38話:不服
鉄道を使い、俺は第七セクターまで足を運んだ。
鉄と機械油と循環液の匂い。機械の駆動音とハンマーの音、喧騒と爆発音。
うん。第七セクターの日常だ。
バスにぼーっと乗りながら工業地帯を移動していく。
あー。あそこ【グラスホッパー】の足場にした場所じゃん。
誘導弾もぶち込まれてたから、崩れてら。
まだ修復してないのか――結構戦闘範囲広かったからなぁ。
あの戦いからまだひと月も経っていないから戦闘の後が残っていた。
悪いと思うけど、まぁ許せよ。ポンコツ騎士ことグラハム卿(顔不明)を恨むんだな。
バスは流れていって、日常は続いてるのだなと感じた。
ゴミ捨て場で、先日俺がぶん殴って追い払った後が残ってるコカローチの姿や、補給を買って出てくれた老ゴブリンの姿なども見えた。
うーん。ライトフレームで殴りあってるなぁ――勝てよご老体――
俺がこんな呑気にバスに乗ってるのには理由がある。
俺は騎士サマに呼び出されていた。
かなり頻繁に騎士サマは移動していて、行政区である第一セクターから各セクターへ転々と移動を繰り返しているらしい。
だが、今日、俺との会合に応じてくれたヴァレリアン卿から、第七セクターで会おうとの連絡があった。
わざわざ腹心である騎士サマの秘書を、俺への連絡役として使いに寄越されたほどに、今回の事件を重要視してくれているらしい。
こちらとしてはそれに応じるしかない。
今まで気軽に会っていたが、よく良く考えれば、こちらから簡単に接触できる地位の人物ではないからだ。
だが、約束の時間までかなりある。
そのため時間に余裕があった俺は、親方に会うためにガトリング工房へと向かっているのだった。
*
工房へたどり着いたら、ここに運ばれていた【ガトリングクラブ】と――
ガチギレしていた親方がいた。
「カラス、テメェ、ワシに言うことはあるか」
腕を組み、スパナを手に握り、憤怒の表情で俺を睨みつけてきた。
まぁ、入れ込んでいた【ガトリングクラブ】が、こんな鉄屑寸前のひどい状態になって帰ってくるとは思わないよな。
うん。気持ちも分かる。
だが、俺も言いたいことが山ほどあるぜ!いいか!?
――【ガトリングクラブ】は最高の機体だった!
こいつに何度も生命を助けられた。こいつのお陰で勝てたんだ。
資金は全面的に出す!――戦友を蘇らせてやってくれ!
少し俺の返答に惚けた親方は、俺の目を見て言った。
「あ”〜〜。っクソッ。ワシの芸術品をこんなにしやがった癖によ。
ベタ褒めするんじゃねぇよバカ野郎が。怒れねぇじゃねえか」
怒りが急速に収まった親方は、怒りの矛先を失いもどかしそうに、そして照れくさそうに頭を搔いた。
「ったくよぉ。じゃんじゃんクレジット溶かすぜ、覚悟出来てんだろうな」
当たり前だろ。戦友の復活を願わない戦士は居ねぇよ。
あ、そうだ。コックピット周りもちゃんと調整しろよな。そこだけ酷かったぞ。
それと、俺ここのオーナーになったからヨロシク。
「あ”?」
――工房のスタッフ達が歓声を上げた。え?そんなに嬉しいの?
でもタコ野郎が立ち上げた【八本脚運送】の副社長にもなったから、運営はタコ野郎に任せるぞ。
金は出すけど運営は分からん。
――工房のスタッフ達が絶望したように膝を屈し嘆いた。え?そんなに嫌なの?
親方はキョトンとしていた。
なに?今の話で理解できないことあった?
「なんで?ワシの工房だぞ?ワシのもんじゃろ?」
何言ってんだこいつ。
親方さぁ、コテツに経営権渡してただろうがよ。
しかもその書類、タコ野郎に渡ってやがったぞ。
「なんで??いくらでも金を引き出せる魔法の紙にサインしただけだぜ???」
――おい、お前ら。オーナー命令だ。
――このアホに二度と書類に触らせるな!契約させるな!ペンに触れさせるな!
「ここにサインするだけで良いってコテツがさぁ!」
契約書読めよバカ野郎がよぉ!
人のこと言えねぇけどさぁ!!
*
まぁ、なんか工房は他の作業があるとかで、忙しそうにしていたからさっさと引き上げた。
親方は足に鎖でもつけてガレージに拘束したほうがみんな幸せなんじゃないか?
自由にさせておいてろくな事がないぞ。
「ははは、足の筋でも切っておきますか」
とかコテツが濁った目で冗談言ってたけど、あながち間違いじゃなさそうだな。
でも、あの時のコテツ、目がマジすぎてめっちゃ怖かった。
忙しいが俺にできることは無い。
セドリックのことは気にかかっているが、一旦忘れてリセットしないと俺の精神が持たない。
緩めなければ緊張で疲労蓄積に繋がる。
"デカ耳"も動いてくれているし、俺の仕事は今はない。
ってことで、のんびり温泉入って、仮眠して英気を養い、小綺麗にしてからヴァレリアン卿に会いに行くことにした。
気を緩めた。ちょっと、張り詰めすぎてたな――
――スヤァ――
遅刻した。
*
「――ヴァレリアン様をお待たせするとは良いご身分ですね。傭兵」
マジで、なんの、言い訳もございません。
俺は騎士サマの秘書であるエリシア嬢にバチクソに怒られていた。
まさに美人秘書と言える風貌のエリシア嬢は、騎士サマの護衛も兼ねており身のこなしは軍人のそれだ。
その美人が怒っている。つまり、すげー怖い。
「まぁ、良いです。ヴァレリアン様の方から呼び出したのですから。案内しましょう。
それと疑問点には解説するように言われました。遠慮なく」
おお、なら遠慮なく色々聞くね。
エリシア嬢はキツイ顔つきをしているが結構お喋り好きだ。
世話焼きと言うべきか、気を許したら色々やってくれるタイプだ。
「貴方と話すのは私も嫌いではありません」
エリシア嬢とは知らない仲じゃない。
なにせこのひと月の間に騎士サマへの連絡役として、頻繁にコミュニケーションを取っていた仲だ。
先程も怒っているのは事実だが、ため息をつかれた程度で許された雰囲気がある。互いの信頼度は高い。
エリシア嬢に案内されながら館の奥へと案内された。
「知っていると思いますが、この館はヴァレリアン様の邸宅であり、かつ執務を行う行政の役割を担った施設です」
まぁ、知ってるよ。第七セクターに住んでるわけじゃないがこの地区は頻繁に利用してるからな。
警備の兵士が何人も務めており、練度と士気が高いのは、その歩き方ですら分かる。
軍人としての騎士サマの統率力とカリスマが伺えた。
やっぱあの人、偉い人なんだなぁ。
「そうです。何を勘違いしているか分かりませんが、偉い人なのですよ」
おちゃめに俺を陥れて押印で縛る酷い奴という認識を改めなければならないな。
「あんなにふざけているヴァレリアン様はそう見ないですよ。以前はもっと張り詰めておられました。
貴方とあの軟体種族に染められましたのでしょうか――」
その張り詰めていた騎士サマを俺は知らない。
だから、エリシア嬢の話から張り詰めたヴァレリアン卿のイメージがつかないでいた。
ちなみにエリシア嬢はタコ野郎がすごく苦手だ。
うん、わかるよ。でもあーいう奴なの。慣れて?
庭へとたどり着いた。
ギア数機を置いても問題ないほどに広い庭に、兵士が乗り込む警備用ライトフレームが数機配置されていた。
「防衛用としてフットマンを10機ほど用意していますね。この前の様な狼藉者が現れても対処可能な練度を持っています」
フットマン。つまり騎士階級から見たライトフレームの呼び名だ。
「ギアの数を揃えるのは難しいですからね。防衛に限ればフットマンで充分役割を果たせます」
本格的な戦闘を考慮しなければライトフレームでも十分な戦力になる。ギアはなんだかんだ高価だからな。
「本当はアームズを揃えたいところですが、要塞街には二基のものですら数えるほどしかありませんし、仕方がありませんね」
二基構成や三基構成の機体なんか値段が跳ね上がり、そのなかでも高性能な【ハルバード】なんかは工業地帯の一角を丸ごと買えるほど高価だったはずだ。
しかし、この邸宅はつい最近までは別のものが使用していたハズだ。
だが、ひと月も経たない間のうちに騎士サマの色に染められたかのように、調度品が揃えられていた。
いや、イメージだ。そのまま使ってるのかもしれないが俺には分からん。
「ヴァレリアン様のお父様が使用されていたものがかなり残っていましたからね」
そうか。騎士サマの出自はそんな感じだったな。
一体何があってこの館から追い出され、そして騎士として活躍したのかさっぱり経緯は分からないが――
そうして話しているうちに、地下へと案内されていった。
あれ?地下か。
執務室はどう考えても上だと思ったんだが。
「こちらに案内せよ、との事です」
ふうん。どんな意図があるのか分からないが、エリシア嬢の案内に従うまでだ。
そうして、俺は灯りが付いていない暗室へと案内された。機械油の匂いと機械の駆動音。音が広がる反響音。位置的にも空間的にも地下格納庫か。
「――遅かったじゃないか」
ヴァレリアン卿の声だ。
パッと点灯した照明が閃光を放ち、俺は目を窄めた。
その光条の逆光の中で、騎士サマがその姿を表した。
高い整備橋に立ち、見栄を張るように俺を見下ろしていた。
ちょっと演出過剰だぞ。
「遅刻だぞ。暗闇で待たされる身にもなってくれ」
それは騎士サマが勝手に待ってただけじゃない???
*
――色々言いたいことはあるんだが――
セドリックのことだ。騎士サマ。
どれだけアンタの手のひらの上で踊ってるんだ?
「正直に言おう。幾ら言葉を尽くしても信じて貰えないと思うが――完全に想定外だ」
――そうなの???
「まさか、こんなにも上層部が愚かだとは全く思っていなかった。完全に私のコントロールを離れている」
騎士サマは淡々と俺に語っていた。
「そもそも、私も手のひらで踊る道化に過ぎない」
――なんだと。
ヴァレリアン卿も踊らされている――!?
この一連の事件の黒幕が他に存在するだと――?
「いや――」
ヴァレリアン卿は言い淀んだ。
騎士サマが言い淀むとはどれ程の――
「触腕――かな――」
はんにんがわかった!!!
おまえ!ちくしょう!!!
この一連の出来事、全部タコ野郎の差し金かよ!!!
*
少なくとも。
第七セクター襲撃事件の全体図を引いたのは――
――タコ野郎で確定した。
道理で都合のいいタイミングで救援に来たもんだよ!?
最初っから居たんじゃねぇか!!
なのに料金せびりやがって!!ぶっ飛ばしてやる!!!
「私は軍人なのでね。そこまで政治に強い訳ではない。そこでタコくんを何度も頼らせて貰った」
そう。不自然なほどにタコ野郎とヴァレリアン卿は密に連携していた。
いや、傭兵なのに政治に強いのおかしいんだが。
「――?ああそうか。まだ知らないのか」
騎士サマは何か俺の言動から納得したようだった。
何?今何気がついたの??
「いや、どうせすぐ知るだろうから気にしないでくれ。さて。セドリック卿の話に戻りたい」
疑問は握りつぶされ、強制的に話に戻らされた。
そうだ。予想外だというが、お前はセドリックをどうしたいんだ騎士サマ。
「正直に言うと、惜しい。見込みがある騎士だ。ここで失われるべき人材ではない。だが私の手では守りきれなくてね」
騎士サマはそのまま語った。
「君たちに救出してもらいたい。私は手出し出来ないが援助はする。これを君への償いとさせて欲しい」
騎士サマ――
――都合が良すぎる話だとは思わないのか。
そんな言葉だけで俺が動くとでも?
――舐められたものだ。
俺に対してのセドリックがどういうやつか知ってるか?
あいつの成人の儀、俺が手伝ったんだぞ。
つまり、あいつは俺の弟子みたいなもんになる。
それでこの前の戦いで死闘を共に生き残った仲なんだぞ?
弟子で、戦友で、仲間なんだよ。
保身に狂った上層部のバカげた生贄に仲間がなってんだぞ。
それをこんな扱いされて想定外です、で終わらせんのかよ!ふざけんなよ!?
「――君の怒りは最もだ。戦友を受け渡すことなど私にも耐え難い。
そして私はいくら言葉を尽くしても君を説得できないだろう」
――なんだよ。それ。
ヴァレリアン卿は目を瞑り、そして言葉を発した。
「――故に行動で示す」
マントを翻し、まるで演説するかのように俺へ語った。
「私は君に帰還次第、機体を用意すると宣言した!ならばそれを履行しよう!」
格納庫の照明が全て点灯した。
逆光で見えなかった騎士サマの背後に居るその偉容が姿を表す。
「この機体を貸与しよう。これは私の誠意と覚悟だと思ってくれ。
そして”知っているとは思うが”武装を説明しよう。
右肩にレールランチャー。
左肩にデュアルグレネード。
右手にヘビーショットガン、ハードポイントに大盾。
左手にはブーストランサーを装備している。
三基構成のシャードジェネレータを搭載し、絶大な出力を誇る――
私が用意できる最強の戦鎧だ!」
俺は騎士サマの本気を受け取った。
この機体を渡す、それは、騎士とっては――
――騎士サマ。これは――
「なんだカラスくん。強欲だな」
「【ハルバード】では不服かね」
興<遅かったじゃないか……
1話〜2話大改稿しました。良ければ見直して見てください。
会話量めっちゃ増えて別物になっています。
もう少し改稿するので次回投稿も少し遅れます。
評価、ブックマーク、そしてリアクションありがとうございます。
すごくモチベーションに繋がっています。
よろしければご意見、ご感想気軽によろしくお願いします~




