31話:驚愕
シャードが発する青白く眩い閃光は、塔の上層を貫き、嵐を切り裂いた。
【ガトリングクラブ】の重量ですら後ずさるほどの衝撃が、俺達を襲い、一瞬意識も空白になった。
腹部から黒焦げになり、輝きを完全に失った【ガトリングクラブ】の内部ではシャードが粉々に砕け、その鼓動は消滅し、今何も宿すものは無い。
【ガトリングクラブ】は死んだ。
だが。
――倒し、切れなかった。
腕、足。頭。
そのすべてが欠け、光輪を全て失い、焦げ割れた胴体だけが、かろうじて浮かんでいた。
しかし【ドグウ】は――未だに、静かに空間に座していた。
シャードジェネレータ直結砲が命中する直前、俺はその一部始終を見届けていた。
光の鞭をすべて光輪として、障壁を張り、その身を守っていた姿を。
届かなかった。
【ガトリングクラブ】の命を捧げたこの一撃は。
指揮官の命を断つのに、足りなかった。
打つ手は。消えた。
しかし、指揮官もその全ての武装を失い、ただ浮遊しているだけの”器”でしかなかった。
がこん。
焼け焦げた硬質な装甲が、ゆっくりと剥がれ、ずり落ちた。
前面が割れた【ドグウ】ユニットの、その内部。
そこに格納された指揮官が、ついにその姿を表した。
ガラスの筒。
その内部に、”脳がみっちりと詰められた”機械であった。
視神経が無数に絡みつき、青白い液体に浸された冒涜的な生命の器。
スクラップたちの、文字通りの”脳”がそこにあった。
【ドグウ】ユニットは静止している。
死んだ【ガトリングクラブ】と正対し、開いたコックピットの中を。
すでに視力なども無いような、その”脳”が、ユニットごと俺に近づき。
“見ている”。
“俺を”。
見て、”驚いている”。
――ははは、なんだ?
――”見知った顔”でも見たか?指揮官殿。
俺は皮肉げに笑った。
*
硬直する【ドグウ】が俺を見つめているその時だった。
「そういえばさ~」
呑気な声が聞こえた。
「カラスさぁ、私がライフル失った後、どうするんだって聞いてたよね」
息も絶え絶えな声だ。
だが狂える狙撃手は、コードを引きずりながら満面の笑みを浮かべていた。
「こうするんだよ」
手元に引き寄せた、何かのスイッチを押した。
それは【ニードルワーカー】の追加弾倉に接続されていた。
ただ雷管を叩き、意図的に暴発させるだけの機構を持った装置だった。
暴発する狙撃銃の追加弾倉は、この至近距離において、とある武器へと変貌する。
――対人地雷。
次の瞬間、【ニードルワーカー】の右手増設スロットから爆風が迸った。
至近距離から叩きつけられた破片と爆炎は、前面がすべり落ちた【ドグウ】ユニットの内部へ容赦なく降り注いだ。
接続されていた指揮官のガラス筒が割れた。
青白い液体と脳漿が飛び散り、そのすべてをぐちゃぐちゃに引き裂いた。
「じゃーね、楽しかったよ指揮官」
そして、二度と指揮官が動くことは無かった。
*
終わった。
スナイパーネキのことだから、なにか隠し玉があるだろうなと思っていた。
信じてよかった。
俺達は、指揮官に勝った。
おやすみ。もう起きてくるなよ。
あ~疲れた~。
本当にもう動けない。
今ので【ニードルワーカー】の腕も吹き飛んだ。限界だったか。
スナイパーネキは本気で苦しそうだ。治療キット早めに使わないと。あるかな。
セドリックも回収しないといけない。
あそこまで四肢がボロボロになった状態ならばコアフィールドも最大出力だろう。
この高さでも死なないだろうが、ひどい状態になっている可能性がある。
まずはどうするかな。逃げたトランク回収できればいいんだが。
嵐も止んだ。
雷光も消え、空には静けさすら戻りつつあった。
ハレーの戦闘も、どうやら終わって――
え?
ドラゴンが。
飛び込んできた。
*
塔の上層部に”着陸”したドラゴンは俺達をなんとか巻き込まない位置を薙ぎ倒した。
そのドラゴンの頭部には槍を突き刺し、トドメを刺した【トライヘッド】が居た。
――ハレー!戦闘はどうなった!?
「――猛省している。大言壮語を吐いた。未熟極まりない――」
【トライヘッド】は竜の頭の上から動かない。
そして眩いばかりに輝いていたその心臓も脈動を静かに抑えていた。
「――血を使いすぎた。負傷の考慮を忘却していた。血が、血があまりにも足りない――」
血。下層でも言っていた。
「――貴君らの言葉で言うと――貧血だ、目が霞み指が震え起き上がることもままならない」
???
貧血???
もしかして、血が足りないって言葉通りの意味?
「竜は、一匹の翼をもぎ取り、今一匹を仕留めた。だが、二匹は――」
咆哮。
怒り狂う竜のその轟が響いた。
轟音と共に、大空を支配を取り戻した王者が、上層へと着陸した。
*
今、この戦場を竜が支配している。
その感情にはもはや怒りしかない。
突進した竜は、死んだ竜の残骸ごと激突し【トライヘッド】を吹き飛ばした。
「――ガハッ!」
吹き飛ばされた【トライヘッド】は、塔の壁面近くまでほぼ無抵抗に転がっていった。
嘘だろう。そんなに状態が悪いのか。
あの戦闘力を誇っていたハレーが、恐ろしい力を示した【トライヘッド】が、何も出来ない。
竜はさらなる追撃を繰り出し、【トライヘッド】は弱々しく抵抗を続けた。
だが、風前の灯火と言った弱々しさしか【トライヘッド】から感じられない。
なにか。なにか手は無いのか。
【ガトリングクラブ】は死んだ。絶対にもう動かない。
【ニードルワーカー】は本当に戦闘力を失った。タカメ女史ももう気絶している。
【エスクワイア】は地上に落下した。生存すら危ぶまれている。
今度こそ、打つ手が――
「――あー。聞こえるかね。タコくんのカーゴキャリアからの通信である」
ノイズ混じりの声が聞こえた。
「こちら騎士ヴァレリアンだ。戦闘中と思われるため直ちに増援を送った」
救いの声が聞こえた。
「私の知る中で、最強の一騎を送り込む。期待したまえ」
遠くから、徐々に爆音が近づいてきた。
騎士サマが最強だと言うその機体が、近づいてきた。
そして――現れたのは重装甲で堅牢そのものの作りをしている重量級のギアだ。
全身が鉄の鎧のように覆われていて、増設ブースターが肩部から背面、肘部にも存在している。
丸太のような太腕、硬質で巨大なナックルダスターが取り付けられた拳は巨大で鉄塊のようである「殴る」ことに特化している機体。
見たことがある。
あれの名前は確か【ハードパンチャー】
搭乗者は――
「ハァッハッハッハッ!偉大なる騎士ヴァレリアンの忠実なる下僕!ジャック・ザ・ハンマー参上だ!!!」
――えっと。
――あの、その、うん。
――鞍替えしたん?
*
あまりにも想定していなかった増援で俺は混乱した。
こいつあれだろ?第七セクター防衛戦で俺に一方的にボコられたやつだろ?
襲撃者側じゃん。なんで騎士サマの手先になってるんだ?
ちょっとごめん、全然頼りにならない戦力なんだが――
だが、誰も動くことが出来ないこの状況に置いてそれは救世主となった。
ドラゴンが新しく現れたギアに対して、いや、その爆音に対してか、狂乱した殺意を表した。
即座にその体重のすべてを載せて突撃し、巨腕に取り付けられた鉤爪を使用し殴りかかってきた。
既にオートキャノンは撃ち尽くしたのであろう。竜としてもブレスを撃つ時間がないのであれば接近しか手は無い。
だが――
「言ったぜカラスよォ。俺様は”竜狩り”だ」
その爪による切り裂き攻撃の手首あたりを足裏で受け止め、カウンターのように頭部をブン殴った。
「ハァッ!ハッハッハッ!俺様に接近戦挑むたァ見上げた竜だ!」
スクラップに脳震盪のようなものがあるかは分からないが、頭部を揺らされ竜がグラつく。
「この拳! 強靭! 頑強! 最強! 全部砕いてやるぜェ!!!」
ドラゴンを拳だけでボコボコにしていく。
【ハードパンチャー】の格闘能力はとんでもなく高い。
機体構成を全て莫大な推力とフレームの強度、そして格闘能力に振り切っている。
完全体としてシャードが組み込まれているであろうドラゴンだとしても、圧倒的に優勢な勇姿を示している。
だが、竜もただ殴られるだけではない。
その巨体における最大の攻撃を繰り出してきた。
純粋な体格と重量による押し潰しである。
「フンッッッ!!」
嘘ぉ。
受け止めて支えやがった。
足元の地面は砕け、ドラゴンの質量が如何程のものかを視覚的に表している。
だが【ハードパンチャー】は少しも揺るがなかった。
「ハハハハハ!そんなヌルい攻撃で俺様を倒せるものかよォ!」
背面のシャードブースターを点火。
その莫大な推力だけで、少しづつ浮かび上がっていく――マジかよ。
竜を押し上げ、上層部の崩落した天井へと逆に押し潰した。
「オラオラオラオラ!ラッシュ!ラッシュラッシュラッシュだ!」
天井へと叩きつけられたドラゴンに対し、殴って、殴って、殴って、殴りまくった。
ドラゴンは何も出来ない。その拳一発は重く、鋭く、早く、硬い。
そして背面ブースターの光が収まった。
重力に従い、【ハードパンチャー】とドラゴンは塔の地面へと――
「エルボォォ――――!ロケットォォ――――!点火ァァァ――――!」
――落ちる前に――
「ロケ――――ット!!!パァ――――ンチ!!!」
――爆発的な出力を加えた右ストレートをドラゴンに叩き込んだ。
ドラゴンは吹き飛ばされ、塔の壁面へと叩きつけられた。
瞳から力が消え、ぐったりと地面へと倒れ、そして動くことはもうなかった。
「 ハハハハハハハハハ! 強靭! 頑強! 最強! 俺様に砕けんものはねェ!! 」
マジでコイツ――拳だけでドラゴンを倒しやがった。
エルボォー!ロケットォー!
なんかこいつだけ世界観が違うな……
でも元ネタはAC4faのドーザーだからセーフ……




