43話:責務
上層部の考えは古い。
何故かというと、単純な理由である。
“長生き”だからである。
コロシアムの一角。
観覧席に鎮座する医療ポッドの中。
薄い青色の循環液に浸かったまま、呼吸器を取り付けた肌の皺だらけの老人が浮かんでいた。
髪は既に無く、歯も無く、肌は赤く脳漿のような色へと変色しており、その眼は白濁していた。
要塞街の最高指導者。
エルドレイン”王”。
要塞街の建設当初から生き続けている怪物である。
この支配者に逆らうものは、誰一人として居ない。
そして、未だにこの人物は、この処刑、この扱いが”適切”だと考えていた。
*
「なっ、【ハルバード】!?」
「どういうことだヴァレリアン!貴様の乗機であろう!」
騎士ヴァレリアンは、他の貴族たちを諌めた。
「お静かに。尊き方々とあろうものたちが、ここで狼狽えてはみっともない」
ここからは演劇の舞台だ。
映像を撮影する機材へと、語るように舞台俳優は答えた。
「我が領地から盗み出されたという報が届いております。
恐らくは賊の首魁でしょう――尊き血の、いずれかの落胤とは思いますが――」
「我々を疑うかヴァレリアン!」
台本を咀嚼し、理解し、自分の言葉に変えて、ヴァレリアン卿という仮面を被った俳優は答えた。
「しかし現に私はここにいるし、子供も居ない。
配下にも動かせるものは一人もおりませんよ」
配下には、ね。
映像には動く【ハルバード】と、手を広げ健在を示すヴァレリアン卿が映し出されていた。
見栄を切り、演出を最大限に活かす。
ここは、ヴァレリアン卿の独壇場であった。
「しかし、ここは危険です。こうとなってしまっては処刑を中止せざるを――
『続行だ』
――なんですと?」
こぽこぽと。
機械に代わりに声を出してもらい、人の形をした脳漿が答えた。
『”続行”だ。私ことエルドレインが決定した』
舞台の主役が一瞬で切り替わった。
齢300を超える大役者に、若造が叶うはずもなかった。
『”逆らう”のか、ヴァレリアン』
王は、配下の騎士に、真意を問いた。
「――御意に――」
臣下であるヴァレリアンは従わざるを得なかった。
劇は中断され、思惑は狂い、道筋は消えた。
処刑は、続行された。
*
「お前――どうして――というよりどうやって――?」
朦朧としているセドリックは俺の声を聞いて呟いた。
俺はコックピットを開かず、【ハルバード】の中から状況を確認した。
破片と打撃で傷ついているな。
致命傷は食らっていないが、機体の損傷に巻き込まれている。
破片が刺さっているかもしれない。
医療ドローンと救助用ドローンを起動。
騎士サマが用意してくれた軍用の代物だ。
ちょっと高価だが、持ってきて良かったらしい。
――助けに来た。大人しく助けられておけ。
「おまえ――余計なお世話――いや、助かった――」
相当に消耗しているセドリックは息も絶え絶えたが、何とか意識を保っている。危険だな。
【ハルバード】の目を観覧席へと向ける。
貴族と、騎士サマと――
そして――エルドレイン王の医療ポッドが見えるな。
相変わらず”律儀”だな。
「侵入者、そして私の機体を簒奪した盗人に告げる」
ヴァレリアン卿がコロシアムの放送装置を使い、俺へと話しかけてきた。
あ、この流れは説得失敗したな?
「処刑は続行する。繰り返す。処刑は続行する。
これはエルドレイン王の勅命である」
やっぱりかぁ。
説得成功の可能性は三割くらいだろう、って騎士サマ本人が言ってたからな。
ただ勅命だとは思わなかった。
「【ハルバード】相手には不足と思うが――
残りのスクラップを全て投入することが決定した。
せいぜいセドリック卿を守ってみたまえ」
はいはい。説明ありがとうよ。
コロシアム各所に設置されているシャッターが開いていく。
同時か。盾を拾いに行く暇は無いな。
セドリックは動かせない。
まだ治療とライトフレームからの取り外し中だ。
掴んで天井から逃げ出すことも考えたが、セドリックへのダメージがどう出るかわからない。
この状況でギャンブルは出来ない。
エイプにボコボコにされてなけりゃ掴んで逃げたんだがな。
赤点だ。もうちょっと頑張りましょう。
さて。
何が出てくるかな――へぇ。
――良く捕まえたなぁ――
長く、分厚い鉤爪。
噛み砕く用途に適した肥大化した顎と牙。
両肩、背面、合計四門のオートキャノンを搭載した破壊の化身。
ドラゴンの完全陸上改造格闘機。
――地竜。
殺意高すぎて笑うわ。
生かすつもりゼロじゃないか。
竜が吠える。
コロシアムに響くその咆哮は【ハルバード】を震わせた。
最近ドラゴンと戦い過ぎだな。うんざりしてきた。
こんなに遭遇する相手じゃ無いはずなんだが。
ま、いいか。
気合い入れろよ【ハルバード】。
こいつなら文句ないだろうよ。
竜を倒すは騎士の誉れ――ってやつだ。
【ハルバード】は静かに、心臓の鼓動を早めた。
*
地竜以外のスクラップを、まずは速攻で排除しなければならない。
悪いが、先制攻撃させてもらうぜ。
開いたシャッターから出てこようとしてもたついた中型機らしきスクラップの影。
それを、視認する前に、レールランチャーとグレネードをぶち込んだ。
何が出てきたのか分からないが、一機撃墜。
あと何機だ。
出てきたのは――
ライフルマン、エイプの2体目、キメラの素体みたいな大型ビースト。
全部中型だな。
全部倒す。
だが、まずは――
俺はブーストランサーの増設ブースターを点火した。
この位置に留まるとセドリックが巻き込まれる。
――なんとしてもまずは、地竜に接近する!
地竜の格闘範囲に入るというリスクを背負うが、オートキャノンの弾雨に晒されるほうが遥かにセドリックが危険だ。
だが、方針は変わらない。
早々にティラノと単独で戦える状況を作る必要がある。故に――
――ちょいと力を貸せ【ハルバード】!お前の照準を使わせろ!
超高性能機の【ハルバード】と言えど、内装そのものは標準的な仕様だ。
性能が良い、という以外に特筆すべき点は無い。
だから、これから行う刹那の曲芸のためには【ハルバード】の中へと潜り込んで対話する必要があった。
――承った。竜相手だ、是非も無い!
助かるぜ!機体制御任せた!
ブーストランサーで【ハルバード】を加速させる。
それを”本人”に任せながら、照準を一瞬で合わせる。
ショットガンをエイプに――
レールランチャーをライフルマンに――
デュアルグレネードを大型ビーストに――
全武装を別々の相手へと向けた。
――全手動マルチロックオンだ!くたばれスクラップ!
同時に全武装を発射し、全てのスクラップにぶち当て――
そして、速度を落とさず【ハルバード】のブーストランサーをティラノへと着弾させた。
*
「おお」
今の神業に思わずヴァレリアンは声を出した。
「私より上手く使わないで欲しいな――
さて、この結末を私は見届けますが――
皆様は退避された方がよろしいかと。賊が何をするか分かりかねますからね」
観覧席に残る貴族たちへ向けて、言葉を発した。
その姿は堂々としていて、まだ舞台に存在感を残し続けていた。
だが。
『私も見届けよう』
“王”も存在感を残し続けていた。
『ヴァレリアン。共連れは貴様だけで良い。
他は去れ。去って過程を思え。思って心に従え。それを責とする』
白濁した眼は何も見えていない。
言葉も口を動かして放たれていない。
その肉体は一人で動くことすら出来ない。
頂に居座る朽ちた脳。そう揶揄されることもある。
しかし、ヴァレリアンは逆らおうなどとは一切は思わなかった。
何故ならば――
『また私は間違えたらしい。ならば、これは私の責務だ』
――王を尊敬しているからだ。
*
ティラノの懐に入った!
ランサーの制御は【ハルバード】任せだったがオートキャノン一門破壊は悪くない結果だ。
想定より脆い――
対スクラップ戦の訓練に使われている機体でもありそうだ。
見栄えは良いが装甲は結構ツギハギだな。
他のスクラップはどうなった。
ライフルマンは偶然砲塔に直撃して、爆発したから確実に撃墜した。
それ以外は転倒はしたが、まだ倒れないだろう。
対処を――
――する前にティラノがその鉤爪で【ハルバード】に飛びかかってきた。
ブーストランサーを強引に引き寄せ、盾がわりにしてそれを弾く。
マズイ、距離が近すぎる。
攻撃直後により全武装が使用できない。
手は武装を持っている。殴れない。
超接近戦という状況によって槍を振り回すのも無理だ。
機体制御を【ハルバード】に任せすぎたツケが来た。
ならば――ごめんもうちょっと付き合え【ハルバード】。何をする気だ。曲芸。――何?
ティラノは大顎を開いた。
その強大な”あぎと”による噛み砕き攻撃を繰り出してきた。
例え【ハルバード】であろうが、この万力の如き圧力には耐えられない。
しかも食い付いて離さずにそのまま近接戦闘を強制されることとなる。
ティラノはその大顎で噛み砕こうと――
――今。
脚部バーニアスラスターを全開。
意図的にバランスを崩して、背面シャードブースターを”低出力”で吹かせ――
【ハルバード】をひっくり返した。
そのまま、重量級アームズを支える脚部の莫大なバーニアスラスターの出力を元に、ティラノを蹴り上げた。
――サマーソルトキック。
重量脚部でその巨大な顎を蹴り上げ、その牙を砕いた。
*
――もう二度とやらんぞ。
ありがとう【ハルバード】!出力任せで出来るもんだな!
ティラノの隙は作った。
そのままシャードブースターを使い、地面を背中にしたまま、滑るように接近距離から離脱した。
ティラノが体勢を戻す前に他のスクラップを――
マズい!
大型ビーストとエイプは【ハルバード】を無視していた。
エイプはまだもたついているが、ビーストはすでに駆けておりセドリックの元へと走り抜けていた。
なんとか体勢を強引に戻す。照準はロックがかからない。最悪だ。
だが、ここでやらなければセドリックが死ぬ。
レールランチャーを起動――当たれよ!
砲塔を包む電磁イオンがその高速の弾丸を投射し――
――外れ、壁へとぶつかった。
外した――!
それを俺は眺めることしか出来なかった。
俺の、運は尽きた。
しかし、セドリックの悪運は尽きていなかった。
爆発。
壁の一部が割れ、一機の騎士機が現れた。
「待たせた、セドリック。我が罪、ここで濯ぐ――!」
急速に大型ビーストへと駆け、レーザーブレードでひと薙ぎした。
一閃。
一撃でスクラップを切り裂き、その鼓動を断ち切った。
残光が輝き、騎士の勇姿を映し出す。
「騎士グラハム。【クロスガード】。推参――!」
名前不明貴族――!
第七セクターを襲撃した首魁が、再び現れた。
騎士としての機体を持ち出し、血族を守らんと駆けつけたのであった。
活動報告にも書きましたが、ジャンル大迷走中です。どっちが良いんですかね……ご意見聞きたいです。
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