37話:急報
『セドリック卿、電撃逮捕! 討伐作戦失敗の責任問われる』
――〈要塞街日報〉
『討伐軍“内紛”の可能性 反逆者セドリックの真実に迫る』
――〈金眼情報局〉
『上層部の判断に疑義。貴族院発表に市民から懐疑の声』
――〈都市同盟通信〉
『落下予測地点から大幅な誤差が頻発。計算式の見直しに尽力』
――〈星見予報〉
『第7セクター襲撃事件に関与か!失踪中の騎士との関係は!』
――〈傭兵街タイムズ〉
『【シグナール卿】1/4スケールフィギア販売決定!予約受け付け!』
――〈市民週刊〉
このあたりがここ数日の新聞とゴシップ誌の情報だ。
最後のやつ、相変わらず政治に興味ないな。
俺はセドリックの情報を集めるため、色んな伝手を辿ることとした。
その間に街の情報は”デカ耳”を動かして、集めてもらう。
貴族絡みの情報を集めるのには俺だと無理だ。人手と助けがいる。
その点、”デカ耳”が動かせる人員も、出入り出来る範囲も申し分が無い。
依頼料は、シャード売って手に入ったクレジットをそのまま使って良いと言っておいた。
「多すぎますぜ。この1%でもあっしなら動ける」
いいんだ。今の俺は”人情”ってものを裏切りたくない。
俺はお前に世話になってる。金払いはいい客のつもりだ。
こういうときにケチるような間抜けじゃないぜ。
セドリックがどうなったかを知っておきたい。ここで知らないと後悔することになる。
多少強引でも、それだけあれば確実に貴族たちの懐に入り込めるだろ。
“デカ耳”は決意したような顔で、俺に告げた。
「必ずや、期待に答えますぜ」
と言い、そそくさと俺から離れた。
そうして【バスティオン・キャリア】へ即座に戻った。
最初に会いに行ったのは【飲んだくれ傭兵団】のドワーフどもだった。
彼らは戦争の当初からセドリックの元に居たはずなのだ。一番状況を把握しているはずだ。
あいつらはまだ治療ポッドのお世話になっているため医療室に居た。
ドワーフは何故か治癒が遅い。
種族的に頑丈で頑健なんだが、種族的に非常に治療ポッドでの治癒が遅い傾向がある。
そして、こいつらはその”傾向”に大変忠実な存在だ。
――【飲んだくれ傭兵団】は勝手に治療ポッドを抜け出して、酒盛りをしていた。
バカじゃねぇの?
ここ医療室だぞ。場所くらい弁えろよ。俺にも一杯寄越せ。
「セドリック卿はなあ、まぁ命令違反をやらかしたんだ」
「着いて行ってくれたのは、我々とタカメ女史だけですからね」
「だからよぉ俺達も実はあの戦いで無給だぜ、なんせ命令に従わなかったからよ」
「トランクもほぼ強奪したからよ。まぁ、あの男気に俺達は力を貸したってわけよ」
そうだな。そもそもの話。
あの塔を攻略するのに”騎士”が一人しか居なかったのがおかしかったんだ。
あれは本来、騎士団を投入して攻略するべき任務だ。
指揮官とドラゴンと塔を無視し、ゴブリンの王たちを追うという方針。
それが愚か極まりない行動であるということは、俺たち傭兵ならば誰もが理解している。
だが。軍人である騎士にとって、命令は絶対である。
それに従わず、手勢を連れて塔の攻略に乗り出した。
その行動は勇気ある判断であり、至極真っ当な決断であるが、上からの命令に反する事であった。
セドリックは命令違反をしていた。
その事実は覆りようがなかった。
でもさ。
「罪状がデカすぎんな」
「本人も降格か謹慎は覚悟していましたが、ここまでにはなる想定は他の騎士もしてないですよ」
「反逆ってよりは意見分かれだったからよ」
「『厳罰に処する!』じゃなくて『勝手にしろ!だが、トランクは持っていけ!』だったハズだぜ?」
【飲んだくれ】どもが顔を酔いで赤らめながら冷静に語った。
こいつらはなんだかんだ歴戦の傭兵たちだ。
誰が何を言ったか、どういう状況かを正確に把握していた。
やっぱり、これ。
――敗北の責任を擦り付けられたな。
*
「知っとったやで。でもこんな非道なことをするとは思うとらんかった。権威維持に必死なんやねぇ」
執務室で書類決済をしていたタコ野郎は、かなり状況を正確に把握していた。
最近のヴァレリアン卿との綿密な連携具合からして、タコ野郎は政治事情にかなり詳しいと思っていたら予想通りだった。
「先に言っとくんやけど、今回のはワイも騎士サマもカラスはん騙すつもりとかゼロやったやで。罪としても軽微なもんやで、反逆は話を盛りすぎや」
だよなぁ。
セドリックが治療ポッドから出た後、俺への挨拶も無しに、すぐさま街へと連行して帰ったのには引っかかるものがあった。
だが、このような騙し討ちのような事は両者ともにしないと思っていたのだ。
俺なら、いや俺たちならセドリックを守ろうとするのだから。
傭兵達は仲間を守る。
特に、共に塔に登り攻略した間柄ならば強い結束力を覚える。
これは関わった時間などは全く関係がない。
スクラップどもとの死闘を乗り越えた経験が団結力を産む。
その瞬間、共に戦った仲間ならば当然の道理だ。
だから、セドリックも俺たちを関わらせまいと何も話さず離れたのだろう。
全く、心配させることに関してはあいつは達人だよ。
「ま、気になってるんならそこのメイド達にでも話を聞くのがええんちゃう?」
ん?なんで?
「セドリック様は私達がお仕えしていた主、グラハム様の従兄弟でございましたから」
「私達も面識があります。少し遠い親戚ですからね」
グラハム?誰??
「なんやカラスはん。自分が蹴っ飛ばした騎士のことなんか覚えてないって言うんか〜、薄情やな〜」
蹴飛ばした?
ん?
ああーーーー!あの時の純血主義者!?
セドリック、あのバカ騎士の親戚なのか!?
「やっとお気付きになられましたか。私、第7セクターで貴方に武器を全て奪われて蹴飛ばされたメイドです」
「同じく、手足全てをもぎ取られ泣かされたメイドです」
やっとこの二人が、俺とどんな関係性なのかが判明した。まじかよ。
そりゃ俺のことが怖いはずだよ!?
よくもまぁこんな人材送ってきたもんだなヴァレリアン卿!
ってことは、これってさ。
「セドリックはんに責任擦り付けられたのって、あれやね。カラスはんが騎士をぶっ飛ばして後ろ盾がなくなったからやね〜」
はぁぁぁ!?
俺!悪く!無いぞ!?
あと最後にぶっ飛ばしたの、タコ野郎じゃねえかよぉ!
*
メイドの話から背後関係が分かってきた。
そういえばセドリックは第9セクターに属する騎士だったな。
半月ほど前に、独立セクターである第9セクターはヴァレリアン卿の支配下に置かれたんだったな。
うん。
あいつの帰る場所潰したの誰ですか〜?
俺です。
いや、違うでしょ。
あんな杜撰な戦いをしたグラハムことボンクラ卿(顔不明)が悪いだろどう考えても。
あと、それで恨まれるならどう考えてもヴァレリアン卿だろうがよ。
俺は騎士サマの手先でしか無かったんだぞ。
となると、ヴァレリアン卿が連行するのも筋が通っているな。
支配者が変わった場合、騎士の所属もそのままスライドする。
つまり、セドリックはヴァレリアン卿の配下ということになる。
で、ヴァレリアン卿からすると微妙に守る義理も無い相手なのか。
そのまま敗戦の責を押し付ける生贄としては丁度いい存在へと落ちてしまったんだな。
なるほど。
――ちょっとヴァレリアン卿とケリつけてくるわ。
セドリックをこんな目に合わせている理由を問いただしてくる。
「あー。待った待ったカラスはん。弁護させてもろてええか?」
聞かない。俺はお前に口で勝てない。
俺は簡単にお前に言いくるめられる。
悪いが止めるなよ。
あ、冷静になる自信ちょっと無いわ。
タコ野郎さ、俺の銃預かって貰っていい?
今、自分が信用ならんのよ。
ってことで、俺はヴァレリアン卿の元へと殴り込みに行こうと――
――うーん。いま騎士サマどこにいるの?
「あぁ〜、そっからかぁ〜――」
タコ野郎の呆れ声が執務室に響いた。
*
タコ野郎に面会を調整するから待てと言われて俺はそのまま待機することにした。
盛大にから回っている俺は、【飲んだくれ傭兵団】のドワーフどもと、たらふく酒を飲んで一旦爆睡した。
起きた。
うん。一旦寝てクールダウンできた。
果たしてセドリックをどうこうする権利が俺にあるのか。
あいつからしたら余計なお世話なんじゃないかな。
まぁ、罪状が重いだけで処分は軽いかもしれない。
いや、ちょっと暴走していたな。うーん。まずいな。今相当感情的だぞ。
顔を洗って、シャワー浴びてさっぱりしよう。
そうしていたら、メイドが俺を起こしに部屋まで出向いて声を掛けてきた。
「カラス様。急報です」
なーに?ちょっと俺、冷静になったところだからちゃんと話聞けるよ。タコ野郎の弁護も聞こう。
そうして、メイドは無言で俺に要塞街日報を渡してきた。
俺は、一面を、見た。
――あのさ。
――――マジでふざけんなよ。
『セドリック卿の公開処刑が決定』
俺は怒りのまま、新聞を握り潰した。
ちょっと諸事情というか試行錯誤のため、以降の更新タイミングを変更します。
また1話〜6話を大改稿したくなったため、次話投稿が遅れると思います。
ここだけ書いたのが5年くらい前なんですよね……
評価、ブックマーク、そしてリアクションありがとうございます。
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