32話:砲撃
キリが良かったので時間ズレましたけど投稿です。
「ハハハハハ!俺様の次の相手はどいつだァ!?」
塔に轟くバカが、竜を文字通りブン殴って、倒した。
完全に過小評価していた。
対スクラップにおいては本当に強力な傭兵だったらしい。
ヴァレリアン卿が最強の一騎と言っていたが、大言壮語ではなさそうだ。
状況を限定すれば下手な騎士なんぞ軽くブチ抜く実力だろう。
あの時は環境と状況と作戦と相手と相性と頭が悪かっただけらしいな。
逆に第七セクターを襲撃した名前も知らない騎士のことを過大評価していたらしい。
あいつ、操縦の腕はともかく指揮も戦略も人望もダメだったんじゃねぇか?
どうやったらこいつ使ってあんな悲惨な結果になるんだよ。
思考を戦場に戻す。
と言えども俺に出来ることはスナイパーネキの命を守ることしか無い。
まだドラゴンはもう一匹居るらしいが、どこに居るかわからない。
少なくともここには居ないのならば塔の上空を旋回しているのだろう。
塔の外から竜型光熱砲による遠距離狙撃はあり得る。
最低限、タカメ女史だけは生き残らせる努力をしなければならない。
【ガトリングクラブ】のコックピット内に置いてあった――コテツありがとう――治療キットを手に持ち、装甲をよじ登り、【ニードルワーカー】のコックピットの中に潜り込む。
少なくともドラゴンの追撃を防御するためにコックピットを閉じて防御姿勢を取らなければ、突撃されるだけでコックピットから投げ出されてしまう。
コックピットから外へ伸びている邪魔なコードを外しつつ、タカメ女史をシートのベルトにしっかりと括り付ける。
神経接続していると思われるコードはコックピットに接続されている。俺が触らなくても大丈夫のようだ。
四肢の何もかもを失っている【ニードルワーカー】は、循環液もコックピット周りしか残っていないが、逆に今の状況ならばコアフィールドの防御力が最大に発揮されている状態だ。
内装はちゃんと生きているため、入口さえ閉じていれば、最悪竜型光熱砲が直撃してもギリギリ生存できるだろう。
入口を閉めて、治療キットの箱を開き、スナイパーネキの容態を見た。
ちっ、思ったより腹部の出血が酷いな。血が止まってない。
頭部の裂傷は酷くは無さそうなのは幸いだ。
治療は間に合うだろうが、動かすのは危ない。
これで戦闘に参加してあの戦果か。やんちゃすぎるよスナイパーネキ。
――おい脳筋!こっちに怪我人居るからな!ドラゴンを近寄らせるなよ!
「あッたりめェだ錆烏!俺様は姉御を助けにここに来たんだからよ!頼むぜ!」
――あれ?知り合い?
なんか結構親しい関係っぽいな。組んでたのかな。
遠距離専門のスナイパーネキと近距離特化の脳筋との組み合わせは、確かに強力だな。相性が良さそうだ。
奇妙な関係性を考察しつつも、それを考えるのは後回しにしなくてはならない。
今は治療が先だ。まずは鎮痛剤をぶち込んで、タカメ女史の治療を開始した。
*
俺が治療をしていると、月光が塔を照らした。
先程見えていたのは欠け月だけであったが、雲が晴れ、赤と青の月も見え始めていた。
「――上か。どうやら残る竜はここを離れる判断を下したらしい」
ハレーが息も絶え絶えにそう呟いた。かなり疲労している。聞いたところ貧血だと言うし、相当辛そうだ。
恐らくは【トライヘッド】の異常な能力に関係があるのだろうが、これも詳しくは後で聞くとしよう。
離れるって言ったって何処に――
俺は自分で発言して気がついた。
――要塞街へ特攻するつもりか!
指揮官の命令に従っていたドラゴンが、その残った命令に従っていてもおかしいことはない。
上層は常に風が吹き荒れる高度にあり、壁の大半が大きく空いていることにより大気が動くのを感じられる状態となっていた。
そこへ、高度を下げた竜が現れ、こちらを一瞥した。
指揮官の残骸を見て、納得したかのように背を向け、その翼を大きく広げた。
背面のワイバーンユニットに接続されているロケットエンジンを全開にし、爆音と爆風を撒き散らしながら街の方向へと飛び去っていった。
不味い。
街が、燃える。
誰か、止めないと――!
「ハハハハハ!俺様を前に背を向けるたァいい度胸だ!だがよ!この【ハードパンチャー】の!圧倒的推進力!目にもの見せてやるぜェ!!」
脳筋が吠えた。
【ハードパンチャー】の、その背面シャードブースターを全開にした。
――こいつならば!
【ハードパンチャー】の推力は圧倒的だ。
余計な武装を排し、増設のブースターすら接続したその推力は、雲を突き刺すほどの高さである塔を、上層とはいえジェネレータ一基の出力だけで登って来たのだ。
その爆発的な推力はドラゴンを持ち上げ、一方的に天井に叩きつけることが出来たという事実がある。
――追いつける!
飛び去るドラゴンの背を狙い、【ハードパンチャー】は空中を爆発的な速度で追った。
「ハハハハハハハハハハ!」
凄まじい速度で追う、【ハードパンチャー】のシャードブースターの光は輝き、煌めき、空に新たな星が灯ったようだった。
――だが。
ぶすぷす。
「ハハハハハ――アラ?」
空を駆けるには、ちょっと、エネルギーが足りなかったらしい――
それもそのはず。推力だけで塔に登り、ドラゴンを天井に押し上げ、トドメを刺したその推力が易々と回復する訳では無い。
シャードブースターはある程度の充填が必要なのだ。
一気にその輝きが失われ、徐々に高度が落ちていき――
「アラ?アララ?うわあああぁぁぁぁぁぁ――――⤵」
落ちた。
――あの、その、なんだ。
ギアは陸戦兵器である。
どう足掻いても長時間は飛べない。
【ハードパンチャー】でもちょっと限界があったね。
まぁ、落ちたところであの頑強なフレームなら大丈夫だろう。
うん。
――――――過大評価していたらしい。
*
ドラゴンは飛び立った。
もはや塔からでは何も出来ない。
大空を飛ぶ竜を討つ事はもう出来ないだろう。
俺は無力感に苛まれ、膝を屈した。
だが、その時、ノイズ混じりの無線が入った。
「うわ本当に来たよ。怖っ。
カーゴキャリア聞こえます?
ドラゴン、視認しました。
一機だけですんで、プランCでいきます」
それは聞きなれた声だった。
「あー、カラスさん聞こえます?コテツです。
聞こえてなくても勝手に喋りますね。
思うんスけど、塔に一緒に登るって誘っておいて勝手に行くの、本当にどうかと思うんですよ」
軽い愚痴のような、しかし妙に落ち着いた声だった。
「だからまぁ、勝手にカラスさんの資材使っても恨まないでくださいよ」
そして、淡々と、静かに言い切った。
「竜型光熱砲を上空から撃たれて打つ手が無い――なら、届く武器を使えばいい。単純ですよね。
ゴブリンより遅くてデカイ的です。外さないですよ」
地上に青白いシャードの煌めきが灯った。
それは竜が飛ぶ方向の、丘の上で輝いていた。
ギアが。いや。
生まれ変わった【オンボロ】がそこに居た。
【オンボロ】は、腕の二倍ほどの長さの巨大な砲を抱えていた。
それを空へと向け、膝を屈し、地面に固定し、完全な砲撃姿勢を取って空を見上げていた。
「ドラゴンには、ドラゴンです」
ギア一機の出力を丸ごと注ぎ込む、膨大なエネルギーを要求する、絶大な威力を誇る砲。
それは俺のよく知る武器だった。
それに撃ち貫けぬものは無い。
――竜型光熱砲――
塔で狩った竜の首を改造したその熱線砲が、轟音と共に光を放つ。
噴射の反動で地上に爆風を撒き散らし、閃光が丘を照らした。
地上から放たれた空を裂く白光は、一直線に大空を飛ぶ竜を貫いた。
宣言通り、コテツはその一撃を外さなかった。
戦いは、本当に終わった。




