42話:矜持
世界観設定の元ネタの一つにゲキ・ガンガー3があります。
今回は魔法少女でしたが、好きなヒーローが目の前に立っていると思い込んで読んでください。
この作戦の前提の話を二つする。
第一に貴族と騎士という概念はどこから来たのか、という話だ。
結論から言うと――軟体種族が主星から持ち込んだアニメーション作品を参考に、それらの文化が作られていた。
惑星ノスの住人は、主星の文化や知識を正確に受け継いだ訳では無い。
例えば、俺は未だに”猫”という種族を見たことがないし、この星に鳥は現存していない。空を飛んでいるのはスクラップか一部の海産物くらいだ。
だからそのような存在が居た、そのような”伝説”しか俺たちに伝わっていない。
だが、俺達はその伝説を”観る”ことは出来る。
主星から持ち込まれた軟体種族が、命を掛けてでも守り抜いた映像作品の数々――
スクラップの大攻勢により、惑星ノスが焼き払われたその時代、そんなゴミよりも明らかに守るべきものがあっただろう、それらは――
主星の文化を惑星ノスへと、視覚と聴覚による情報で、それを確実に伝えた。
タコ野郎の種族は、大いなる無駄とされるそれらを保存した。
そしてそれは、結果的に俺達に文化や道徳、娯楽と知識を伝えた。
あいつらはしょーもない連中だが、偉大な種族なのだ。
そして第二に、先程発言した馬鹿げた内容――
その原作である「美焼女戦士《もえもえ★シグナリア》」がどのくらいの知名度と、”意味”を持っているかという話だ。
俺はこの前、市民週間の雑誌において、シグナール卿の1/4フィギアが発売されることを知った。つまり、これは一般市民の間において普及しているレベルの知名度がある作品である。
そして、その意味は――
*
「あ、あのさ。お前ら。お前ら本当に”シグナール卿”を撃てるか――?」
兵士の一人が呟いた。
恐らくこいつは、内通者ではない。
だが、正義の名のもとに騎士に従う一人の男であった。
「”絶対正義”の象徴――”騎士”の模範――か――」
「すまん、俺は、だめだ。俺は”正義”を撃てない――」
“騎士”という概念は、この作品から取られていた。
同胞を処刑するという”正義”を喪失した彼らに対し、
”正義であり、騎士の象徴”であるシグナール卿の名前は――
「俺は、彼女に憧れて騎士団に入った――みんな悪い、俺も動けない――」
子供の頃の、ヒーロー/ヒロインの敵になるということ。
――兵士達にとって、自身のアイデンティティを強く揺さぶる存在でしかなかった。
「あいつは、勝手に名乗っているだけだ!落ち着け!」
冷静な兵士の一人が味方を鼓舞した。
混乱している。畳み掛けるように俺は情報の追撃をした。
――”正義と革命”を標榜するわたしが、【ハルバード】に乗れている。その意味を考えて答えて下さい。
「【ハルバード】に、そうか――お名乗り出来ないのですね――」
マジで勝手に上級貴族の落胤だと思われてる。
すまん、ちゃうねん。裏技使ってるんだよ。
誰が仕込みかさっぱり分からないが、動揺は共有されて行く。
状況はひたすらに利用させて貰う――!
――もう一度言います。”正義を前に立ちはだかる”のならば容赦はしません。
――私はセドリック卿の救出に来ただけ。このバカげた処刑を止めに来ただけです。
俺、ロールプレイ頑張ってる。
羞恥で死にそうになっているが、内容そのものは至極真っ当な事を言っているに過ぎない。
道理に合わないこの状況が、そもそもおかしすぎるだけなのだから。
――通して下さい!
正義はこちらにある。
対して、あちらに”正義”は無い。
戦いは同じ正義同士のぶつかり合いとは言うが――
この状況に置いて、それは全く通用しない。
一方的に罪を纏めて処刑しようとした要塞街の上層部になんの正義があるというのか――
「お前ら、いい。もう戦わなくていい」
指揮官が一人、ギアの手を上げて銃口を下ろさせた。
「こんなバカげた戦いで、正義なんか語らなくていい。
セドリック卿の扱いには俺も疑問に思っていた――
どう考えてもそちらの方が正しい。ここを通すべきだ」
兵士が一人、俺に言葉を投げつけてきた。
助かる。ここを通させて――
「だが」
兵士は告げた。
「俺は、俺たちは要塞街の兵士だ。
どれだけ理不尽だろうが、無意味だろうが、道理がなかろうが――
正義なんぞ無くても、ここを守れと言われたんだ。
みんな納得しないだろうが――俺は命令には従う。
だから、互いの納得のために――
決闘だ。
俺を倒して、ここを通ってくれ」
顔も見えぬ、ギアに乗った兵士が、俺へと挑戦状を叩きつけてきた。
三基構成ジェネレータ機である【ハルバード】に対して、通常ジェネレータ機である量産型ギアの兵士が――
納得のためだけに、俺に単騎での戦いを挑んできた――!
――受けましょう。
俺は、その志を逸らすことが出来ない。
“正義”なんかは騙っている身だから、都合よく切り替えちゃうんだが――
戦士としての矜持は、踏みにじる訳には行かなくてな。
悪い、コテツ、タコ野郎。
やっぱこの交渉、グダっちゃった。
ギアが構えた。俺も【ハルバード】の重心を深く沈め、飛び立つ準備をした。
合図は無く、兵士たちが見守る中、ギアとアームズの戦いは始まり――
そして、一瞬で終わった――
*
二度とやらねぇぞ。
精神的には【ハルバード】で10機のギアを相手にしていた方が、遥かに楽な交渉だった。
勇敢な戦士に敬意を払い、俺はコロシアムの入口を通過し、【ハルバード】を飛ばしていく。
このコロシアムは、塔下層を想定した演習場として作られている。
天井は塞がれており、かなり広く、その土地は深く地下に存在していた。
捕縛したスクラップを相手にする訓練も行われるため逃げ出さないような機構が存在し、わざわざ入口から回り込み、そして地下へと落ちなければコロシアム中心へとたどり着けない仕組みにしているからだ。
そのため【ハルバード】の巡航速度だと、多少の時間を要した。
超高性能機である【ハルバード】の唯一の難点ある機動力の遅さのせいだ。
シャードブースターは瞬発力特化の調整をしているのだろう。
圧倒的な瞬間速度により、この巨体であっても攻撃・回避に一切の支障を来すことはない。
だが、その分”垂れ流す”巡航機動にはエネルギーの消耗が激しくなってしまい、消耗を抑える必要があった。
端的にいって、シャードブースターの出力を抑えた【ハルバード】は、遅い。
最近乗っていた機体が割と通常移動だと高速で動ける機体ばっかりだったから、ちょっとイライラするレベルで遅い!
【キャタピラ脚】も【ガトリングクラブ】もかなりの重量機だったが、あいつらは脚部が高速移動に適していたからな。
無理をすればいくらでも速度は稼げるとはいえ、”この後のこと”を考えたならば、消耗を抑える必要があった。
ゆっくり行くけど、間に合えよセドリック!
モニターの中で既に戦いが始まっているセドリックを応援しながら、俺は駆けた。
*
「こんな!ところで!死んで!たまるかぁ!!」
セドリックは吠えた。
鈍く、動く度に錆びた関節がギリギリと悲鳴を上げる粗末なライトフレームで小型のスクラップを倒した。
武装はない。今持っているものは、敵スクラップの残骸であった、粗末な鉄骨である。
【ラスト・モンスター】は、スクラップと戦い続け、死に絶えるまで続けられる処刑方法である。
戦いで死ぬ戦士の名誉を守るために考案され、全てのスクラップを倒せば、その罪は許されるとされていた。
ただし、歴史上、生き残った人物は居ない。
弱いスクラップから順番に投入されていき、徐々に強力なスクラップが現れていく。
今、小型のスクラップを倒した。序盤のうちは性能が低いライトフレームで対処出来る。
しかし、それですら回避が出来ずにライトフレームの左腕が破壊されてしまった。
その衝撃と破損で、セドリックの額から流血している。
ライトフレームにシャードジェネレータは無い。
そのため、普段中身を守ってくれているコアフィールドは存在せず、物理法則に従って被弾による衝撃をほぼ吸収できていない。
ライトフレームはその特性上、殴り合うように出来ている機体ではないのだ。
こちらから攻撃する衝撃ですら内臓を揺らし、セドリックの体力を削っていった。
破損した左腕から循環液が漏れ続け、内臓しているエネルギーがどんどんと溢れ落ちてゆく。
ジェネレータは無いため、エネルギーが補充されることもない。
だから、時間が経ちすぎれば、ライトフレームは動くことすらままならなくなる。
「次!早く、来やがれ――!」
焦ったまま、叫んだ。
コロシアムのシャッターが開いていく。
中型――!大型猿を模した猿人か――!
跳躍――
出現と共にエイプはその脚力でコロシアム天井高くまで飛び上がり、強襲を仕掛けてきた。
打撃と瞬発力に特化したエイプの攻撃は、貧弱なライトフレームの足回りで回避仕切ることなど出来なかった。
「がっ――あぁぁ!」
拳による叩きつけで、薄い装甲が破砕され、モニターは割れ、足は破壊され、衝撃が直接響き、倒された。
そのまま、エイプはライトフレームを踏みつけ、逃げられないように抑え込む。
反撃などする隙は無かった。
その打撃に適した両手で何度も、何度も、何度も拳を叩きつけた。
野生の咆哮を上げて、残った右手を破壊し、足を破壊し、殴り殴り殴り殴った。
エイプは嗤った。
セドリックを、いたぶっている。
スクラップに感情があるかは分かっていない。
しかし、まるでグレムリンに接続されたゴブリンのように狂った笑みを浮かべていた。
セドリックは衝撃と機械の破損により、どこもかしこも傷ついていた。
腕などは機械に挟まれて操作することもままならない。
そもそも、今の攻撃で脚も手も失った。
赤い循環液が周囲に飛散し、大量の失血でエネルギーも失った。
セドリックは、敗北した。
「――ダメだった、かぁ――」
エイプは、コックピットをこじ開け、狂った笑みで、セドリックを見つめた。
かちかちかちかち。
引きつった笑みで瞳孔を開いて、歯を鳴らしてセドリックを笑い続けた。
「――っち、よりにもよって、エイプかよ――最悪だな――」
エイプは”遊ぶ”。
哀れな犠牲者を、転ばし弄び引きちぎり命が果ててでもその身体をおもちゃにし続ける。
すぐに死ねることが出来たのであれば、幸運である。
そう言わんばかりにぐちゃぐちゃにされる運命に、セドリックはたどり着いてしまった。
そう思っていた。
――闘技場の天井が割れるまでは。
*
天井をぶち破って、上から闘技場に侵入!
最短ルートだ。そうでもしないと間に合わん。
エイプだったのは”幸運”だったな。あいつはすぐに獲物を殺さない。
傭兵の間だと全滅したところで”助かる”可能性がある珍しい相手だ。
だからエイプの方へと惹きつける――位置が悪いな。
デュアルグレネードは爆発に巻き込まれる。絶対に使えない。
レールランチャーは威力が高すぎて貫通する。危なすぎる。
ショットガンは散弾――最悪だな、すべての射撃武装が使用出来ない。
なら仕方がない。”膂力”だけでなんとかするべきだな。
サブアームを操作し、武装をホールド。大型盾を固定マウントから外し――
【ハルバード】の圧倒的出力とトルク任せだ。
タイミングは着地寸前。バーニアスラスターの制御と共に”ぶん投げる”。
”真横”へと飛翔するその平たい装甲板は倒れて伏せているセドリックのライトフレームには命中しない。
エイプだけに激突する軌道を描き、跳躍による回避をさせず直撃。
そのまま圧倒的膂力から生み出された貫通力により、エイプの上半身は耐えられず――
エイプの上半身が、吹き飛び、セドリックのもとには腰から下の脚部しか残らなかった。
なんてパワーだ。すげぇな鎧機は。
さて。
「――【ハルバード】――?なんで――ヴァレリアン卿はそこに居るのに――」
セドリックは混乱しているな。
さ、落ち着かせるか。
――よう、正義の味方が来てやったぜ。
ジャンルを変更しました。
「文芸:アクション」→「SF:空想科学」へ逆戻りです。この作品はジャンルだけ大迷走しています。
なんでSF:アクションないんでしょうね!ピッタリのジャンルがないんですよ!
サイバーパンク系とかも含められそうなんですけどねぇ……
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