46話:陰謀
【ハードパンチャー】が莫大な推力任せに空中を飛翔した。
爆速でコロシアムの空を駆け、一直線に【ハルバード】へと目掛け飛び込んでくる──!
俺はまだコックピットの外だ。やべぇ、早すぎて間に合わない──!
「貴様ぁ! ジャック・ザ・ハンマーだな!!!」
【クロスガード】が跳躍し、【ハルバード】の前方の空間へと割り込む。
そして【ハードパンチャー】の突撃に合わせ、レーザーブレードを左から振り抜いた。
バチバチと閃光が迸り、【ハードパンチャー】の突進軌道を、発生した斥力で逸らす。
着弾地点は【ハルバード】から逸れ、地面へと激突した。
着弾の衝撃で、パラパラと砂と埃が舞う。
竜が動いても割れることが無いコロシアムの地面を、その突撃だけで容易く砕いた【ハードパンチャー】がゆっくりと姿を表した。
「ああン? 誰だお前──
俺様はそこの【ハルバード】をぶっ飛ばさなきゃいけねぇんだ、どけよ三下ァ!」
「貴様! 貴様には大量の文句があったんだ! 何が竜狩りだ一瞬でやられおって!!!
手出し無用! こいつは私が断ち切る!! セドリックを運べ!!」
「誰だよオメェはよォ!」
「以前の! 雇い主くらい! 覚えろ間抜け!!!」
ああうん。
いんねんのたいけつっぽいね。
任せたグラハム卿。とりあえずぶん殴っておいてくれ。
俺は【ハルバード】のコックピットへと即座に潜り込み、駆動させた。
ショットガンを腕部のサブアームを展開してホールドする。
槍は大型過ぎてサブアームでの保持は難しい。開けるのは右手しか選択肢が無い。
その空いた右手で、セドリックをライトフレームの残骸ごと掴みあげた。
流石に治療は一段落ついただろうし、もう大丈夫だろ。
「痛っ──僕のことは気にするな! 大丈夫だ!」
悪い悪い。まだ挟まったままだからライトフレームごと持ち上げる羽目になったんだが、正直あんまり気にしていられない。
頑張って耐えろ。男の子だろ。
「大丈夫だって言っただろ!」
俺の言葉へ反射的に返したあと、観覧席へセドリックは顔を向けて大声で叫んだ。
「エルドレイン王よ! 我が戦いは無様でしたが、仲間に助けられました!
称えるのであれば彼らに祝福をお願いします! そして乱入者が来たため失礼します!」
律儀だな。
どうせなので俺も【ハルバード】を動かして槍を掲げ、騎士風の礼をした。
作法は全然知らないので正しいとは思えないが──
礼をするに値する相手だと俺は認識していた。
反応は無かった。しかし、行動に意味はあったと感じた。
「さっさと! 行けぇ!!」
「ハハハハハハハハハ! 遅え遅え遅え遅え!」
拳撃特化機の【ハードパンチャー】 VS 近接特化機の【クロスガード】。
拳と剣と違いはあれど、極上の近接機同士の高速の近接戦が繰り広げられていた。
視認と理解が困難なレベルの速度で、格闘と剣戟の応酬が繰り広げられ、互いが互いの攻撃を捌き続けている。
いや、状況を限定すると本当に強いなあのバカ。
【ハードパンチャー】は対エネルギー兵器対策をしているのか平然とブレードを拳で受け止め、素早く殴り返している。
なんで騎士機と互角──いや、有利に戦ってるんだよ。
うーん。グラハム卿が不利だな。応援するか。
がんばぇー。ふぁいとー。
「気が! 抜ける! やめろ馬鹿者!!!」
余裕が一切無いな。
グラハム卿をガッツリ応援する義理は、いまいち無いので気が抜ける応援をしてしまった。
おーけー。さっさと逃げるとしよう。
じゃあ、後で合流するぞー。適当に切りあげろよ〜〜
ま、プライドを捨てれば楽に勝てるだろ。
そうして、さっさと【ハルバード】を機動させ、盾を回収。
そのまま【クロスガード】が入ってきた横穴から俺達は退却した。
*
バカは上から落ちてきた。
ならばあちらは後詰が居る可能性がある。危険だ。
【クロスガード】が突き抜けて来た横穴──正規出入り口ではないそこから撤退する方針と決めた。
ただ、これどこに繋がってるんだ。
「古い通路だ──僕もそこまで詳しくないが多分案内できる」
そうか、ルートの策定は任せた。俺はお前の勘を信じるよ。
俺はセドリックの指示に従い【ハルバード】を疾駆させた。
遅っそい。
全力で追撃されたら容易く接近されるな。
各所に意識を割きながら、俺は違和感への考えをまとめた。
そう。俺は落下して来たバカの言葉に、強い違和感を感じている。
──『くたばれ【ハルバード】』──?
この襲撃は電撃戦だ。
まだそれほど時間は経っていない。
せいぜい主星の時間でいう一時間程度しか経過していないだろう。多分。
そして今回はその短時間の間に、大量の正誤問わない情報が錯綜する混沌とした戦場である。
そんな混沌の中で、明らかに知性がアレなあのバカが、状況を正確に理解して、自己判断で【ハルバード】を狙う──?
──ありえない。
いや、ちょっとバカにしすぎだが、回答は変わらない。
知性がどうのこうの言う前に、俺でもこの状況だったら動かないことを選択する。
なぜなら、同士討ちの可能性が跳ね上がるからだ。
正確な情報が少ないこの状況ならば、自分の身を守る選択と行動に終始するだろう。
つまり、今の襲撃は誰かの命令を受けて実行したことになる。
”傭兵”であるあのバカに命令を下して、”【ハルバード】”を正確に狙いを付けた──?
戦いは、まだ終わっていない。
意識を切り替えろ。
どうやら、この襲撃は徒労じゃなかったらしいな──!
*
「良かった。合っていた──」
何度か道を間違えながらも、昇降機のある部屋にたどり着いた。
塔の中層のように、ギアで操作出来る昇降機を用い、コロシアムの外へ出れるらしい。
うーん。現状の戦況が知りたい。
俺達は現在、通信を切っている。
ある一定時刻まで通信をしないことで、通信傍受のリスクを防いでいるからだ。
こちらの情報を出来うる限り与えない方針としない限り、この作戦は成功しない。
はあ、一息つこう。持ち込んだボトルから水分を補給する。
セドリックもやっとライトフレームの残骸から解放されたな。
そこだと危ないからお前、コックピットに移ってこい。放り出されるのが一番怖い。
俺はコックピットを解放し、セドリックを中に入れた。
「ああ、そうさせてもらう──そういやなんでコスプレしてるんだ」
──聞くな──いや本当に聞かないでくれ──
ただタコ野郎が「ロールプレイは服装からやで!」との社長命令を出したことで、メイドにひん剥かれて着せられただけなんだ。
くそう。戦闘が可能なように作られてるとかいう余計な情報、体感したくなかった──!
コテツは大真面目に「これ作戦成功率下がりますよね、勘弁してくださいよ」って言うしさ。
俺も完全に同意だよ! 変な空気しか流れなかったじゃねぇか!
おかしいな、なんで作戦実行者の意見が反映されねぇんだ!
最初は大真面目に正義を説いての説得の予定だったんだよ! チクショウ!
──よし。忘れよう。別の事考えたい。うん──
そういえばセドリック。
お前、よくもまぁ、【ラスト・モンスター】のことと、増援の事を知ってたな。
「ああうん。そもそも、この処刑方法を実行するように提案したのは僕だからね」
は?
お前、何?
自らあんな危険なことしやがったの?
なに? 英雄気取りかなにか? 今どき流行らないよ??
「いや、そんなにボロクソに言わないでくれ。
『君の扱いは不当だから、早めに終わらせられるこの刑を生き残るのが良い』って言われてさ。
増援もお願いして、普通に生き残れる算段だったんだよ。来てくれなかったけどさ──」
──おい。
──誰だ。
──誰に、教えられた。
「ん? 騎士団長だけど──」
──────上だ!
【ハルバード】が叫んだ。
その後、センサー郡が敵の攻撃を感知。アラームが響く。
俺は反射的に【ハルバード】のブーストランサーを点火。
静止状態であった【ハルバード】の中で、最も瞬間推力が高い武器。
その推進力を利用し、上空からの一撃を回避した。
落下物。
大きさは鎧機。そしてその”特徴的”な武器。
衝撃。轟音。
乗っていた昇降機が割れるように真っ二つに折れ曲がり、裂けた。
ありとあらゆる箇所が金属音の悲鳴を上げ、今まで足場だったものを破壊し尽くした。
たった一撃。
なんという”膂力”!
噂には聞いていた。
三基構成ジェネレータ機として、最高の出力を持つ鎧機の噂を。
莫大な出力を、その特徴的な両手物理武器を使用することで、絶大な攻撃力を持つ騎士。
それが俺の目の前に居た。
「──外したか。タイミングは最高だったと思うんだが──」
男の声。聞いたことがある──
──あいにく、勘がいいものでね!
「やはりヴァレリアンでは無いか。ならば恨みは無いが──」
「団長──! 僕です! セドリックです!」
「そうか──そこに居たか──!」
セドリックの声を聞いた"団長"とやらは、即座に行動へと移した。
アームズが爆発的な速度で【ハルバード】に迫る。
ヤバい。
こんな狭いところで、あの武装を持つアームズと戦う訳には行かない。
“絶対に勝てない”!
ブーストランサーを再点火。
【ハルバード】のシャードブースターとバーニアスラスターをも全開にする!
全推力を使って、”上”へと跳躍し、逃走──!
アームズの攻撃を回避しつつ、爆発的な加速力をそのまま使い、上昇を続けた。
そして、昇降機の出口の屋根を突き破り、そのまま屋外へと抜け出る。
月だ。月が見える。赤い月だ。
外に出て、俺は空を見ることが出来た。
そして、戦場の戦いが続いているのも眺めることも確認した。
冷静に観察する暇は無かった──
通信が入る。
「【ハルバード】! カラスはん! ヤバいやで! 騎士団長や!
“約束破って”襲いかかってきたんや!」
──ああそうだろうよ! 今襲われたところだよ!
そして、俺が作成した天井の穴から、その襲撃者がシャードブースターの音と共に跳躍してきた。
着地し、再び姿を表したアームズは、その武器を地面に突き刺し、俺達へと言葉を投げかけてきた。
「反逆者よ。誅殺する。
セドリックも一味として扱わせて貰おう。
──私が決めた。私が裁く──この”シャベル”で大地に沈めてやろう」
要塞街最高戦力のうち一機。騎士団長機。
──【ナイト・オブ・シャベル】──
その威容が俺たちの目の前に、敵として現れた──!
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