3話:攻略
ジャンクタワーの一階層目は廃材や鉄骨、壊れたスクラップが所々に点在していたが、ギアが全力で動き回っても壁にぶつからないほどの広さを持っていた。
天井や壁は不自然に明るい。
ジャンクタワーの内部では、苔や植物の根のようなものが常に発光している。
どの塔でも、光源に困ったことは一度もない。
内部に踏み込むと、ビーストとフライアイのスクラップどもが、わき起こるように姿を現した。
フライアイは、翼を持った目玉のような移動砲台だ。サイズはビーストよりも小さく、装甲も脆い。適切な距離でショットガンを撃てば、容易に破砕できる程度の耐久性しかない。
「カラスはん、浮いてるの頼んますわぁ! おらっ、デカい! 強い! 重い! AG最強装備、グレネードランチャーのお出ましや!」
相変わらず耳障りなイントネーションで叫びながら、タコ野郎がグレネードランチャーを放ち炸裂した。
遮蔽物の少ない塔内部、見事に直撃した砲弾がビーストどもを一撃で数体吹き飛ばした。
ギアですら致命傷になりかねない威力だ。スクラップの小型機など、耐えられるはずがない。
ちなみにタコ野郎は最強装備と言っているが、別に最強の武器ではない。
榴弾砲信者たちの間では、ギアに搭載できる装備ではグレネードランチャーを超える武装は存在しない、という宗派が存在する。
タコ野郎も熱心なグレネードランチャー信者の一人だ。関わらないでおこう。
俺はショットガンでフライアイを撃ち落とした。
空中目標は狙いづらいが、フライアイの飛行速度はさほどでもない。
ブースターを吹かして跳躍し、空中で姿勢を制御しながら、水平に射撃。
細かい操作が必要になるが、命中率を稼ぐには、この手法がいちばんだ。
【オンボロ】の優秀な制御系は繊細な動作要求にも充分に応えてくれる。
左腕の手甲に装備したレーザーチェーンソーは、左手の可動域を阻害しない構造になっているため、照準時にも両手を使えるのが地味にありがたい。
ビーストとフライアイも、反撃はしてくる。
やつらが使うのは対人用のレーザーであり、出力は低いが速度と精度は高くすべてを回避するのは困難である。
俺の【オンボロ】もタコ野郎の【キャタピラ脚】も、回避困難な対人レーザーにより少ないながらも被弾を許し、装甲の表面をわずかに削り取られた。
もっとも、ギアという兵器は妙に防御力が高い。
動力源であるシャードジェネレータから展開される力場──コアフィールドが、敵の攻撃を大きく減衰させてくれるらしい。理屈は知らない。
コアフィールドの防御力は高く、明らかに致命傷になるような一撃をギアが喰らっても、内部までダメージが届かず中身が生き残ることは頻繁に起こりえる。
俺はそこまでの一撃を受けたことはない。
しかし実戦経験の多い傭兵の間でも、コアフィールドの信頼性は高く、それ故の無謀な攻撃もよく許されている。
そもそも俺の【オンボロ】と違いタコ野郎の【キャタピラ脚】は被弾前提の装備設計であり、装甲も厚い。
これくらいの攻撃なら、かすり傷程度で済んでいるだろう。
この防御力と持久性ゆえに、ギア一機で小型のスクラップ二十機を難なく相手取れる──そう言われるだけの性能はある。
「増援やで。中型の多足、ライフルマンや! たのんます~」
タコ野郎がビーストの群れにハンドグレネードの榴弾をぶち込み、接近してきた個体にはフレイムスローワーの炎熱を浴びせて焼き潰していく。その最中、俺に新手の接近を告げてきた。
天井に穿たれた穴から、【オンボロ】の半分程度の大きさの中型の新手が姿を現す。数は5体。がしゃんと地面を震わせながら着地したそれらは、縦に割れた卵型の胴体から蜘蛛のような脚が生え、左右にはそれぞれ重ライフルそのものの腕を備えた──ライフルマンと呼ばれる砲撃特化型のスクラップどもだった。
あのライフルの一撃は弾速こそ遅いが、威力は重い。装甲で受ければ確実に蓄積するダメージになる。ましてや、鈍重な【キャタピラ脚】としては相性が悪い。
ライフルマンたちは、ビーストやフライアイを巻き添えにするのも構わず、こちらの【オンボロ】と【キャタピラ脚】に向かって容赦なく砲撃を開始した。
俺は即座に重力制御を駆使し地面に接地。
【オンボロ】の脚力を利用した跳躍と同時に背部ブースターを吹かし左へ飛び退いた。
小刻みに着地しながら、大きく横へと回避するが──少し遅かったようだ。
直撃ではないが、右腕部にかすり弾が命中し、衝撃が走る。
だが【オンボロ】の優れた安定力により体勢を崩すほどではない。
ライフルマンは多脚構造で安定性と機動性こそあるが、旋回力に難があり、照準合わせが遅い。
ならばこちらが機動戦に持ち込めば、【オンボロ】の足回りなら振り切れる。
タコ野郎の【キャタピラ脚】が立て続けに被弾している。コアフィールド込みでも装甲が大きく削られ、内装にまでダメージが通る可能性も否定できない。
俺は旋回が間に合っていない一機を狙い、ショットガンを三連射。
右腕ライフルを吹き飛ばし、胴体にも大きなダメージを与えるが、まだ左腕は健在で動いている。
そこにタコ野郎のグレネードランチャーが着弾。
狙いは別の一機だったが、延焼弾の爆発が広がり、ライフルマンたちの布陣全体を巻き込む。
放置しても、すぐに機能停止する。そう判断した俺は、ライフルマンの攻撃ではなく小型機──ビーストとフライアイの排除に切り替えた。
ショットガンを連射。面攻撃による攻撃でも小型機の薄い装甲では防ぎきれない。
小型機を蹴散らした次はレーザーチェーンソーを起動。ギャリギャリと高音の唸り声を上げながら、レーザー刃の暴力を無傷のライフルマンの胴体へ押し当てた。
直撃。鋼が裂ける破砕音が戦場に響く。敵を倒した感触が操縦桿を通し伝わってきた。
次いで、炎上中の一機に散弾を叩き込みながら旋回。
タコ野郎のグレネードランチャーの装填音が、微かに耳に届く。幻聴かもしれないが、タイミングは悪くない。
無傷のライフルマンにレーザーチェーンソーを滑らせ撫でるように押し当て即座に退避──すぐさまタコ野郎の砲撃が炸裂。
撫で斬りにより装甲に亀裂が入った状態では、延焼榴弾の直撃には耐えきれまい。
残った小型機も、慎重にショットガンで撃破していく。
戦闘が終わった時、そこに残ったのは、無数のスクラップの残骸と、俺とタコ野郎のギア。
──そしてジャンクタワーの奥から、まだ鳴り続ける機械の唸り声だけが残っていた。
*
修理キットを用い、ギアの装甲の修理を終えた。
これはギアのコックピットに容易く収まるサイズの小型ドローンだ。
起動すると自立的に動き出し、周囲のスクラップの残骸を素材として、人機の装甲の補修をしてくれる優れモノだ。ただし、対応できるのはあくまで外装のみの応急処置程度の修復しかできない。内部のダメージとなれば、要塞街の設備に頼らざるを得ない。
幸い、【オンボロ】の被弾箇所は右腕だけで、内部への影響も軽微だったため、ほぼ完全に修復できた。
一方で、タコ野郎の【キャタピラ脚】はかなり堅牢な構造をしているが、集中砲火を浴びたことで一部の内装へのダメージが出ている。少々の循環液の”出血”もあった。ギア用の循環液は機体破損を前提にしているため、ジェネレータ稼働中に空気に触れると硬化し破損箇所を塞ぐ。まるで血液のような色と機能から循環液は血に例えられている。
傷は浅く、既に”止血”は済んでいるようだ。
もっとも、この程度の破損で済んでいるのはあの重装甲あってこそだろう。仮に【オンボロ】があの集中砲火を喰らっていたら、コアフィールドがあっても無事では済まなかったはずだ。
加えて、タコ野郎は左右に細かく動きながら砲撃に対応していた。そのおかげで被弾によるダメージをコントロールし、大部分を装甲が削られる程度の被害に抑えられていた。やはり腕前は確かなものだ。
内装ダメージへの影響で命中精度が落ちたと本人は騒いでいたが──タコ野郎の腕前なら問題なく当てるだろう。
修理と弾薬の装填を終えた俺たちは、ジャンクタワーの昇降機で中層へ向かう。
昇降機はジャンクタワーの各所に配置されており、ギアを上へ運んでくれる装置だ。柵はない。
五機程度ならば乗せても問題なく動く堅牢さを持つが、稀にここでスクラップに襲われ戦闘になり気が抜ける場所ではない。一度だけ昇降中に落ちたことがある。あれは危なかった。
今回はそのようなことは発生せず、中層帯へとたどり着いた。
湿った金属の匂いを感じる。壁面を覆う植物のような配管が張り巡らされており、たまに滝のように水が垂れ流されており、中層全体を湿潤な空気で満たしていた。
中層帯は全体的にギアを並べて通れるような広い空間は無く、狭い通路を探索することになる。
この狭さでは回避が困難になり、【オンボロ】の機動性は活かせない。そのため中層通路では装甲が分厚い【キャタピラ脚】に前衛を担当してもらうことにしている。
光源は前述の通り苔のようなものが発光しており、視界に困ることは無い。
狭い通路の内壁に張り巡らされた配管は、金属らしきものと植物のような有機体が複合した素材で出来ていた。
あまり好みでは無いが、配管の中身や垂れ流される水は充分飲用可能な状態の水分であり、覚悟さえ決めれば水分の問題は無くなる。俺は飲まない。
中層はこれがずっと張り巡らされており、へばりつく湿度を感じ、気温も下層と比べ少し高い。ギアが足を踏み出すたびに床面の金属が擦れる音と共に水気を帯びた振動が脈打つように響き続けることになる。
たまに出会う小型のスクラップをタコ野郎がフレイムスローワーで焼き尽くし、順調に中層の探索を進める。狭い通路の接近戦はどの機体でも危険だが、タコ野郎のフレイムスローワーはまさにこのような状況で輝く武装であり、その攻撃力を熟知したタコ野郎は危なげなく処理し続けた。
しばらく進むと、狭い通路に光線罠が展開されていた。
ジャンクタワー内部には、こうした外敵への防御機構が当たり前のように設置されている。破壊することも、強引に突破することも不可能ではないが、塔の内装自体が異常に頑丈なため破壊は難しく、突破すれば装甲へのダメージも避けられない。無駄な消耗は避けるべきだ。
俺とタコ野郎は、トラップを解除するため、塔内部の構造にアクセスする手段──鍵穴と差しもんを探すことにした。
毎度のことながら不可解な構造だ。
トラップのある場所には例外なく、この"鍵穴"と呼ばれる大型構造体が存在する。理由は解明されていないが、傭兵にとってはありがたい作りだ。
鍵穴を見つけ、そこに適合する"差しもん"を手に入れるか、あるいは適合する"差しもん"の代わりを強引に作り出せれば、トラップを安全に突破できる。もっとも、鍵穴は防衛の要所として使われていることが多く、大型の防衛機が配備されていることもある。差しもん自体も、拾って済むものもあれば、塔内部の機構からしか生成できない複雑なものもあって、千差万別だ。
今回に限って言えば、鍵穴の位置は比較的近かった。差しもんの探索が必要かどうか、際どいところだったが──タコ野郎は自信たっぷりにこう言ってきた。
「このあたりはワイの得意分野やからな。カラスはーん、任せてもらってええか??」
コックピットを開けたタコ野郎が、赤い触手でクラッキングツールを鍵穴に取り付け、手元のコンソールを操作し始める。相変わらず芸達者なやつだ。
あいつは俺と同様、単独で行動できる傭兵でもある。だから必要な技能は一通り身につけている。
俺も一応できなくはないが、今回の【オンボロ】は近接寄りの調整をしてきている。処理系自体を機動および攻撃動作に最適化しており、クラッキング用途には向かない。
本来ならもう少し万能寄りにしているが、今回はタコ野郎と組む前提だったので、探索・解析の役目は全部任せる事になっていた。
「開いたやでぇ~。さっすがワイや! クラッキングボーナスもいっただき~!」
タコ野郎は上機嫌にそう言ってコックピットを閉じる。
こうした共同作戦では、戦闘以外の貢献もクレジット配分にきちんと反映される。
昔は戦果しか評価されず、報酬を巡って何度も揉めた。それが今は、調査・分析・補助も含め、仕事の成果には点数がつき、それに伴い報酬の分配が行われる文化がある。
タコ野郎が雑用まで率先して引き受けているのも、それが理由だろう。実力からすれば些細なボーナスであるが、少しでも稼げるなら、面倒な仕事も惜しまない。
ある意味、信念すら感じるが──俺には理解できない生き方だ。
だが、タコ野郎からすると俺の秘密主義も理解できない生き方だろうなと、内心自嘲した。
ま、お互い様ということだ。




