29話:雷嵐
短いですが構成が美しかったのでこれで行きます。
前話も言いましたが、この作品はSFロボアクションです。
塔の鼓動が聞こえた。
再稼働!?状況が掴めない。
ハレーはどうした!?どうなった!?
俺の疑問と共に、指揮官が一瞬”戸惑った”。
そして俺も、セドリックも、指揮官ですら、その動きを止めて空を見た。
*
空が陰る。月が隠れた。
なにか、ポツリと降ってきた。
雨だ。
先程まで欠け月が見えていたのに、空が陰り、雨が降っている。
いや。
嵐だ。
先程まで零れ落ちた程度の水気しかなかったのに、空は閉じ、嵐が吹き荒んでいる。
塔を雷光が照らした。
竜が叫ぶ。
慄き恐怖し、逃げ惑った。
空を雷光が照らした。
竜に紛れてなにか影が見える。
それを雷光が照らした。
【トライヘッド】だ。
雷嵐の中。槍を携えたそれは静止したかのように空中に浮かんでいる。
槍を掲げた【トライヘッド】は、雷の一撃をその槍に受け、竜に向かい投擲した。
雷鳴が響き、一つの竜がその煌めきに貫かれた。
*
あまりの光景に完全に思考が停止した。
ハレーは完全に主星の神話の世界に生きている。
呆然としていた俺達に通信が入った。
聞こえてきた呑気な声が、今が戦闘中であることを敵味方全員に思い出させた。
「あのさ~パーティまだ続いてる~?」
スナイパーネキの呑気な声が聞こえてきた。
雑音が混ざっている。
正気に戻った【ドグウ】の光撃を俺達は必死に防御し、距離を離した。
もう竜は”あれ”の対処を指揮官の命令よりも優先するだろう。
超接近戦を続けた代償として【ガトリングクラブ】は脚部の半分を喪失した。
跳躍はもう不可能で、あの速度はもう出せない。
せっかく取り付けたライフルマンの砲も粉々だ。勿体ねぇ。
そしてビームチェーンを使い続けたことによりエネルギー残量も怪しくなってきた。
【ガトリングクラブ】も息切れしている。少し休ませたい。
「僕が時間を稼ぐ、合流しろ!」
セドリックが叫ぶ。
【エスクワイア】は右腕ごと半身の武装を喪失している。
そのため、セドリックはそのまま接近戦を続け、注意を惹きつける判断を下した。
先程までの状況より、遥かに防御に意識を割くことが可能になる。
そのため【エスクワイア】の防御力ならば確実に時間を稼ぐことが可能だろう。
「わたしさ、旦那とのデートの待ち合わせに間に合ったことないんだよね~
今日も遅刻しちゃった。許して~」
なんだよそのテンション。
緩い、あまりにも緩すぎるが――
通信のノイズがひどい。声の輪郭がぼやけている。
スナイパーネキは状況が悪いほどふざける。
だから、俺は笑って答えた。
これからラストダンスの時間だ。好きだろ?
「大好き~、エスコートお願い出来る~?背中貸して~」
笑っている。だが、かすかに震えてる吐息が聞こえた。
おうよ。
俺の背中は広いからな。いくら足腰がダメになっても家まで帰れるぜ。
そうしてシャードブースターの音と共に、上層まで上昇してきた【ニードルワーカー】の姿を見た。
その姿は悲惨だった。
まず、視認できたのはスナイパーライフルと右腕だけだった。
【ニードルワーカー】のコックピット部分と背面シャードブースター、右腕以外は全損している。
そのコックピットも開けっ放しで、口と頭から血を流しながら笑っているスナイパーネキの姿が見えた。
「イメチェンだぜ~ドレスチェンジに時間かかっちゃった。
女の子の着替えは時間が掛かるんだぜ~」
【ニードルワーカー】のコックピットにコードを這わせ、スナイパーライフルに接続していた。
右腕に補助アームも取り付けられている。応急処置的に左腕だったものを利用したのだろう。
残っている右腕はスナイパーライフルの保持を行う機構しか持たないはずだ。
俺はシャードブースターで無理やり浮かんでいた【ニードルワーカー】を左のハサミで掴み、背中に載せた。
――行けんのか?寝てたら?
「こんな楽しいパーティで寝るの勿体ないじゃん。
固定はなんとかするからさ、動けないからそこんところヨロシク~!」
仕方がねぇな。機動は任せろ。
*
「僕を向け!このクソスクラップが!何が!何が指揮官だよ!」
セドリックは激昂している。連続使用しすぎて左手のレーザーブレードは加熱状態に陥り、出力が不安定だ。なんのエネルギーも出ていない瞬間もあった。
「お前らのせいだ!仲間を失ったのも!部下を失ったのも!」
光鞭の一撃を逸らし、電磁障壁で受け止め、接近戦を継続する。
エネルギーは形成されていない。
このまま振りかぶってもなんの効果も発揮しない。
だから【エスクワイア】は左腕を振りかぶって【ドグウ】ユニットをぶん殴った。
装甲が削れた。
【エスクワイア】の左手の装甲が、だ。
【ドグウ】ユニットの硬質な装甲に、殴り合いを重視していない【エスクワイア】の拳で敵う道理はなかった。
だが。
道理なんてどうでも良かった。
眼が輝き光撃を繰り出す。電磁障壁も連続使用で限界が近い。
ならば、シャードブースターを吹かせ、前進。加速。
左肩を前に電磁障壁を出力したまま肩部突撃を繰り出し、【ドグウ】へぶち当たった。
揺らぎ、歪み、ぱらりと割れた。
しかしその身体は依然として健在であった。
「チクショウ――時間稼ぎ程度しか出来ないのか」
光の剣の反撃を受け、ついに電磁障壁は限界を迎えた。
弾け飛んだ斥力の反発により【エスクワイア】は吹き飛ばされ、瓦礫の山へと叩きつけられた。
*
ライフルマンの砲が取り付けられて居た位置に新たな"武器"を接続した。
【ガトリングクラブ】の背面に【ニードルワーカー】を載せ、再び戦域へと戻った。
「そういえばさ。たぶん私狙われるんだよね~。塔に入る前に指揮官倒したの私だからさ~多分恨まれてる~」
マジ?それ先に言ってくれない?
【ニードルワーカー】出現と共に指揮官は確かにこちらを向いた。
ハレーを遥かに凌駕した警戒レベルを感じる。あ、やべっ!
弾け飛んだ【エスクワイア】に隙を晒すことを受け入れてすら、光の剣と目から発生する光線を連続で叩き込んできた。
――めちゃくちゃ恨まれてるじゃん!
右手の光線鎖で接続されている鋏で光の剣を逸らし、左手の鋏でスナイパーネキを必死で守った。
「あはははは!ごめん~☆」
――マジでどうすんだよ!コックピット開けっ放しだと本当に死ぬぞ!?
「なんとかするよ~」
スナイパーネキは、開いたままのコックピットでよろりと立ち上がった。
普段はまとめている髪は乱れ解かれ、嵐が吹きすさぶたびに風に靡いた。
額から血が流れ、左目は血で覆われ塞がれている。
だがメガネ型のコンソールは生きているらしく、右目のモニターは照準を合わせていた。
何も操作デバイスを持っていないように見えるが、伸びたコードが首元へ接続されていた。
神経接続だ――
右手の指で、子供のように銃の形を作り――
左手でそれをそっと支え――
「ばん」
撃った。
神経に繋がれた針子の腕は、その命令を違わず実行した。
高速の弾丸は、吸い寄せられるように、指揮官の薄い瞳の中心を貫いた。




