ルームメイト ROOM 【MATE】
「出ていく。もう君とは暮らしていけない。うんざりだ」
誠一が睨みつけながら言うと、タロウはその視線を真っ向から受け止めた。
「こっちのセリフ。どうぞ出ていってくれ」
「どうせ引き止めるんだろう?」
「まさか。これでルームシェアが解消されると思うとせいせいするよ」
「それじゃあな」
誠一が自分の荷物をもって部屋を出ていこうとすると、タロウは「待った」と声をかけた。
「ほら、止めた」
「オレのキャリーケースを持ってどこに行くつもだ」
「行き先は言わない。これから私には私の人生がある。これからは別々の時間を過ごす。潔く別れよう」
誠一が差し出した手を、タロウは思わず握ってしまった。
その時誠一の腕に反射するあるものが目に入った。
「待った! それはオレの時計だ!」
「今言ったばかりだろう。これからは別々の時間を過ごそうと。私の時間は私のものであり、君の時間は君のもの」
「その通りだ。でも、時計はオレのもの」
「いいかい? 時計の針は戻らない。君が後悔しても遅いんだ。私はこの足で、この家を出ていく」
「待った……それはオレの靴」
「まったく……出ていって欲しくないなら。素直にそう言えばいい。何も恥じるとはない。私に濡れ衣を着せたことだけを謝ってくれれば」
「待った……オレの上着だ。見当たらないと思ったんだ」
「さっきから待った待ったと。相撲でも待ったは三回までだ。それも君の一人相撲だがな」
「さっきからいいたい放題言ってくれてるけど、全部オレのものだろう? 他人の褌で……まさか!?」
タロウは誠一に飛びかかると、押し倒して、ズボンのベルトへ手をかけた。
「なるほど……君がルームシェアに誘ったのはこれが理由か……。これで理由がわかった。タロウが私を引き止める理由がな」
「オレの下着だ……」
見覚えのあるパンツにタロウは驚愕した。
「そういうことを言うから君はモテないんだ。下着を見れば自分のものだと勘違いするクズ男の意見だ。いいか? クリスマスのプレゼントのように乱暴に破るものではない。たとえリボンが付いていたとしてもな」
「あーもう! こっちが出てく。もう誠一とは暮らしていけない。うんざりだ!!」
「そうしろ。いちいちあれこれ言うなら、君が出ていくべきだ。最初からそうするべきだったんだ。ちょうどよく君の荷物はここにある」
誠一は着ているタロウの服を全て脱ぐと、キャリーケースをマネキンのように着飾った。
「謀ったな……」