30話:自壊
【ドグウ】ユニットの右目を弾丸が貫き、爆発した。
「んー。やっぱり硬すぎるなぁ~私には武装破壊くらいしか出来ないよ」
充分だよ。
あの光撃は非常に厄介だ。片目の喪失で光撃の威力は文字通りの意味で半減しただろう。
【ドグウ】ユニットの薄い眼は視認用かどうか判別つかないが、ただの射撃機構だけの機能だとしても、こちらの装甲を容易く貫通する威力を持っている。
この戦いの中で武装破壊をする暇など一切なかった。それを容易く成し遂げたスナイパーネキの超人的な射撃技術は本当に称賛に値するだろう。
うん。
で、一応聞くんだけどさ。なんで立ったの?
「ん~ノリ?」
やっぱりノリかよ!危ねぇだろ落ちるぞ!?座れよ!
こっちも必死に守ってんだぞ!?
そんな最悪のコンディションで、あんな神業よく出来るな。
超精密射撃を、これほどまでの悪条件下で即座に決める技量は正直理解不能の領域だ。
神経接続になにかからくりがあるのか?
あれには射撃精度の向上のような処理が含まれているとは聞いたことがない。
機体と指先のリンク精度を向上させることで、射撃の精度のロスを減らすことが出来るとは聞くが、それだけだ。
まぁ、いい。タカメ女史の秘密なんて暴いても仕方がない。
彼女に関しては離婚寸前の家庭内危機に陥っているという笑い話程度の秘密で充分だ。
切り替えろ、今はそんなことを考えている暇は無い。
【ドグウ】の光の鞭がしなり走る。
だが、流石に慣れてきた。左の鋏で受け止め、その隙に右の鋏を遠隔で操作し叩き込む。
本当にこの鋏の驚異的な硬度と防御力に助けられている。
これがなければ、この戦いはもっと早く、俺達の敗北で決着がついていただろう。
これの真実は後で親方に聞けばいいや。
【ガトリングクラブ】のことなら喜んで自慢してくれるだろう。
しかし、最初に想定していた戦闘プランから完全にかけ離れた状況になっている。
そもそも【トライヘッド】と【エスクワイア】の火力で順当に押し切る作戦だったからな。
ハレーは竜と戦っている。
雷が鳴り響き、風が荒れる空で、4機の竜に囲まれながら。
滝を登るように空を”泳ぎながら”戦い続けている。
ちょっとあれは神話の戦いなので、一切の手出しが出来ない。
竜の叫び声から多分優勢っぽいのが恐ろしい。
あれだけ遠いと援護も何も出来ないし、放置しておこう。
竜のことを思考の外に置けるだけでも思考負荷を下げてくれる。
ハレーは最高の結果を出していると考えるべきだ。
【エスクワイア】は限界に近く瓦礫の山で必死に立ち上がろうとしている。
だが、機体のダメージが大きいらしい。立ち上がろうとして腕の力が抜けてまた倒れた。
なんとか気合で立ち上がろうとしているその姿に気迫を感じるが――このタイミングでの援護は期待できないな。
俺は【ガトリングクラブ】の操作をひたすらに【ドグウ】からの攻撃妨害と防御に集中させて、そして捌ききった。
なにせ、こちらには肩に新しい”武器”がある。しかも強力なやつだ。
「ばーん」
気の抜けた声で【ニードルワーカー】の指が引き金を弾く。
針穴を通すように弾丸が【ドグウ】の左の瞳に吸い寄せられていった。
爆発。
「うーん。私に出来るのはここまでだなー。疲れちゃった」
声が弱々しい。
コックピットに倒れ込み、腹あたりを支えている姿がサブモニターに映し出されている。
腹部が少し赤黒い。出血しているな。
だが武装破壊を成し遂げたスナイパーネキは充分な仕事をした。
パーティへの遅刻を取り返す完璧な仕事だった。
あとは光の剣を対処しながら殴り合えば――
――待て。
――待ってくれ。嘘だろ。止めてくれよ。
――再び【ドグウ】の体表の文様が光り輝いていた。
*
光の輪が再生された。
まるで肉が盛り上がるように、光が歪み、形を成していった。
その数、四本。今まで攻撃に使用していたものを含めて合計六本の輪が生成された。
両目が割れた【ドグウ】の、その欠けた虚空は瞳を宿さない。
その欠けた顔はむしろ不気味さを増すことしかなかった。
しかしその虚空は、確実に俺達を見詰めていた。
だめだ。
削れきれない。
攻撃力が足りない。
あまりにも【ドグウ】ユニットの防御力が高すぎる。
これでは削り負ける。
その俺の判断による一瞬の動揺の隙をついたのか、【ドグウ】は強襲した。
その六本を一瞬だけ”鞭”に変貌させ、ただ一点を狙いつけて薙ぎ払った。
――しまった!
スナイパーネキの生存を最優先にしていた俺はその狙いを通してしまった。
開けっ放しのコックピットを狙ったわけではない。俺達と指揮官の思惑は同じだった。
武装破壊だ。
――【ニードルワーカー】の”右手首”が切断された。
そのまま手に持つスナイパーライフルは弾き飛ばされて、空が見える塔から地上へと落ちていった。
「あー。落ちちゃった」
淡々と。スナイパーネキが力なく呟いた。
彼女は愛銃が落ちる姿を、ただ眺めることしか出来なかった。
*
今の強襲による無防備状態から光の輪を構成し、障壁として新しく生成された四本を自分の身に纏った。
【ドグウ】はこちらの戦力を見定めているかのように浮きながら、俺達を順番に見た。
【ニードルワーカー】はその戦闘力を失い、こちらの背に鎮座するだけだ。
【エスクワイア】も限界だ。右半身は削れ、立ち上がることすらままならない。
【トライヘッド】は雷光の中で未だに戦い続けている。だが、竜も未だ健在だ。
動けるのはぼろぼろになった【ガトリングクラブ】だけ。
しかし八足のうち半分を失い、装甲は削れ、右腕は切れ、エネルギーも尽きかけている。
――もはやこちらに切れる札は――
実は。
ある。
あるんだが。
これで仕留めれなかったら死ぬ。
*
――あのさ、セドリック。まだ意識あるか?
「――なんだよ、カラス」
さん、が抜けてるじゃねぇか。互いに息も絶え絶えだな。
俺、あいつぶっ飛ばすつもりなんだけどさ、動けなくなるんだよ。
――だからちょっと、盾になってくれないか?
「――ッ、僕は騎士だ!貴族なんだぞ!?不敬にも程がある!
貴様は――貴様は!僕に死ねと言うのか!?
カラス! 貴様!」
セドリックは激昂した。
「――僕に、僕にその覚悟が無いようにすら見えるのか!
とんだ侮辱だ!
っクソ!動け、動け【エスクワイア】!
僕を情けない男にするな!
その名を意味を――僕に示せ!!」
【エスクワイア】は騎士セドリックの声に答え、立ち上がった。
そして、全く躊躇わず駆け出し、狂える指揮官を前に立ち塞がった。
ただ時間を稼ぐためだけに。
「この命、勝利に捧げる!倒せよバカガラス!」
狂える指揮官は無謀に立ち塞がった敵を見定め――
殺意だけを載せて、その光輪を解いた。
*
常識的な話だが、惑星ノスの海に生息する生物はビームを撃てる。
そのため、海産物を模した【ガトリングクラブ】にも当然その機構があるべきだ。
しかし、外付け兵装であったオートキャノン以外に装備されていないのを俺は不思議に思っていた。
親方はそれを装備させてないわけじゃなかった。
だが、芸術品と言っていた程に入れ込んでいた【ガトリングクラブ】にそれを使わせるつもりはなかった。
――すまん、【ガトリングクラブ】。
俺は【ガトリングクラブ】の腹を、左の鋏で強引に引き裂いた。
金属が悲鳴を上げ、内部のシャードジェネレータが青く脈打った。
親方は革新的なジェネレータと言っていた”それ”は、確かに取り付けられていた。
【ガトリングクラブ】自身が、まだそれがあると、教えてくれた。
シャードジェネレータ直結砲。
ジェネレータから直接エネルギーを確保し、供給量を超えて直接出力する砲だ。
”自壊するレベルの威力がある”それを使用すればぶち抜ける。
【ガトリングクラブ】の腹部が、眩いほどに輝き始めた。
*
【エスクワイア】はその身を盾として、チャージまでの時間を稼いだ。
なんとか出力が回復したレーザーブレードで数撃防ぐ。
だが、その後、数に任せた光鞭により切り刻まれ、腕を削がれ、足をもがれた。
「まだだ!」
すでに四肢をもがれた【エスクワイア】は立つことすら出来ない。
だが、シャードブースターを全開にし、突撃。
胴体ごと【ドグウ】に激突した。
少し。
揺らいだ。
だが次の瞬間、反撃として光の剣が振るわれ、その一撃を直撃を受け、【エスクワイア】の腹部は両断された。
上半身はシャードブースターの推力を維持したまま壊れ、飛び続け、そして塔の外へと弾き飛ばされた。
「――時間稼ぎ程度、しか出来ないわけじゃ――なかったな」
塔から落下する浮遊感を覚え、セドリックは気絶した。
*
――よくやったセドリック。
ジェネレータ直結砲のチャージは完了した。
取り付けてあるにも関わらず、コックピットからは操作が出来ない。
使わせるつもりが無かったからだ。
だから、俺は神経を研ぎ澄まさせて、【ガトリングクラブ】の”中”へと入っていった。
――じゃあな【ガトリングクラブ】。短い間だったけど楽しかったぜ――
僕も僕も。と楽しそうに答えてくれた。
まるで本当に嬉しそうで――
ああ、最後まで愉快なやつだった。
指揮官は俺を向き、そして妨害しようと攻撃を仕掛けようとした。
だが、セドリックの妨害によりそれは絶対に間に合わない。
後は放つだけだ。
んー。
どうせ自壊するんだ。
真似するか。
――俺はコックピットを開いた。
そして指で銃の形を作り、【ドグウ】に向けて、言った。
――ばん。
シャードジェネレータ直結砲の莫大なエネルギーが開放された。
そして【ドグウ】ユニットの光輪の防御を容易く貫通し、吹き飛ばした。
イブセマスジー!
実はこの戦闘丸々ノリで書いてます。なんでこんな苦戦したんだろう……
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