団】は専属の契約を結べました。
ギアさえ用意できればベテラン傭兵チームなので、並行しての塔の攻略を視野に入れられます。あの偽装ギアはあの後、全部回収させてもらいましたからね、修理すれば最低限の戦力にカウント出来ますから、さっさと整えましょう」
ほんと、コテツ、仕事出来るなぁ。お前マジなんなの?
異様にうまい狙撃だとか。
ドラゴンブレスを製造出来たことだとか。
騎士団長相手に生き残れる機動が出来る実力だとか。
うーん。コテツさ。お前ただの街の整備士じゃなかったのか?
「うーん。僕も色々あった人生を送っています、とだけは言っておきましょう。
カラスさんが秘密を話してくれるなら、その時に話しますよ」
ふーん。そうなの。
「うわ、自分から話を振っておいて興味なさそうな口ぶりなの止めてくれません?」
秘密の一つや二つ、みんな抱えてんだろ。
それを深堀りするつもりなんかさらさらねーのよ。
なにせ面倒なことになるのは分かってるんだからな。
知的好奇心はなんとかを殺すだったか。
「猫ですね」
それそれ。
まぁ、他人の秘密を暴くなら覚悟が必要だってことだな。
つい最近、ハレー相手に余計なことしちゃったからな。あれはやっちまった。
「ああ、なんか決闘したやつですね。あれはなんでそんな馬鹿な事をしたものかと」
「アホかと思ったが、その話しの流れだとカラスはんから仕掛けたんやな~」
いいの。この話は終わったの!
そんな馬鹿な会話をしながら書類と戦っていると、メイドの一人が俺に声をかけてきた。
「カラス様、ヴァレリアン卿がお呼びです。本日の午後に会談を調整しています」
おん? なんで?
「”報酬”の引き渡し、だそうです」
報酬、なんだったか。
『君は、────―を探しているのだろう?』
ああ。思い出した。
列車の中。ヴァレリアン卿との会話。
俺が探し求めているもの。その情報。
どうやら。俺と騎士サマの関係性を精算するときが来たようだ。
*
「約束を果たしに来た」
【バスティオン・キャリア】の一室。
貴賓室とも言えるその場所で俺と騎士サマは二人きりの会談を取り付けた。
「カラスくん。いや本当はなんと言うべきなのかな」
秘密だよ。まぁ喋ったところで誰にもわかるわけじゃ無いが、一応用心のためにな。
「そうだな。君はそういうひとだ。
さて、探し物の情報だが──”エルドレイン王”が非常に協力的だった。
久々に生き生きとした姿を見れたよ」
エルドレイン王が? 何故?
どういう関係だ。過去に何があった──
俺の疑問に答える事なく、ヴァレリアン卿は厳重に封をされた封筒を直接手渡した。
「書類は読み終わったら燃やしてくれ。私と王しか知らない。存在していること自体が危険だ」
そっか。
封を手持ちのナイフで切り、数枚の書類が入ったその内容を熟読した。
『──”【天使】の幼体”に関して──』
『──【天使】とは、我々が指揮官と呼ぶ存在の、その完成形である人造生命体であり──』
『──空から降り注ぐ塔と、機械生命体達を統率する”真なる女王達”である──』
『────────────────』
へえ。よく調べたな。
俺はライターを取り出して、秘密を灰にしながら騎士サマに問いただした。
“お母さん”から教えて貰ったのか、ヴァレリアン卿。
「ああ。私は【天使】を母として生まれた。
前にも伝えたが、科学的、機械的では無い自然出産だよ。
そういった意味合いでは、私も【天使】の幼体だった時期もあったかもしれない。
生憎、不思議な力は何も宿らなかったがね」
そう。
ヴァレリアン卿が俺に協力的だったのは、他でもない。
世界で、数少ない、理解し合える同胞だったからだ。
俺たちは孤独だった。
俺はスクラップとの戦いで家族を失った。
ヴァレリアン卿も、両親を失っていた。
お互い、縋るものは何一つない状態で生きてきたのだ。
「だから。
やはり、私は。
君のことを、こう呼ぶべきなんだろうな」
ヴァレリアン卿は静かに目を閉じて、言った。
「カラス叔母さん。うん。悪くない響きだ」
いきなりめっちゃふざけやがったな! この野郎が!!!
この美少女捕まえて叔母さんとは何事だよ!!!
「ははは許してくれ、私たちは立場の違いこそあれ同胞であり対等だ。
軽口くらいはいいだろう!」
おいこらお前! ぶん殴らせろ!!!
「うわー! 謀反だー!」
お前本当にふざけすぎるのも大概にしろよな!?!?
ヴァレリアン卿は子供のように笑っていた。
釣られて、俺も思わず子供のように笑ってしまった。
わはははは。負けたよ。
この戦い、お前が勝者だよヴァレリアン。
真の勝者が決まりました。
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