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5話:決着

竜型光熱砲(ドラゴンブレス)の眩い閃光で視界が白く染まり、俺は咄嗟に目を細めた。

コックピットに投影される映像をすぐさま復旧させ残光をかき消す。

直撃でなかったことを祈るばかりだが、竜型光熱砲(ドラゴンブレス)の一撃で通路が崩落している。

タコ野郎の安否は確認できず、逃げ切れたとは思えない。


生死不明。――よし。今は“死んだもの”として扱う。


頭をさっさと切り替えろ。ちょうどいい。崩落で逃げ場も消えた。



つまりドラゴンを倒す以外に生き延びる道はない。



竜型光熱砲(ドラゴンブレス)を撃った反動によるものか、ドラゴンの動きがかなり鈍くなった。砲門の照準が甘くなり、弾幕の密度もやや薄れた。

この機を逃すな。

俺は左腕の光鎖剣を起動。切断に向けた出力に調整しギャリギャリと鋭い音を響かせながら、【オンボロ】を走らせる。

ところが、その瞬間。ドラゴンがこちらに背を向け──まさか。


──テイルスイング。


それは、ドラゴンが持つ質量攻撃の中でも最大の脅威。振り抜かれた巨大な尾が、【オンボロ】の胴体に直撃する。

轟音と共に吹き飛ばされ、【オンボロ】の巨体は塔の内壁に激突。全身を貫く衝撃に、機体が悲鳴を上げ、警告音がコックピットに鳴り響いた。


内装に損傷、コアフィールド貫通、右腕部の喪失を確認──。

咄嗟にブースターを吹かし、衝撃の瞬間に後退していたことで致命傷は避けられた。

にも関わらず、代償として右腕が吹き飛び、機体のバランスは崩れている。


意識は混濁していない。けれどコックピット内には血の臭いが満ちていた。

どうやら俺自身も少なからずダメージを受けたらしい。

──まあ、痛覚が鈍い体質だ。死にかけてるかどうかは、ちょっとわからん。


しかし、止まればそこで確実な終わりを迎える。

【オンボロ】は──まだ、動ける。


右腕が消し飛んだ分、機体は軽くなったとでも思えばいい。破損箇所が大きすぎて循環液の止血は間に合っていない。吹き出るようにエネルギーが流出している、このまままでは、すぐに動けなくなる。

しかし、脚部への致命的な損傷は、ない。

光鎖剣も生きてる。


──充分だ。


俺は再び【オンボロ】を走らせた。蛇行しながら、弾幕を避けつつ距離を詰める。

ドラゴンは連続稼働でエネルギーを消耗しているのか、反応が遅れていた。ブースターと脚部の展開式ローラーを併用して接近する俺を、わずかに遅れて両肩のオートキャノンが狙ってくる。

展開式ローラーは脚部の横に取り付けられるため、大きく機体を横に倒し、重心を意図的に傾けて移動しても、転倒せずに耐えてくれる。

大きく機体をズラしたお陰か狙いは逸れて、機関砲の砲弾が【オンボロ】背後の血濡れた地面を揺らす──被弾なし。よし。


光鎖剣を切り上げる──狙うは腕。

巨体を真っ二つにするのは無理でも、装備を削ぐのは可能だ。

鋭い光の刃が右腕を走り、そのまま右腕ごとオートキャノンをまるごと切り落とした。落下音が戦場に響き、青色の鮮血が迸った。



続けざまに、胴体を横薙ぎに切りつけた。──浅い。


ドラゴンの巨体が一歩、二歩と後退する。

歩幅そのものが回避行動となり、俺の一撃は逸らされ、装甲の表層を削るだけに留まった。


返す刃のように、ドラゴンの左腕がオートキャノンごと振るわれる。純粋な質量による打撃。

テイルスイングほどの威力はないにせよ、右腕をすでに失っている【オンボロ】にとっては致命的だ。

攻撃は胴体背面に直撃。コアフィールドが衝撃の一部を吸収してくれたものの、外装は抉れ、内部構造にもダメージが走る。右肩の破損部から循環液が吹き出る。脚部が大きく揺らぎ、機体は膝をついた。


──まずい。追撃が来る。死ぬ。


即座に展開式の脚部ローラーを起動し、機体を強引に前方へ滑らせる。膝立ちのままの咄嗟の突進。

例えギアが寝転んでいたとしても、展開式ローラーは外付けの装備であるため動いてくれる。

ドラゴンの攻撃は背面へとズレ、想定よりも軽い衝撃で済んだ。

結果として、【オンボロ】はドラゴンに覆われるように完全に密着している。


──まだ生きている。なら、やれる。


俺は【オンボロ】の肩に積んだ構造物破壊用の小型ロケットを起動した。

このロケットは精密誘導の要素はない。推進剤の直進力だけで標的に叩き込む“粗雑な”兵器だ。

ギアのロック機能がほぼ機能せず、脚を止めなければまともに狙い撃ちができない大きな問題点を抱える欠陥武器である。

反面、安価で弾数も多く、威力が高い。そして密着という状況なら、精密もクソもない。


──全弾まとめて、プレゼントだ。


見上げるように上方へ向けて発射されたロケット弾が、ドラゴンの胸部から頭部へ次々と突き刺さり爆発する。蒸発した循環液の煙と、ロケット弾の爆風が至近距離で【オンボロ】にも届いたが、ここはコアフィールドが機能して、硝煙と蒸気の匂いだけを届けてくれた。


爆煙。咆哮。ドラゴンがのたうち回る。

密着していた俺は、胸部から弾き飛ばされ、【オンボロ】は塔内の床を転がった。

すぐさま制御を取り戻そうとするが──

──ブースターが応答しない。背面を殴られたときの損傷が原因か――


その間にも、ドラゴンの肩部に装備しているオートキャノンが、ゆっくりと【オンボロ】に照準を合わせ始めていた。一瞬の間だが、【オンボロ】をいくら操作しても反応がない。


──死んだ、な。




 

「やられたら!やり返す! お返しやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」



炸裂。


ドラゴンの左肩部に、榴弾が直撃する。爆炎が肩を吹き飛ばすように広がり、俺はそちらを見て叫んだ。


──生きてたか、タコ野郎!


【キャタピラ脚】が地響きを立てながら高速で接近し、ハンドグレネードとグレネードランチャーを連射しつづけながら突進してきた。

大きく亀裂が入り、焼け焦げた外装。左腕はフレイムスローワーごと吹き飛んでおり、左肩のレーダーもその姿は見えない。まともな姿じゃない。内装ダメージも深刻だろう。

【キャタピラ脚】を全速走行させたまま、反動の大きいグレネードランチャーを頭部近くに正確に命中させる。タコ野郎の操作技術には驚嘆するしかなかった。


「AGレーダー高かったんやぞぉぉぉぉぉ!? 弁償せぇぇぇ!!!!」


いや、あれは気迫か恨みで当てているな。執念を感じる。

【オンボロ】は、まだ膝をついたままだ。立ち上がるだけでも精一杯。ならば照準合わせに徹する。

マニュアルの操作で小型ロケットの照準を合わせ、ドラゴンにぶち込む。

ドラゴンが悲鳴を上げ、度重なる砲撃でついに体勢を崩した。

ブースターは使えないが、このタイミングなら接近しレーザーチェーンソーを――



――タコ野郎は怒号と共に【キャタピラ脚】をさらに加速させ──おいまさか。



――体当たり(チャージタックル)――



重い金属がぶつかり合う鈍い衝撃が、門前の広場に響き渡った。

無限軌道脚部の【キャタピラ脚】は積載量も相まって総重量がかなり重い機体である。その質量とあの速度をもってすれば、それはギアの形をした巨大な砲弾とも言える。

衝撃により双方が破損し、金属片が宙を舞う。

【キャタピラ脚】から剥がれた装甲の一部がここまで飛んできた。衝撃の強さをうかがわせる。


だがハンドグレネードとグレネードランチャー、小型ロケットで立て続けに削られていたドラゴンは、【キャタピラ脚】の決死の体当たり(チャージタックル)の一撃で完全にその巨体を倒した。

そこへ追撃として【キャタピラ脚】がブースターを用い、その上に覆いかぶさるように乗り上げた。


ぎゃりぎゃりぎゃりぎゃり。無限軌道がドラゴンの装甲の上を、削り走ろうと抉り続ける音が塔内に響き渡る。


更にタコ野郎は、自爆も厭わず追撃のハンドグレネードを叩き込んだ。

至近距離で頭部に撃ち込まれ、爆炎がタコ野郎ごと包み込む。大丈夫か、あれ。


ドラゴンはその”痛み”で叫び、のたうち回った。これほどまでに装甲が削られたならば、内装へと確実にダメージが蓄積している。

だが竜は身を捩り【キャタピラ脚】を弾き飛ばし、横転させた。タコ野郎の叫び声と怒声が聞こえる。そして、復讐と言わんばかりにその顎を開き、口内に光が灯った。


再び、甲高く響くチャージ音。


竜型光熱砲(ドラゴンブレス)で俺たちを薙ぎ払わんと、竜はその怒りを塔内へと示し響かせた。

俺たちに確実にとどめを刺す。

その激怒を力として、溢れんばかりに竜の心臓へと循環液の血液を集め、その鼓動を暴れさせた。それが光となって収束していく。

その吐息が放たれるまで、あと一瞬。


だが、未だドラゴンは地面に伏せており、その首は大きな隙を晒している。――ならば。


【オンボロ】の脚部ローラーを再起動。転がるように立ち上がり、そのまま距離を詰める。ブースターは使えない。加速が足りない。ならば、低出力にしたレーザーチェーンソーを、地面に押し当て、足場を削る。これを推進力として扱う!

両脚部と暴れ回る左腕の三点を接地。弾き飛ばすような光の斥力が、機体を強引に加速させる。

そしてそのまま低い構えから──その首の焼け爛れた装甲板の隙間を、狙う。


加速。出力調整。刃で地面を弾き飛ばし、跳躍。再度調整。最大出力。身を捻り、遠心力を載せる。鋭利さを極めた光に。


すべてを込めて、切り上げた。


──ギャリッ。


光の刃が、ドラゴンの首を引き裂いた。

がしゃん、と音を立てて、巨大な頭部が床に転がる。

首から青色の鮮血が噴水のように吹き出し、竜はその身体から力を無くしていった。

巨体がゆっくりと崩れ、砕けた床面の粉塵が舞い上がり、静かに視界を燻らせた。


──ドラゴンは、それきり動かなかった。

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