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絆〜僕と君を結ぶ鎖~  作者: 綾瀬 椎菜
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第五章~彼のとき其のとき僕達は(前編)~


わたしが異変を感じ始めたのは何時からだろう


初めはあれはみんなに視えるものだと思っていた


わたしも其れが普通だと思っていたから……



だけど――



其れはわたしだけが視ることができるものだった



でも、そんな力なんて要らない



わたしは特殊な力を持つことなんて望んでいなかったのだから……


只、普通の生活を送りたかっただけ


日に日に強くなる力はわたしの心に不安を広げていった……


そしてそれはわたしの大切な……大好きなヒトにもにも……影響をだしはじめる



『大切だからこそ失いたくない。だったらいっそのこと――』



何時からか、心の片隅にそんな感情が生まれた


感情はやがて膨れ上がり――――そしてあの日、暴走したんだ…………






第五章―彼のとき其のとき僕達は―



*僕たちの未来*



「もう別に良いんだ、僕なんて……」



冷たい風が吹き抜けていく屋上から今すぐ逃げ出そうと扉に向かおうとするが、扉の前に(とき)が居るため立ち尽くすしかなかった



「口ではそう言っているけれど、本心は違うだろ?」



ゆっくりと此方に近づいてくる季に僕は思う



頼むからこれ以上僕に近づかないでほしい



此のまま近くに来られたら、

自分で居られなくなりそうで……怖いから



「……関わらないで、もう駄目なんだ」



「何が駄目なんだよっ?」



グイッ 「やっ」



季にぎゅっと抱きしめられ、身動きが取れなくなる



「やだっ……お願……離して」


「…………」


「と…き……?」


おもわず季を見上げる僕


季は無言のまま、僕を抱きしめる力を強くする



「……好きだ」



「え……?」


ふいに耳許で呟かれた言葉に驚く



此れは僕の妄想が生んだ夢なのだろうか……?



「……好きだ。ずっと昔から俺は貴方のことが好きだ」



「季……駄目だよ。僕の傍に居たら君は――」


今季を突き放さないと僕は堪えられなくなる



此の感情を……



それでも季は怯まなかった


僕に向けて新たに言葉を紡ぐ



「俺の人生は貴方が居てこそ成り立っているようなものだ!!」



「季……じゃあ、僕は季のことが……その……好きなままで……良いの……?」


「え?」


「あ…………」


季の上げた声で、自分が何て言ったのか思いだし、じわじわと顔が熱くなる


『どうしよう……』


俯いて顔を背けたかったが、抱きしめられているせいで身動きが取れない



たとえ、お互いの想いが通じあっていたとしても、これだけはいけない



だって僕たちは男同――――





「あの、睦月さん。此の話は一体なんなんですか……読んでて『キュン』って来るんですが……其れは不味いような……」


「天宮睦月の新作! 『僕たちの想いは――』だけど?」


「……はぁ……」


にこやかに宣言される言葉を聞いて、ボクは溜め息を付いた


新緑の色合いが深くなり、日々暑くなってきた今日この頃


聖桜高校に登校した直後、待ち構えていた天宮睦月さんに捕まり、なにやら桃色と肌色と薔薇の花が表紙全体の殆んどを占めている文庫本(一般的にライトノベルと呼ばれるもの)を読まされることとなって早三十分


始めは普通の学園もの(青春ストーリー……?)だと思っていたが、次第に怪しい方向の話になってきた


小説に書かれているもの凄く甘い言葉に背筋がゾワッとする


「そもそも……主人公の『葉山日向(はやまひなた)』さんって杏に凄く似ている気がするんですが……」


「うん♪ 相手の『水波季(みなはとき)』は水無瀬がモデルだしね☆」


「うげっ……天宮さんよ、何故俺が杏とこういう関係になるんだろうなぁ?」


隣でボクが読まされていた小説を覗き込んできた水無瀬さんが顔をひきつらせながら言った


正確に言うと、『季と日向』がなんですけど……途中に描かれているイラストも二人(杏と水無瀬さん)にそっくりなのは睦月さんの陰謀でしょうか……



「ツッコむところが杏と似てるなんて……流石幼馴染みだね☆」



睦月さんの謎の含み笑いに、少しビクッとするボク


なにやら裏がありそうです……


水無瀬さんは其れを見て嘆息し、やれやれという感じに首を振った



「あのなぁ、男だったら誰でも気にするさ」



「え? そういう物なんですか?」



一人話についていくことができないボクはその言葉に疑問符を浮かべた


一体どういうことでしょう?


「雪代……」


何故か若干引目の水無瀬さんの視線が痛い


何かおかしな事を言いました……?



そして――



「綾兎くん…………だよねっ☆ 綾兎くんなら分かってくれると思ったんだ♪」



ガバッ 「わっ!!」



睦月さんに机を挟んで抱き付かれました……此れっていいことなのでしょうか……


若干とは言いがたいぐらいに机が腹部にめり込んで痛いです……うぅ


「んー、今度は杏と綾兎くんをモデルにして書いてみようかなぁ……♪」


「遠慮します」


ポワンと脳内に空想の世界を浮かべながらそういう睦月さんに思わずつっこむ


勝手に想像された杏との関係を書かれたものを、世の中に広められるんじゃ堪ったものじゃないです


「でも、まさかこういう恋愛があるとは……驚きです」


睦月さんの身体を引き離しつつ、改めて考える


「綾兎くん、此れが一般的に言われる『ボーイズラブ』略して『BL』だよ♪」


「ホモ小説の間違いだろうが」


ボクが身体を引き離した事に不満を覚えつつも、人差し指を立てて自分の本を示す睦月さん


……ん?


訂正を入れた水無瀬さんの言葉が忘れかけていた記憶を掘り起こす


杏が契約したときに



『「僕はホモじゃない―――っ!!」』



って叫んでましたけれど、その意味がやっと分かった


成る程、そういうことだっ――て


杏……余りにも酷いことを言っていたんですね……


今更ですが、此れって精神的に結構へこみますね……


出逢って一ヶ月位のボクでさえ睦月さんに読まされているのだから杏はもっと……



「…………」



何故だかそう考えるとちょっと『ズルいな』って思う


自分が今まで他人と関わらなかったせいでしょうが、其れは『関わることができなかった』からだ


特に同年代なんて双子の姉のアリスしか居なかった


其れだって何時かどちらかが消されてしまうという中で生きていたし……


何時かは此処から離れなければいけない


でも――其れまでは



(小声で)「学校生活を楽しみたいです」



「? 綾兎くん、今なんか言った??」


「何でもありませんよ♪」


ボクの呟きが聞こえたのか視線を送ってくる睦月さんに笑顔で返す


…………


…………


…………まあ、アリスを見つけ出すことが先ですが


彼の自由奔放な姉は一体何処に行ったのでしょう……



ガチャッ ガララッ



アリスに対する想いを心の中で呟きながら窓を開けると、ザァッと心地よい風が吹き、若葉が宙を舞う



今日は絶好な晴れ日和だ……



「ならいいんだけど…………其れにしても」


「「ああ(ええ)」」


ボクを含めた皆の視線が睦月さんの隣の席に向く


代表としてボクが一言



「杏……何時になったら来るんでしょうか?」



窓側の後ろから二番目の席


現在時刻・八時半



……無遅刻無欠席の皆勤少年・そして、ボクらを繋ぐ重要人物の氷月杏がまだ来ていなかった


杏とはカリン様から過去事情を聞いてから話しづらくなってる所はあったけれど、杏はあまり気にしてないようで……なんだか納得がいかないんですけれど……


でも、今日は何かが違う……そんな気がしてならなかった







ガタッ



「…………う……?」


部屋の隅の方で物音がして僕は微睡みに浸っていた意識を呼び起こされた


枕元に置いてある携帯電話を充電器から外して手に取って開き、時刻を確認



現在時刻・六時十分



何時もは十五分に起きるから、携帯電話のアラーム音を設定してある時間よりも早く目が覚めたということだ


『う……そろそろ起きなくちゃ……』


体温の残るぬくぬくな羽毛布団から抜け出すのには気が引けたが、学校の為ダルい身体をベットから起こし――



「うっ……!?」



――――無理だった



力を入れようにも身体が動かない


さっき腕を動かせたのだから、今動けなくなったのだろう


いや、其れよりも……



何かにのし掛かられているような……


…………


…………


まさか……金縛り?



恐る恐る視線を掛け布団の上に向けると、足元に何かが乗っていた


「っ!?」


其れはモゾモゾと動き、真っ白な塊で――



「……フム、現代高校生の部屋のわりにはえっちぃ本が見当たらないとは……氷月杏はホモなのだろうか……」



「うわっ!!?」


「なっ――!?」


突然喋った白い塊に吃驚し、掛け布団を強く引っ張る


「おい、氷月杏っ!! 急に引っ張るなっ――っておわっ!?」



ドサッ



声を発した白い塊を掛け布団から落としてしまった


――って、今の明らかに人間だよね……?


僕の名前を呼んでいたし、ひょっとして知り合い……?


なんか酷いことを言われた気がするし……霊的なものじゃなくて良かったけど……


ちょっとほっとする僕


「痛い……まさか奇襲しようとして、裏をかかれるとは……」


「えっちぃ本を探そうとしている時点で間違っていたと思います……」


中性的な声の白い人(勝手に断言)を凝視し、言葉をかける僕


フローリングに額をぶつけたのか、手で押さえていた……顔面から落下するなんてある意味で器用だよな


……まあ、怪我の加害者(若干眠りを妨げられたことに関しての恨みあり)が考えることじゃないんだけどね


真っ白な塊の人物はよく見ると真っ白なワンピース(細部や裾に刺繍・レース有り)を着ている髪の長い……たぶん女の子


綾兎の事があるため『女の子』とはっきり言えないや


其れにしても全く……一体何処から入って来たのだろうか


解放された身体をベットから下ろし、机に向かう


机の上に置いてある鞄の中を確認し、必要な教科書と昨日の夜にやった課題とペンケースを押し込む


其れを机の上に置いて、閉まっているカーテンを開け、窓を開けた



ザァッ



心地よい風が入って来るのを感じながら、制服に着替えようとクローゼットに――――



「おい」


「え…………あぁ、未だ居たんだ」


ふいに声をかけられた


「お前って何気にひどくないかっ!? 其れが見知らぬの美少女に言うことか!!」


すごい剣幕で怒る少女(※勝手に断言)



……嗚呼、物凄く鬱陶しい



僕は少女を侮蔑するように視線を向ける


そして――他人ということで、本音をぶつけた



「何で此の部屋にいるんだよ、アリス」



「っ」


「…………やっぱり」



……僕の感は当たっていたようだ


こんな少女の知り合いは居ないし、僕の名前を知っていて僕の知らない人は綾兎の姉にあたるアリスしか居ない


双子の姉と言っていたのは本当の様で、見た目は凄くそっくりだった


但し黒瞳黒髪の綾兎とは違い、アリスはまるで真っ白な兎の様に白髪で瞳が紅かった


……前に綾兎にクレーンゲームで取ってあげた『白うさぎ』に凄く似ている


性格は全然違うみたいだけど……



とりあえず思っていることを告げる



「綾兎が心配してたから、さっさと帰った方が――」


「其れはできない」



「!?」


淡々と告げられた言葉に驚く僕


綾兎の存在を否定された気がした


僕の表情で感情を読んだのか、申し訳なそうな顔をするアリス



「すまない……未だワタシは彼奴に会うことは出来ないんだ」



少し俯き気味に呟くアリス


その顔は何処か切なくてやりきれないような表情で……


『……う、此れって僕がいけないのか……?』


「…………」


『……うぅ……』


アリスが口を閉ざしたせいか、重々しい空気が辺りに広まる


そんな中、不意に僕は掛け布団を手に取り――――



「うりゃっ!!」 バサッ



「っ!!?」



――アリスの頭に向かって投げた



「…………よしっ!!」



拳を握りしめて言う僕


さて、制服に着替えるとす――



「お前は一体何がしたいん――――っ!!」


「うおっ」


ガバッという勢いで被った掛け布団を払い落とすアリス


しかし、アリスは僕を見て硬直した



……まあ、仕方ないけどさ



そのとき僕は、パジャマの上のボタンを全開にし、制服のワイシャツ(注:夏服になりました☆)をクローゼットの中から取り出している最中だったから……



……着替えるから見られないようにするために手近にあった掛け布団を被せたのに……


硬直しているアリスを放置して着替える僕


水無瀬のお母さん(結依さん)に着替えを見られることがあるため、他人に着替えを見られるのには特に抵抗はない(慣れって嫌だ……)


パジャマを脱ぎ捨てワイシャツを羽織り、ズボンに手をかけた時点で




「へ……へぅ……へ、変態いぃぃぃぃぃぃっ!!?」




「え…………」


顔を真っ赤にしたアリスに、物凄い勢いで叫ばれました


…………家庭の事情で現在独り暮らしの僕の家(部屋?)


高層マンションなので、防音対策はしっかりされているけれど、窓を開けているせいで効果はあまり無く――



閑静な住宅街の空気を見事ぶち壊されました



「あ、アリス!?」


「くぅ、寄るな変態っ!!」


「あ…………」


またもや叫び声が住宅街に響き渡る


羞恥と混乱で瞳を潤ませたアリスは掛け布団で僕との間に壁を作った


そして、ベットの上から僕の枕を勝手に取り、『ぼふっ』と投げつけてくる


勢いに任せ投げられたため、羽毛入りの枕は布が裂けて部屋中に羽根が舞い散った……


そんな光景を他人事のように眺めながら僕は今後について考え始める


…………氷月杏・十七歳の初夏


ご近所との間に大きな壁が出来そうです





「むぅ…………」


「はぁ…………」


彼の後、無理矢理アリスを追い出して制服に着替え、掃除機で部屋中に飛び散った羽根を吸いとって片付けた……帰りに新しい枕を買ってこないとなぁ


結構気に入っていたのに……ちょうどよくもふもふしていて通気性に長けているからうつ伏せに寝ても大丈夫なんだよなぁ


……過去に普通(仰向け)に寝てたときに顔の直ぐ脇に頭文字Gさんが降ってきて……以来仰向けに寝るのが怖いんだよ……


おかげさまで寝ても疲れはあまり取れません


其の事もあり、掃除は徹底してすることになりましたとさ☆


氷月杏の過去話でした――以上っ!


アリスが散らかした部屋の片付けがある程度済んだので、今は台所で朝食を作っているところ


朝食を考えるのはもう……なんか嫌だったので項垂れていたら、前に睦月と綾兎曰く『疲れたときには糖分だよ(ですよ)♪』ということを思い出し、フレンチトーストを作っています


食パンを取りだし、解いた卵に砂糖と牛乳を入れたものに半分に切った食パンを浸ける


湿らせたクッキングペーパーでフライパンを拭いてから、フライパンを熱してバターを一欠片落とし、バターが溶けきったところに浸した食パンを入れる


ジュワッと音を立てながら焼けていく食パンからは甘い香りがした


こんがりときつね色の焼き目が付いたフレンチトーストをお皿に盛り、適当に千切ったレタスとツナのサラダとヨーグルト、淹れたてのコーヒーを付ければ立派な朝食の完成だ


リビングのソファーを勝手に乗っ取り、テレビ(ニュース?)を見ているアリスに「ワタシの分も作れ」と言われた為、何時もよりも時間が掛かってしまった……従ってる僕自身、今回の事の半分は僕がいけないと思ったので、反省の意味を込めて……


……綾兎は天然記念物で、アリスは純粋なんだなぁ……アリスは腹黒な気もするけど……


「アリスー、ご飯できたよー」


「んー、分かった」


出来た朝食をダイニングのテーブルに運び、着けていたエプロンを外す


ナイフとフォーク、スプーン等を出してアリスに手渡した


「頂きます」


「うむ」


自分で作った訳ではないのに何故か偉そうなアリス


暫くシルバーを動かす音が聞こえ、特に会話もなく食べ続けた


お、今回は上手く作れた方だな


満足満足♪


「なあ。氷月杏」


「何?」


食べてるときに話すなんてちょっと行儀が悪いような気がしたけど、只の朝食だし別に良いか


「綾兎はどうしてる? ちゃんと学校で上手くやれているのか?」


「勉強は苦手みたいだけど、クラスには馴染んでるよ……ずっと前に担任の先生にシャープペンシルを投げつけたりしてたけどね」


「なら良いが……シャープペンシルを投げつけるなんて……何があったんだ?」


サラダを咀嚼しながら聞いてくるアリス


僕はフレンチトーストをコーヒーで流し込んだ


「担任の先生がドSだったんだよ……小中学校だったら教育委員会に訴えるくらいにね。水城果鈴さんっていう人」



ガタンッ 「水城果鈴!?」


「!?」


アリスが勢いよく立ち上がった影響で、食器が音をたてる


僕はコーヒーを飲んでる途中だったため、噎せそうになった……うぅ


ふぅ……と息を付き、僕はアリスを見た


アリスは暫くショックを受けたような顔をしていたが、僕の視線を感じたのかハッと我に帰った


こほんっと咳払いし、落ち着きを取り戻す


「す、すまない……まさか水城果鈴が先生をしてるとは……」


「? 水城先生と知り合いなの?」


落ち着きながら呟いたアリスの言葉に疑問符を浮かべる僕


「なっ!?」


其の言葉を聞いて、硬直するアリス


僕はその間にフレンチトーストを咀嚼し、ヨーグルトに手を伸ばす


水無瀬のお母さん(結依さん)が苺狩りに行って摘んできた苺で作ったらしいジャムをヨーグルトに入れてスプーンを手に取った


サッと煮詰めているだけなので、実そのものの形が残っていてとても綺麗だ


アリスと同じ紅い色……そう考えると、アリスの瞳って美味しそうに見えてきた


…………今の考えはちょっと変態さんみたいだから封印しておこう……うん


危ない人の発言(失言?)でした。すみません……


「? どうしたんだ、氷月杏」


「何でもないです……うぅ」


「? なら良いが……」


いつの間にかフレンチトーストを食べ終えたらしく、僕と同様にヨーグルトを食べ始めるアリス


苺のジャムを乗せて、咀嚼する様子は綾兎同様微笑ましかった


さて、話を戻して


「アリス……さっき水城先生の名前を言ったときに驚いていたけど……まさか水城先生って……」


……なんだろう、凄く嫌な予感がするよ……


「水城果鈴がドSなのは昔からだが……アイツは……」


「あ、アイツは……?」


沈黙な空気がのし掛かり、話すことに躊躇していたアリスは言った



「……あのド……いや、水城果鈴は……一応私達の『上司』にあたる人だ……」



「…………は?」


今、アリスさんはなんて……


彼の水城果鈴が……その……二人の上司!?


うわっ……嫌だぁ……


「綾兎がお前に言わなかった理由は分からないわけではない……因みに、先生か誰かで『神城拓海』という奴は居ないか?」


「神城? 僕はあまり関わったことはないけれど、確か保険医の先生が……神城っていう名字だったよ……?」


「な!? くそっ、やられた………」


額に手をあて『はぁ……』と溜め息を付くアリス


「……なんとなく思ったんだけど、もしかしてその……神城拓海さんは……水城先生同様に二人の上司?」


「……ああ。お前達が通う学校にいるということは、多分お前達の監視だな」


「なっ!?」


空になった食器を重ねながら僕は硬直する


監視……一体どういうことだ?


いつの間にか朝食を食べ終えていたアリスは僕の分まで使った食器を流しに置いた


台ふきんでテーブルを拭き、僕に向き直す



「氷月杏……そろそろ本題に入るぞ」



「アリス……」


「私が言える限りでは教えてやる。だから気になることは出来るだけ聞け」


「……分かった」


真剣な表情で僕に言葉を向けるアリス


その事に同意するように僕はコクンと頷いた



「始めに、さっき私は水城果鈴と神城拓海はお前達の監視と言ったが――ハッキリ言って、常にお前だけを監視している」


「……其れは一体どういう……」


僕個人を監視して、一体何が……



「氷月杏。事の原点から考えるが、お前が闇に飲み込まれかけた所を綾兎が助けて、対の私の代わりにお前と契約したみたいだが……多分、闇は最初からお前自信を取り込む機会を狙っていたんじゃないか?」


「……え」


闇が僕を狙う……何で?


「あと、お前は事の重大さに気付いた方がいい。水城果鈴達がお前を監視しているということは恐らく……」


「……恐らく?」


アリスは言葉の続きを話すのに躊躇いを持っていたが、深く深呼吸をしてから言った





「監視ってことは、必ずこの家にも来てる。そして……お前が生まれてから今までに起こったことを全て調べられたということになるんだぞ……そう、二年前に起きた事も……」





つまり、彼の事件についても全部――――


僕は声をあげた


「……そんな……何で……理不尽だっ!!」


酷い……酷すぎる


どうして関係ない人に知られなきゃいけないんだ


過去を知っているのは幼馴染みの水無瀬だけだったのに……



そして其れよりも……僕は――



雪代綾兎に過去を知られたことが何よりも辛かった……



綾兎は純粋で、友達として……相方としていつの間にか大事な存在になっていた


だから、僕の過去を知って、傷ついてほしくなかった


綾兎が僕の過去をいつから知っていたかは分から――



「…………あ」


そういえば最近、僕に対して綾兎はよそよそしかったような……


あれは……僕の過去を知ってしまったから?


母さんと関わりを絶ってからだから、かれこれ一月位経つ


……ちょっと自分が情けなくなってきた


僕が母さんの言われたことに対して結構落ち込んでいるときに、綾兎は僕の過去を知って苦しんでいたんだ……


綾兎のことだから、多分一人で抱え込んでいたはずだ


……まあ、あんな壮絶な過去を他人にペラペラ話されたら、その事が理由でこの世から消えたくなるが……うん、絶対。


最初は過去を勝手にばらされたことに怒りを感じていたが、良く良く考えてみたら、なんか納得してきた


伊達に十七年も生きていないし……すっかり忘れていたけれど、初めて綾兎に会ったときに……



「『この際だから言いますが、貴方はもう……只の人間ではありません。我々『住民』と同じ特殊な力を持っているようです』」



とか言われてたし、僕自身が普通の人間じゃないなら『別に構わないんじゃないか』って思うんだよ


「お前……さっきから百面相をしているが大丈夫なのか?」


「あ」


アリスが居ることをすっかり忘れ、考え込んでいたらしい


アリスが若干引いていた……空しい


「お前って変わっているよな。なかなか報われないくせに前に前にと進もうとする……本当に綾兎に似ているよ」


「その分、物事に深く関心が持てないけどね。桜果のときに失う辛さを知ったから……だから少しでも、前に進むんだよ」


『なかなか難しいんだけどね』と言葉を付け足す


そんな僕を見て、アリスは寂しげに笑った


「……彼の子もこうなってくれると良いんだが……」


「? 彼の子って誰?」


アリスから聞き慣れない単語が出てきてきょとんとする僕


僕の言葉を聞いて『ああ』と口に出し



「……乙女の事情だっ!」



ニカッと意地悪げに微笑み、人差し指を立てて口の前に添えた


「……わー」


「おい、犇々と『うっわ、コイツなに言ってるの……』という視線が向けられてる気がするんだが……」


そんなの当然。だってもの凄く似合わな――



ギロッ



「……すみませんでした。」


蛇に睨まれた蛙ってこういう感じなのか……アリス、恐い


「……ま、氷月杏を弄るのは此れくらいにして……と」


「弄られてたんだ、僕」


ある程度過去を吹っ切ったつもりだったけど、別の意味で落ち込んできた


案外僕って弄りやすいキャ――更に落ち込みそうなので、この先の言葉は封印しよう……うん


今日はテンションの上がり下がりが激しいや……


「お前はもう大丈夫みたいだし、大事な用事があるからワタシはそろそろおいとまするとしよう」


ガタンと椅子を鳴らして立ち上がるアリス


「不法侵入から会話までの間が長かったけどね」


「それは言うな――っと、忘れるとこだった」


「?」


ゴソゴソとポケットの中を探るアリス


「ほら、此れ。前にお前を探していたら落ちてたんだ。お前のだろう?」


アリスが差し出したのは、いかにもアンティーク調な十字架の付いたネックレス


古めかしい銀の十字架に細かい飾り彫りがされており、真ん中に丸い半透明の石が付いていた


ネックレスのチェーンは長めで、聖職者(牧師さん?)が付けていそうだ


でも、それは――


「アリス――悪いけれど、此れは僕のじゃないよ」


「え、だってこれからお前の気配が――――あ」


「あ? 何?」


ちょっと考え込むアリス


だが、直ぐに『成る程……そういうことか』と考え直したらしく


「それはワタシからのプレゼントにしてくれ。大事にしろよ」


グイッと片手を掴まれ、掌に十字架を握らせるアリス


僕は納得いかないものの、其れを受け取った


「あ、あとな」


「まだあるの?」


朝っぱらからアリスに付き合わされているため、なんだか疲れてきた……


「氷月杏……此れだけは言わせてくれ……アイツもお前と同様だと言うことを……」


「……え?」


急に神妙な顔をして言うアリスに僕は吃驚する


「ま、深く考えるなって」


ポンポンと頭を軽く叩かれる僕はその言葉は軽く受け取ってはいけない気がした


「でも、今日お前に会えて良かったよ。平日だから学校だと思っていたからな。その様子だと休みみたいだし」


「え……―――っ!!」


ガバッと振り返る僕


慌てて壁に掛けてある時計を探し、時刻を確認



現在時刻・十時三十分



…………


…………ってえぇ!??



ワナワナと良く分からない震えが身体を襲う


脳内で自分のキャラ設定についておさらいが始まる


大事なところです


真面目


無遅刻・無欠席を維持してる最中


…………え?



堂々と学校サボってたよ?


今日、学校だっていうこと自体忘れてたよ



そう……綾兎の双子の姉・アリスによって……



くるりと振り返る僕


空気を察したのかベランダの方に後退りしていくアリス


「アリス……」


ジリジリとアリスを追い詰めていく



ガチャッ ガララッ


アリスは咄嗟にベランダのとを開けて――――



「じゃっ、綾兎のこと頼むぞっ。またな!! 『風羽飛翔(ふううひしょう)』」


呪文らしい詞を放ち、能力の具現化なのか背中に空気の翼を生やして――飛んだ





「わー、凄いなぁ…………って、もう二度と来るなぁぁぁぁぁっ!!」





僕が虚空に叫んだ言葉は、彼方へと消えていった…………




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