23話:乱戦
結論だけで話し始めると、全機無傷とはいかなかった。
これは前衛を務めた【飲んだくれ傭兵団】が無能だった訳ではない。
むしろ、ベテラン揃いだったバカどもが四名も居たお陰で、一機も欠けずに中層部まで突破出来たのだと断言できる。
今から事実だけを語ろう。
スクラップが100体以上居た。
「前衛は盾持ち中心に陣形を組んで死角を減らせ!大型を早めに撃破して盾にするんだ!後衛盾役は僕とカラスさんの2機で対応!砲撃機後ろに下がって攻撃に専念!【ニードルワーカー】は小型機一機でもいいから数を減らしてくれ!そこのリザードマンは自由に動け!」
「「あいよ!」「へい!」「がってんだ!」「理解!」「あいさ~」「承知。遊撃する」」
ほいほい。
返答がばらばらすぎるが意思は統一できた。
弾雨の中、セドリックの指揮と共に【飲んだくれ傭兵団】のバカたちと俺とハレーとスナイパーネキが即座に機動した。まさか塔の最下層でこの大群とやりあうとは予想していなかったな。最下層故に八機が機動しても問題ない広さを持つ大空間であったが、これほどまでにスクラップがひしめきあうのもそう見ない光景だ。
【飲んだくれ傭兵団】の砲撃機を後衛に下げ、それを守りながら【ガトリングクラブ】のオートキャノンを乱射する。
トランクが後方に居る状況だから弾薬の出し惜しみは無し、全弾垂れ流す。
照準は雑だが、雑に連射しても数が多すぎるスクラップのいずれかに命中する。今の役割は敵機攻撃への防御と、敵陣営全体へのダメージ総量を稼ぐためのばら撒き役だ。クッソ扱いづらい【ガトリングクラブ】の足を細かく動かし、砲撃機とスナイパーネキを守ることを優先し、敵機の攻撃を受け続けるため鋏の位置を調整し続ける。
出力が低いレーザーやマシンガンの雨が降り注いでいるが【ガトリングクラブ】の盾の如き鋏と装甲に弾かれ、コアフィールドを含めてダメージを最小限に抑えることに成功していた。中型機であるライフルマンも混ざっているため無傷とは行かないが、貫通もしない。このAG、本当に硬いな。
【エクスワイア】も後衛機を守りながら小型機を少しでも減らすように攻撃を続けている。ちょっと攻撃の精度が甘いのは実力故だろうが、それでも充分な攻撃力だ。
【ニードルワーカー】は後方で防御と回避優先の機動をしながら攻撃を繰り返している。
防御行動に専念しているため攻撃頻度は高くないが、切り返しのたびに狙撃をしていき、空気を切る音とともに敵機を地面に縫い付けていく。
「イヤッホォォォ!先陣を切らしてもらうけぇのぉ!!」「ワハハハハ!選り取り見取りじゃねぇか!」「死地だ!死地がやってきたぞぉ!月の女神よご照覧あれ!ヒャッホォォォ!」「偉大なるグレネードよ!その威光を示すときが来ましたぞ!地上に業火を与えたまえ!」
うるせえ。集中させろ。
前衛盾持ち二機の【飲んだくれ傭兵団】のバカどもが叫びながら突撃し、残り二機は移動しながら銃弾と砲弾をばら撒き始めた。先程からベテラン傭兵の彼らをバカと表現しているが、彼らはその名の通りの存在である。
全員飲酒運転中だ。バカだろ?
アルコールにより理性を飛ばしたバカ笑いをしながら、銃弾の雨の中を盾とともに突撃していった。
【飲んだくれ】どもの近接機はずんぐりむっくりとした小型機で大型火器こそ装備していないが、重装甲の堅牢な機体だ。手持ち武器は大型盾とブースター付きハンマーや機械加工用の作業斧という漢武装である。肩にデュアルグレネード等の火砲も保持しており、火力もそこそこあるが攻撃や機動力より前衛維持能力を重要視している。
仲間の支援前提であるが強力な前衛機である。
それらが二機とも大型機であるキメラに殴り掛かりに行った。おい、作戦はどうした。
「見事な勇猛さだ」
勘違いだよハレー。あれは勇敢じゃない。無謀って言うんだ。命知らずにも程がある。
その無謀を勇敢に繰り上げるために残りの六機が援護する羽目になってる。
おかしいな。さっきのセドリックの指揮をガン無視してないか?
「数を減らす」
ハレーはバカどもの後ろに位置し、その場で身を捻り回転しながら左腕の剣を展開した。
それは剣の形状だったものが、どんどんと分割されていき、ワイヤーのようなものだけで接続され、鞭のように撓らせて【トライヘッド】を中心に空中を斜めに薙ぎ払った。
蛇腹剣!すげぇ!初めて見た!あんなぶっ壊れやすそうな武器よく使うな!
原理としては戦輪投擲機のワイヤーと同じだと思うが遥かに機構が複雑だ。
宣言通り、空中の小型スクラップであるフライアイを纏めて数機切断し、地面にたたき落とした。
「やるぅ~」
間延びしたスナイパーネキの称賛が緩く響く。風切り音とともにスナイパーライフルの銃弾がキメラの背面部、接続されていたドラゴンの光が灯る口内へと直撃し爆発した。
マジかよ。防御機動をしながら超精密射撃を平然としてやがる。凄まじい技量の一撃を見たぞ。
ドラゴンブレスを防がれたキメラは、肩部に接続されている剛腕を振るい、大斧を持ったほうの前衛機をぶん殴った。鈍い衝撃音が響き、重いドワーフの機体がゴムボールのように跳ね飛ばされていった。重装備だろうが小型機寄りのあの機体ではキメラの一撃を受け止められなかったのだろう。重量差と手足の数で完全に敗北するからキメラとの近接戦は危ないんだ。
そしてキメラは翼のように接続されていた背面部その2である装備の指向性衝撃波装置を展開してきた。
衝撃波発生兵器まで持ってんのか!
すでにチャージが終わっていたらしい、妨害は間に合わない。
キメラは味方機である小型スクラップを巻き込みながら”前方”、つまりこちらの陣営全体へと衝撃を与えてきた。
指向性衝撃波装置は衝撃波を飛ばしてくる武器だ。
親方の話だとプラズマ技術が使われてるらしいが原理は知らん。
視覚的に見えないから回避がほぼ不可能な嫌らしい武器であり、装甲が薄い小型機だと大ダメージを食らってしまう。
だが事前の指揮通りに【ガトリングクラブ】が酔っ払いの砲撃機を守り、【エクスワイア】が【ニードルワーカー】の盾になったが、他の面々は直撃を受け弾き飛ばされた。ビリビリと衝撃がコックピットに走り、モニターにノイズが走る。
だが、純粋に装甲が分厚く重い【ガトリングクラブ】は衝撃を殺しきった。ほんと固くて頼りになるな。
飲んどくれどもの機体は全体的に装甲は分厚いがキメラまでの距離が近かった。内装までダメージを食らっているはずだ。【トライヘッド】は腰を沈めながら槍を地面に突き刺し、杭のように支柱にしながら自前の盾で耐えきっている。戦場慣れしているな。さすがリザードマン、状況判断が的確だ。
外の時は一方的に倒せたが、本来のキメラは、このレベルの怪物だ。
多数の小型機、中型機が混ざる中で相手したくないスクラップだよ、本当に。
――さて、仕切り直しだ。
数の面では圧倒されているが、ギアは小型スクラップならば20機程度とは危なげなく戦える兵器である。今の一瞬でこちらに痛打を与えたキメラだが、小型機も巻き込んでの攻撃だったため、戦力評価としてはジェネレータ複数機が2機も居るこちらのほうが優勢である。
現状中型機は砲撃機であるライフルマンが複数とキメラが一体。ダメージそのものは免れないが、このまま順当に戦えば押し切れる物量だ。
だがそれを見越してか、上層からスクラップが大型機をさらに投入してきた。
鎌を持った昆虫――主星の言葉ではカマキリというらしい――を模した上半身に、【キャタピラ脚】と同じような無限軌道脚部が接続された奇妙なスクラップ、ロードマンティス。
あれは恐ろしい機体だ。
あの大型鎌は切断能力もあるが、それに捕えられる可能性があるのが最悪だ。
捕らえられ引き寄せられたまま、無限軌道脚部で”引き潰される”可能性がある。
判断をミスると一瞬でコナゴナに砕かれる羽目になりかねない。
小型機のドワーフどもに任せるのは危険すぎるな。
さらに大型の姿が確認できた。セドリックが叫ぶ。
「地竜!ドラゴンの素体を防衛に回したか!」
ドラゴンの完全陸上改造格闘機と言える、地竜の追加投入か。大盤振る舞いだな。
あの短かった腕部が長く分厚い鉤爪に換装され格闘能力が拡張されている。
頭部も噛み砕くような牙が多数生えて巨大化。肩だけでなく背面の接合部にオートキャノンを搭載した”完全体”の姿を諦めた破壊の化身だ。
【飲んだくれ傭兵団】たちが崩れている状態でこの追加戦力は相当に厳しいが、ハレーが一言呟いた。
「亜竜はオレが仕留める。手出し無用」
そうハレーが言い放ち、槍を構えた。
【トライヘッド】の背中の”竜血槽”がコポコポと泡を出しながらその緑の液体を減らしていき、少し力を貯めドラグーンの柔軟な関節部をしならせて槍を投擲した。
事実としてはそれだけだ。
だが、その一撃は爆風を巻き起こし、周囲の空気すら悲鳴を上げたかのように押し退けた。
穂先は風をも追い越し、地竜の巨体を真正面から“貫通”し背後の壁に衝撃と共に突き刺した。
地竜が咆哮をあげて壁に叩きつけられ、暴れ回っている。
――なんだ、その馬鹿げた"膂力"は!?
同じジェネレータ三基構成の【ハルバード】でさえ、大型槍を扱うのが精一杯だ。
あんな「ただの投擲」で竜を貫けるパワーなど、絶対に出せるはずがない。
その一撃は俺たちに混乱をもたらしたが、切り替えろ。今は考察の時じゃない。
大型スクラップのうち一機の出鼻を挫いたのは非常に大きい。しかも【トライヘッド】はそのまま追撃に駆け出して行った。
俺も同時に【ガトリングクラブ】を回転させ敵に向かい真横に爆進させた。
――セドリック!ドワーフどもと交代だ!前に出るぞ!
ハレーを信じて地竜を完全に無視する方針に変更した。
ならば前衛の抜けた穴を埋めてキメラかロードマンティスを早めに倒さねば被害が拡大する。
「あ、ああ!交代だ!ドワーフたちはさっさと立て直して火砲で援護!タカメ女史と砲撃機は小型機を近寄らせるな!いくぞ!」
判断遅いぜ。後で説教だな。
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