恋する乙女の心臓は限界です!!
デート当日。
とりあえず駅前のカフェで待ち合わせて、今日の行き先を相談することにした。
「で、今日はどうしようか?」
すばるさんが軽くコーヒーを飲みながら尋ねる。
「えっと……どこか行きたいところありますか?」
緊張しながら返すと、彼は少し笑って首を横に振った。
「いや、あゆみちゃんが行きたいところでいいよ。」
――そう来るんだ。さすが先生、いやすばるさん。マイペースというか、自然体というか。
何も決まっていないけど、こうやってゆっくりしていくのが先生らしいって言えばらしい。
計画立てて時間に追われるより、気の向くままに進むのも案外心地いいな、なんて思った。
そんなことを考えていると、すばるさんが不意に口を開いた。
「そういえば……あゆみちゃん、ちょっと髪切った?」
「え?」
思わず顔を上げる。
「切ったけど……なんで分かるんですか?」
「いや、今日、いつもよりかわいいから。」
――おわーっ!?
心臓がギュンと跳ねた。トランポリンした。
なんか言い方が余裕ありすぎる!
これが……これが大人の余裕ってやつ!?
「まずい……私の心臓の高鳴りがばれたら、なんかダサいぞ!」
心の中で大慌てしながらも、表面上はなんとか冷静を装う。
「そ、そんなことないですよ!髪切ったくらいで!」
とりあえず笑顔を浮かべて返したけど、耳まで真っ赤になっている自覚がある。
その一方で、すばるさんはコーヒーを一口飲んで、のんびりした笑顔を浮かべているだけだった。
――ズルい。なんでそんなに落ち着いていられるの!?
「それにその服装、なんか大人っぽいね。すごく似合っているよ。」
「……!」
な、なんだ!?
これが陽キャってやつ!?もしかして先生、天性のたらしなのか!?ナンパ師!?
いやいやいや、まずい!恋愛上級者に飲み込まれるな!がんばれ、わたしー!!
「そ、そうですか? 先生こそ、いつもと雰囲気が違って――」
――あれ?何を言ってるんだ私は!?
しかも「先生」って呼んじゃった!いや、付き合う前からそう呼んでたからクセなんだけど、でも、でも!
「それに……このカフェ、付き合う前から来てましたよね?だから私服なんて。」
――わー!! 言っちゃった!!
付き合う前って言っちゃったよー!!!
付き合っているんだなー、私たち!
自覚したら、にやけが止まらないよー!!
もう、冷静さなんてどこかに吹っ飛んでる。
必死に飲みかけのジュースに口をつけてごまかす。
「そうだね。」
先生――いや、すばるさんが、少しだけ照れくさそうに笑った。
「でも、その前の担任としての期間の方が長いじゃん? だから、制服の方のイメージがあって……だから、いつ見ても私服って少し新鮮で、かわいく見えるよね。」
――ノックアウト――!!!
あれ?なんで先生、そんな照れた表情しているの!?
余裕ありそうに見えたり、照れて見えたり!
なに!?もう!!!無理!!!
心の中で叫びながらも、わたしはその顔をじっと見つめてしまっていた。
こうして静かに話しているだけで、胸の高鳴りが止まらない。
――これが「付き合う」ってことなんだ。
落ち着け!落ち着けわたし!別のことを考えるんだ……
新鮮って、寿司ネタみたいな言い方するやないかーい!
よし、これで少しは紛れた。
ここまでわずか0.5秒!さすがわたし!
落ち着いたカフェの中、わたしの心だけがやけに騒がしい。




