24話:背中
【ガトリングクラブ】の妙な機構である異様に速度がある横走りだが、甲殻類を模しているこの機体の特性と噛み合うことにやっと気がついた。
移動方向、つまり真横へと鋏を展開することで盾を構えながらの高速移動することが可能なのだ。
なるほど。理屈はわかった。どうせ移動方向へは盾みたいなバカでかい鋏で何も見えなくなるから、モニターにも何も映す必要がないってか?ははは。ふざけろ。もっと真面目に作れよ。
数を減らすことを考えるのならば、ダメージが蓄積されているキメラを狙うべきである。【エクスワイア】にロードマンティスの牽制を任せ、俺はキメラをブチのめしに行く算段としたい。それでいいなセドリック!
「わかった!あの無限軌道は引き受ける!」
前衛に躍り出た【エクスワイア】は肩のビームシールドを展開し、小型機の攻撃を防御しながらロードマンティスへと接近していくのが見えた。
そして俺は、ガシャガシャと多足を動かしながら高速でキメラへと突撃していく。
周囲の小型機やキメラ本体から放たれるレーザーはすべて盾鋏で受け止め、一切速度を落とすことがなく盾による突撃を敢行する。ギアならともかく【ガトリングクラブ】の重厚なフレームによる体当たりをブチかますだけで、相当の衝撃を与えることが出来るからだ。しかしキメラ側も激突を避けるために跳躍して回避しようと試みるだろう。多分。やっぱり見えないのは設計的におかしいだろ。
そして衝撃はなかった。つまり回避された。
しかし回避方向は”見えている”。
【ガトリングクラブ】が真横に移動するという特性上、体当たりを回避された場合、飛び越されなければ正面か背面のどちらかに存在することになる。
今回のキメラは重武装かつ、指揮官の手元に居る頭の良いスクラップである。
攻撃力は高いが速射式の武器がないため、遠距離での打ち合いを避ける論理をしているはずであり、回避とともに増腕による攻撃を繰り出してくるだろう。ならば跳躍の方向は逃げではなく攻撃を見越した位置になる。
つまり、目の前に何も存在していないこの瞬間、キメラは真後ろに居ることが”確定”する。
そのまま何も見ず、真後ろに鋏をぶちかませば、キメラに当たるって寸法だ。
俺はレバーを勢いよく引っ張った。重量物が装甲を破砕した感触。破片が後方から飛び散りキメラの咆哮が聞こえた。よっし予想通り!
今の衝撃から推測するに相当深い一撃を与えた。
だが、キメラを倒し切ることは叶わなかった。
鋏の一撃に耐えきったキメラは、【ガトリングクラブ】の上にのしかかり、腹部に増設された太い追加腕を使い背中へと掴みかかってきた。
重量物がのしかかる圧力により機体が沈み込む。
そしてバリバリと何かの装甲とケーブル類を引き裂いた。
武装ロストのアラームがコックピットに響く。
野郎、オートキャノンを引き剥がしやがった!
コアフィールドにより関節部含めて守られている【ガトリングクラブ】は非常に堅牢な機体だが、背面武器の装備は確かにオマケだ。接合部は強度はない。
引き剥がさねぇと、一方的に殴られる羽目になるな。
――いや。
オートキャノンが犠牲になったことだし、どうせだから思いついたことやってみるか。
両手のハサミで背中に張り付いたキメラを掴みかかった。
【ガトリングクラブ】の強烈な鋏の固定力は、暴れ回るキメラをしっかりとホールドしてくれている。この鋏の頑丈さは既に俺の信頼を獲得している。
そして俺は【ガトリングクラブ】を信じている。
この重量を易々と移動させる多足の健脚。
重量物がぶつかってもビクともしない堅牢性。
シャードブースターすら搭載していない基本性能に特化したエネルギー配分。
つまり、お前は跳べる。
力を込めて【ガトリングクラブ】を跳躍させた。
キメラ一体を抱えながら、その跳躍は塔下層部の天井近くまで飛び上がる。
八足もの脚が生み出した驚異的な跳躍力を世界に示した。
そしてキメラを【ガトリングクラブ】の甲羅状の背中に貼り付けたまま、俺たちは万有引力に引かれ落ちていく。
――喰らいな、落下式バックブリーカー!!
着地の衝撃を甲殻類を模した甲羅が全て受け止め、背中越しにキメラの胴体に伝播させた。
凄まじく鈍い破砕音が塔全体に響き渡った。
*
実はこの戦いで最も活躍している人物とは、ティラノを抑えているハレーでも、キメラを倒した俺でもなく、【飲んだくれ傭兵団】の射撃機と砲撃機の2名である。
マシンガンや拡散バズーカ、各種グレネードを用いて小型機と中型機のおよそ八割を2機だけで討伐している。セオリーと作戦に忠実で、腕と効率が良いこの2機は溶かすように小型機の数を減らすことに専念してくれていた。それで俺達は大型対処に戦力を割くことができたというわけだ。【飲んだくれ傭兵団】は人格はともかく一緒に戦っていて本当に楽な強力なチームだ。
「何さっきの。ドン引きなんだけど」
引き気味のスナイパーネキの声が聞こえてきた。
どうやら、小型機は2機に任せ大型を仕留めるために動くらしい。
流石に落下の衝撃で【ガトリングクラブ】の足回りに少しだけ影響が出た。だがほとんどのダメージはコアフィールドと柔軟な脚部が吸収してくれていたため、少しの調整で良さそうだ。
暇ならセドリックの加勢に向かってくれ。
あんまり戦闘経験がなさそうなセドリックにロードマンティスの相手は――
あ、やべ。
「ロードマンティスの対処知らずに向かわせたの!?やばいやばいやばい!」
スナイパーネキは【ニードルワーカー】のブースターを吹かせて、セドリックの元へと急遽増援に行った。
傭兵の間だと常識なんだが、ロードマンティスは”初見殺し”性能が高すぎるスクラップだ。騎士であるセドリックが知らなかった場合、大変なことになる。
ロードマンティスは無限軌道脚部を採用し、重装甲で鈍重、目を引く手の大鎌以外には武装を装備しておらず、近接特化機のように見えるスクラップだ。
俺も【ガトリングクラブ】を走らせる。
そこには”電磁ネット”でがんじがらめにされた【エクスワイア】が居た。引っかかってるじゃねぇか!
カマキリを模した頭部からは捕縛用のネットが射出される。
主星での元生物の生態は詳しく知らないが、蜘蛛の仲間だと学者たちは考察している。
電磁パルスでシャードジェネレータの働きを悪くする電磁ネットの影響で、出力不良になってしまい足を止められた【エクスワイア】は、その大鎌で切り刻まれる羽目になっていた。
肩部の誘導弾以外はエネルギーを必要とする武装構成をしているせいで、【エクスワイア】は非常に不利な状況だ。ジェネレータ二基構成で本当に良かったな。一基なら停止してるぞ。
肩部から薄く出力されているビームシールドはマントのように全身を覆うタイプであり、効力が完全に切れては居ない。そのお陰で致命傷に陥っては居ないが、早急に対処しなければならないな。カスッカスになったレーザーブレードでなんとか押し返しているが抵抗が弱々しい。
――ごめーんセドリック。生きてるか~?逆にすりゃ良かったなガハハハハ!
「おまえほんと覚えてろよカラスぅ!」
悪いと思ってるよ。でも知らないとあんまり思ってなかったんだ。
ここに居る八名の中で、ロードマンティスを知らないのはお前だけなんだもん。
ちなみに捕縛用ネットは一発限りであり、初手はひたすら回避に専念して避けてからが本格的に戦闘を始めるというのがセオリーだ。
「ロードマンティス好きじゃないんだよね~」
スナイパーネキが愚痴りながら射撃をしていく。
ロードマンティスは純粋にタフな部類のスクラップだからあまり弱点らしい弱点がない。
狙撃によるピンポイント攻撃はあまり効果的ではなく、ダメージを蓄積させる出血を強いることで機能を停止させることしか出来ず、比較的脆い胴体部分に射撃をし続けている。
確かにあの大鎌は破壊しづらいし、破壊したところで――
お、こっち狙ってきたな。合流を防ぐつもりか。
ロードマンティスは腕を振りかぶり、大鎌を”ぶん投げてきた”。
あの大鎌はブーメランになる。
電磁操作をしているらしく、関節部を破壊してもロードマンティスの周りをぐるぐる旋回し続け、攻撃の手が増える結果になるため、むしろ危険だ。
こちらに向かってきた大鎌ブーメランを大鋏で弾き返し防御する。あの大鎌は見た目通りの武器ではなく、高周波のなんたらのためコアフィールドに守られていない装甲板はマーガリンのように切り裂かれることになる。
だから盾で防御するのも危険なんだが――本当に頑丈な鋏だな。何で出来てるんだ?
「獲物横取りしやがるたぁいい度胸だ!名前の通り行儀が悪いな若造!次はワシらの番よぉ!」
「ふん。やられたら!倍返しよォ!スクラップどもォ!リベンジじゃオラァ!」
ドワーフの前衛が復帰し、ロードマンティスへと接近し、近接武装での攻撃を敢行した。
機械解体用の作業斧の豪快な一撃と、ブースターを吹かせて推力をそのまま威力に変換した大槌の会心の振り下ろしが無限軌道脚部へと炸裂した。
斧持ちの方は盾を腕ごとやられたのか、肩口から綺麗に喪失していた。いやこの綺麗さは自分で外したな。使えないなら外して出力上昇を狙ったのか。割り切りが良い。大槌の方も盾を捨て両手で大槌をホールドしている。
小型機からの防御を考えて良くなったのか、攻撃に振り切った突撃思考だ。後衛が小型機を始末した後に前衛が大型を仕留める、【飲んだくれ傭兵団】はそんな連携を繰り返しているのだろう。連携戦術に迷いが無い。
俺とドワーフの前衛二機、スナイパーネキと合計4機が加わったお陰でセドリックへの攻勢が弱まり、自分で拘束を解く暇が産まれた。
「僕を地に伏せさせたこと、後悔させてやるぞスクラップ――!」
転がってばっかりだろお前はよ。そろそろちゃんと活躍してもらうぜセドリック。
さて、三機も張り付いているとちょっと【ガトリングクラブ】の巨体が割り込む隙がないな。ロードマンティスが大型だとはいえ、この狭い空間に存在していると機動に無理が生じて味方機同士で接触し激突する可能性がある。
となると、【ガトリングクラブ】は後列で射撃攻撃を繰り出すのが良いと思うのだが、あいにくオートキャノンを先程喪失したばかりだ。直るかな。トランクがあるし修理してもらおう。どうすっかな。射撃兵装がないなぁ。やることがない。
あー。そういやセクター防衛戦で親方やってたな。あれやるか。
大きい方がいいな。まだ稼働しているライフルマンを狙う。脚部のついた卵に砲塔がついたような形状のライフルマンは、中型機に分類される機体だが砲撃専門であり、回避行動はほぼできない速度の機体である。【ガトリングクラブ】の大鋏を”射出”し、離れていたライフルマンを掴んだ。
お前が弾丸だ。
そのまま鎖で繋がれた大鋏を大きく振り回し、遠心力が充分に乗ったライフルマンを大鋏と共にロードマンティスに向けて”投擲”した。相当の重量がある中型砲撃機であるライフルマンは非常に掴みやすく、重い弾丸だった。
ロードマンティスは無限軌道脚部により圧倒的な踏破性能を持つが、緊急制動に向く機体ではない。このレベルの砲弾の回避は不可能である。上半身に命中し、ロードマンティスの巨体が大きく揺らいだ。
ふーん。いいじゃん。
どうやら【ガトリングクラブ】の砲弾は"100発"近くあるように見えるな。
「危ないよ~なにかやるなら先に言ってよ~」
お、すまんすまん。これは狭い上層だと使えないな。だけどあと数回繰り返すから気をつけてくれ。
今の一撃で揺らいだロードマンティスは、ベテラン二機により無限軌道の履帯を破壊され、足を止められた以降は【エクスワイア】と殴り合っていたが、出力差と数の暴力で順当に沈黙することになった。
なんか勝手に彼らがプロレス始めましてぇ……そんな考え一切なかったんですがぁ……




