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17話:赤字

赤字だッ!


今回の戦いは紛うことなき赤字である。

書類上だけの話になるが、【グラスホッパー】は整備に出していたものを勝手に使ったという扱いにされてしまった。いや、その、ぐぬっ――事実である。


弾薬も事前に補給地点に回したもの含めてほぼ実費だ。

街を戦場にするために誘導してくれたデカ耳や、働いてくれた下町のゴブリンたちへちゃんと支払わなきゃならん。ガトリング工房の面々を動かした分の支払いもしなきゃいけない。親方と違って俺はちゃんと払う。

事前の取引は通信機越しであり、事実上口約束にしていたのが痛かった。書面上で残せばヴァレリアン卿が極めて不利になる内容だ。メモすら残せない。

なので騎士サマからは軽く謝られたが、ほぼ補填なしということになってしまった。

ただし、代わりに倒したギアのパーツを、3割ほどを鹵獲した扱いにしてくれた。

一応報酬としては破格だし、これを全部売りはらえば、赤字を補填しても余りある量ではある。シャードなど、なんと合計4機も手に入った計算になる。

いや、でも、クレジットが欲しい。純粋に動かせる現金が欲しい!


騎士の反乱は俺が気絶している間に解決した。

ヴァレリアン卿は賊の討伐、騎士の反乱を抑えた英雄として祭り上げられた。

そして第七セクターと第九セクターの支配権を獲得し、一気に大貴族に躍り出ることとなった。


ヴァレリアン卿は、第七セクターの正当後継者の出身であったらしい。

なぜ、他の者が第七セクターの支配者の椅子に座っていたのか不明だ。聞きたくも無い。

だが、不当に席を奪われていた第七セクターの”王”が、その席を正当に受け継ぎ、反乱した第九セクターをも納め、その支配権を獲得した。という話が意図的に流布されているらしい。

あまりにも鮮やかすぎる。あの戦いが終わってからまだ一週間も経ってないぞ。

どう考えても事前に計画してたっぽいな。

偶然を利用したにしても出来すぎだ。誰か上手く扇動したやつがいるだろ。

それは、最近までヴァレリアン卿だと俺は思っていた。

しかし、騎士サマは主役だったが、あの幕引きはどう考えても舞台に登った役者でしかなかった。


誰だ。盤面を描いて、脚本を仕立てたのは。


まぁいいや。そいつにまんまと食わされたってのは癪に障るが、騎士サマを擁立しようとした画策だったわけで。俺は巻き込まれただけなんだろうな。

あー、安売りしなきゃよかった。もっと俺の腕は高く売れただろ。

ほぼ10機も相手して倒したんだぞ、それなのになんでこんな安いんだ。

騎士サマの反応から見て、こっちから連絡したのがいけなかったな。待てばよかった。

第七セクターは安い買い物だったろ?だから修理費くらいは払ってくれよ。


ダメか〜。


余ったパーツやシャードはデカ耳に売却先を選んでさっさと処分してもらう。

最低でもシャード一つは売り払わないと、傭兵個人でのシャードの保有数の制限の法律に引っかかってしまう。出撃する前にお縄になるのは避けたいからな。

お前ら俺の赤字を補填しろよ。とだいぶ雑に頼んでもデカ耳は喜んで俺の”耳”になってくれた。恩義なんか感じるなよ。俺なんか騎士サマに第七セクター売ったんだぞ。


ということで貧乏暇なし。そろそろ傭兵としての本分に戻ろう。



塔を攻略しにいくぞ!まずは仲間集めだ!





「いいですよ。行きましょう。

 ただ、流石に機体をまともに組み上げる時間下さい。

 【グラスホッパー】の修理なんか親方にやらせましょう」


コテツは了承してくれた。親方の扱いも雑だな。

まぁ、こいつとは一緒に塔を攻略する約束をしていたからな。丁度いい。

機体の組み上げには俺も手伝うよ。幸い鹵獲パーツがいっぱいあるからな。

最低でも二機か三機くらいでっちあげられるだろう。

コテツには無理を聞いてもらっているのもあるし、もっとマシなパーツ選ばせるけどな。



次は親方に会いにいった。

親方、俺のシャードとオートキャノン使ったツケ払ってもらおうか。


「ン?払えねえよ?金ねーもん」


は?何こいつ。


「ぜーんぶ【ガトリングクラブ】作るのに使っちまった!ガハハハハ!スッカラカンよ!」


ほーん。なにこいつ。

傭兵相手にイカれてんのか?

おーい、親方に金貸してるやつ集まれ〜

なんだよ従業員全員かよ。

何?給料未払い3ヶ月?

貸して即パーツ買った?

勝手に銀行手形持ってった?


よし、お前ら。親方ふんじばっといて。

【ガトリングクラブ】売っぱらうわ。


「な、何をしやがるお前ら!正気か!?ワシの芸術品に触るな盗人が!」


いや、お前の方がドロボウだよ。最後のとか完全に犯罪じゃねえか。


「ワシの技術の結晶を奪わんでくれぇ〜!」


恐ろしく情けない顔で号泣し始めた親方はマジでウザかった。うわすげぇ無様。

仕方がない。売らずに塔の攻略に使用することで、なんとか落とし所にしよう。

なんだか虚しくなってきたな。涙出そうだ。

君たち知ってる?俺、一応、客なんだぞ??

おいお前ら、奢ってやるから愚痴大会に行くぞ!

ああ?オーナー変わってくれだって?親方嫌われてんの??嫌だよそんな面倒事!


「よし!愚痴大会ってことは酒が飲めるな!行くぞぉ!」


あ?親方もなにサラリと混ざってきてんの?

親方には真面目に働いてもらうよ?


「な、なぜだ!酒を飲むだけだ!許してくれ!」


ふざけんな、酒抜きに決まってるじゃねーか!

おい【グラスホッパー】の修理と整備、やっておけよ。

酒飲みたいからって手ぇ抜くんじゃねーぞ。


「あんまりだぁ〜!」


自業自得だろーがよぉ!





「カーラスは〜ん。あっそびっましょ〜!」


遊びに来たんなら帰れよ!

タコ野郎が呑気な声出しながらやってきた。


コテツの整備に付き合って、もう一週間経った。


おまえら、俺に給料出せよな!?

下手な整備員より働いてんだぞ!?

親方手を止めるな!サボるな!手を抜くなッ!!!

油断も隙もあったもんじゃない。

お前本当に気乗りしない仕事に対してやる気がねぇのな!?

あと、おまえら、俺が傭兵だってこと忘れてないか???

誰だ社長って言ったやつ!違うからな!

スポンサーだけどまだこの工房買ってねぇよ!


「カラスさんがクレジット落としてくれなければ、この工房本当に破産してますからね。

 何かあったら親方はともかく従業員は拾ってあげてください」


やだよ。面倒見切れねぇ。

コテツは油と循環液の赤色にまみれ、なかなか壮絶なペイントを施されていた。

そろそろ完成ってところか。メインフレームは倒したギアの分が使えた。

あいつらも整備不良だっただけで悪い機体じゃなかったからな。


前回の激弱ギアの乗り手は第九セクターの市民だったり、舘の従業員だったりしたらしい。

ギアに乗ったことも無い人を戦力として駆り出したんだろう。メイドとか居たらしいぞ。

脅迫されてたって聞くし、恩赦貰えたんかな。まぁ、そこはヴァレリアン卿の沙汰次第だ。

命は拾えたんだし、穏便に済ませて貰えないかな。

あとなんか居た傭兵はどっかに消えた。

何処行ったんだかわからんが、好きにすればいいと思う。


さて、元【オンボロ】はドラゴンのパーツを色々組み込めて、全体的に堅牢な機体に仕上がってきたな。【グラスホッパー】からジェネレータを戻して、組み込み直して調整にも余念が無い。全然別物になってしまったが、こいつはいい機体になるぞ。


ただ、装備がちょっとゲテモノなのは、間違いなく親方の悪い影響だろう。

親方は本当に、どうしようもないやつなんだが、腕は最高だし影響力デカすぎなんだよな。

たぶん従業員の一割くらいは、親方と一緒に地獄までついて行くだろう。それほどのカリスマがある。もう少し金銭感覚と常識がまともなら最高の職人なんだが、ままならない。


タコ野郎が整備状況をさらっと一緒に確認してきた。

はいよ、これ各種仕様書。ざっくりだけどな。

俺から受け取ったパーツリストとスペック表を読みつつ、タコ野郎から会話を切り出してきた。


「カラスはん。塔に登るんやろ?ワイも行くやで。

ただ、その前に第五セクターに顔だして欲しいんやけど」


なんだ?商業セクターになんか用でもあるのか?

そういえばタコ野郎は湯水のようにクレジットを使っていたな。

なんだかんだ最上位傭兵であるタコ野郎は一回雇うだけでかなりの金額が動く。

武装の弾薬費による損耗も激しいが、そんなものは誤差と言わんばかりに稼げる傭兵だ。

一体何に使っているんだろうと疑問だったが、その答えはすぐに聞けた。



「カーゴキャリア、買ったんよ」



マジ?






第5セクター。つまりは商業地区だ。

そこ行くなら、流石に傭兵の格好ではかなり目立つ。小綺麗にしないといけない。

血と汗と油と循環液まみれの姿であの辺りを歩くのは、流石に俺も難色を示している。

まずは、疲れた身体を癒し、洗い流すために風呂に入りに行くことにした。


少なくとも、要塞街では水は貴重なものである。

しかし、衛生面において重要なのは理解されているし、気持ちがいいものだ。

そのため、第七セクターにも多数の浴場が用意されており、汚れた身体を清潔にしようと考える連中で賑わっていた。だが安い風呂だとせいぜい蒸し風呂くらいしか無い。

なので、俺はあんまり賑わってない、結構値段が張る個人用の風呂付き宿を借りに行った。

いいなー。親方の工房のやつらは蒸し風呂のあと、麦酒でもガブ飲みするんだろうなー。

ウマいんだよな。疲れて乾いて解れた身体に麦酒の暴力!いいよな。


でも、ちょっと無理なんだよな。出来ないことは出来ない。無念。


あー。どうするかな。そういや第五セクターにいく服もねぇや。

流石にいつものタンクトップと作業ズボンは、工業地区の荒くれって風貌だからな。

なんかいい服ない?俺はタコ野郎に聞いてしまった。


「なんや?適当に見繕いましょか?お安く揃えるやで〜?」


んー。助かる。頼むわ。

じゃ、いつもの服もまとめて洗濯するかぁ。宿での服は借りるか。

数着似たような服を持ってるが流石に汚れも匂いもキツイ。

用意しといてくれ。だいぶ長湯するし一泊して爆睡するから、持ってきてくれよ。




思えば、俺は本当に、疲れていた。






マジで後悔した。









説明をしなければならない。


主星から失われかけ、しかしタコ野郎の種族が命をかけてでも継承した文化に関してを。

それを説明をしなければならない時が来た。


それは大いなる無駄である。

それは人類の叡智と文化の結晶である。

そしてそれは今となっては再現などすることが出来ない。

人々の情熱と、労力と、資金と、夢と、欲望を注ぎ込んだ。

娯楽で、あった。




説明しよう!!!




「【もえもえ★シグナリア】


~絶対正義☆灼熱革命~再現レプリカ衣装(第3期Ver. 革命舞踏会編)


もえもえシグナリアは、中世ファンタジアの戦火に咲いた──

早すぎた魔法少女である!


灼熱革命編・第17話『月下の舞踏、仮面の正義』にて登場するこの衣装は、

貴族社会の腐敗にメスを入れるべく、男装し身分を偽って舞踏会に潜入した。

仮面の革命貴族・“シグナール卿”としての変身スタイル!


仮面の奥に覗く憂いの眼差し――

肩章付き燕尾ジャケットに薔薇の飾り剣――

そして黒地に紅の刺繍が光る革命舞踏会仕様のドレスパンツルック──!


まさに男装の麗人、夜を駆ける貴族と化したシグナリアが、

“絶対正義”と“階級革命”をテーマに、

貴族令嬢(=敵幹部)との決闘ダンスシーンを繰り広げる、

ファンの間でも伝説の一幕である!」



ふーん。



これ衣装の手袋?いいね。作法はこうだったよな。

ぱすっ。



――おい、決闘しろよ、タコ野郎――!!!






友情価格のグレネードランチャーの代金を盾に、俺は敗北した。

金欠である俺にとっては恐ろしい攻撃力だった。



――俺は無力だ――



今日に限って、赤い空は澄みわたり、三つの月は優しく微笑んでいた。

眩しくて涙も滲む。


革命の貴族。夜を駆ける仮面の魔法少女。その男装服。

確かに、俺は今、そういう格好をしている。

だが違う、そうじゃない。

これは違うんだ、俺はただ風呂入って爆睡してただけなんだ。

起きたらこれが用意されてたんだ。


タコ野郎、お前、今度戦場で後ろから撃つからな。


タコ野郎は呑気に口笛でも吹いてやがった。

いや、フリルがやたら多い気はするが、ギリギリ普通の貴族の衣装と言い張れるな。

元ネタは知らないが、今の貴族の間で流行っている服装に似ている気がする。


普段着用するのに邪魔な部分は排除させてもらった。

マスクとか飾り剣とか要らねーよ!工具ひとつ持ってた方が強いわ!

というか可動域凄いな。

ギアに乗れる男女兼用の戦闘服としても使える?なんだよその無駄なクオリティは。

あと男女兼用は無理だろ。腕とか足とか腰周りとかピッチピチだぞこれ。

いや、俺と体格同じだったら行けるのか?


うん、行ける!なんとか、ギリ普通の服と言い張れる!


「ヴァレリアン卿は全話観てるやで」


なんで観てんだよ!?忙しいんじゃねえのかよ!

今日は絶対会いたくないなぁ!!





「やぁ、カラスくん!カーゴキャリアの出資者の一人として私も同行しよう!

 今日は一段と”可愛らしい”服を着ているね!似合っているよ!」


にこやかで爽やかな笑顔と共に騎士サマは現れた。



oh――




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