49話:乱闘
なんで年末ってこんなに仕事忙しいんですかね
大乱闘になった。
敵味方が入り乱れ、弾丸、砲弾、榴弾、誘導弾の応酬が始まった。
しかし、最初に状況を動かしたのは【飲んだくれ傭兵団】のドワーフどもだった。
「やってらんねぇ!」
「前にもましてクソみてぇな戦場だな!」
「壊れるまえにさっさとやんぞ!」
「グレネードも切れそうですし、あとは適当にやりましょう」
やる気ねぇなぁ。
と思っていたが、その機動も戦略も選択も明確であった。
偽装ギア四機が、あっちこっちをチラチラ見ていてろくに動けていない【ハードパンチャー】を四方から囲んだ。
「あ”ァ”?」
「まずは君です」
「おめぇさんに!」
「暴れられる前に!」
「リタイアしてもらうぜぇ!」
代わる代わる後方を取りつつ、背面の増設ブースターを執拗に狙い、マシンガンを連射し誘導弾をぶち込みグレネードを叩きこみ、最後はシールドバッシュで強打し、ぶち転がした。
「おうわぁぁぁぁぁぁ!!」
背面が爆発した。
沈黙。
【ハードパンチャー】は前面の装甲は非常に分厚い。
そのフレームもドラゴンと真正面から殴り合えるほどに堅牢だし、対熱エネルギーコーティングのお陰でレーザーブレード相手でも殴り合える重装の機体だ。
だが、背面の増設ブースターは莫大な出力を誇るが、その分繊細で脆弱な部品のため脆く、コアフィールドの防御があっても爆発する恐れがある。
さらに神経接続を用いている関係上、これを爆発させると中のパイロットにも極度の負荷を与えてしまうらしい。これはちょっと前に修理していたコテツに教えてもらった。
つまり、後ろから殴れば非常に脆い。
「「ば、バカな──こんなにも呆気なく──」」
騎士団長デュランとグラハム卿が同時に答えた。
なんか騎士たちからの評価が異様に高いなこのバカ。
しかし、あっちこっち目移りして戦闘に参加出来てなかったあたり、本当に集団戦が苦手なんだな。
大型スクラップとタイマン張ってるのが一番性に合うんだろうなぁ。
そんなことを思いつつ敵機が減ったので良しとしよう。
そこにドワーフどもを倒すために、騎士のチャクラム機が再び殴り込んできた。
俺も対応して【ハルバード】を起動させショットガンで牽制して、ドワーフ達を守る。
ショットガンの一撃はその軽い挙動でするりと回避された。流麗な機動だ。相当の手練である。
名称は【サークル・ザンバー】だったか。
騎士機としては珍しい小型機であり、更に特徴的な武装をしていた。
武装は両手に装備したチャクラムスロワー兼ビームチャクラムのみ。
近距離ではビームの刃を纏ったチャクラムで斬りかかり、中距離においてはワイヤーがついたそれを投擲し敵を切り裂く。
遠近両用の武装を用いた軽くシンプルな機体であり、それ以上は積載重量の関係で搭載出来ていない。
しかし、概要を聞いてなんとなく理解できる通り、チャクラムスロワーは扱い方に技量が要求される特殊な武器だ。
この武装しかないため、この機体を十全に使いこなすことは難しい。俺も出来るか自信は無い。
凄まじい技量が要求されるそれを容易く扱いこなし、軽快な足取りで常に機動し、撹乱しながらドワーフのバカども全員を手玉に取ったその実力──
これで舐めプしてるというのだから非常にたちが悪い。
そう、舐めプである。
主星からうっかり伝わってしまったこのスラングの意味は正確に伝わっていない。
しかし、ニュアンスだけは魂で理解できている。多分。
登場者である騎士。
いや、代理騎士殿は俺達に手加減をしていた。
──なぜならば──
──あのさ、言い訳なら聞くよ?
「離婚されちゃうの~~~カラスごめん~~~」
スナイパーネキが、スナイパーライフルを持っていない。
これが舐めプ以外のなんだというのか。
貴族の代理騎士であるタカメ女史は半泣きの声で嘆いていた。
あの優しい旦那さんと離婚を切り出されているらしい。
しょうもないが、どうやらこの戦場において最も戦う理由が強い人物らしい。
「えぐっえぐっ」
泣いちゃった! うんうん。そうだね。悲しいね。
子供も居るのに夜な夜な遊んで、
勝手に数日ふらっと居なくなって、
何もかも放置して塔の攻略に行って、
戦争にも勝手に参加しただけだもんな。
うん。
全部スナイパーネキが悪い。
「残当」
「自業自得だろ」
「どう考えても旦那が正しい」
「俺達ですらどうかと思うぞ」
酒狂いである【飲んだくれ傭兵団】の面々ですら仕方がないだろと評した。
お前、ほんとあんな善人そう居ないんだからな!?
スナイパーネキに捕まって可愛そうだなと思ったくらいだぞ!?
「みんなひどいよ~~! 殴るね~~!」
チャクラムスロワーを投擲し、ワイヤー操作を駆使し複雑な軌道を描き、真横から俺達を容易く切り刻む絶技を披露した。
「「「「うわぁぁぁぁ!」」」」
ぐええ! おまえほんとマジかよ!
機動を一切絶やさずにメンタルゴミな状態で、なんでそんな超絶技巧出来んだよ! バケモノかよ!
いやでも、ほんと、そういうところだぞスナイパーネキ!
「タカメさん。その妙技、本当に参考になります」
騎士団長デュランが呟いた。
スナイパーネキにもやけに丁寧だね君。
──というか教育に悪い! 技量はともかく人格は絶対真似すんなよ!
俺はついうっかり敵に説教した。
「えっ、ああ、すまない」
謝んなよ!?
「団長はん! こっち見とき!」
そうタコ野郎は言った。
騎士団長の相手は、タコ野郎がしてくれていた。
【キャタピラ脚】の圧倒的な地上機動で、【ナイト・オブ・シャベル】を”防戦一方”の状態にまで押さえ込んでいる。
「軟体種族の無限軌道型ギア──!
噂に聞いてはいたが、”これほど速いとは”!」
「へへ! ワイの噂を話のネタにするなら料金取るやで!」
俺は【キャタピラ脚】を操作したことがあるが、正直言ってその性能を半分も使いこなせていなかった自覚がある。
みんな忘れているだろうが──タコ野郎はあんなんでも要塞街で最上級の傭兵という評価を受けている男だ。
その真価は野戦にあった。
「障害物ない方がワイは強いんやで!」
凄まじい速度で前後左右に駆け巡るその履帯は、騎士団長機を完全にその場所に閉じ込めていた。
そして、その圧倒的火力──両手腕部を専用の銃口に加工し、合計”四丁”の大口径グレネードランチャーを装備したイカれた攻撃力で、【ナイト・オブ・シャベル】に反撃も機動も許さなかった。
反撃をした場合、レールランチャーを撃った場合の防御力の低下の隙を付かれ、一撃でも通った場合取り返しのつかないダメージとなる。
それを恐れたか、判断に迷ったか、冷静に状況を見極めているのか──どれか定かではないが、騎士団長は動かず防御を固めている。
【ナイト・オブ・シャベル】は最強の機体とされているが、その実、かなりエネルギー配分に欠陥を抱えた機体であると推測している。
先程の戦いにおいても【ハルバード】相手に、機動戦を選ばず防御を固めて動かなかったと思っていたが、”動けなかった”可能性もある。
少なくとも、機動と同時にレールランチャーでの攻撃は出来ないだろう。
シャベルを使用した接近中の攻撃、その全てにおいて併用していなかった事実がある。
【ハルバード】ならば可能な挙動のはずなのに、だ。
ならば、狙いを付けることが難しいほどの高速機動を維持しながら、レールランチャーを越える攻撃力を持つ【キャタピラ脚】がその火砲で足を固め続けるのは、最良の抑止になっていた。
「グラハム卿、ここで果てて頂きます。理由はお分かりですね」
「くっ。エリシア卿! 私はこんなところで果てる訳にはいかないのだ!」
恐ろしい値段の誘導弾を大量に装備している、これまた珍しい逆関節の騎士機【ミサイルパレード】は、【クロスガード】と熾烈な高速戦闘を繰り広げていた。
タコ野郎じゃないが、俺にもクレジットが溶けていくのが見える。気持ち悪くなってきた。
騎士機同士の戦いであったが、どちらも有利とも不利とも言えない状況だ。
遠距離武装が乏しい【クロスガード】は空中機動を得意とする【ミサイルパレード】を詰めづらい。
逆に【ミサイルパレード】は誘導弾を容易く切り払う【クロスガード】を倒し切る手段に乏しい。
互いに互いが不利のような状況で、一進一退の攻防を続けていた。
しかしエリシア嬢、つまりヴァレリアン卿の部下である彼女が、なぜあちらについているのかよく分かっていない。
先程の話聞こえてなかったのかな──
でも、あんまりやる気もなさそうだな。
防御寄りの挙動だし、狙いが甘いというか雑だ。
立場上参加しているだけ、のような気もする。
それでも【クロスガード】を押さえ込んでいるのは凄いんだが。
混迷の大乱戦だったが、均衡が崩れる瞬間は唐突に訪れた。
「ぐああ! もうダメだ!」
「流石にこんなボロじゃ無理だぜ!」
「撃ち尽くした! 弾切れ!」
「むしろよく持った方だと褒めて欲しいですねぇ」
悲鳴と愚痴と自嘲を残し、ドワーフの偽装ギア四機が戦線から脱落した。
流石に守りきれん。タカメ女史がちょっと強すぎる。
こっちも攻撃当ててるんだけど一向に倒れる気配がない。
「私は弾切れですね、勝てません」
「ワイも両肩のグレネードがカラッケツや!」
【ミサイルパレード】、そして【キャタピラ脚】。
戦場を押さえ込んでいた二機の火力が、同時に尽きた。
状況が、確実に動いた。
「この時を待っていた。反撃だ」
【ナイト・オブ・シャベル】が自由になる。
レールランチャーの砲撃の連射で【キャタピラ脚】へと反撃に出た。
「痛っ! 痛たたたたたた! 装甲の値段が懐に痛い〜!」
タコ野郎は余裕あるな。よし、放置しよう。
【サークル・ザンバー】は次は【クロスガード】を狙い接近戦を挑んだ。【ミサイルパレード】の撤退支援かな。
「は〜い、優男。傷心気味のおねーさんと遊ばない?」
「──! タカメ女史──! くっ、負ける訳には──!」
あのさぁ。
近接戦特化機と平然となんで切りあってんのかなぁスナイパーネキは。
流石に優勢じゃ無いが、ほぼ互角と言っていい状況だ。
度々俺も砲撃を加えているが、当たっちゃ行けない攻撃だけ回避していて、戦況がいまいち変化がない。
やばい、俺が一番役に立ててないぞ。
「くそ──見てるだけなんて! 僕にも動かせる機体があれば──!」
セドリックが嘆いた。
うーん。
あるよ。
「あるのか!?!?」
最初っから用意してたんだよ。
逃げるのに必要かなって。
でもさ、今逃がせてくれねぇじゃん!?
「逃がさん!」
【キャタピラ脚】を虐めていた【ナイト・オブ・シャベル】がターゲットを変えてこちらに突進してきた。
──ほら来たぁ! させるかよ!
流石にそろそろ狙われるかと思っていたところだ。
この近接攻撃は常に警戒していたため、余裕を持って回避──
「想定済みだ!」
超巨大シャベルが”地面”へと振り下ろされた。
そして、岩盤の地面を砕くと、それをそのまま持ち上げ、岩を砲弾として【ハルバード】へとぶち当ててきた。
──なにっ!
盾を構える暇も、回避する時間も無かった。
直撃。激突した衝撃がコックピットを激しく揺らした。
「うわぁぁぁ!」
セドリックが俺の代わりに叫んだ。代役ありがとう。
やべぇ、今の一撃のダメージは予想してなかった分、かなり被害が大きい。
そして、機動を切らせてしまった。
マズい──!
「これで、終わりだ」
【ナイト・オブ・シャベル】がその絶大な出力を腕部へと伝達させ、俺にシャベルの一撃を──
「はぁ、仕方が無いので僕が時間作りますよ」
通信。コテツの声。遥か遠く、城壁の上で閃光。
極太のレーザービームが【ナイト・オブ・シャベル】に直撃し、吹き飛ばした。
竜型光熱砲──!
ふと見ると、遠い城壁の上で竜型光熱砲の一撃を放った機体が、狙撃体勢で膝を曲げて座っていた。
──【グラスホッパー】!
「合流ポイントでセドリックさんをさっさと下ろしてきてください。僕が時間稼ぐんで」
コテツは滑腔砲を持ち、【グラスホッパー】を跳躍させ、こちらへ一気に接近させてきた。
跳躍を繰り返しつつ、かなりの遠距離から誘導弾を飛ばして、吹き飛ばした騎士団長機への追撃を行っている。
「やる〜。あんな位置から狙撃するとか凄いじゃん。私の弟子にならない?」
狙撃の権威であるスナイパーネキがコテツをべた褒めした。確かにコテツはめちゃくちゃ狙撃上手いよな。
「やめておきます。その手はカラスさんに全部任せてるんで」
俺、狙撃そんなに得意じゃないから教えられることねーぞ。
「ひゅ〜モテる女は辛いねぇ〜」
ええい、茶化すな。
色々放置してる約束があるんだよ。
こちとら破りまくってる身だ。
仕方がないからなんでも教えるよ。
「さっさと行ってください。機動は自信ないので抑えるのも限界がありますからね」
おうよ。頼んだわ。
ってことで、ここは一旦引かせてもらうぜ。
あーばよー!
全く関係ないホラー書いて1日遅れました。気分転換です。
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