先生からの忠告、かわいい彼女には要注意
相談の結果、近くの大型複合施設に行くことになった。
あそこであれば、ショッピングに水族館、カフェなど、ありとあらゆることが楽しめる。
「近くのパーキングに車を止めてるから、ちょっと待ってて。」
すばるさんがそう言い、駐車場へ向かう。
「あの、すぐそこが駅だし、電車でも良いですよ?」
そう提案すると、彼は振り返りながら笑った。
「歩くの疲れるでしょ?目的地でたくさん楽しんでもらわないとだし。」
――ああ、なんて優しいんだろう。
慣れない靴を履いてきたのがバレたのかもしれない。
それに……。
「ん?」
「車なら二人っきりだしね。じゃあ、ちょっと待ってて。」
――でたよ、また!
たらしスキル!!これ絶対、他の人にもやってない?
大丈夫!?これ、みんな惚れちゃうやつじゃん!
……あ、もしかして元奥さんにもこうだったのかな……。
――って、やばい!そんなこと考えちゃだめだ!
ほら、もう鬱スパイラルに入るから!考えない考えない!
心の中で必死に自分を落ち着かせていると――。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
――え?
顔を上げると、見知らぬ男性が立っていた。
「君、すごくかわいいけど、誰かと待ち合わせ?」
――やばい。すばるさんが言うより、なんか気持ち悪いんだけど……。
「あ、えと……」
声が出ない。頭が真っ白になる。
「実は君に一目ぼれしちゃってさ。連絡先、教えてくれないかな?」
――断れ、私!こういうのは絶対ろくなことにならないから!!
心の中で必死に叫ぶけど、口が動かない。もどかしい。
そのとき、どこかからエンジン音が聞こえた。
ブォン、と派手に響く音とともに、一台の青いスポーツカーが近くに止まる。
――で、でっかい羽根!?いや、なんだか机みたいでちょっと笑っちゃう。
って違う違う、目の前のサーフィンしてそうな男性に集中しないと!
「……彼氏がいるので!」
やっとのことで言葉を吐き出した。
――言えた!しかも「彼氏」って!
でも、目の前の男は引き下がる気配がない。
「えー、そっか。まあ、でもさ、おれならこんな可愛い子を一人にはしないけどなぁ~。」
――いやいや、そんなの知るかぁ!!
頭の中で再び混乱しかけたそのとき、青い車のドアが開いた。
すばるさんが、ゆっくりと降りてくる。
「お待たせ。」
静かだけど、はっきりとした声が響いた。
青い車から降りてきたすばるさんは、どこか涼しげな目で私と男性を見た。
あの独特の余裕が漂う表情は、なんだか頼もしくて――でも、少しだけ怖いくらい。
「あ、もしかして……彼氏?」
男性が少しだけ眉を上げる。
すばるさんはその言葉に、特に表情を変えずに近づいてきた。
「そうだけど。」
さらりと答えたその声に、妙な圧があった気がする。
「君があゆみちゃんに何か用?」
――あゆみちゃんって言った……!
男性が少し戸惑った様子で、後ずさりしながら言う。
「いや、別に。ちょっと声かけただけだけど。」
「そっか。」
すばるさんは小さく頷いてから、優しい笑顔を浮かべて私に手を差し出した。
「行こっか。」
その一言が、なんというか……全てを包み込むような安心感をくれた。
「は、はい!」
私は急いでその手を取り、彼の隣に立つ。
そして、立ち去ろうとした瞬間――。
「そうそう。」
すばるさんが、ちらりと男性に振り返りながら言った。
「先生からの忠告なんだけど――。」
男性がきょとんとした顔で立ち止まる。
すばるさんはそのまま、穏やかな口調で続けた。
「こんなかわいい子が一人なわけないだろ?もし一人だったとしても、それはきっと誰かを待っているに違いない。」
彼の声は柔らかいけど、その言葉には妙な重みがあった。
「だから、次からは『誰を待っているか』ちゃんと確認した方が良い。それに――」
一瞬だけ目を細めて、笑顔を浮かべるすばるさん。
「むやみやたらに声をかけるなよ?こうやって“ややこしい彼氏”が来るかもしれないからさ。」
か、彼氏ー!!!!!!!!
男性は気まずそうに目をそらし、「そっか、悪かったな」とだけ呟いて立ち去っていった。
すばるさんは最後に「じゃあ、良い一日を」と軽く手を振り、その場を収める。
――なんか、めちゃくちゃ大人だし、かっこいい……!
胸が高鳴るのを抑えきれないまま、私はすばるさんと一緒に車へ向かった。




