第十八話 エーレンシュタイン視点・農奴解放への取り組みを始める
ハインリヒ・エーレンシュタインは、農奴制度を廃止しようとしている。
農奴制は健在であり、帝国本土貴族が豊かな生活をするための土台となっている。
ハインリヒ・エーレンシュタインは、自身が本土貴族でありこの制度の恩恵を受ける立場にも関わらず、この制度の改革に乗り出したのだ。
ハインリヒは、ある人物を師匠と仰ぎ、自身の影響力をアダム・スミスの意向に従って行使している。
アダム・スミスとは魔人である。
マルクスが呼び出した左翼魔族と相対する右翼魔族。この一角を担っている。
右翼魔族を率いる者、つまりマルクスと同じ立場に居るのがハインリヒ・エーレンシュタインだ。
マルクスは、初日にハインリヒと会っている。マルクスはあまり気に留めていなかったが、ハインリヒの方はマルクスを訝しんで秘密警察を差し向けていた。
秘密警察から入ってくるマルクスの動向。ハインリヒは警戒した。
憶質ショップでランプと魔人を購入したこと。神官長と懇意にしていること。ギナジウムを経営していること。新聞ギルドに交渉していたことなど。
まるで、ハインリヒが水面下で動かしている計画、農奴宗教の廃止とプロレタリア宗教の創設およびプロレタリア宗教の基軸宗教化という計画を潰すために動いているように見える。
現在の宗教情勢だが、王権神授説を根拠としたツァーリ教が基軸宗教となっている。ツァーリ神殿が首都に建設され、地方にはツァーリ教会をフランチャイズすることで、影響力を高めている。
次点では鎌槌教。その後は有象無象のカルト宗教が影響力を高めるために策を弄している。
ハインリヒのプロレタリア教も、この有象無象のカルト宗教から始めることとなる。
ハインリヒは、これまでのマルクスの行動から、マルクスが新興宗教を立ち上げようとしていると考えた。
ハインリヒのプロレタリア教と競合する形となるため、先手を打ってマルクスの宗教を潰しておきたいと思っている。
宗教を創設するメリットは、法と統治の局所的諸原理を制定することができる点にある。独自の秩序体系を構築し、それに沿って生活を営むことができることが、1番の利点である。宗教が複数存在することにより、所属できる国家、所属できるギルド、所属できる私的コミュニティなどが制限される。どの宗教に加入するかによって、生活が大きく異なってくるのだ。
ハインリヒは現在、アダム・スミスの進言を取り入れたプロレタリア教の局所的諸原理すなわち聖書を作っているのである。




