第六章~巻き込まれてく運命【さだめ】(後編)~
第六章〜巻き込まれてく運命【さだめ】(後編)〜
「……で、綾兎」
「なんですか?」
僕はおずおずと顔を上げ、綾兎を見つめる
綾兎はきょとんとした表情で不思議そうに僕を見る……うぅ……顔が近い
そして微妙な視線のぶつかりあいと沈黙が暫く続いた後、僕は少しずつ溜め込んでいた言葉を放った
「……いい加減、そろそろ放してくれないかな……涙は殆んど収まったからさ」
「えーっ」
「『えーっ』て、何其の反応……いや、なんというか……此のままだと危険なフラグが建つ気がして……状況的にお母さんにあやされている子供みたいだし……うぅ」
「ぶーっ」
「ブーたれてもこればっかりはねぇ……ほら綾兎さん、放してくださいな?」
僕は綾兎の背中をぽんぽんと叩き、優しく訴える
綾兎はボクの言葉を聞いて「……仕方ないですね」と呟き、僕を抱き締めていた腕を下ろした
僕は解放された身体を「んーっ」と上にぐにーっと伸ばした後、流した分の水分を補おうとローテーブルに放置していたオレンジジュースに手を伸ばし、喉を潤そうと口をつけ――――
「……杏の体温、温かかったですぅ(ぽあん)」
「ぶはっ」
「……杏、汚いです」
嫌そうに顔をしかめる綾兎
……すみません、盛大に吹き出しました……確かに汚い……って
「綾兎……頼むから誤解を招くような発言はやめてよ……」
「……? どういう事ですか?」
ローテーブルの上に備え付けてあったティッシュ箱を引き寄せ、溢したオレンジジュースを拭き、脇に置いてあったゴミ箱に捨てる
綾兎は自分の分のオレンジジュースを飲みながら疑問符を浮かべていた
「……天然で発言しているわりにはピンポイントに痛い所を突いてくるのか……」
「全て狙ってやっていることですけどね」
「っ!? 駄目だ此の子、早くなんとかしないと」
ニヤリと怪しい笑みを浮かべた綾兎を横目で見て、思った事を其のまま口にした
綾兎がアリス同様に腹黒くなる前に何とかしないと……もう手遅れかも知れないけど
「昔から人に抱き締められるのが一番安心するんですよ〜 だから杏にも其の感覚をお裾分けしましたのです♪」
……言ってる事に同感できる部分もあるけれど、僕だったら恥ずかしくて口にできない事を述べる綾兎に、呆れを通り越して関心を覚える
只、『経験者』として一言忠告
「綾兎……性に飢えている人が聞いたらハグ所じゃ済まなくなるからね?」
「! 分かってます」
……そういう所はちゃんと分かって居るんだ
安心したよ……ま、経験者といっても僕の場合は只単に告白してきた相手が僕を女の子だと勘違いして、僕が男だと明かしたとたん逆ギレして襲いかかって来ただけだけど……腹部に一発蹴り入れて黙らせた
「確か迂濶に口にすると……黒いスーツのヤクザさんたちに誘拐され、地下室に連れ込まれ四肢を拘束されて、一枚ずつ爪を剥がされていくんですよね……怖いので気を付けます」
「そんな知識いったい何処からっ!?」
「アリスです」
サラリと述べられた意外な内容を聞いて、僕は今朝会った少女の顔を思いだす
手遅れなのは確実みたいだ……ゴソゴソ
「杏? あ、ポケットから一体何を――っ!?」
「丑の刻って確か午前二時だよね? 綾兎……」
時刻がうろ覚えだったので一応綾兎に聞いてみる
「杏、五寸釘と藁人形持って何するんですか!? そして何処から調達したんですか!? そもそも制服のポケットに何でそんなものが!!?」
「僕のポケットは異次元ポケットだからね」
「此処で明かされた新事実!?」
先日道端で拾った藁人形握っていたら綾兎に指摘された
だって住んでいるマンションの入り口に落ちていて、僕のものではなかったけど他の住民の方を怖がらせたくなかったし……捨てようとして制服のポケットに入れてすっかり忘れてた
「……ポケットが重いから鞄に移して帰りに神社で捨ててくるだけだよ?」
持ってても邪魔だし、怨念が宿ってる気がするから嫌だし……
「呪いですよね!? 危険を承知の上で……」
「綾兎……此の世には自分の身の危険を超えてまでやらなきゃいけない事があるんだよ?」
これを使って呪いをかけた人はそんな事は覚悟の上だって思う……詳しくは知りたくない
マンションの入り口に落ちていたということは、住民さんの中に実行した人か、対象にされた人が居る可能性が高いわけだし……僕じゃないことを祈ります
其れに僕は未だ死にたくないので呪うつもりはない
アリスなら術祖返しとかできそうだし……できなくても勘でなんとかなりそうだ
「話の流れからして、呪いの相手はアリスですよね!? ダメですよ!? 其れだけは断固拒否なのです〜!!」
「……はぁ。つまんない……」
「むきーっ!! 遊び半分でやらないで下さい!」
ぜいぜいと息をはく綾兎を見て僕は満足する
此方は今朝アリスに散々弄ばれたんだから……弟の綾兎で遊んでも別に良いと思うんだ
朝食の分はお菓子とお茶でチャラになったけど、其れ以外はね……
特に羽毛入りの枕の分は…………
羽毛入りの枕は僕の睡眠ライフには欠かせないもので……彼の枕は結構高かったんだよ
確か二千円位したかも……睡眠ライフを有意義に楽しむためには、惜しみ無くお金を使います
「むう……こうなったら見張らなきゃ行けませんね……杏」
「え?」
息を整えた綾兎がなにやら空想し始め、僕に声をかけた
此方は枕について考えていたため、綾兎が何を考えてるかは分からなくて……
「命令『今日は此の部屋に泊まること』です!!」
「……は?」
泊まり? 何でそんなことに?? 今、突然巻き込まれたよね……
話についていけない僕を置いて、煌々とした表情で話を進める綾兎
「前に契約したときに言いましたよね? 『契約完了。此れより氷月杏は我が僕となる』って。だから杏は僕の下僕――つまり『犬』ですから、ボクは杏のご主人様なのですよ? だから杏はボクの命令を聞くのです」
「アレって『綾兎の相方代理』って意味じゃなかったの!?」
今、驚愕の新事実が発覚しました……下僕か……辛いねぇ
「……ん? 此の部屋に泊まり??」
綾兎の言った言葉を反芻してみる
でも……良く良く考えてみると、今までの中で誰かの家(部屋?)に泊まったのって……水無瀬と睦月の所だけなんだよなぁ
水無瀬の所は泊まりっていってもお隣さんだから部屋の造りは変わらないし、睦月の時は原稿……彼の時は小説じゃなくて挿し絵で……パソコン処理じゃなかったから、睦月に散々トーンを切り貼りさせられて……フラフラの状態で電車に乗って家に着いて、疲れを取ろうとお風呂に入ったらトーンの削り滓が浮いてきた……良い思い出じゃないな
そう思うと、まともなお泊まりは初めてなのでちょっと楽しみかも……
ふと時計を確認すると、現在時刻は午後六時半で……
此れからホームセンターに行って枕を買って帰る気にはならないし、明日は土曜日で学校は休みだし……前にバイトの先輩に『シフトを交換してくれないか?』と頼まれ、学校帰りにバイトをしたためシフトは入ってないし……
此の際だから、泊まりがてらに綾兎の苦手な数学(其の他共々)でも教えてやるか
後二週間位で期末試験だしね
よっしゃっ、決めた
「分かった。今日は綾兎の部屋に泊まらせてもらうよ」
僕がそう言うと、綾兎はパアアッと顔を輝かせた
「わーいです♪ 此の広い部屋に一人って結構つまんなかったんですよ〜 同学年とは違う階ですし……」
「そういえば、どうして綾兎と其の他十数人はゲストルームなの?」
「うっ」
男子寮に来てからずっと気になっていたことを聞くと、綾兎は顔を引きつらせた
……『部屋に入ってから教える』って言っていたから聞いて大丈夫なんだよね……?
「うぅ……其れはその……杏が此の『檻の中』に泊まるなら説明しておいた方が良いですね……」
「『檻の中』ってどういう事……?」
言葉の意味がイマイチ理解できない
「此れはゲストルームに住んでいる三年生の方から教えて頂いた例えなんですが……なんでも『一年生から三年生の男子』を『狼』だと考えると『ボクたち十数名』は『兎』にあたるそうです……其の意味は寮に入って直ぐに分かったんですが……杏ならボクの言っている事の意味が理解できますよね?」
「うん」
上目遣いで訴えてくる綾兎の言葉に即座に納得する僕
只でさえ男子寮と女子寮は結構離れていて……性に飢えているであろう男子が綾兎や僕といった『ちょっと可愛い美少年』……こほん、えっと『中性的』な人物が同じ檻の中(寮の事だろう)に居たら、手を出そうとする人も出るだろう
中には元々『そっち系』の人も居るだろうし……
偏差値のレベルも進学率も結構高く、生徒の意見を重んじている事を売りとしている此の学校でも、校則は緩めとはいえ……不純異性交遊もとい不純同性交遊は流石に不味い(あまりのイチャイチャぶりに黙認してOKになっているカップルも居るが……)
そういう事で問題が起きると責任を取らされるのは学校だし……評判は下がるだろう
先生達も最低限として、ゲストルームを用意したのだろう……面倒な事には関わりたくないだけかもしれないが
結局、学校は問題事は嫌いだろうし、できるだけ知らないふりをしている
そのくせ何故か恋愛に関しては密かに応援している所もある
変わった学校だよ。本当に……
ま、其所が気に入って此の学校に入学したのだけどね
ゲストルームが有るという事は、以前に同室の人同士でもいざこざがあったのだろう
学校も事件はうやむやにしているが、此れ以上問題を増やさないためにセキュリティ万全な部屋を設置した
入学して、対象になりやすい人達を集めて隔離して……ちょっと嫌だなぁ……
僕がもし寮に入っていたら、確実にゲストルーム送りだったのか…………
氷月杏・過去に女の子に間違えられ、危ない目に遭わされかけた回数……およそ二十五回
毎回足蹴りで回避しています
そして、襲ってきた相手は次の日に必ず土下座しに来ます
……中学では『足蹴りの貴公子』という称号を授かりました
其の流れで一度授業でサッカーをして、シュートを決めたとたん突風が起こり……キーパーがガクガク震えながら泣いてました
ボールの摩擦でネットが焼き切れたからです
其のボールがキーパーの頬をかすったらしい……あれは確実にトラウマを植え付けたね
今でも時々水無瀬にサッカー部に誘われることもある……断ってるけど
…………
…………あれ? もしかして其の時点でもはや一般人じゃなかったのか?
過去の出来事に焦りを感じ、改めて中学生の時の自分を振り返ってみる
何でだろう……さっきから冷や汗が止まらないんだけど……
……取り敢えず、迷シーン再生スタート!
中学生の僕。薄い茶色の髪が印象で学ランを着ている。外見が中性的な少年。良く女の子に間違えられる。勉強・運動能力が結構上の方で家事が特技……男女から共に人気があり、明るく前向きで純粋。
バレンタインデーには各学年の女子(時々『友チョコだ』とか言われて男子から貰ったのもあったような……知識がある今は考えたくない)から義理チョコを沢山貰い(本命は流石に断りました)、ホワイトデーには何種類かのパウンドケーキを焼いて、一切れずつ切り分けてラッピングしたものを貰った人と水無瀬(なんか五月蝿かったから渡した)……後、余りを先生方(教頭・校長先生含む)に配ったりしてた
その頃は小説執筆の他にお菓子作りも趣味だったから、部活の部員にはよくクッキーとか焼いたのを持っていって皆で食べたり配ったりしていた
部室内にポットとティーカップと湯飲み・お皿とシルバーのセット(部員分+先生分)……緑茶・紅茶などの茶葉を持ってきて棚の一部を占領し、顧問の先生に許可を貰うために先生をストーカーして浮気現場を抑え、脅したことがあったような……
「……う……(汗)」
ヤバい……思い出していくと僕って凄く……危ない存在の気がする
……えっと、確か他にも……先生方の雑用をさりげなく引き受けつつ、保健委員をしていて文芸部部長……二つ名『足蹴りの貴公子』……って
『中学生の僕って何者だよっ!?』
何処の漫画の主人公だ
もはや一般人じゃないじゃん……怖い……過去の自分が怖い
……あれ? そういえば、先生とクラスメイトの陰謀で危うく生徒会長になりかけた記憶が…………いや、もう考えないでおこう。うん
今では外見と趣味以外面影すらありません……
以上、迷シーン回想でした
此の記憶は即座に封印しよう!
…………
…………いっその事、誰か此の辺の記憶を消してください(泣)
「杏……さっきから黙ったままですが……ひょっとしてボク、何か気にさわるような事言いました?」
「大丈夫、なんともないよ……うん」
「なら良いですけど……」
綾兎の気がそれた所で僕は話を変える
もう思い出したくない
「でも急に寮に泊まって大丈夫なの? 話の内容を聞いてて、ゲストルームに泊まるのは結構不味いんじゃ……」
「杏なら大丈夫です♪ 部屋には予備としての布団が一式ありますし、下着とかはお風呂には言っている間に備え付けの洗濯機で洗えば良いですし……服は僕のを貸しますよ。サイズには差はないですよね? 杏、身長低いですし」
グサッとコンプレックスの部分を突かれた
「うっ……でも綾兎よりは高いよ?」
カチンッ
勢いで言い返したら、綾兎の方から妙な音が……ひょっとして、綾兎も気にしてた?
「むむっ、じゃあ何センチですか? 僕は百六十二センチですが」
「え? えっとその……百六十五センチ位……?」
思ったより差はなかった……綾兎ってキャラクター的に身長小さいってイメージがあるし、結構意外
「大して変わらないじゃないですか……じゃあサイズは平気ですね。別にムキにならなくて良いんですよ?(微笑)」
僕に向けられる綾兎の視線が痛い……何なんだよ
「うぅ……せめて後五センチは欲しかった……」
高校に入ってから何の因果かパッタリと身長が止まってしまった
牛乳を飲んだりして、カルシウムを摂取しても変化はなくて……もしかして遺伝か? 父さん百七十位しかないし
水無瀬なんか小学校の時は僕と同じくらいだったくせに、中学からにょきにょき伸びて……今では百八十センチ後半なんじゃないか? 彼の家系は陸さん(水無瀬のお父様)が身長高いし、水無瀬はサッカーをずっとやってるからだろうけれど……泣きたい
僕が項垂れていると、肩にポンッと綾兎の手が置かれた
僕を見て、ニコリと寂しげに微笑む綾兎
「落ち込まないで下さい。杏……其の事に関してはボクも同感です……ぅ」
「だよね……」
二人して、明後日の方向を見やる
『神よ、僕に身長を!!』
心の中で、叶う事は恐らくないであろう願いを祈った
本当に現実は厳しいです……
「……それじゃ、寮長さんの所に宿泊届けを貰いに行きましょう」
「……だね」
ソファーから立ち上がった綾兎を追うように僕も立ち上がる
セキュリティ万全の此の部屋だから、出るときも急がなければいけない気がしたからだ
だから視線は扉の方に向いていたし、セキュリティ万全な部屋だったからこそ油断していたのかもしれない
僕も……そして綾兎も…………
『「氷月杏。事の原点から考えるが、お前が闇に飲み込まれかけた所を綾兎が助けて、対の私の代わりにお前と契約したみたいだが……多分、闇は最初からお前自信を取り込む機会を狙っていたんじゃないか?」』
「っ!?」
ふと、今朝アリスが僕に言った事を思い出す
何故だかは分からない……急に頭の中で再生されたみたいで……
「杏……? 顔が青ざめているんですけと……大丈夫ですか?」
「……へーきだよ」
僕の顔色を伺う綾兎に心配をかけないように嘘をつく
どうしてだろう……さっきから嫌な予感がする
前に大きな『闇の世界の一部』に出会う直前もこんな感じがした
心の底から凍てつくような……
「杏、やっぱり体調が悪い――」
ゾワッ
背中を逆撫でされた感覚
『違う……此れは二年前と同じ!!』
「逃げてっ!! あや――」
「え」
咄嗟に出た言葉を口に出し、戸惑う綾兎を突き飛ばした
刹那――
パリーンッ ドスッ
「っ!? ……ぅ……」
「杏!?」
背後で窓ガラスが割れ、ガラス片が飛び散る
腕や頬をガラス片が切り裂いていく中、僕は茫然と立ち尽くし……
「……カハッ……っ!?」
胃から何か熱いものが込み上げてきた
喉を焼くような熱さでおもわず咳き込む
ボタボタッと床に溢れた胃酸……だと思っていたものを視界に捉え、僕は固まった
鼻をツンとかする甘酸っぱい鉄の匂い
口の端を伝っていく紅
身体を染め上げていく紅の液体
其れが自分から流れている事に気付くのに、何故か思考がなかなか追い付かない
窓ガラスが割れたと同時に背中にぶつかった衝撃・音
それらは僕の背中から……腹部にかけて突き刺さっている『槍のようなもの』が原因と分かったのは、身体から力が抜けてフローリングの床に崩れ落ちてからだった
ドサッ
「……ぁ……」
身体を突き抜ける異物感に吐き気がする
「杏っ!! くっ、『光の導く空へと照らせ!!』」
白い光に包まれて、長い黒髪の……元の姿に戻った綾兎を見つめる僕
綾兎は僕に駆け寄り、刺された部分に手をかざした
「今、傷を治し――」
「させないよっ!!」
「「誰!?」」
僕と綾兎の声がハモり、声のした方向を見やる……僕の声が掠れていたのは敢えてスルーしてください
綾兎は咄嗟に小さく呟き、『聖杖・クロスセリア』を出現させ、目の前に構えた
「未だ生きてるなんて、思ったより強情なんだねぇ……きょーくん?」
パキッとガラスの欠片を踏みつつ、ベランダから室内に入ってくる少女
ツインテールのように頭の上の方で二つに結ばれた髪
幼い外見に見えるのは、少女の着ている服が制服ではなくてアニメキャラクターの魔法少女の服みたいにフリフリのヒラヒラだからだろうか……睦月に付き合ってるせいでコスプレに見えてしまう……泣きたい
少女の周りを『闇の世界の一部』が囲んでいたせいで、顔ははっきり見えなかったが……其れは僕がよく知る少女の声で…………
「……閑崎……さん?」
「やっほ〜、きょーくん。そしてあやとくん……いや、『光の住民』さん?」
睦月の友達であり、僕達のクラスメイト……閑崎観柚が居た
瞳には一切光は写っておらず、口元だけがニヤリと笑っている
閑崎さんはてくてくと僕達の傍まで歩き、僕の目の前でしゃがみこむ
「きょーくん……いたい?」
「ぁ……た……」
『当たり前だ』と言ってやりたかったが……まずい……もう声を出す気力がない
身体も動かないし……声がよく聞こえない…………
「閑崎さん、貴方は一体――っ、杏に触らないでくださいっ!!」
綾兎の声が微かに聞こえる
駄目だよ綾兎……早く……逃げて……
「『風華・レジェント!!』」
綾兎が唱えたと同時に、突風が舞い上がり閑崎さんを襲う
「うるさいなぁ……『光の住民』さんは黙っててよぉ?」
「なっ」
「『再返』」
ドンッと強い衝撃波が生まれ、綾兎の技は跳ね返され……
ドカッ
「ぁ……」
「っ……杏……ぅ」
「あははははっ、あやとくんよわーいっ(>ω<*)」
綾兎が後方の壁に叩きつけられ……っ……駄目だ、視界がぼやける
グイッと襟首を掴まれ、閑崎さんの顔を見上げる
喉が『ひゅーっ』と音を立て始めた
……ヤバい……ひょっとして僕……瀕死状態なんじゃないか……?
「本当すごいよね〜。でもさ、今きょーくんのおなかに刺さってるこれを抜けば……死ぬんじゃないかなぁ?」
「っ」
確かテレビのサスペンスとかでよく観る光景
刺されたままで死ななくとも、刺したもの……例えばナイフとかが栓の代わりをしている場合がある
傷口を切り裂いたとしても、ナイフの刃の部分がストッパーの役割をしているため、血は隙間からジワジワ漏れる位だが……刺された直後に其れを引き抜いたら――?
『…………僕、死亡フラグ立ったよ……』
出血多量で失血死及びショック死
こんな状況でも、ある程度冷静に判断できる自分に新ためて恐怖を覚える
「きょーくん、コレは観柚のものだから返してね♪」
ズプッ
『槍のようなもの』の持ち主は閑崎さんだったらしい……当たり前か
身体の中に埋めれたものは閑崎さんによって部造作に引き抜かれ――――
「杏っ、きょ……いやぁぁぁぁっ!!」
綾兎の女の子みたいな叫び声と共に、異物が抜かれた傷口は血液の循環を再開し――視界を紅く染めた
腹部は燃えるように熱いのに、指先から冷たくなっていくのを感じながら……
「さよなら、きょーくん♪」
僕は意識を手放した……