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塔が空から落ちてくる世界で、機動兵器に乗る傭兵やって生きてる  作者: 梅酒わいん
mission3:第7セクター防衛

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12話:列車

 

 騎士サマから得た報酬額は、破損したジェネレータの修理に当てても、まだ余りが出るほどだった。

「次も頼むぞ」とか、冗談めかしてはいたが──どうも本気に聞こえたな。ま、考えるのは後でいい。


 クレジットに余裕がある今のうちに、【オンボロ】と拾い集めたパーツを、第七セクターへ運び込むことにした。

 そこは工業セクターであり、コテツのホームガレージもある場所だ。鉄道のギア用コンテナをふたつ確保し、機体とパーツを詰め込んで移送する予定だ。


 急ぎの案件でもないし、輸送スケジュールに割り込む必要もない。

 流石に数日くらいは、ゆっくり休ませてもらおうと思う。


 シャードジェネレータが遂にぶっ壊れたらしく、【オンボロ】はまるで燃え尽きたかのように沈黙していた。

 この熟睡っぷりはもはやテコでも動かない。カーゴキャリアからの移動だけでもひと苦労だったため、仕方なくライトフレームをレンタルして荷運びを済ませたところだ。


「ワイ、いまクレジットが入用なんや~カラスはん! 勉強させて~!」


 タコ野郎とは、ドラゴンのパーツの分配で少し揉めかけたが──

 あいつはクレジットを優先してきたため、【キャタピラ脚】に接続されている腕以外のパーツはほとんどこちらに回ってきた。ついでに装備していたオートキャノンもこちらで引き取った。

 まあ、グレネードランチャー至上主義としては、オートキャノンなんざ興味ないんだろう。

 小数点まできっちり計算する、いつも通りのイカれたクレジット分配を終え、タコ野郎と別れることになった。


「また、すぐ会いまひょ~」


 赤い触腕をひらひらと揺らして、背を向けたまま奴は去っていった。

 別セクターへ買い物に行く用事があるらしく、短い間だけ組んでいた即席の傭兵団もここで解散だ。ま、どうせまたすぐ組むだろ。

 騒がしいやつが居なくなると、街の喧騒ですら少し静かに感じられる。


「じゃあ、カラスさん。僕も先に親分のところに顔出してきますね。パーツ、集めておきますよ」


 そう言いながらコテツは、鉄道の移動計画書と、自作したパーツ一覧の目録をぱらぱらと確認していた。俺の存在などそっちのけで、淡々と手続きを進めていくその様子は、まるで「あとは勝手にやっておきますよ」と言わんばかりに雑な別れ方だった。おい、今回の仕事に連れていったのは俺だぞ?

 とはいえ、コテツの信用は強い。わざわざ連れて行っただけあり、確実な仕事をしてくれるだろう。【オンボロ】とパーツはコテツに託し、予定通り先に第七セクターへ向かってもらった。

 そもそも【オンボロ】は、あいつに売却する約束をしていた機体だ。とはいえ、まだそれは口約束に過ぎず、クレジットの支払いや正式な契約はこれからだ。

 つまり、所有権は今も俺のままってことになる。


 そんなわけで、第七セクターにあるコテツが所属しているガレージの、所有者である親分のもとで整備と新たなギアを組みあげようと、計画を進めているところだ。


 *


 俺の移動は一日ほど遅らせた。

 少しばかり、状況を見ておきたかったからだ。

 いつものタンクトップに作業ズボン。工具が入ったベルトポーチに作業用手袋を突っ込む。それと一応護身用の拳銃を仕込んだジャケットを羽織って、第三セクターをぶらつく。


 道すがら、練った小麦の中に惣菜を詰めて焼いた軽食をかじりながら、情報収集を兼ねて街を歩く。

 するとすぐに、洒落た服を身にまとったゴブリンが、するりと俺の隣に現れて並び歩き出した。


「へへ、カラスの旦那。ご健勝でしたか」


 情報屋の“デカ耳”ゴブリンか。今日も洒落た帽子だな。

 この耳聡いゴブリンは、街中の噂を拾い集めては、それを情報として売っている。

 背丈は俺の胸元ほど。こちらを見上げつつ、口元には抜け目ない笑みを浮かべている。

 カラフルなスカーフに上物の服を着こなし、まるで街角の貴族気取りだ。

 やはり、街のゴブリンと外のゴブリンは別物だな。


 今はパーツショップが集まる一帯に来ている。

 傭兵が出張っているとはいえ、パーツを買い集めている技術者たちを中心にそこそこの人気があり、それを相手にする露天もちらほらと見かける。

 俺は露天で蛇肉の串焼きを数本買い、二本をデカ耳に渡す。二人でそれをかじりながら、街を連れ立って歩いた。

 デカ耳は洒落者だが、決して上品とは言えない。クチャクチャと音を立てて肉を噛みながら、話を進めていく。

「カラスの旦那、竜狩りを成功させたって噂じゃねぇですか。羽振りが良くて助かりますぜ」

 さすが“デカ耳”だな。聞きつけるのが早い。

「なァに、大した話じゃありゃせん。戦争で大負けした代わりに、旦那とあのタコ野郎の戦果を宣伝してたんでさァ。ゴブリン討伐までやったって話も聞いてますぜ。話題が欲しかったんでしょうよ」

 外でのゴブリンの討伐を、実に見事で痛快と言わんばかりに語った。

 街のゴブリンと外のゴブリンの間では、同族としての意識は無いらしい。

 デカ耳はせっかちに串焼きを一気に食べ、手についたタレをペロペロと舐めた。

 品がないぞ。というか勝手に持ち上げられて、こっちはたまったもんじゃない。誰だそんな情報流したのは。


 そういや被害状況はだいたい聞いているが、詳細分かるか?

「へぇ、状況ですがね。騎士団が一つ、傭兵団が四つ、カーゴキャリア三台。それと、貴族は鉱石系と工業系が一人ずつ死んだとか」


 騎士サマから聞いた情報と一致しているな。デカ耳が聞いているのならば、ある程度広まるのは時間の問題だろう。情報統制は失敗していると見ていい。

 しかし、あらためて数字で突きつけられると、思考が鈍る。

 騎士団の機体が六機――シャード換算で十八基。

 傭兵団が四つ、それぞれ六人編成で――二十四基。

 カーゴキャリア三台にも、仮に二基ずつ搭載していたとすれば――六基。


 最大で合計で四十八個のシャードが喪失した。


 たしか一基のシャードでちょっと切り詰めて五百人分のエネルギーを賄える。

 つまり、ざっと見積もってだいたい二万四千人分か。

 要塞街のセクター一つ、あるいは小規模都市が丸ごと機能停止するに等しい大損失だ。


 流石に多少は回収しただろうし、機体に搭載されている数も多めに見積もったが、これは数字の上でも大負けだ。何があったんだ。


 そして死んだのは第二と第七セクターの貴族か。嫌になるぜ。

 第八セクター以降の下級貴族ならマシだったんだが、厄介だな。


「お察しの通り、他セクターからの“ちょっかい”が増えてきてます。主要な傭兵団は軒並み壊滅しましたが、残ってるのは“質”か“品性”が悪い連中ばかり。こりゃ、大規模な取り合いになりますぜ」


 今度は、海老肉を小麦で包んで蒸した軽食を買い足し、デカ耳にも渡す。

 そのまま二人で、ひっそりと路地裏へ入った。

 狭く、暗く、配管が邪魔で空気が滞留した場所であるが、コソコソ話にはちょうどいい。


 熱く蒸した生地を、はふはふと口で冷ましながら食べる。ん、雑な旨味が実に美味い。


 さて、誰が動いてるか、調べられるか?

「ええ、お代は頂きますがね。ただ、お安くしますよ。なんなら赤字覚悟でもいい」

 ほーん。わざわざ俺のもとへ来るとは、よほど切羽詰まっているらしいな。

「へえ。いつもお世話になってる旦那に、不義理はしたくなくて。

 正直、街のゴブリンも立場が怪しい。暴力沙汰も頻繁にある。

 最悪の場合は、一族の庇護をお願いに、旦那を頼るかもしれませんぜ」

 そんなに状況が悪いのか。

「ええ。都市保安局はゴブリンなんかのためには、動いてくれんでしょう。

 騎士団はなおさらです。第五はともかく第七で暴れられても、今の状況なら静観を決められちまう。

 第七には糸紡ぎや手芸、ちょっとしたモノ作りをしている一族がいくらでも居るんでね。

 だから、今のうちに手を売っておきたいんでさァ」

 俺も大したことは出来ないぞ。なにせ機体がぶっ壊れたばっかりだからな。

「へへっ、そんなこと言って。どうせ旦那は、なんだかんだやってくれるんでしょう?」

 買いかぶるんじゃねぇよ。こちとら普通の傭兵だよ。タダ働きはしないぞ。

「ははは、そりゃお互いサマでさァ」


 デカ耳とは第七セクターで再び落ち合うということで話をつけ、別れた。

 はあ。

 やれやれ。どうやら、ゆっくりとした休暇というわけにはいかないらしい。

 本当なら、パーツをひと通り見て回った後は、図書館でも覗いて静かに過ごすつもりだったんだが。

 どうやら、その暇すらなさそうだ。



 *



 高架鉄道に揺られながら、セクター間を移動する。

 第七までのセクターは機能が分割されある程度特化した役割を持つ。


 食料と水の大部分を管理する農業区である、第一セクター。

 多くの鉱山資源を抱え、やや孤立した採掘区、第二セクター。

 外縁部として防衛と攻撃を担い、騎士団が駐屯する、第三セクター。

 貴族たちが方針を決定する行政と学問の中心、第四セクター。

 カーゴキャラバンを搬入できる商業の中枢、第五セクター。

 娯楽施設が多く、市民の居住区でもある、第六セクター。

 工業区として整備され、開発研究を担っている、第七セクター。


 第八以降のセクターは、各機能を複合的に持たせた「街」としての自律性を重視した構造になっている。

 第七まではセクター単位で特化しているが、それ以降は一万前後の市民を抱える、準独立型のユニットといった具合だ。特化セクターが機能不全を起こした場合の、バッファとしての役割を兼ねているため、多少非効率だが独立した機能構造を有している。


 鉄道は、行政区である第四セクターか、居住区である第六セクターを経由することで、一通りのセクター全域にアクセスできるようになっている。

 正直な話、なぜ防衛区である第三セクターと工業区である第七セクターが直接繋がっていないのか、疑問ではあるが、地理的に隣接していない以上、仕方ないのだろう。

 第七と第五と場所を入れ替えろ、と思うが商業区の位置を考えた場合、この配置が自然なのかもしれない。いや、権力争いの結果なのかもしれないが。


 鉄道車両にはほとんど窓がなく、硬質な椅子に座ってガタガタと揺られることになる。

 まあ、仮に窓があったとしても、見えるのは無骨な建物か、排気蒸気くらいのものだ。


 それでも、ギアで移動するよりは遥かに滑らかな振動で、妙な感動すら覚える。

 市民の間では「もっと線路を整備しろ」と苦情が出ているらしいが──

 こんなもので文句を言うようじゃ、ギアになんかに乗れたもんじゃないだろう。




 取られるような荷物もないし、すこし微睡んできたな。

 ゆりかごみたいな列車の振動に身を委ねていたそのとき、突如、鼻が戦場の匂いを嗅ぎつけた。


 一気に覚醒した俺は、車両内を見渡す。状況を把握しろ。

 乗客はぼんやりと窓を見たり、軽食をつまんだりしていて、まだ何も異変は発生していない。




 そして数秒後。車両前方の扉が爆音を立てて吹き飛んだ。


「ここに居たかァ! 錆びカラァァス! ヴァレリアンの手下がァ!!」


 現れたのは、肩から蒸気を噴き上げているモヒカン頭の義腕の傭兵だった。

 背丈は2メートル近くある。膨れ上がった両腕は金属の塊と化していた。

 まるで鉄製の塊で殴るためだけに進化したような腕だ。飯どうやって食うんだろ。

 あと別に騎士サマの手下じゃないぞ。


「俺様はジャック・ザ・ハンマー! テメェをブチのめしに来た!」


 周囲の乗客が悲鳴を上げ、慌てて席を立つ。

 だが、通路を塞ぐように部下らしいチンピラ傭兵が三人、手に電熱棍を持って立ちふさがった。


 は?なに?列車内で襲撃?正気か?


 俺は座席に手をかけ、身を起こした。

 なんか騎士サマの手下だと思われているらしい。そんな事実は全く無いんだが。

 帰ってきて一日で襲撃仕掛けてくる短慮なやつに、正確な情報は必要ないらしい。


 ところで錆びカラスってなに?聞きなれない異名だな。


 ゆっくりとバカが――いやなんというか、さっき名乗っていたがバカでいいとしよう――こちらに歩いてきて、首をゴキゴキと鳴らしながら金属の拳を握った。


「錆びカラスが。前から気に食わなかったぜェ。 クソチビのくせして、俺様より派手な活躍しやがる。 ここらで一発、痛い目を見てもらわなきゃならねェんでなァ。 なァに、死にはしねェよ。病院送りにするだけで勘弁してやらァ 」


 俺は通路に立ち、バカの目を見ながら正対して、煽った。


 てめぇと比べりゃそりゃチビだろガラクタ筋肉ダルマ。こんなクソ狭い列車内で襲撃とか、善良な市民サマどもに迷惑がかかるだろう?脳みそ無いのか?おおっと腕と一緒に機械化でもしたのか?どうやらスクラップと同レベルまで落ちたらしいな。邪魔だからすぐ下車してくれ。全速走行中だがその自慢の両腕なら、まぁ生き残るだろうよ。ほれ、ガキじゃないんだからさっさとやれよ、赤ちゃんか?そのあんよでハイハイできまちゅか~?バブバブ~?


 俺が煽り返したら、バカがブチギレた。

 バカは雄叫びを上げて突っ込み、肩の機構から蒸気を吹き出しながら金属の腕をこちらへ振り下ろし――俺は手を軽く添えて、その攻撃をいなし、横へ跳ぶ。

 するりとベルトポーチからレンチを取り出し、振り上げてバカの顎を強打。

 俺の振り上げがカウンターとなり、自身の強力な攻撃と相まって、顎から強烈な衝撃が脳を突き抜けた。鈍い音がバカの頭の中で響き、揺らす。

 バカの首がぐらつき、瞳が一瞬、焦点を失い彷徨う。脳震盪だ。


「がっ――! ぐェ!!」

 肩の力が抜けたようにふらつき、バランスを取れずによろめく。

 追撃。隙を逃さず、座席を利用し軽い体重を全部掛けて両足で、胸板を蹴り飛ばす。

 重心を崩したバカは、鈍い音をズシンと立てて、車両の床に倒れ伏した。


 工具入れにレンチをしまって、パンパンと手を払う。

 三秒で沈黙。後続のチンピラどもは、その場で凍りついていた。




 さ、降りろ。今。すぐに、だ。




 チンピラたちは少し脅しただけで、悲鳴を上げながら別車両へと逃げていった。まぁいいや、なんにも役には立たんだろ。

 残された改造バカが呻きながら吐き捨てる。


「――テ、テメェ――錆びカラスゥ――覚えてろよ――」


 力無く筋肉ダルマが呻いた。お前襲撃側だろ。

 勝手に因縁振っておいて覚えてろとか、面倒くせえな。

 このクソ重いガラクタをドアまで引きずり、走行中の列車のドアコックを操作し扉を開く。

 そこへと、バカを蹴飛ばし車外へとダイブさせた。いい子は真似するなよ。


「う、うわぁぁあああああ!」


 激しい水音と共に水柱が立つ。おお、第六セクターの公園ため池だったか。運いいじゃん。

 さて、元の車両のところに戻って、巻き込まれただけの同乗者たちへと説明する。



 さ、善良な市民サマがた。お騒がせしました。破廉恥な賊は討伐しました。あとはどうぞ、ごゆるりとおくつろぎながら旅をお楽しみください。



 なんだか困惑した拍手を頂けた。ちょっと照れるな。

 後の時間は到着まで熟睡した。流石に二回目の襲撃はなかった。

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