40話:開幕
俺とドワーフどもは第七セクターに居た。
【ハルバード】と、【飲んだくれ傭兵団】達が乗る偽装ギアの受け取りをしなければならないからだ。
コテツやタコ野郎、そしてよく分からん貴族は別ルートでの行動になる。
というか、マジで誰も説明してくれないから、あの貴族が未だに誰か分かってない。誰なんだよ。
「へへ、未だに採掘区ではゴブリンとドワーフ達が働いてますからね。”島区”であろうと通り道は確保できてますぜ」
“デカ耳”の案内の手配は非常にスムーズであったが、輸送そのものは難航した。
正直一番手間取ったのは【ハルバード】を移動させることだったからだ。
【ハルバード】は俺が乗らないと動かすことが出来ないし、そして極めて目立つ。
要塞街に存在する三基構成ジェネレータ機のアームズとしては、騎士団長の搭乗する機体の次に戦場で活躍しているお陰か、【ハルバード】の知名度は非常に高い。
さらに、劇的な展開で上級貴族の地位を手に入れたヴァレリアン卿の、その乗機であると言う事実は、街の子供でも知っているほどになっている。
そのため、周囲から隠すように移動しなければならず正規の出入口は使用できない。
騎士サマが不在の状況で移動することが露見することすら危険なのだ。
そのため、非常に格好が悪いが――
隠しきるためだ。背に腹はかえられない。
【ハルバード】は第七セクターのゴミ集積所から、輸送キャリアに乗せたまま出撃することとなった。
匂いが移ったらごめんよ騎士サマ。
*
「あっしはここまでです。まだやることがある」
“デカ耳”は俺に帽子を脱ぎながら別れを告げた。
この戦いが終われば、どの道当分会うことは出来ないだろう。
下手をすると、最後の別れかもしれない。
じゃあな”デカ耳”。お前が居なかったら何も出来ない所だったぜ。余ったクレジットは好きに使いな。
「いいえ旦那。感謝するのはこちらの方です」
“デカ耳”は涙ぐんですらいた。
おいおい、生涯の別れじゃあるまいし大袈裟だな。
なんたってさ。
俺たちは、勝つからな。
「ええ、ええ!そうでしょうとも!旦那が負けるはずありません!暴力にも!権力にも!貴方は負けなかった!」
涙を流しながら――
小さく、弱々しいゴブリンは言葉を紡いだ。
「凄く、眩しかった――旦那はあっしらの英雄です」
おいおい。持ち上げるなよ”デカ耳”。
俺は戦える。
ギアに乗って何処までも駆けて行ける。
だけどよ、俺がここまで自由に動けるのはお前のお陰でもあるんだぜ。
お前が俺の目になって、耳になって、口にすらなった。
凄いじゃねぇか。俺にはとても出来ない。
戦うフィールドが違うだけだ。
つまり、俺とお前は対等だ。
俺は英雄じゃないが――
もし俺を英雄だとするのならば、お前も英雄だ。
胸を張れよ”デカ耳”。
お前がここまで整えたんだろ?
ならこれから俺が行くのは”お前が作った戦場”だ。
そこに殴り込みに行くだけさ。
戦いやすい事を期待してるぜ。
――小さい英雄さんよ。
そこには涙を流す弱々しいゴブリンの姿など、俺には見えなかった。
口と人脈と情報を武器とした歴戦の戦士の姿だけしか、俺の目には映らない。
「ゴブリン一同、いや、第七セクターの市民を代表して、旦那に感謝を。ご武運を!」
じゃあな、後始末は全部頼むぜ。
また会おう!
俺たちは手を振って、別れた。
いつかの再会を願いながら。
*
ドワーフどももボロボロのように偽装した機体を受け取り、同じく手早く済むゴミ処理場から出撃した。
工房の連中が忙しかったのはこのせいだったのだろう。
スタッフの懸命な努力により、全体的に整備状況は悪くない。
「悪くねぇ。ポンコツ寄りだが、普通に戦えるな」
「頑丈さはそこそこだ。戦い方は変えずに済むぜ」
「マシンガンは全部貰うぜぇ〜!ふひひひひ!撃ちまくれる!」
「グレネードだけは調達させて貰いましたよ。他は誘導弾でやらせて貰いますが」
危険人物×4だが、こいつらは陽動として騎士団を引き付けて貰わなければならない。
まぁ、活躍しろよ。実力は知ってるからな。
「ま、上手くやれよカラス。お前に掛かってるんだからな。成功しても失敗しても笑ってやる」
「いや、上手くやらなかったら騎士団と殴り合うだけだからよ!下手こいてもいいぜ!酒席のネタにしてやらぁ!」
「撃ちまくれるからむしろ失敗しろ!」
「どちらにせよ焼き尽くしますんで気にしなくて結構ですよ」
危険人物×4がなんか好き勝手言ってやがる。
あーはいはい。やってみせるさ。
はぁ。
あ”あ”あ”〜〜〜やりたくねぇなぁ〜〜〜
でもやらないとなぁ。大義名分が弱いんだよな。
分かってる。理解してる。承知したし納得もした。
セドリックを救いに行くためだ。うん。
でも、それとこれとは別なんだよなぁ〜〜
あ”〜〜まぁ、ノリと勢いでなんとかしてやらぁ!
この作戦は最高に”あたまがわるい”作戦である。
先に、この戦いの全てを語ろう。
俺史上最高にグダった。
*
月の無い、暗い夜の時刻。
時間の概念は主星から齎されたとされるものをそのまま利用しているが、月が隠れている時刻は基本的に深夜と呼ばれている。
その深夜の時間帯に要塞街の外に俺たちは居た。
第二セクターは他セクターと違い、物理的に離れている。そのため、セクター間の移動には要塞街の外へと一旦出なければならない。
荒野の風が吹き荒び、輸送キャリアに横たわった【ハルバード】と【飲んだくれ】の四機を砂が撫でていった。
輸送キャリアそのものの運転は”デカ耳”が手配した鉱夫達が担当してくれている。
その間に俺は【ハルバード】と対話し、起動させて心臓を暖めて置かなければならない。
さて。
――邪魔するぜ――
俺は深く神経を研ぎ澄ませ、循環液の奥底へと潜り込んで行った。
どうも。貴公か。古風だな、今回は手伝ってもらうぞ。拝聴していた、是非も無い。なんかハレーみたいなやつだな。だが士道には従ってもらう。当然、お前達の名誉を汚したりはしない。我らが友を守るなら力を貸そう。頼むぜ。
ふぅ。
“生体ロック”とやらは回避して、【ハルバード】の起動に成功した。
だが、多分操作までは力を貸してくれないかもしれない。
まぁ、コックピットは騎士サマ仕様のサイズ感なんでデカイが、変なインターフェース使ってる訳でもないオーソドックスなものだ。問題はない。
なんか疲れるやつだったな――
多分、俺が道を間違うと、言うこと聞いてくれないかもしれない。そんなことはないんだが――
本当に今回は間違えるわけにはいかなさそうだ。
*
俺たちは第二セクターへ侵入した。
なんというか、拍子抜けするほど楽だった。
第二セクターの外縁部、輸送用の出入口。
そこから”デカ耳”の連絡を受けた鉱夫達、そして兵士達の誘導により非常にスムーズに移動が完了することとなった。
「お前ら、好き勝手やっていいけど死者は出すなよ」
兵士の一人が告げた。
平然と俺たちを支援してるあたり、こりゃ騎士団の内乱みたいなもんになるなぁ。
――当然だろ。こんなバカげた戦いで誰かの命を散らしていいわけが無い。
敵も味方も、俺たちも、セドリックも、騎士も、誰もかもが無事に明日を迎えれるようにするぜ。
「ああ、セドリック卿を頼む。若くて拙くて浅くて空回るが、悪い上司じゃ無かったんだ」
そっか。ボロクソに言われてるがそこそこ慕われてたんだな。
「短気で短慮で経験が少ないのを除けば……まぁ……」
大丈夫?慕われてる?舐められてない?
搬入口から誘導され、輸送キャリアを走らせて兵士たちに別れを告げた。
兵士たちは帽子を持って俺たちに振り、軽い挨拶で俺たちを見送った。帰り道も頼むぜ。
暗い坑道が続くが、頻繁に出入りがある通路だ。よく整備されている。
そして、坑道から出た辺りで第七セクターの方から”花火”と警報と煙が上がっていた。
空にライトが照らされ赤い夜空が光り、街が非常事態を告げていた。
開始の合図だ。
【ハルバード】は盗まれたという扱いにしなければならない。
そこで、騎士サマの配下である技術士官達が、すげえいい笑顔で大規模”訓練”を計画してくれた。
大量の爆発物を効率よく、無駄に、かつ派手に、そして響くように、轟かせた真夜中の"無計画"訓練である。
短時間でゴブリン達の行動を、完璧に誘導して見せた実績がある彼らの欺瞞工作は、なるほど第七セクターが燃え上がっているようにすら見えた。
「――あれ大丈夫かよ?」
「やり過ぎじゃねぇか?」
「流石の俺たちもドン引きなんだが」
「おお!我らが同志!見事な腕の冴えです――!」
一名を除き【飲んだくれ】どももドン引きしているくらい派手にやっている。
いや、マジでさ。あれでなんにも破壊してない計算になってるの?ほんとぉ~?
あと、グレネード狂信者ってもしかすると何処にでも居るのか?
さて。
行くぞお前ら。
気を引き締めろ。
祭りが始まったぞ。
ドワーフどもがバカ笑いを上げた。
そうだ、この戦いは笑い話にしなきゃいけないんだ。
悲劇を潰すぞ。
――俺たちの茶番が、幕を上げた――
突然の裏設定開示:カラスはその気になればATフィールドっぽいものを生身で展開できる。ただし根が明るすぎて恐ろしく脆いので役に立たない。
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