新年、初めての初詣と甘い時間
新しい年の訪れを告げる鐘の音が静かに響く中、私たちは家を出た。
今日は、すばるさんとその大学時代の友人、ゆうきさんと遥香さん、そして子どもたちと一緒に初詣に出かける特別な日だ。
――初詣なんて、私にとって初めてのこと。
小さい頃から憧れていたけれど、これまで縁がなくて叶わなかった。だけど、今日はこうしてみんなで神社へ向かう。隣にはすばるさんがいて、子どもたちの笑い声が周囲に響いている。
「れんくん、りおちゃん、ちゃんと手をつないでねー!」
遥香さんが柔らかい声で子どもたちに呼びかける。
「はーい!」
れんが小さなりおの手をしっかり握りしめて、得意げに胸を張った。その姿がなんだか微笑ましくて、自然と頬が緩む。
「あゆみちゃんも!」
りおが私の手をぎゅっと握り、笑顔を向けてくる。
――ああ、こういうの、すごくいいな。
心の奥から温かさがじんわりと広がる。この瞬間が永遠に続いてほしいと、ふと思った。
神社に到着すると、参道は大勢の人で賑わっていた。灯籠が暖かな光を放ち、足元の石畳を優しく照らしている。冷たい空気の中で、なんだか特別な空間に迷い込んだようだった。
「すごい人だね!」
れんが興奮気味に声を上げ、りおも「ねぇねぇ、あれ何?」と屋台を指さした。
「わたあめだね。あとで買ってあげるよ。」
すばるさんが優しい声で答える。
「でも、泣かないでよ?あれすぐに溶けるから。」
と、少し意地悪っぽく笑うすばるさん。
――ほんと、どっちが子どもなんだか。
その言葉にれんが「パパ、そういうのずるい!」と抗議する。私もつい吹き出してしまった。
参道の列に並んで手を合わせる準備をしていると、ふいにゆうきさんが口を開いた。
「なぁ、すばる。せっかくだから、あゆみちゃんと二人でゆっくり回ってこいよ。」
「え?でも――」
「俺たちが子どもたちを見てるから心配ないって。」
遥香さんも微笑みながら「たまには二人きりの時間も大事でしょ?」と背中を押してくれる。
「じゃあ…お言葉に甘えて。」
すばるさんは少し照れたように私を見て、そう言った。
二人きりで歩く参道は、さっきまでの賑やかさとは違って静かで穏やかだった。
「すごいね、こういう場所って。」
すばるさんがふっと呟く。
「はい。なんだか神聖な感じがして、ちょっとドキドキします。」
私たちは手を合わせ、おみくじを引き、絵馬を書く。一つ一つの瞬間が特別に感じられて、胸がじんわりと温かくなる。
「おみくじ、中吉!なかなか良いんじゃない、これ!」
と自信満々なすばるさんに対して、私は満を持してこれを見せた。
「じゃーん!大吉です!!」
「え!?僕も大吉欲しかったんだけどなぁ。」
彼の膨れっ面が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「強欲は良くないですよ。中吉はまだ上があるってことですから、努力次第です。」
その言葉に、すばるさんは苦笑いしながら「君って、ほんとに前向きだよね」と呟いた。
――その笑顔が反則なんですけど!?
最後に屋台で買った甘酒の湯気が、私の頬をじんわりと赤く染める。
「これ、温まるよ。」
渡された小さな紙コップから、心まで温まるような香りが立ち上る。
「ありがとうございます。」
ふと彼を見上げると、穏やかな笑顔がそこにあった。その横顔を見つめるうちに、胸がまたドキドキしてしまう。
家に帰ると、子どもたちは遊び疲れてすぐに眠りについた。その後、大人だけの新年パーティーが静かに始まる。
「じゃあ、乾杯!」
ゆうきさんの掛け声で、グラスが軽やかに鳴り響く。
「遥香さぁん!」
私はお酒の勢いで遥香さんに甘え始めた。
「もう、あゆみちゃん、甘えすぎ!」
困ったように笑う遥香さん。
「だって、遥香さんの安心感がすごいんですもん…。」
「おいおい、すばる。あゆみちゃん、こんなに甘え上手だったっけ?」
ゆうきさんがからかうように言うと、すばるさんは少し苦笑しながら答えた。
「お酒飲むと、たまにね。きっと、それだけ楽しかったんだよ。」
そんなやり取りの中、私は気づけば眠っていたようだ。
まどろむ意識の中で聞こえてきたのは、ゆうきさんと遥香さんの静かな会話だった。
「なぁ、遥香。」
「ん?なに?」
「あの二人、ほんとにいいよな。」
遥香さんは少し驚いたように眉を上げた。
「急にどうしたの?」
「いや、なんていうか…あいつ、ちゃんと幸せそうだなって思ってさ。」
「確かにね。なんだかんだで、お互いを支え合ってる感じがして、見てて良いよね。」
「そうそう。俺らも見習わないとなぁ。」
「ふふっ、そうだね。」
二人の穏やかな声に包まれながら、私は今日の幸せな一日を思い返す。
――なんか、こういうの、いいな。
隣で寝ているすばるさんの優しい息遣いを感じながら、静かに目を閉じた。