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14話:出撃

はい、わたくしカラスは、ヴァレリアン卿の手下です。


チクショウ、完全に手のひらの上で踊らされてるな。

話はトントン拍子で進み、館の防衛ではなく暴走する傭兵の討伐をするということで話は着いた。

なるたけ街の被害が少なければ少ないほどボーナスも貰えるそうだ。安いけど。


ともかく、まずはジェネレータの修理をどうにかしなきゃならん。動かせるものが無ければそもそも何も出来ない。俺とコテツはギリギリまで調整していた。

正直、間に合うか怪しい。俺とコテツだけじゃ焼け石に水だ。

親方も慌ただしく工房の人員を総動員して、指揮と整備に走り回ってる。が、手を動かしてるのは自分が作ったジェネレータの方ばっかだ。

おい、こっち手伝えよアホ。


デカ耳は襲撃時期の調査と、工場地帯への情報の流布、あと避難誘導に回った。市民が居る状態で戦うなんて考えたくもない。

あとは戦力として考えられるタコ野郎に連絡を取ることも考えた。しかし、このクレジットでは無理だ。絶対動かん。断言出来る。

逆に相手側にも居ないだろう。傭兵をこれだけの数動かしているならば一人当たりの金額は安いはずだ。


陣地襲撃に【キャタピラ脚】が居たら負ける。

本調子の【オンボロ】に俺が乗れようが、騎士サマと【ハルバード】を足して【グラスホッパー】にコテツを乗せたところで、何がなんだろうが絶対に負ける。グレネードランチャーで焼き尽くされるだけだ。俺はお前のがめつさを信じる。来るなよタコ野郎。





寝てた。

やばい。なにがどうなってたんだったか。

ジェネレータの調整が終わって【グラスホッパー】に組み込まれた辺りまでは記憶がある。


「カラスさん、これからいつ戦闘があってもおかしくないんで寝てください。あとはやりますよ。邪魔です」


そうコテツに言われてガレージの角で寝てたな。思い出した。

起きてすぐコテツを発見する。状況どう?


「あ、起きました?お客さん来てますよ。さっさと出撃してください」


マジかよ早く起こせよ!


「今、結合が終わったんです。ジェネレータはともかく、機体との相性テストは出来ていません。出力はともかく循環液との相性が解決できてないです。稼働時間は短いと思って下さい。はい水。あと戦闘食ってわけじゃないですが補給中に食べてください。飲んだらさっさと出てください。もう傭兵たち暴れてますよ」


ぷはぁ。飲んだ。ぱしぱし顔を叩いて目を覚ます。

首をコキコキ鳴らして【グラスホッパー】の足に飛び乗り、そこから駆け上って開いたままのコックピットに乗った。大きい、古いシートだ。


「ジェネレータは暖まってるんですぐ行けます。あ、操縦系は直してないんで、”いつものように”やってください。俺あれ分かんないんですよね」


さも当然のように言われた。

ああ、うん。そうだろうな。

お前は俺の異常性を、何となく察していても、おかしくないよな。



――神経を研ぎ澄ませろ。

俺の意識が循環液を伝い、ギアの神経へと染み渡っていく。

調整は過敏だが、意思は明確。

また跳べる。おう、俺が跳ばしてやる。

従順だな。気に入った。


よし。


――やるぞ【グラスホッパー】――


循環液の鼓動が響き渡る。

カメラアイの瞳に光が灯り、まだか、まだかと、脚に力が入った。

コテツがガレージの床を動かし、欠け月が見える場所へと移動する。

膝を屈折し、脚部の油圧シリンダーに圧力を溜めた。

解放。


その欠けた月が照らす空へ向かって、弾かれるように戦場に跳躍した。




火災の煙、警鐘の音、暗い欠け月の夜の街で戦いの灯火が各所に上がっていた。

攻撃は既に始まっている。


だが、”戦闘”は俺の一撃から始まった。


近く、連携が取れていない位置の一機をスナイパーライフルで狙撃。機体構成を即座に判別。基本的な中型機か。邪魔な肩の単発式誘導弾を破壊する。

【グラスホッパー】の有効レンジは遠距離仕様に調整してあり、距離による威力の減衰が少なく、機動を余儀なくされる誘導弾を使えなくすれば、かなり戦いが楽になるだろう。


数は見えるだけでも5機。バラバラに散開している。まだ見えぬ機体も多いだろう。

マルチロックミサイルで視認できる全機に向かって、誘導弾を発射する。

初手は俺が貰う。高威力で命中精度が高い誘導弾は強力な武器だ。

コストさえ掛かるがこれほど完成した武器はないだろう。

問題はコストだ。そう。値段さえ安ければ――ー!


はい。切り替えろ。

弾速は中速だが、全ての誘導弾が、5体全部に命中した。

その衝撃でダメージを受けた各機が――なんの動きも見せない――慌ててるだけだ。

観察する。デカ耳が集めた事前情報と照らし合わせて状況を整理した。確信する。



――相手側戦力評価を”下方修正”したほうがいいな――



数の優位は完全にあちらにある。だが、“中身”の質が致命的に悪い。


まともな傭兵どもは戦争へ出稼ぎに向かい、そこで華々しく、あるいは無様に散ったのだろう。

残ったのは、素行不良で集団行動すらできない連中か、戦場に連れて行く価値すら見出されなかった半端者ばかりだ。


観察を続けるほど、その事実はますます明らかになる。


ギアの装備は見るからに粗末だ。

泥で汚れたままの装甲。塗装の剥げも放置され、全体に煤けた鈍い色。

整備をしているのか見ていて逆に不安になる。説教をしたほうがいいのか?

いや、【オンボロ】を使っていた身としては何も言えないな。

一旦は同レベルで中身が高性能、という扱いにしておこう。期待し過ぎかな。


主武装は、安価な型落ちライフルか、集弾性の悪さで有名なマシンガン。

左手には廉価なエネルギーブレードがついているのが大半だが、何も装備していない機体すらいる。


肩装備は短距離の単発式誘導弾。これは性能自体は優秀だ。【オンボロ】でも使ったことがある。だが、誰一人撃ってこない。俺をまともに補足できていないのだ。


機動も惨憺たるもので、哀れみすら感じる。


脚部が故障しているのかと疑うほど足が止まり、軸が崩れたまま、ぎこちなく銃を振るう。

飛ぶでもなく、跳ねるでもない。自分を有利な位置に動かそうという意思すらない。

射程外から弾をばらまき、命中確認もせずに当たった気になって撃ち続けている。



――いや、もしかすると偽装のつもりか?

新人のフリをした芝居ならば大成功と言えるだろう。見事な演技だ。見直したぞ。


――ダメだな。逆に自分を誤魔化して見たが、どう見ても"素"の動きだ。


なんだか悲しくなってきた。

最悪のコンディションの【オンボロ】に乗って、狙撃で三機も討ち取ったコテツを見習え。


こいつらと比べれば、ゴブリンの方がはるかに脅威だ。

あいつらには、本能から来る強烈な殺気があった。

だが、今目の前にいるのは、それすら感じさせないただの“鉄屑”だ。


グレムリンと比較した場合、ギアの構造と特性上、防御力そのものは比べ物にならないほど高い。

だが、それ以外の全ての要素で、ゴブリンが乗るグレムリンの方が上回っている。


こんな奴らに、貴重なシャードが割り振られていると思うと、怒りすら感じてきた。

シャード一つでどれほどの都市のエネルギーが賄えると思っているんだ。

うろ覚えだが、市民五百人が生活出来る計算のエネルギー量だったな。

つまり、こいつらのギアが稼働し続けるだけで、それだけの市民が迷惑を被っていることになる。


仕方がない。社会貢献といこう。


"カラス"らしく、ゴミを食い荒らしてやる。



セクター内の高層建築物は、ある基準が存在する。

はっきりと覚えてはいないが「ギアが張り付くことが出来、また蹴り飛ばすことが可能な強度を維持しなければならない」のような文面の法律が存在していたはずだ。

これには明確な理由が存在し、各セクターにスクラップが攻め込まれた場合――もしくは不幸にも、塔が街に直接落ちてきてしまった場合――の高所移動や攻撃をしやすくするため、ギアの移動の足場や、盾として使える強度を前提とされて設計をしているのだ。

つまり、要塞街の中での戦闘において、各高層建築を利用することは当然のことである。

多少の砲撃ではびくともしない堅牢さを誇っており、建物を壊す心配は考えなくて良い。

小型機である【グラスホッパー】は【オンボロ】とは比べ物にならないほど機体が軽い。

一飛びで竜型の頭上を取ることすら容易だろう。

跳躍力を最重要視した逆足関節の脚力とこの戦場は極めて相性が良い。


反面、狭くも無いが階層ごとの高低差が大きくない廃棄塔の攻略にはあまり向かない。

だから要塞街の防衛用機体ということで試作開発していたものが、採算が合わずに放置して埃を被りながら眠っていたのだろう。それを今回ヴァレリアン卿が持ち出してきた、ということになる。意図はわからん。


ここは高層型ビルディングの密集地。

雑魚傭兵どもには悪いが、それを利用できないのなら”高さ”の有利は完全に俺が頂く。

製薬会社のビルディングを足場にさせてもらい、まずは、一機。確実に落とす。


こちらに正確な照準も合わせられない機体が、マシンガンをばら撒いている。

距離とこちらの高度差で、銃弾は届きもしない。物理法則も知らんのか?


逆にこちらは、長射程の高速弾を使えるスナイパーライフルだ。一方的に、攻撃が届く。

丁寧に、銃弾をぶち込む。慌てて拙い回避を見せるが、その程度の甘い機動で、逃げられると思うな。


脚部を狙って機動力を、腕部を狙って攻撃力を、頭部を狙って感覚器を、削いだ。

循環液の赤色で地面が染まる。

トドメとして、ゆっくり狙って誘導弾を発射する。

命中。爆発。


よし。


次。



【グラスホッパー】は確かに軽い機体だ。

体感だと【オンボロ】より2割~3割は軽く、おそらく【キャタピラ脚】と比較した場合、その半分にも満たない重量しかないだろう。体感でしか無いが。

この重量では装甲もそれ相応に薄く、単純な近接格闘においても致命傷を負う可能性すらある。クロスレンジを維持し続けることなど自殺行為に等しい。


しかし、【グラスホッパー】ならば出来る攻撃方法がある。

機体を滑らせ背面シャードブースターを吹かし、重力に従い上空から強襲する。

コアフィールドにより軽減されているとはいえ、強烈な加速度を全身に感じる。

そのまま、哀れな犠牲者である傭兵のギアに、脚底の鉤爪で踏みつけて”掴みかかった”。

【グラスホッパー】の殺人的な機体速度で蹴りつけられたギアは、その衝撃を逃すことができずに道路をガリガリと削りながら滑っていく。

その上に掴み乗った【グラスホッパー】は、削れた路面を共に滑走する異様な姿勢で固定された。それを機体の揺れを脚部でいなしながら、俺は膝を深く曲げ、次の跳躍に備える。



蹴りと跳躍の二度衝撃を味わってくれ。



逆関節脚部の油圧シリンダーがその圧力を開放し、”地面”を砕き蹴り飛ばしながら、勢いよく再び上空へと飛来する。

跳躍の瞬間、足場にしていた傭兵のギアがぐしゃりと割れるように破砕され、コックピット近くの右半身から腰に斜めに裂き別れたのを上空で確認した。



移動して工場地帯。高低差を利用しづらいところだったので高速移動しながら正面で戦闘をした。ここで二機ほどなんとか耐えるやつが居たが、誘導弾を打ち切って倒した。

これで合計四機。事前情報ではまだ半分も満たない。

スナイパーライフルの弾も心もとない。

【グラスホッパー】はかなり重量に気を使っている機体で、両武装共に弾数に問題がある。

そろそろ補給しないと蹴りしか武器がなくなってしまう。

だが、俺は上空に跳躍したときに何度か、工場地帯で”光”を確認していた。

その光が灯っていた地点、ゴミ捨て場へと着陸する。

そこで活用されている作業用のライトフレームが、弾薬補給の準備を整えていた。


【グラスホッパー】の弾薬が心もとないことは最初から分かっていた。

予想では明らかに敵対する傭兵のギアの数の方が多いため、少ない弾薬ではどうあがいても途中で弾切れが起きる計算だった。

そのため途中での弾薬の補給は必須条件であり、第七セクター各所に補給のために先に弾薬をばら撒いて置いて補給するという作戦を立てていた。

場所の選定や、人員の配置に関してはデカ耳が算段を付けてくれていた。

ゴミ捨て場の作業員である知らない老いたゴブリンが、速やかにスナイパーライフルの弾薬と、誘導弾をスムーズに補給した。やったこと無いだろうに、いい腕だ。

正直、傭兵どもがここまで弱いのは想定外だったが、不要なリスクは背負う必要が無いだろう。襲撃を警戒しながら俺も、コテツから貰った戦闘食と水を体内に補給する。寝起きのまま出撃したからな。血肉がほしい。ぷりぷりとした海老が入った硬めのパンをガツガツと食べて、ゴクゴクと水を飲む。

ふう。一瞬落ち着く。今の一瞬なら気を緩めて大丈夫な気がする。結果的に大丈夫だった。

結構汗だくだったことに今更気がつく。身体が汗で冷える。ガレージ暑かったからな。

タオルがほしいところだが、そんなものはない。着ているタンクトップで顔を拭く。

まだ今夜は長いぞ。意図的に緩めた集中力を再度、張り詰めるように気持ちを切り替える。


よし、補給も終わったか。作業が早い。


俺は、この老ゴブリンに敬意を感じた。

第七セクターのどこでも、戦場になるのが分かりきっていた。

なのに、作業用ライトフレームに乗り、補給のためにこの場に残ってくれていた。


ライトフレームのゴブリンさんよ。

助かったぜ。死ぬなよ。その仕事と勇気に、敬意を。


ライトフレームが手を振って挨拶をした。

人生でこの一瞬だけしか邂逅しなかった名も知らぬ戦友へと別れを告げ、俺はすぐさま跳躍して戦場に戻った。



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