27話:死闘
どう考えてもアクションシーンばっかりなのでカテゴリを変更しました。
SF:空想科学→文芸:アクションです。
まぁ、ライトSFですんで問題ないかなって!
塔の天井を引き裂いた光が収まったあと、そこに欠けた月が浮かぶ空が見えた。
閃光は、外壁ごと塔の上層を斜めに両断し、俺達が居た場所を足元ごと崩壊させていた。
瓦礫が空中でゆっくりと漂い、塔の外周へと散っていく。
重力がおかしい。上下の間隔が狂い、僅かに浮遊感を感じた。
そして塔の瓦礫の中心の虚空に。
巨大な双眸だけが、ポツリと浮いていた。
目だ。
目が、こちらを“見下ろしている”。
月の光に照らされ、遅れて浮かび上がる輪郭は、人に似せた二足二手だった。
しかし、そのバランスは合理的な意味合いを持たず、完全に狂っている。
肥大化した目と、そこに不釣合いな薄く細長い瞳。
その異様さと裏腹に無表情な顔。
意味を成さぬ不快な文様が、その硬質な表皮にびっしりと張り巡らされている。
肩と胴体は異様に膨れ上がり、反面手足は用途を欠いたほどに短く、小さい。
“ヒトの形”を模しただけの模造品が空中に静止していた。
【ドグウ】ユニット。
指揮官が纏う、"外装"だ。
その異貌の双眸が怪しく灯る。
感情の無い殺意を、俺達に向けていた。
――最悪だ。
指揮官が、完全に復活していた。
*
――動け!動けセドリック!
即座に俺は【ガトリングクラブ】を機動させ、状況の立て直しを図った。
誰だ、誰が生き残っている!?
【飲んだくれ傭兵団】たちの機体が爆散するのは見えた。あいつらは”ダメ”だろう。
スナイパーネキの返答は無い。小型機である【ニードルワーカー】があの爆発で、無事だったかどうかもわからない。
しかし、なんとしても【エスクワイア】には生き残っていて貰わなければならない。
でなければ”勝てない”。
もはや祈るしか無いが周囲を確認している暇は一切なかった。
俺は指揮官へ向けて【ガトリングクラブ】の右腕の鋏を射出し、掴みかかろうと行動した。足場が崩れたこの状況で十全な機動は不可能だ。ならば指揮官を引きずり落とす!
だが、空の彼方から光の熱線が輝き、薙ぐように鋏と本体をつなぐ鎖が断ち切られた。
光の奔流は鎖だけでなく、背後の瓦礫ごと蒸発させた。
鋏が指揮官に命中することはなく、塔の瓦礫に命中し力なく宙に浮かぶ。
――視界外からの攻撃!なんだ!?塔の周囲に何かがいる!
月が陰った。
巨大な影が月光を一瞬遮る。
何かが塔の周りを旋回していた。その姿を俺は視認した。
――嘘だろう。やめてくれよ。
一瞬の無音を感じた。
その姿は、この塔に入る前から認識していた。
空気が震える。巨体を支えるロケットエンジンの爆音が遠くから響く。
――竜だ。
ドラゴンの完全体が五機。
塔の周囲を囲むように”飛翔”していた。
*
ドラゴンは、必ず塔の中で倒さなければならない。
どんな犠牲を払ってでも、それは成し遂げなければならない鉄則であった。
狭い空間でドラゴンの巨体と戦うのは非常にリスクのあることである。
しかしドラゴンの”完全体”の姿を知るものは、誰一人として文句を言うものは居ない。
通称ワイバーンユニットと呼ばれる背部飛翔翼が接続されたドラゴンは空を飛ぶ。
超高高度空中砲撃機。
はるか上空から竜型光熱砲を放ち、街を焼き尽くす怪物。
それが、ドラゴンの完全体である。
竜の群れは塔の上空を支配していた。
ほとんどの射撃兵装が届かぬ位置を旋回しながら、俺達を見定めている。
空気から感じる怒りは、俺達を確実に葬ろうという意思を突きつけてきた。
そして【ドグウ】ユニットも動き出す。
その眼光を怪しく揺らし、続いて体表の文様を淡く光らせた。
その文様は発光したまま浮かび上がり、【ドグウ】の周囲に纏わりつくように輪となり展開した。
光輪の数は四つ。
【ドグウ】ユニットと戦ったことは無い。だからあれが何を示すのかはわからない。
あれが防御のためか、攻撃の予備動作かは判断がつかない。
しかし、こちらに益となることは一切無いだろう。
その異形と、上空の竜。
二つの脅威が同時に牙を向いた。
死闘が、始まった。
*
何がなんでも機動しなければ死ぬ。
しかし足場は最悪で、崩れた中層はまともに使い物にならない。
戦闘を想定していた上層部の門の前に辿り着かなければ、一方的に狙撃され蒸発するだけだ。
【ガトリングクラブ】にはシャードブースターは搭載されていない。
だが下層にて、こいつはその健脚を示した。
ならば――"空中で機動する手段を後から確保すればいい"。
力を込めて跳躍する。
【ガトリングクラブ】は要求に素早く答え、【ドグウ】と同じ高度まで飛び上がった。
残った左腕の鋏を投擲する。しかし狙いは【ドグウ】ではない。
上層の門は開いていた。
鋏をその縁を掴み、鎖が一気に張り詰める。
当然、塔との質量に敵うわけがない。
だが重力が緩んだ今ならば、その引き寄せは空中での"移動手段"に変貌する。
鎖に引かれ、門をめがけて真横に加速した時、背後に閃光が迸った。
竜型光熱砲の狙撃。
それは【ガトリングクラブ】を外れ、その奔流は塔の外壁を抉り蒸発させていった。
やはり、塔が脆い!
先程の"天井からの斬撃"の理由が判明した。
本来ならば塔の壁や床面、天井は異常に頑丈だ。
中枢コアが廃棄塔全体を。ギアの10倍以上の出力になるコアフィールドで覆っているからである。
事実、中枢コアを失ったあとの外壁は、作業用ライトフレームで解体できる程度の強度しか持たなくなる。
竜型光熱砲並の威力であればなんとか貫通することが出来るが、それでも壁や床面を貫いたあとは減衰が著しく、ギアを貫くことは難しい。
先程の先制攻撃に関しても、不意打ちを警戒しなかった訳では無い。
だが、天井からぶち抜かれるとは全く予想だにしていなかったのだ。
これはある事実を意味している。
指揮官はこの塔を”捨てた”。
塔の中枢コアの動作を停止させ、塔を破壊することでこちらへの先制攻撃を可能にしたのである。
そもそも、ドラゴン全機と戦うことなんてまったく想定していなかった。
理由は単純。上層の戦闘空間が狭いからである。
上層では巨体であるドラゴンは二機程度しか動けない。
通路を利用してある程度一方的に攻撃することも可能であり、スナイパーネキに竜型光熱砲の発射口である口内を破壊して貰った以降は、各個撃破する方針だったのである。
しかし現状は重力が崩れた塔の上層で、外装を完全に復活させた指揮官と、遮るものが無く上空を旋回する完全体のドラゴン。
そしてこちらは先制攻撃によりドワーフどもを失い、仲間と分断。
中層が崩れた所為で下層に居るはずのハレーとも合流が不可能になった。
一切の勝利の手段を失っている最悪の状況だ。
――だがそれは俺が生存を諦める理由にはならない!
――力を貸せ!【ガトリングクラブ】!
先程はうるさかった【ガトリングクラブ】は、静かに答えた。
右腕は破損し、鎖は絶たれ使い物にならない。
先程までは、そう思っていた。
絶たれた鎖の反応があるのを【ガトリングクラブ】は掴んでいる。
右腕と鋏のリンクは接続されたままだ。
コックピットは未調整のため、直接操作していれば不可能だったが、機能は搭載されている。
親方は。
天才だ。
――光線鎖!
右腕の離れた鋏を、関節部分から新たに出した光で構成された鎖で、遠隔で接続した。
マジで原理は不明だが、おそらく蛇腹剣や、戦輪投擲機の補助に使われている構造強化機構か、あるいは光鎖剣の発展型装備なのだろう。たぶん。
斥力を帯びた光の鎖は、それ自体が熱量を持ち威力を発揮する武器になる。
しかし、鋏に接続されることで純粋な質量を、光鎖が届く限りの距離で叩きつけることが出来る。
そして、異常な頑丈さを持つ鋏を振り回し、【ドグウ】へと叩きつけた。
ドラゴンたちは遥か上空に存在しているため狙う事はできない。
故に、指揮官を最優先で排除する。それが生存への最低条件だ。
だが、【ガトリングクラブ】自慢の大鋏の一撃を食らっても【ドグウ】は空中に静止したまま、微動だにしなかった。
【ドグウ】を中心として回転する光の輪のひとつが、【ガトリングクラブ】の鋏を受け止め、割れるように弾け飛び威力を相殺したからだ。
やはり防御機構、障壁の類か。
だが光輪の一つの輪がほどけて、鞭のようにしなり、叩きつけてきた。
【ガトリングクラブ】の硬い装甲が削れ、右肩回りに裂傷が入る。
この輪は防御機構としての性質もあるが、同時に光線鎖と似た性質を持っているらしい。
極めて偶然だが、どうやらこちらの武装と原理は同じらしい。
性能はあっちのほうが上っぽいのが少し悔しい。
一瞬の攻防を終え、即座に機動する。上層部ならば地面が存在している。
【ガトリングクラブ】の爆速横移動により、竜型光熱砲の狙撃を回避、蒸発し貫通する熱線は塔を破壊しながら俺を追い詰める。
――俺は何故か、左の鋏を構えた。
自分の意思とは裏腹に本能が先に動いた結果だ。
【ドグウ】はその短い手から長い長い光の刃を出力させ、俺に切りかかった。
これが先程天井を切り裂いた攻撃の正体か!
凄まじい衝撃を【ガトリングクラブ】の異常に堅牢な鋏が受け止めた。
今の一撃は、直撃を受ければ間違いなくズタズタに切り裂かれる出力をしていた。
逆に何でできてるんだこの鋏。この硬度、異常すぎるだろ。
しかし、セドリックもスナイパーネキも反応が無い。
探す余裕どころか見回す余裕も無い。
――よし、死んだものと考えよう。
気絶程度で済んでるかもしれないが、どうしようもない。
アドレナリンがドバドバと出るのを感じる。最近こういうのばっかりだ。
【ドグウ】はゆっくりと俺に近づいてきて、攻勢を仕掛けてきた。
両手の光の剣は連続では使用できないらしい。
それによる追撃はなかったが光の輪の二本を解き、鞭のようにひたすらに叩きつけてきた。
一撃は左手の盾鋏で防御。
だが、もう一撃は左足の一本を薙ぎ、切り裂いた。
だめだ、手数が足りない。
足を止めたら死ぬ。ドラゴンに狙撃されて蒸発する。
時間を稼いでも光の剣の追撃が来る。
出力でも勝てない。パワーですらあちらのほうが上だ。
どうすれば。
どうすればいい。
常に判断が要求され思考リソースが足りない。
そうしている間にも、追い込まれ、ドラゴンが俺に狙いをつけた。
指揮官による連携は完璧だ。どこにも避ける場所が無い。
死んだ、な。
竜型光熱砲が放たれ、閃光がモニターを支配した。
しかし、その直後に突然目の前に青い"壁"が構成され、熱線を受け止めた。
「遅参した。許せ戦士カラス」
【トライヘッド】が俺の目の前に立っていた。
中層は崩れていたはずだ。どうやってここまで――
「塔が崩れていたのでな。外壁を駆け上がるのに時間をかけた」
何言ってんだこいつ。
感想が!感想が欲しいっス!
半分くらいギャグ小説書いてるつもりなんですよ……




