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絆〜僕と君を結ぶ鎖~  作者: 綾瀬 椎菜
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第四章~白猫と黒兎の行方は~

〜ある一室にて〜



真っ暗な部屋の中、窓から夜空を見上げる二つの影


満月の月明かりでシルエットだけが浮かび上がる


一人は寝具から身体を起こした状態で


もう一人は寝具の縁に座っている


二人は暫く視線を夜空に向けていた



まるで満月に想いを乗せるように……



やがて一人が口を開いた


「今頃彼奴はどうしているんだろうな……お前の大切な奴も」


「……どうだろうね」


身体を起こしている少女は中性的な声の持ち主にそう答える


「「…………」」


二人の間に沈黙が続く


「……今日は此のまま此処に居るからなっ」


「『今日も』でしょう?」


『彼女』の偉そうな言い方に少女はちょっと訂正を入れ、ぎこちなく笑う


そんな少女を見て、『彼女』は寂しげに微笑んだ


「でも……どうして?」


「え?」


「どうして何時も傍に居てくれるの……?」


少女の疑問を受けた『彼女』……『アリス』は、少女の頭を撫でながらこう呟いた


「お前とワタシは似ているからなっ」と


少女は其の言葉に涙を浮かべつつ、また視線を夜空に向けた




アリスと共に眺めていた夜空を




流れ星が一つ、弧を描いて流れていった…………






第四章―白猫と黒兎の行方は―



キーンコーンカーンコーン



チャイムが鳴り、授業が終わる


二年A組では、授業の空気がなくなった途端、一斉に騒がしくなる


其れは他のクラスもそうだろうけど、なんと言うか……騒がしいレベルを超してしまうときがある


時々、他学年や他のクラスから苦情が来るも、状態は変わることはなく……お陰で隣の二年B組からロイローゼ(鬱?)の人が出たりするとか


うちのクラスって凄いな……(色んな意味で)


そんな中、僕・氷月杏は重苦しい空気から解放されてホッとしていた


苦手な数学だったのでちょっと疲れたよ……


隣の席の天宮睦月は、今の休み時間を利用して僕のノートを写している


まあ、授業中に絵のベタ塗りをしていたら仕方ないんだけどね


「はぁ……です」


後ろを振り返ると溜め息らしい声を出していた綾兎が机に突っ伏していた


……次の時間、移動教室じゃなくて良かった


移動教室だったら……二人共(言うまでもなく睦月と綾兎)大変だったよ……


綾兎が顔を伏せているのは僕以上に数学が苦手なのと……昨日何かあって考え事をしていたみたいで……


僕の方も、昨日見つけた謎の白い本は家に帰ってから読もうとしたんだけど、よく見ると小さい鍵が掛かっていて読めなかった


ちょっと残念……


「杏〜、ノートありがと〜」


隣からスッとノートを渡され、僕は受け取る


「役に立ったなら良かった。……で、授業内容分かった?」


なんとなく聞いてみる。後ろでは綾兎が沈んでるし


「『天宮睦月に出来ないことなんて無いっ!!』……って断言したいところだけど……うぅ、全然分からないよ〜(泣)」


「……あ、やっぱり?」


睦月も想像した通りでした


「だから、テスト前にまた教えてね♪」


にこやかな笑顔を僕に向けてそう言う睦月


仕方ない。また勉強会開くか


「はいはい。……綾兎も一緒にやろうね?」


「あぅ……お願いしますです」


後ろを振り返ったまま、沈んでる綾兎にそう言うと、消えそうな返事が返ってきた


綾兎達『光の住民』関係の人(?)も何年かは学校に行って、ある程度の知識を入れるみたいで……綾兎の場合、丁度今が其の時期らしい


一般常識は在るものの、学力は無に等しいみたいで……


文学関係だったら得意科目だからなんとかなるけどそれ以外はなぁ……


数学に関しては皆で勉強した方が覚えられるよね♪


その方が効率良いし、教えるのって自分の為にもなる


「綾兎くんっ、頑張ろうねっ!!」


「はいっ!!」


二人はお互いの手をがっちり握りあい、頷きあっている


う、うん? 僕を挟んで同盟が結ばれてるよ……此れって良いことなんだよね?? 二人に振り回されそうな気がするのは僕の気のせいだよね……?


そんな不安を胸に抱いていると、綾兎が僕の顔を覗き込んできた


「杏、そういえばですね――」





「避けろっ!!」





「「!?(クラス全員)」」




一斉に壁側に寄るクラスメイト一同(僕達含む)




其の瞬間




バシュッ!!




「「っ!!?(クラス全員)」」




勢いよくカーブして黒板に刺さる……三角定規


一斉に振り返るクラスメイト一同



其処には――




「いや―、二日酔いの身に此の騒がしいのは毒だったからぶち壊してみた」


……担任の水城果鈴(二十八歳・独身)が仁王立ちになって扉の前に立っていた


「「…………」」


クラス全員からの冷たい視線が水城先生に向けられる


「な、なんだっ其の態度は!!」


クラスメイト一同は水城先生をスルーして、雑談に戻っていった


まあ……似たようなことを何度もやられていたら、慣れてくるか……


「あ……うぅ……」


行き場を無くした感情を何処かにぶつけたいけれど、何処にぶつけたら良いのか悩み始める水城先生


強気に宣言していたところはあるけれど、実は結構心が繊細らしい


ガラスのハート、ブレイクッ!!


そんな先生をほっといて、僕達も雑談を続ける


ええと……確か綾兎からだっけ?


其れを促すように綾兎に視線を向けると「ああ」と思い出したように話を始めた


「杏、そういえばですね。昨日街を散策していて美味しいパフェのあるお店を見つけたので、今度皆さんで行き――」


「ゆ―き―し―ろっ!!」


「ひうっ!?」


キュピーンッと水城先生が綾兎を視界に捕えた


チッ、せっかく和んできたのに……ぶち壊しやがって


「こいつ等はともかく、お前位は反論しろよっ!!」


「っ!?」


「「(キレるところ其所なのかよ……)」」


水城先生の剣幕に驚いた綾兎


先生の原動に同じツッコミを心の中で入れるクラスメイト一同


「す、すみません。でもっ!!」


一度ペコリと頭を下げてから懇願するように水城先生を見る綾兎


「ほう……先生に反響するとはいい度胸だな。雪代……」


スッと目を細め、綾兎を見つめる水城先生


「其れに対しては敢えて無視しますっ」


「な……無視だと!? おのれ、ゆき――」


綾兎の其の言葉は、水城先生の存在を軽く侮辱するものだった


怒りに身を震わせる水城先生はギロッと目付きを酷くした


まるで綾兎の存在を拒絶するかのように――


クラスメイト一同が黙り込む中で、二人の視線だけがぶつかり合う


そして、綾兎の言葉を待った


想いのままに口を開く綾兎


「……水城先生。三角定規は黒板に向けるものではなくて――」


『『(次の言葉、『授業で使うものです』を期待。byクラスメイト一同)』』





「三角定規は――人を狙って投げるものですッ!!」




「「「!!?(水城先生及びクラスメイト一同)」」」




…………雪代綾兎は只の天然(記念物?)キャラではないことに気付かされてしまった一同(水城先生含む)



「そうですね〜、シャープペンシルとかも先端が尖っているから捕獲するときに使えるんですけど……三角定規が一番突き刺さるんですよね♪」


微笑みを浮かべながら自分のペンケースから取り出したシャープペンシルを持ち、水城先生に向けて投げる素振りをする


「ほ、捕獲だと!? 雪代一体誰――」


其処でハッと気付き、ダラダラと冷や汗をかきはじめる水城先生


「ふふふっ♪」


浮かべていた笑みが怪しい笑いになる


「ちょっ!! 雪代っ!?」


「じゃあ、いっきますよ〜♪」


シャープペンシルを構える綾兎から逃げようとする水城先生


だが、クラスメイト一同により出入り口は塞がれ……じわじわと壁側に追い詰められていく


「くっ!! お前等全員グルかっ……無念」


ガクリと項垂れる水城先生を狙い続ける綾兎


え……まさか本気で投げないよね? アレってふざけているだけだよね……?


巻き込まれたくないから傍観していたけれど、嫌な予感がしてきた




ヒュッ




ザシュッ!!




綾兎の手から放たれた一本のシャープペンシルが空間を切り裂く様な勢いで水城先生の居る手前(約三十センチメートル先の場所)に刺さった


「「………………」」



「……ぅ……あ……」



サアアッと顔を青ざめる水城先生



「……む、もう少し左だったか……修正して再開です」



『『そう………………って、いやいやいやっ!!(クラスメイト一同)』』



クラスメイト一同が一斉に心の中でツッコミを入れたのが分かった


僕は何が起きたのかすぐに理解できなくて、戸惑い始める


何で皆……二人を止めないのだろう


……あ、綾兎が本気で水城先生狙っているんだ……わ――っ


思考回路が追い付いてきて状況を理解


…………


…………


……――って、え?



「二本目、うりゃ――……」




ガシッ



「え?」



「「!!?(水城先生含む)」」


綾兎の手から滑り落ち、カランッと勢いも無く床に転がるシャープペンシル……じゃなくてボールペン


急に止めた綾兎にちょっと驚いたけど、先生に怪我をさせたら大変だもんね



いや〜、治まって良かった



一人納得し「はぁ……」と溜め息を付き、席に着こうとする――ん?


「「……(ジーッ)……」」


……え? 何で皆僕を見てるんだろう


視線が突き刺さって精神的にくるものがあるんだけど……


無言の圧力が重いです……うぅ


「杏……? あの……」


「?」


恐々とした様子で僕に声を掛けてくる綾兎


「どうしたの?」


ニコリと笑みを浮かべてそう言うと、『え?』という表情を向けてくる


全く……一体どうしたのだろうか


戸惑いの表情を浮かべたまま綾兎は口にした


「杏……あの、腕を……」


「腕? ああごめん……って、あれ?」


全然気付いてなかったけどいつの間にか綾兎の腕を掴んでいた


…………


綾兎にシャープペンシルを向けられていたときの水城先生の様に冷や汗をかきはじめる僕


「ええと、その……」


「杏…………」


「う」




「此れが欲にいう『セクハラ』なのですかっ!?」




「っ!?」


無意識に仲裁に入った(と思う)のに、セクハラ扱いされました……何で?



キーンコーンカーンコーン



室内の空気をブチ壊すかの様にチャイムが鳴り、皆は席に座り始める


「……氷月。助けてくれた礼に今度何か奢るぞ」


「!?」


すれ違い様に水城先生が僕の耳許で小さく呟き、教卓へ向かって行った


「……杏がセクハラか……こんな日もあるんだ……」


「いや、してないから」


隣で妙なことを呟く睦月に言い返し、自分の机に座る


…………


……巻き込まれ人生真っ直中の僕は騒がしい教室の風景をまるで他人事の様に眺め、深く溜め息をついた


…………


………いや、なんかもう疲れたよ……






「あるー日〜♪ 森の中〜♪」


「…………」


隣で『森のくましゃん』を歌う綾兎と共に、放課後街中散策に出ることになった僕


綾兎曰く


「此の街って、えっと……神力や霊力・魔力らしき力が満ち溢れて居るんですよね〜」


だそうで


「それって良いことなの?」


って聞いたら、真顔で「秘密です」と断言されてしまった


確かに学校の在る此の『神月町』は、そこそこ有名な神社と大きな教会がある


確かクラスメイトの閑崎さんの家が教会だった気がする……電車で一駅先なだけだから、寮生活する必要はないはずだけど……家庭の事情だろうから詳しくは分からない


「くましゃんに♪ であーた♪」


「…………」


綾兎がさっきから歌っているのは『森のくまさん』とは違う曲らしい


なんでも綾兎の双子の姉・アリスに教えてもらったとか……


高校生が歌う曲ではないと思うんだけどね


僕の住んでいるのは神月町の隣町の『風見町』という所で、風見町は住宅密集地帯だから何もなくて……


都会に向かう人達が結構暮らしてる


神月町の方が都会から遠いけれど、風見町よりは発達しているかも


僕のバイト先も駅の側にあるしね


「花咲く森だった〜、血が飛ぶ夜だった〜♪」


「っ!?」


頭の中で考え事をしている間に歌の中で誰か死にました……アリス、弟にどういう歌を覚えさせたんだよ……


姉の言うことをまともに信じてしまう綾兎もどうかと思うんだけど


綾兎だから仕方無いか



ジーッ



「?」


「杏、今失礼な事考えませんでした? そんな気配が伝わってきたんですけど……」


「気のせいだよ」


隣から恨めしそうな視線を感じ、綾兎から言われたことに慌てて返す


……時々思うんだけど、綾兎って結構聡いのかもしれないなぁ


最近は勝手に人の心を読まなくなった分だけマシになったけれど……感覚で分かるものなのだろか……?


「くましゃんの〜♪ 言うことにゃっ☆ 犯人は♪ お前だ♪ 斧でぐ・ちゃ・ぐ・ちゃ・に〜♪惨殺死体にし〜♪」


……前言撤回……絶対『なんとなく?』だ



ガタガタガタガタッ



あ、あれ? なんだろう……凄く身の危険を感じるよ……


「杏、杏〜。あれを見てくださいっ!!」


「ん?」


隣で歌に恐怖を感じている僕に気付かず、声をかけてくる綾兎


綾兎の指差した方向をみる……あれ? 特に何もな――



「『空気』です♪」



「…………ワー、ホントダー、クウキクウキッ♪」


無言で返すのもなんなので、喜んでみた……片言な気がするのは気のせいということに――いや、此れは僕のキャラじゃないよ……


「……ぐすっ、ひっく」


「っ!?」


僕の答え方が相当悪かったのか綾兎さんが泣き出しました


「あ、綾兎……?」


恐る恐る声をかける


すると、両手で顔を覆ったままえぐえぐと泣いていた綾兎が呟く



「……『空気』なんかで喜ぶなんて……杏は凄く不憫な子だったんですね」



……なんでだろう……今、物凄く綾兎を殴りたいなぁ


「…………」


「杏……? どうして黙っているんですか?」


「…………」


「???」


ふるふると震える右手を片手で押さえつつ、暫くは無言で綾兎の隣を歩くことにした





「着きましたね」


「……うん……」


十数分後、僕たちは寂れた社の前に居た


社といっても、数十年前に守り主が居なくなり、規模を縮小されたらしく、鳥居を潜った先には小さい祠が在るだけだった


「杏……なにか感じませんか?」


綾兎に言われ、祠を見る



ボウッ



「……??」


気のせいかもしれないけれど、微かに祠に黒いもやの様なものが見える


其れはふわふわと祠の周りを飛び交っていて……気味が悪かった


嫌な気配もする


とても悲しい様な……そんな気配


「……杏も少しずつ感じるようになってきたのかも知れませんね」


「……そうだね。で、此れをどうするの?」


多分、浄化するんだと思うけれど……



「そうですね……封印しておきますか」



控えめな声でそう呟く綾兎に感心する


綾兎って時々破壊魔みたいな所があるから……隣の家(部屋?)に住んでいる水無瀬一家からはよくなにかが割れるような音がするから、それから比べればマシなんだけど……ね


「今は周りに誰もいないですよね」


キョロキョロと辺りを見回し、誰も居ない事を確認する


僕も一応確認する……よし、誰も居ないな



「じゃあ、始めます。……『光の導く空へと照らせ!!』」



綾兎はまるで『魔法少女』のような呪文を唱えた


呪文と共に空から現れる光の粒子の塊が綾兎の頭上付近に降り、ぶつかる寸前で翳した両手の上で勢いが消える


粒子の塊がどんどん構築され、金色の杖になった


綾兎も光の粒子に包まれ、初めて出逢ったときの――黒髪・長髪の美少女――いや、美少年になる


服も制服からモノトーンの服に変わる



「『聖杖・クロスセリア』」


杖を目の前に翳し、名を言う


……綾兎の杖ってそんな名前だったんだ……


杖を構えた状態でくるっと振り返る綾兎


「杏、早く呪文をっ」


「呪文?」


綾兎さん〜、そんなの知らないんですけど……


「心に浮かんだ呪文を言えば良いんですっ!!」


え、いや、そんなこと言われても困――



キィン



「っ――!!」


ふと、脳裏の端に昨日見た満月の景色が過った


闇に溶けゆく光のおぼかげ――


逆に考えると、光を闇が包み込んでいるようにも見えた



「……『闇よ……光を支える糧となれっ』」



取り敢えず頭に浮かんだ呪文を唱えてみた


呪文を言うのが恥ずかしくて最後は投げやりだったけど……其れは仕方がない


高二の男子が魔法少女のような呪文を唱えるなんて……何処の中二病患者だよ


『はぁ……』と溜め息を付く


…………


…………


………あれ?


呪文を唱えたのに特になにも起こらない


綾兎が『……?』って感じの視線を向けてくる


暫く沈黙が続き、綾兎が口を開いた


「……すみません。未だ杏には早すぎたようですね」


「……そう……みたいだね」


あんなに恥ずかしい思いをして唱えたのに……はぁ……


「やっぱり杏には根性が足りないんですね。情けないです……」


「僕、先に帰るね」


ここまで言われるとねぇ……


綾兎なんてもう知るか


スタスタと速く歩いて鳥居を抜け――


「杏、おいてかないで下さいっ(泣)」


…………


…………


「もう……チャッチャとやりますか」


「じゃあ、綾兎さんのお手並み拝見といきますか」


鳥居に寄りかかり、綾兎の方を見ながら言う


「そうですね。そこで見ていると良いですよ」



カチンッ


ガサゴソッ……パカッ


……何で綾兎って僕の勘に障るような事を敢えて言ってくるのだろう



カチカチカチカチッ……



携帯電話を開いて弄り始める


おっ、彼の声優さんが初ライブなんだ……睦月にメールして……と


カチカチカチカチッ


よし、送信!


「杏……人の話を聞いていますか?」


「…………」



たらら〜♪ららりら〜♪



……ガサゴソッ パカッ


「もしもし あ、睦月?」


『杏? さっきのメールの内容って本当!?』


メールを見て確認のため電話を掛けたらしい


「本当みたいだよ?」と返したとたん





『よっしゃ、キタァ――――――――ッ!!』





……すごい声量で叫ばれました……うぅ……心臓に悪いよ……


「杏……」


『私は心の叫びを聞いてほしかっただけだから〜〜んじゃっ☆』


ブツッ ツーッ、ツー……


睦月……教えない方がよかったかもしれないな……はぁ


パタンと携帯電話を折り畳んで、サイドボタンでマナーモードに設定してから鞄にしまう


さて、そろそろ綾兎でも構ってや――



「浄・化ッ!!」



ピカッ、パアアッ



綾兎の杖……『聖杖・クロスセリア』から降り注ぐ光によって辺りが一気に浄化された


『おおーっ』と感心する僕


只、技名が其のままだったのは結構変だったよ


「……杏なんか……杏なんかもう知らないですっ!! とっとと失せてください!!」


「うん、分かった」


綾兎に言われるままに立ち去ろうとする僕……流石にやりすぎたかもしれない


後ろで『うぅ……』と呟く綾兎


スタスタと綾兎に歩み寄り


「お疲れ様。じゃあ、帰りがけに綾兎が休み時間に言ってたお店にパフェでも食べに行こうか」


ポンッと綾兎の頭を撫でて、にこやかに言った


「……うぅっ! うぅふ? うーっ……」


思考の中で怒りとパフェへの葛藤と闘っているのか、唸る綾兎


僕を睨む黒い瞳が艶を持ち、まるでなにかを狙っているようで…………動物の本能の様なものだろうか


「……そうですね……お腹も空きましたし、ケーキでも食べて帰りましょう!!」


其のお店のケーキも美味しそうだったんですよね〜と新たに思考を巡らせる綾兎


思った以上に僕の案に食い付いてくれて良かったよ……


「話を振ってきたってことは……勿論杏の奢りですよね〜♪」


「う」


鞄の中からお財布を取り出し、中身を確認


…………


…………よし、なんとかある


「大丈夫ですよ」


「え?」


不意に声をかけられ戸惑う僕


「お茶だけ奢ってくださいね☆」


「……うんっ!」


何時もだったら突っかかってくる綾兎が、今回は落ち着いていた


でも、どうしてだろう


ニコリと微笑んでいる綾兎が少しだけ寂しそうに見えた……


「杏〜、速く行きましょう」


「あ、うん」


鳥居の下に置いてあった鞄を持ち上げ、先に進もうとする綾兎を追いかける


…………


…………


僕はくるっと振り返り、祠を見た


……ずっと人が立ち入らなかったのだろう


だからこんなに荒れて……


さっき綾兎が浄化したものは、もしかしたら寂しいという誰かの想いなのかもしれない


どうしてだか、そんな風に思えてならなかった……





綾兎と別れた後、スーパーで夕食の材料を買い、帰路へと着いた



鞄の中から鍵を取り出し、家のドアを開け――


ガチャッ


何時もと同じ……ではなく、玄関に大人の女性の履く華奢なヒールがあった


『母さん……帰ってきているんだ……』


胸の奥に不安が広がる


どうして急に帰ってきたんだ……


『会いたくない』


そんな感情が身体を飲み込んでいく


母さんには悪いけれど、僕は家族に会うと『自分の存在意義』を疑ってしまう


カタンッと音がし、リビングから母さんが顔を出す


そして告げた



「あら、『あんた』居たんだ」



「今帰ってきたところです」


……『此れが息子に話しかける態度なんですか?』と言ってやりたいけれど、どうせ話なんか聞いてもらえないだろう


この人にとって僕はどうでも良い存在なのだから


「あ、そうそう。あたしはもう戻ってこないから」


「え?」


思いがけない言葉に思わず顔を上げる


「何、知らないの? 涼我さんあんたに未だ伝えてなかったのね」


何? 一体なんのことだ??





「相変わらず都合の良い頭をしているのね。あんたみたいな『人殺し』の居る家にはもう戻らないって言ってるの」





叫ぶように放たれた言葉に身体が震える


サァァッと汗が引き、思考回路が働かなくなる


「邪魔よ。本当に迷惑な存在よね」


ドンッと突き飛ばされ、下駄箱にぶつかる


感情がぐらついて気持ち悪い


でも、僕は――


駄目だ


言っちゃ駄目だ


身体の中で危険信号が点滅する


だけど、開いた口は止められなかった


「母さんっ!! 彼の時本当は――」


「五月蝿いっ」



パンッ



耳元で破裂するような音がして、じわじわと頬が熱くなる


「『あんた』が『彼の子』を壊したんでしょ!! あたしの大切な『彼の子』を――っ」


息子を叩いたことに詫びることなく、只自分の感情をぶつけてくる母さん





「『あんた』に母さんなんて呼ばれたくないっ 『あんた』なんて産まなきゃ良かった!!」





「っ――――」


ヒールを履き、纏めた荷物を持ってドアを開け、一度も此方を見ずに出ていった


カツカツとヒールの歩く音が遠ざかっていく



バタンッ



反動で閉まったドアを他人事のように眺め続けた


どうしてこうなってしまったのだろう


自分で産んだんじゃないか


此処まで拒絶するくらいならいっそのこと――――





「産まれたくなかったよ、母さん……」





ヨロヨロと立ち上がり、キッチンに向かう


買ってきた食材を冷蔵庫に積めてから、おぼつかない足取りで自分の部屋へと向かった


ガチャッ


何時もと変わらない部屋


だけど世界から色が消えたように、自分が存在している感覚がない


ジャケットとネクタイ、ベストを脱ぎ捨ててベットに倒れ込む


ギシリとスプリングが鳴り、柔らかな羽毛布団が身体を受け入れる


休みの時に一緒に干したタオルケットと掛け布団を引き寄せ、自分の身体に掛ける


何時も使っている大きめの枕をギュッと抱き込み、全身の力を抜いた



はぁ…………



精神的に限界が来てるな……


二年前に初めて存在を拒絶されてから、殆んど会わなかった母親


母さんが僕の存在を鬱陶しく思うようになったのは何時からだったのだろう


でも、


今日の態度を見て分かった


僕は――此の世界に望まれて産まれたんじゃないことが……



ズキンッ 「っ!!」


ふと背中に痛みを感じ、母さんに突き飛ばされた時に下駄箱にぶつけたことを思い出す


頬も手を伸ばして触ると少し腫れていた


ショックが強すぎて、忘れていたのか……


此の痛みはぶつけた時の痛みなのだろうか……それとも



此れが心の痛みなのだろうか……



彼の事件が起きたときにはもう戻れない


其れでも、いや、其のときから僕は



自分の感情を表に出さないようにしていた



なのに……どうしてだか、最近は昔以上に感情が過剰になってきた


そう……其れは『雪代綾兎』に出会ってからだ


殆んど色をなくした僕に光を差し込んでくれた存在



嗚呼……そうか


僕は知らないうちに綾兎を心の中に受け入れていたんだ……


其処は前まで『桜果(おうか)』の居場所だった


僕の大切な存在……だった人



そして



僕が彼女の心を壊した



「ごめんね、桜果……」


言葉を口に出した瞬間、瞳から涙が溢れて流れ落ちた


「ごめん……ごめんなさい……っ……」


二度と届かない……届くことのない言葉を譫言のように繰り返す


心の中に積もった想いを吐き出せば吐き出すほど、胸が苦しくなった


……一度流れた涙は止まることを知らないように、何時までも僕の頬を濡らしていく



そして僕は其のまま意識を手放した……






杏と別れ、寮に戻ったボクは自室で勉強をしていた


『さっぱり分からない所はあるが、出来るだけ杏に迷惑を描けたくない』


そんな思いを胸に抱いて、黙々と授業でやった所を復習していた


生物や歴史は得意だけど、数学はどうにも馴染めなかった


数字の計算なんか簡単なものができれば良いのに……



「微分積分なんて、一体何に役立つのでしょうか……?」



目の前の事を早く止めたい・だけどこれ以上杏に迷惑は掛けたくない


…………


…………


カタンッとシャープペンシルを机の上に置き、「んーっ」と身体を伸ばす


かれこれ三十分位やっていたけれど、殆んど頭に入らなかった


其れは気になることがあったからだ



『氷月杏』が思った以上に早く覚醒しそうだということ……



そして――



「『二年前の闇の災厄』に『氷月杏』が関係しているということか?」


「っ!?」


ガタンッと椅子から立ち上がり、声のした扉の辺りを見る


其処には――



「やあ、其の件に関しての資料を持ってきてやったぞ」



「水城先生……」


二年A組の担任・水城果鈴が仁王立ちしていた


「違うだろ。他人がいないときは――」


「……『準ライトマスター・カリン』……様」


「そう……様をつけるのが僅かに遅かった気がするが」


ニヤリと不適な笑みを浮かべるカリン


OLのように、ビッシリとスーツが似合っている


見事なプロモーションの外見のわりに性格が悪いのが傷だ


「気のせいですよ」


よく杏が言っている此の言葉は結構便利だ


カリンは扉の内鍵を閉め、勝手に人のベットに座る


「綾兎、ちょっと此方に来い」


「……?」


言われるがまま近くに行く


グイッ 「わっ!?」


ドサッ


「な、何するんですか!?」


勢いよく手を引かれ、ベットに押し倒された


「いや、今日はやたら私に歯向かってきたからお仕置きでもしようかと思ってな」


「え、遠慮しますっ!!」


この人だったらどんなことをしてくるか分からない


流石にボクはMじゃないので、抵抗した


「……ま、お前もアリス以外とはいちゃつき――いや、調教されたくないか」


「!? 貴女は僕をどういう目で見て――」


「冗談だ」


ククッと笑いをこぼし、明らかS的な目でボクを見てくる


すっかり付き合わされてしまったため、凄く疲れた


さて、気を取り直して本題だ――て


「貴女は何時まで僕を押し倒したまんまなんですか!!」


「男としては嬉しい立場だろう?」


「いえ別に――といいますか……重いです」


「っ!!」


「さっさと退いてください」


取り敢えず思ったことを其のまま言う


ボクの言葉は結構カリン様の心を抉ったらしい……まあ、別にどうでもいいことだが


「お前、其れが女性に言う態度か!?」


「え……ああ、すみません」


ヨロヨロとボクの上から退くカリン様


やっと身動きが取れる……


「……で、『二年前の闇の災厄』に『氷月杏』が関係しているとは一体どういうことですか?」


「……其れは此の資料に書いてある。読め」


クリップで止めてある資料を渡され、それをめくる


「……そういえば綾兎は『氷月杏』をアリスの代役に建てたんだよな」


「ええ、そうですが」


資料に軽く目を通していく


……毎度の事ながら、どうして此処まで個人情報を探れるのだろう


多分、カリン様の対の存在・準ダークマスターの『神城拓海(かみしろたくみ)』ことタクミ様の情報だろうが


タクミ様は聖桜高校で保険医をしている眼鏡を掛けた優しげな人だ


そして、此の二人はボクとアリスのマスターの兄(姉)弟子にあたる方で……


「タクミの調べでは『氷月杏』が元凶というわけではないんだが……その……」


珍しくカリン様が口を濁す


ボクは資料をめくっていく


……杏のスリーサイズ、学歴とかは今どうでも良いんですけど……ちょっと興味はありますが


「ん?」


ふと、『家族構成』の欄の所に目が止まった


両親と杏、そして……


「『氷月……桜果』?」


資料では『双子』と書いてある


でも、杏に姉弟が居るなんて聞いたことはない


ページをめくると、戸籍のコピーがあった


「『氷月杏』と氷月……いや、『本宮桜果』は従兄弟にあたる。『本宮桜果』の両親は、氷月杏が二歳の時に亡くなったそうだ。だから氷月家に養子として引き取られ、誕生日が同じだったから『氷月杏』と『本宮桜果』は双子として育てられていた」


「そうなんですか……」


杏がボクに言わなかったこと……そんな家族風景があったとは……


「二人はその事を全く知らないまま育ち……『事件』は起きた」


「其れが『二年前の闇の災厄』ですか……」


本題を聞き出す


もしかして、『本宮桜果』が関係しているんじゃ……


「なんでも、『氷月杏』が『本宮桜果』を殺しかけた――」


「っ――――!?」


『そんな……どうして?』


杏が人を傷付けるようなことをするはずない


だけど――


「というのが、事件の内容らしいが……其れは違った」


「…………どういうことですか?」


表情を曇らせ、少し沈黙が続く


「……綾兎……、真実を知りたいか?」


カリン様の瞳が『お前は其れを知ってどうするんだ?』と訴えてくる


杏の過去を知ることは杏自信を傷付けることになるかもしれない


でも



「……ボクは知りたいです……其れが答えなら」



覚悟を決め、自分に言い聞かせるように凛とした声をあげる


「そうか……」


カリン様はボクの覚悟を受け取ったのか少し考え、口を開く





「真実は逆だ。理由は分からないが『本宮桜果』が『氷月杏』を刃物で刺した後首を絞めて殺害し、自らも手首を切って自殺を図った……どちらも未遂に終わったがな」





……其れが真実なのか


タクミ様は多分杏が家に居ないときにでも、過去を再生して真実を知ったのだろう


こんな…辛い真実を……


「事件の内容はそんなことだろう。此のときに『虚悪な闇の感情』を持ち、其れを暴走させたのはおそらく……」


「『本宮桜果』ですか……」


「…………」


何も言わないということは、肯定を指している


付け足すように、もう一言





「綾兎……氷月杏には気を付けろ。決して本宮桜果に合わせるな。二人はもしかしたら『私達に近い存在』なのかも知れない」





鋭い視線をボクに向けるカリン様


真実を知ったボクは呆然としていた


彼の杏が殺されかけた


杏の関係者が『闇の世界』を、アリスを消した……?


だとすれば、ボクは――



『場合によっては杏を消すことになる』



其れは嫌だ


だって杏は――


「綾兎……本来の目的、忘れるな」


ズシッとのし掛かる命令という言葉



突きつけられた真実は思った以上に哀しくて、辛いものだった…………






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