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塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる  作者: 梅酒わいん
mission5:指揮官再討伐

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25/61

25話:食事

 戦闘の喧騒が鎮まった。

 小型機を片付けていた【飲んだくれ傭兵団】も二機も合流して、損耗の確認に入った。

 戦闘開始から終了まで一切発砲を止めなかったトリガーハッピーな連射魔と、地上の小型スクラップを軒並み焼き尽くしたグレネード狂信者というイカれた2人だったが、その成果は非常に満足のいく仕事ぶりだった。

 正直、すげぇ楽だった。時間が経つほどにこっちが有利になってったからな。


 そこへ、トランクもひょっこりトコトコ歩いてきて、修理ドローンを展開した。

 トランクは登録された機体たちに従うように追従するが、非常に臆病で戦闘が始まる途端に油虫型(コカローチ)並の速度で逃げ出してしまう。

 その判断を下す自立思考ユニットはブラックボックスになっていて、詳細は分からないが騎士や傭兵達の間では無害なやつと思われているが、一説には”知的生命体側についたスクラップ”とも言われている。

 有益さと反して数が少なく貴重な理由はそれが原因とも言われてるが、詳しくは噂話でしかない。


 今回の被害は、無傷二機、小破三機、中破二機といったところか。

 主力である【エスクワイア】が結構なダメージを貰ってしまったのが痛いな。

 どうやら電磁ネットを食らった直後、ロードマンティスの無限軌道脚部による突撃が直撃したらしく、衝突によるダメージが蓄積されてしまったらしい。

【エスクワイア】の肩部電磁障壁(ビームシールド)の防御力が無ければ大破していたな。

 セドリックの装備選択に救われたが、万全の状態で上層に持っていきたいためここで修復に専念させよう。


「無様な姿を見せた、情けない」


 判断も知識も未熟だったな。いや、ロードマンティスに向かわせたのは俺が悪いんだが。


「いや、僕はこのメンバー唯一の騎士だ。大型スクラップの対処は確かに僕がするべきだ。判断は間違いじゃない。そして本来なら、その判断すら僕が下すべきだった」


 以前、一緒に塔に登ったときは本当にどうしようもないクソガキだったが、騎士としての矜持が芽生えたのが見える。

 この前の選民思想のクズとは違う本物の騎士の道を歩み始めたのだろう。成長したな。


 戦場での迷いは誰かの犠牲に繋がる。あの瞬間前衛に出てなければキメラは指向性衝撃波装置ショックウェーブパルサーを再起動させていただろうし、ロードマンティスにも押し込まれて、後衛が狙われていた。

 タイミングの判断は間違いなかった。

 だが、俺がセドリックを信じきれてなかったのも原因と言えるだろう。

 まあ、たらればを考えすぎてもしょうがない。

 生き残ったのだから良しとするべきだ。


「ああ、そうだな。ありがとう。それはそうとして恨むぞカラスさん」


 最後は強がり気味だったが、軽口だった。

 ははは、恨め恨め。



 それが生きてる証拠だ。



 *



 そういやハレーはどうしているんだ。



 戦いの音はない。

 トランクの修理ドローンが各機体を修理する作業音と、弾薬やパーツの製造音。

 そして塔の鳴動音しか聞こえない。


 手出し無用と言われてしまったので放置したが、ティラノがこちらに来なかった以上、決着はハレーの勝利でついているのだろう。


 下層は狭いようでいて、スクラップの残骸や柱が乱立し全てを一望できる訳ではない。

 あの異常な威力の投擲でティラノを壁際に叩きつけた所まで見たから、そのあたりに居るはずだ。

 修理ドローンを背中に乗せたまま【ガトリングクラブ】をゆっくり移動させ、ハレーを探した。


 そして、その光景を見つけた。

 ――なんだこれは。


 崩壊した柱、大きく抉られた外壁。相当の激戦をした跡が見える。

 そしてその中心点に、ティラノの"死骸"が横たわっていた。

 槍が五本も突き刺さり、全身が複数方向からズタズタに切り裂かれていた。

 その身体と地面は多量の循環液の噴出により、地面がぬめった青と緑の液体で塗りつぶされている。


 ティラノの残骸のすぐ側に、【トライヘッド】は静かに膝をつき佇んでいた。

 背中の"竜血槽"は空となっており、ティラノと同じように循環液でその肢体を濡らしていた。

 コックピットハッチは開いており、その中にハレーの姿はない。

 だがその姿を探すまでもなかった。



 ハレーは、青と緑の循環液を全身に纏い塗れながら、ティラノの上で呆然と宙を見上げていた。



 ど、どうした?何があったんだ――

 俺の問いかけに、ハレーはぎこちなくこちらを向いた。

 焦点の合わない瞳で、恐ろしく静かに呟いた。


「――戦士カラスか。すまない。はしゃいだ」



 お、おう。大丈夫か?



「"三つ首"は無傷だが、血を使いすぎた――未熟だ」



 ティラノ相手に単独で戦い、そして無傷。凄まじいまでの戦闘力である。

 これを未熟というのならば、要塞街にはハレーの要求に達する戦士は一人も居ないだろう。



「すまんな。オレは腹が減った。食事を取らせて貰う」



 淡々と。いつもと変わりがないように。ハレーは脈絡もない発言をした。

 ――何を食うんだ。その疑問を問う前にハレーが直ぐに行動で答えた。嘘だろ。

 ズタズタに切り裂かれたティラノの胸元あたりの装甲板を剥がし、その内部に腕を突っ込み、しなった肉の繊維の束を引きずり出して――





 そして"食べ始めた"。





 スクラップたちは食べることが出来る。


 四肢をつなぐ”筋肉”、循環液を通る”血管”あたりは生体素材で構成されるため、それをトランクなどの素材を加工することが出来る装置に放り込むことで人体が摂取可能なものになる。だが、ハレーがやっているように、スクラップから直接それを引きずりだして食べ始めるなど、よほどの緊急事態でなければやる理由が無い。


 いや、リザードマンは死した戦士を喰らうと聞く。

 戦士を食すことで、その力を得るという”信仰”を持っている。

 底れぬ狂気を俺は目の当たりにし、絶句した。

 その鋭い牙が生えた口元に青い”血”をべったりと付けて、虚ろな目を俺に向けながらハレーは言った。



「血だ。血が足りぬ。戦士カラスよ。皆に伝えてくれ。門衛との戦いには間に合わせる。先へ征け」



 お、おう。

 分かった。よく分かった。どうぞ、ごゆっくり――

 俺は逃げ出すように立ち去った。



 *



 怖かった!



 やべぇよ俺食われるんじゃねぇかなぁ。”味見”されてるしな。ちょっと怖すぎて涙出そう。


「そうか、ティラノを倒してくれたのはいいが休息を必要としてるのか。正直彼の活躍は助かったからずっと戦闘に参加してもらいたいんだけど、無理は言えないな」


 俺は、めちゃくちゃ言葉を濁してセドリックに伝えた。言えねえよあんな猟奇シーン!


「元々あのリザードマンは無傷で門番まで連れて行くつもりだったんだ。あの戦闘力を維持できるならこちらとしても最初の作戦通りだ。【エスクワイア】のダメージが大きいが、トランクを中層まで連れて行って修理に専念すれば門番との戦いにこちらも間に合いそうだ」


 んー。下層で修理完了するのは待てないのか?

 あそこで酒飲んでるドワーフどもの機体もダメージを負っている。万全の状態に持っていきたいんだが。おい、その酒ちょっとくれよ。


「待てない。ここに来るまで何度か塔へアタックしているが、既に修復の時間をかなり与えてしまっている。指揮官復活もドラゴン出撃も避けたい。ティラノを投入してきたあたり、修理リソースを割り切って、集中した修復をしている可能性があると僕は判断している」


「私の意見も同じかな~5機もドラゴンを雑に使い潰してるのが引っかかるよね~こっちの攻撃に合わせて決めてるあたり指揮官再生は確定じゃないかな~ドラゴンは最低一騎、最悪残り全部の修理が終わってても不思議じゃないよね~」


 スナイパーネキも同じ結論か。なら完全修復は諦めて切り上げたほうが良さそうだな。


 既にキメラ4機、ティラノ1機が戦場に現れている。

 小型スクラップと中型スクラップの大半は持ってきた戦力だとすると――

 大型はロードマンティスを除いて、戦力はツギハギで流用しているものだと判断出来る。


 塔側がその判断で俺達を妨害していると考えると、少なくとも指揮官の頭脳は修復されているのだろう。ならば、塔側は修復に必要なリソースを指揮官と数体のドラゴンに絞っており、出撃の準備を整えているかもしれない。


 これでもしも、塔の出入口がドラゴンを出撃させるために上層に開設されていたら終わりだ。


 こちらも修理のリソースを割り切って攻略することにしたい。

【エスクワイア】の修復は必須だが、それ以外をどうするかというところだ。

 トランクが随伴してくれていて本当に良かった。補給と整備をある程度歩きながら出来るからな。

 大雑把に見繕って、トランクの修理ドローンを集中させれば、ドワーフたちが中層攻略を終わらせて上層の門番直前で修復が終わるくらいか。

 一応当初の作戦通りだ。肩部電磁障壁(ビームシールド)に感謝しろよ。


「こっちとしては盾さえ持てりゃええわ。不格好だがキメラの追加腕貰うけぇのぉ」


 腕を失った斧持ちのドワーフの機体は、キメラについていた腕を無理やり接続し、盾をもたせる割り切った修復で済ませて攻略に復帰するらしい。

 大槌持ちに関しては今の修理ペースで普通に復帰できるし、銃弾打ちまくってた射撃機と砲撃機に関しては使いまくることを想定していたため、事前に用意した弾薬を補給するだけで済んだ。攻略は当初の予定通り彼らに任せることになるだろう。


 俺はどうするかな。オートキャノンは修復に時間が掛かりそうだ。ティラノに接続されていたやつはずたずたに切り裂かれていたし、あとちょっと近づきたくない。

 仕方がない。トランクに足回りだけ見てもらったら【エスクワイア】の修復に専念させるから、そこら辺に転がっているライフルマンの砲を拾って接続するか。

 反動が強くて傭兵たちには不評な装備だが、重量多脚AGである【ガトリングクラブ】なら充分使用できる砲だ。弾薬もたんまり転がっている。悪くなさそうだ。


「よし、方針は決まった。中層に向かうぞ!」


 そうして俺達は塔の上下を行き来する昇降機を用いて、中層へと向かった。

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