第三章~陰謀はささやかに加速して~
第三章〜陰謀はささやかに加速して〜
「……むう」
「はぁ……」
昨日に引き続き、綾兎はまだふて腐れていた
何があったのか聞こうとしたら、僕を睨みながら『……杏のバカヤローですっ!!』とか言ってきたので僕も構う気力が失せ、少しほっとこうと思い現在に至る
何かした記憶はないんだけどなぁ……僕は土曜日にコスプレっぽい格好をしていたのもあったせいか女の子に思われてナンパされたことが結構ショックだったし……
「杏……一体何したのよ?」
「さあ……僕も分からないんだよなぁ」
休み時間に睦月が小声で言ってきたのに対し、軽く答える
知ってたら対処できてるよ……
はっきり言ってこういう態度を取られるのは物凄く迷惑だけど、もし僕が知らない間に綾兎を傷付ける様なことをしていたら申し訳ないと思います
そして綾兎の不機嫌はずっと続き……結局、今日も原因が分からないまま時間が過ぎていった
『恋人達の倦怠期』
周りにはそう見えていたことだろう……
〜放課後〜
「氷月さん、これもお願いしまーす」
「あ、はい。分かりました」
図書室での週二日のアルバイトの中、返却された本を本棚に戻す
このアルバイトをして貰えるのはお金じゃなく、『優先貸し出し』と『卒論優先』という資格だ
私立ということもあるせいか、聖桜高校は高三の時に『卒論を書かなければ卒業できない』という決まりがあって……三年間無遅刻無欠席・成績首席・一流大学への入学もしくは就職確定していたとしても、『卒論』を提出しなければ卒業は認められない
『卒論』っていっても、大学のように堅苦しいものではなくレポートなんだけど結構面倒くさい
テーマは自由なので文学作品について調べてまとめればいいやって僕は考えてる
『文学を極める』が僕の唯一の目標だしね
『卒論優先』は委員会の仕事が少ないときは卒論を優先にして取り掛かっていいですよということで、『優先貸し出し』は卒論や課題に必要な資料を優先的に貸し出し(上手くすると取り寄せ)してくれる制度だ
休日働いている身としては助かります(凄く)
本当は働かなくても両親が毎月お金(生活費)を送ってくるから、休日のアルバイトは必要無いんだけど……学費と家賃、交通費・光熱費とかは払ってもらってるからなぁ
だけど両親には出来るだけ頼りたくないし、大学の入学費とかを自分で貯めたいと思っている
今の僕に出来ることは其れ位だろうから……
備え付けの梯子に上り、返却された本を棚に戻していく
本の貸し出しをやっていると、その人が何が趣味が分かってくるから面白い
人間観察が特技(趣味?)の人の気持ちが分かってくる
……そういえば、土曜日の夜に窓から聞こえたノックのような音は一体何だったのだろう?
水無瀬に聞いたら『其れ、俺じゃないぞ?』って言っていたし……綾兎と契約して、霊的なものでも感じるようになったのだろうか
まあ、今の綾兎の状態じゃ聞くに聞けないけどね
……はぁ……
本を棚に戻すついでに整理をしていると、色々なことを考えてしまう
ふと、指先が止まった
「? なんだろ……此れ……」
其処には背表紙に何も書いていない、真っ白な本があった
詩集か何かかと思い、本を引き抜く
手にとってみると、見た目は普通の本のようだ……表・裏表紙にも何も書かれていない
「……少し気になるし……後で借りてみようかな」
何時もならあまり変わったものには関わらないようにしているのに、綾兎の件といい……最近自ら首を突っ込んでいってる気がする
僕も少しずつ変わってきているのだろうか
手に取った本を見て少しだけ思う
『此れが魔導書だったら良いな』と……
なんて
「僕は現実逃避者か」
小声で自分にツッコミ、自己嫌悪に陥る
取り敢えず綾兎の件から先に何とかしないとなぁ……はぁ……
♪
〜同刻・二年A組〜
「さあ、取り敢えず話を聞かせてもらおうか」
「……睦月さんが恐いですっ……」
土曜日の夜(想定)から綾兎くんの機嫌がおかしいので話を聞こうと綾兎くんを呼び止めた
今日の仕事は特に無いし、イラストレーターをしているため部活には入ってないし……
綾兎くんは部活に入らない予定みたいだし
杏は図書室のアルバイトに行ったから此処には居ないし……何となく杏が原因の気がするのよね……
部活に行く人が多いため(運動部なんてあんまり強くないのに……)教室には生徒が殆んど居ない
昨日パソコンからコピーした小説の原稿を赤ペンでチェックしながら綾兎くんの話を聞く
暫く沈黙が続き、やっと綾兎くんが口を開いた
「睦月さん……杏には言わないで下さいね?」
おおっ、やっぱり杏関連のことなんだ
「うん、言わないよ」
私はニコリと微笑み、話を聞く
「えっとですね、土曜日に杏の家に行ったんですけど、杏が気付いてくれなくて……何度もノックしたのに……そのあと、水無瀬さんが杏の家に来て、杏は水無瀬さんに付いていってしまったんです。ボクには気付かないフリをして……酷いと思いませんっ!?」
始めは小さかった声が込み上げる怒りのせいか段々大きくなり、勢いに乗ってダンッと机を叩く綾兎くん
机をおもいっきり叩いた手が凄く痛そうだった
「確かに其れは杏が酷いと思うけれど……」
でも、杏だったら絶対に気付くはずだ
だけど……綾兎くんの言っていることも嘘ではないだろうし……うーん、でも……
「あんなに窓をノックしたのに……杏は最低ですっ!!」
「ムキィーッ!!」って怒りながら地団駄を踏んでいる綾兎くんを軽く受け流しつつ――え?
「……え? 窓??」
あれ? 杏の家って確か……
「綾兎くん……扉にノックしたんじゃないの?」
「窓……ですけど……?」
綾兎くんが何でこんな質問を? っていう顔で此方を見てくる
私は……思っていることをありのままに話した
「だって杏の家って……十八階建てマンションの十六階でしょ? どうやってノックするのよ」
「あ……」
『しまったっ!!』というように、みるみるうちに青ざめた表情になる綾兎くん
でも……私は分かるの
綾兎くんにとって其れは可能なことなんだって
「綾兎くん……今言ったことは嘘じゃないでしょう?」
「っ!?」
ビクッっと子猫の尻尾を踏みつけた時みたいな反応をする綾兎くん。その反応がちょっと『可愛いな』って思った
綾兎くんが転校生として教室に入ってきたときから感じていた違和感
其れが何なのか探るために私は言葉を紡ぐ
「だって綾兎くんは――」
ガラッ
「……えっと……二人とも、未だ残って居たの?」
「「え?」」
綾兎くんと扉の方を向く
すると気まずそうに立ち尽くす……氷月杏が居た
〜杏視点〜
職員会議で司書の先生が職員室に呼び出されたため早めにアルバイトも終わり、謎の白い本を借りようと本を開く。一番後ろのページに挟んである貸し出しカード(栞状のもの。ラミネート加工してある)を取り出そうとしたら挟まってなくって……仕方無いので無断で借りることにした(無断で借りるのは気が引けたけど仕方無いか……)
本を鞄の中にしまおうとして、教室に課題を忘れたことに気付いたから課題を取りに教室に向かったんだけど……
図書館は校舎を出て少し歩いた森(みたいに沢山樹が生えている)の中に在るため、教室までは遠い
だから校舎に入って三階まで行き、一番端のクラスに行くのは結構大変だ
其れでも教室に忘れた課題は明日までの期日だから、いやでも教室まで行くしかなくて……
「……?」
何時もなら怖いくらいに静かな三階が、ピリピリとした空気になってる……何かあったのだろうか
そんな空気の中をてくてくと歩き、A組の前に着く
クラスに誰か居るようなので様子を――
「……で、杏の家に行ったんですけど、杏が気付いてくれなくて……何度もノックしたのに……そのあと、水無瀬さんが杏の家に来て、杏は水無瀬さんに付いていってしまったんです」
あ、綾兎が居るのか……ん? 何か怒ってるような……
内容を聞く限り、土曜日の夜のノック音は綾兎だったみたいなんだけど……霊関係や怪奇現象かと思っていたからちょっと残念
綾兎の怒っている原因が分かりそうなのでそのまま聞くことにする
「ボクには気付かないフリをして……酷いと思いませんっ!?」
ダンッ!!
うわっ!? 綾兎がキレた
凄い音がしたけれど机壊れてないだろうか……
「確かに其れは杏が酷いと思うけれど……」
ん? もしかして睦月が居るのかな
綾兎の話を軽く受け流してくれてるなら良いんだけど……
扉を開ければ済むことだけど、綾兎と喧嘩(一方的)をしているため中に入りづらい
「あんなに窓をノックしたのに……杏は最低ですっ!!」
「……え? 窓??」
あ……綾兎が墓穴を掘った
僕みたいに契約してたり、超能力者でもない限り分からないのに……
背中に冷や汗をかきつつ、会話を聞き続ける
「綾兎くん……扉にノックしたんじゃないの?」
「窓……ですけど?」
嗚呼……睦月が痛いところを突いてくるよ……
「だって杏の家って……十八階建てマンションの十六階でしょ? どうやってノックするのよ」
「あ……」
睦月……うん、正解だよ
自称高所恐怖症のくせに、高いところに住んでるよ……僕
そして顔は見えないけれど扉の先では綾兎が顔を青ざめていることだろう
「綾兎くん……今言ったことは嘘じゃないでしょう?」
「っ!?」
扉に手を掛け、開ける準備をする
さて、そろそろ綾兎を助けに行くか――って……え?
「だって綾兎くんは――」
睦月の言葉の続きが気になったけれど、扉を開ける手の勢いは止まることなく……
ガラッ
「……えっと……二人とも、未だ残って居たの?」
「「え?」」
無理矢理ごまかしてみたけど、たぶん話を聞いてたのはバレたかもしれない
二人は勢いよく僕の方を向く
僕は気まずそうに立ち尽くす
二人の視線がぶつかるこの場所は凄く居づらかった
♪
「で、杏はどうして教室に?」
教室から寮に向かう分かれ道までの間、不意に睦月が聞いてきた
「明日までの課題を忘れて取りに来たんだ」
事情を有りのままに話し、てくてくと歩く
「うわー、そういう所は真面目だよね」
「其れは言うな」
綾兎が黙っているので僕と睦月だけで話す
思った通り、課題は机の中に入っていた
帰ったらやらないとなぁ……
氷月杏・やることはちゃんとやります
勉強は将来の為に役立つことだし、課題は僕の好きな現代文だしね
中学の時に文芸部に入部していたので、自然に文学が好きになった。睦月と初めて出逢ったのは中学二年の小説投稿の時だった……
睦月自身、僕の書く話に興味があり、僕もまた睦月の書く話は好きだった
だから中三の時の小説投稿の時、ぐだぐだな話を書いた僕を睦月は泣きながら怒った
「どうして……私以上に才能がある君が、何で賞を獲れなかったの……? 私は全力を尽くして君に並べるような作品を考えたのに……何でっ、なんでこんな作品を出したのよっ!!」
僕の胸ぐらを掴み、瞳に涙を一杯溜めて訴えてきた睦月の手は震えていた
そんな睦月の瞳を見るのが怖くて……下を向いたまま睦月にだけ聞こえるように言った
「ゴメン……もう物語は書けないんだ。だから……」
パンッ
耳許で乾いた音がし、じわじわと痛みと共に頬が熱くなった
「才能を持っていて、書かないなんて最低だよっ!!」
睦月の表情は驚きと哀しみに染まっていた
「……ごめんなさい」
僕はそう呟き、会場を去っていった
睦月は僕と張り合うために書いた小説で最優秀賞を取り、小説家になった
イラストレーターとしての仕事を始めたのは高校に入学してからだけど、『よく身体が持つな』って思う時がある
小説を書くには膨大な知識と想像力が必要だから小説家になったというだけでも凄いのに、イラストレーターとしても活躍しているから本当に感心するんだ
僕自身、小説は今でも書きたいと思うことはある
だけど、当時はあった想像力が今は殆んど残ってなくて……なかなか難しいみたいだ
「話は変わるんだけど杏、此れから何か予定ある?」
「え……無いけど?」
アルバイトも終わったし……用事と言っても、夕食の買い物と課題ぐらいだろうか
「だったら私の部屋に来ない?」
にこりと微笑み、僕の腕を引っ張る睦月
そんな睦月に有りのままに思ったことを一言
「……其れって逢い引き?」
「はうっ!?」
顔を一気に真っ赤にし、茹でダコのようになる
照れると耳まで真っ赤になるから面白いよなぁ……僕の癒しの一つにしておこう
「……で、用は何?」
「いつぞやに聞いたシチュエーションですね……」
さっきまで黙っていた綾兎が口を挟む
「えっとね、小説の見直しに付き合ってほしくて……」
ちょっと考えていたことを読まれたようでドキッとした
まあ、見直しは何時ものことなので構わないし、睦月の新作が読めるのならむしろ大歓迎だ
「良いよ」
「本当に!? 杏に見てもらうとややこしい文章の部分が改善されるから助かるよ〜」
爛々とした瞳で僕を見つめてくる
「…………」
……うん? 隣から凄く強い視線を感じるんだけど……
「綾兎はどうする? ……って、見てるだけじゃつまらないかも知れないけれど……」
さっきの勢いに対し、何処か寂しげな綾兎は何か考え事をしていた
「……ボクはやらなきゃいけないことがあるので良いです。二人の邪魔をしちゃいけないですね」
「やらなきゃいけないことって?」
「……それは秘密です☆」
なんだろう……もしかして綾兎……遠慮した?
気を使わせたちゃったならなんか申し訳ないな……
暫く歩いているうちに寮と学校外との分かれ道に着き、僕は睦月の部屋がある女子寮に向かう
綾兎は街に行くらしい
「じゃあ杏、睦月さん。また明日です」
「気を付けてね、綾兎」
僕達にペコリと頭を下げ街へ向かう綾兎を見送り、睦月の後を追う
私立聖桜学校の寮は、一人一部屋か二人部屋になるのが普通で、睦月は仕事をしていることもあり、二人部屋を一人で使用している
片方の部屋に資料を置いたり、編集さんとの打ち合わせをしたり……仮眠室にしたりする
イラストレーションや小説執筆が追われて修羅場になったときに寮長に特別に許可を貰って停まりに行ったことがあって……とにかく寮の施設は凄かった
図書館同様に趣のある外見に、セキュリティ万全のカード式の鍵。部屋はオートロックで1LK。キッチンは最新型の機能を持ち、食事は自分で作ってもよし・食堂で食べてもよしで、自分で料理する場合、殆んどの食材は注文すれば届くし、食堂ではバイキング形式の食事が用意してあるから言うことなしだ
お風呂も各部屋にユニットバスは付いてるし、大浴場はあるし……私立だからこそなのか凄いなと思う
そのわりには学費はそんなに高くなかったと思うんだけど……やっぱりこの高校には謎が多いよ……
前に図書委員の先輩が言ってた『聖桜高校七不思議』もありそうで無いものだったし……
「そういえば、睦月は今どんな小説を書いてる途中なの?」
僕でよければアドバイスしたいのと、なんとなく話の内容によってはちょこっと高校の事を書き込んでみても悪くないと思うんだけど……
「えっとね、後で読んでもらうけど学園ものかな。恋愛とか友情とかを練り込んでいるんだけどなかなか上手く行かなくて困ってたの」
あははと苦笑を浮かべる睦月
友情ものは未だしも恋愛ものとかって、そこそこ経験がないと書きづらいよね
「ん? 恋愛もの書けるんじゃ、もしかして睦月は経験あるの?」
「えっ!!」
僕の問いに対し、ブアッとさっきよりも顔を紅潮させる
その反応が初々しくて可愛いなって思った
普段は突拍子もない行動ばかりするからあまり考えたことはなかったけど、睦月は僕とはまた違った意味で同性・異性から好意(同性の場合は友達としてのかな)を寄せられる
美少女で小説家とイラストレーター、それ以外は詳しくは知らないけど何かあった気がするんだよね
一体なんだったっけ……?
「杏、そろそろ着くよ〜」
「あ、うん」
歩いているうちに道が開けていき、寮が見えてきた
男子寮は綾兎と別れた道を少し逸れて歩いていくとある
どちらの寮も結構学校から離れているけれど、離れている分だけ性関係の問題は起きにくいみたいだ
睦月の後を付いていき、寮の中に入る
女子寮に入るのはなんとなく抵抗があるものの、仕方ないよね
ふと、背後に違和感を感じ――
ガバッ
「杏くんだ〜、やっほい☆」
「か、閑咲さん!?」
「あ、ミユ〜ただいま♪」
ギュウッと背後から僕を抱き締める閑崎観柚さん
今回は部屋じゃなく寮の廊下で抱きついてきたため、周りからの視線が痛い
「あの……そろそろ放してもらえ――」
「杏くんって意外にやらしーねぇ♪」
「っ!!」
カアッと自分の顔が紅潮したのが分かった
いや、その……胸が背中にあたっていたら誰だって……
「まあ、杏くんだったら良いやっ」
「良いんだ……」
僕だから未だしも……他の男子に言ったら大変なことになるよ……
「で、今日はなんの用かなぁ?」
にぱーっととびきりの笑顔で聞く閑崎さん……なんか何時も以上に語尾に違和感があるんだけど……
「私の小説を見てもらう所なのよ」
ちょっと苦笑気味に言う睦月
何時も振り回されているもんなぁ
「ふうん、そうなんだぁ……此れからえっちぃことでもするのかと……」
「しないわよっ(しないよっ)!!」
前言撤回、振り回されてるのは僕もだった
「でも、二人っきりってねぇ……よしっ!!」
「「え?」」
少し考えるようなそぶりを見せ、キラキラと輝いた視線を向けてくる閑崎さん
「観柚もいくっ!!」
「「…………え」」
勢いに乗り宣言された言葉に僕と睦月は固まる
「とりあえず睦月ちゃんの部屋をガーって漁って、いろいろ発掘するっ!!」
「それは困るよっ!!」
『只でさえ酷い有り様なのに、荒らされたりしたら資料が流れ落ちてくる(泣)』と顔に書いてあるのが分かった
「観柚が漁ってる効果音の中、二人はえっちぃ事でもしてればいいと思うにゃ☆」
「だからしませんって!!」
何時も以上に僕の扱いが酷かった……えっちぃことなんてしないよっ……多分
「んー? 最近杏くんちょっと生意気だよねぇ……観柚の言うことが聞けないのぉ?」
「閑崎さん……?」
な、なんか閑崎さんの行動が、正月に親戚の家に行ったときの従姉妹のお姉さんの感じに似てる
「杏……ミユが酔ってる」
「えっ!?」
確かにこの状況は酔ったお姉さんの絡み酒に似ているけれど……
でも、未成年でお酒は買えないはずだ
「杏、違うのよ……ミユは……」
「うぃ〜ひっくっ。睦月ちゃん、観柚にもっと炭酸をちょーらい♪」
「ミユまた私のジンジャーエールを勝手に飲んだの!?」
僕への言葉を遮り、閑崎さんに怒鳴る睦月
閑崎さんの言動により、睦月の言いたかったことがなんとなく理解できた
今どき……現実で炭酸飲料を飲んで酔っ払う人が存在するなんて思いませんでした
「ほらっ!! 杏くんもググッと!!」
僕の胸に炭酸飲料を押し付けてくる
「閑崎さん、僕炭酸は苦手――ってペットボトル振らないで下さいっ!!」
ブンブン振り回し、パンパンに膨れ上がったニリットルのペットボトルを僕と睦月に向ける閑崎さん
口元が「今までのお返しだよっ☆」っていう感じに歪んでいた
「いっくよ〜 うりゃっ☆」
バシャァァァッ
「「……う……(イラッ)」」
「アハハッ、二人ともびしょびしょ〜♪ 『炭酸も滴る良いコンビ』だね☆」
ジンジャーエールのシャワーをもろに被り、制服もろともがぐしょ濡れになった
廊下にはジンジャーエールの水溜まりができ、その上に僕たちはただ無言で立ちつくす
睦月とアイコンタクトをとり、お互いの考えを同意するかのように頷き合い……同時に言い放つ
「「ミユ(閑崎さん)……」」
「ん?」
「其処に座りなさいっ(座れっ)!!」
……言葉攻めの幕開けだった
♪
「……で、どう?」
酔った閑崎さんを叱り、同室の女の子に無理矢理連れ去ってもらった……連れ去っていった女の子が『観柚を調教し直さないとね……フフッ』と言っていたことは早めに脳内から抹消しようと思います
おもいっきり炭酸を被ったので、睦月にシャワーを借りて、以前着させられたコスプレの服を着て現在に至る(服はシンプルなスーツっぽいの。メイド服を差し出され全力で拒否した結果そうなった)
椅子に座って、ペラペラとコピーされた原稿の束を捲り、赤ペンで気になるところを直していく
『どうしてっ!! どうして君はド――――(後半自主規制)』
……ふむ、ここの文章の流れがちょっと……僕だったらもう少しこう……
『ねぇ日向っ!! どうして君は変た――(後半自主規制)』
……文章がちょっとアレだが、こんなもんだろう
ちょこちょこ直していくと、隣の部屋でイラストのペン入れをしていた睦月がおずおずと顔を出してきた
「ど、どうかな……?」
「…………」
直しているときに聞かれても困るため無言で返す。「うぅ……」と項垂れながら、心配そうに僕の手元を見てくる睦月
かなり訂正してしまったため、文章が読みづらくなってしまった部分が多いのが分かる
それでも、我慢しているのか僕に口出しはしてこない
暫くの沈黙の中、原稿を捲る音と僕が書き込んでいく音が止むまで睦月は僕の傍らに座っていた
そして――
「睦月……文章が混乱してる部分があるんだけど、何かあった……?」
「っ」
書いてるときに文章の前後が逆になるのはよくあることだけど、ちょっと多すぎて凄く読みづらかった
「其れに、今回の話の主人公が結構……僕に似ているような気が……」
「うぅ……」
無許可で自分に似ているキャラを使われたことは吃驚したけど、以前僕もやったことがあるため其処は未だ良い
だけど……
「後……この話って明らか……BL?」
「……うん、そうだね☆」
開き直ったっ!!
いや……ちょっと其れだけは……
なんだろう……前に睦月に無理矢理読まされた『純情ロ○ンチカ』の主人公の気持ちが理解できるよ……複雑すぎる
「いや〜、新しいジャンルに挑戦してみようと思って……BLって言っても未だ友情超えてないし」
「……相手が水無瀬の気がするのは気のせいだよね?」
恐る恐る聞いてみると、
「そうだけど?」
「……はぁ」
第二の被害者が居たよ……
〜同時刻・水無瀬〜
「くしゅんっ」
「キャプテン、どうかしました?」
「いや……なんか悪寒がして……」
ブルッと身体を震わせる俺
凄く嫌な予感がしたが、気のせいだろうと自分に言い聞かせ、練習試合に向かった
♪
「ふぅ、こんなもんかな」
耐えに耐えてなんとか読破し、気になるところをチェックして説明してたら二時間も経過していた
「うん、前よりも良くなったと思う。ありがとね」
「ちゃんと編集者の人に相談してから直したいところを直すんだよ?」
「はあーい♪」
気になっていた悩みが解決したせいか、睦月の足取りは何時も以上に軽かった……後は編集者次第だろう
明日詳しく話し合うみたいで睦月は携帯電話を開き、ポチポチとメールを打っていた
僕もそろそろ帰らないとなぁ……
「睦月、もう遅いしそろそろ帰るね」
腕時計を見ると、今は夜八時位だ
これから夕飯を作るのも大変なので、久々にコンビニのスパゲッティでも食べようかと考えつつ、使った赤ペンをペンケースにしまい、鞄の中に入れる
ふと、鞄の中を漁っていた手が止まった
『……そういえば(勝手に)持ってきたんだっけ……』
綾兎に相談してみようと思って図書館から持ってきた白い本
すっかり聞くの忘れてたよ……
「そうだね、遅くまでごめんね? 途中まで送っていくよ」
「あ、大丈夫だよ。睦月を危険な目に会わせたくないし……今日は晴れてるから、月明かりが綺麗だし」
にこりと作り笑いをして、その場をもたせる
睦月には内緒にしておこう……只の真っ白な本だし……
妙なことに巻き込みたくないしね
この本を見つけたときに今まで感じなかった違和感のようなものを感じた
何か引っ掛かるというか……其れは前に『闇の世界』の一部に出会ったときに感じた感覚に似ていて……
このことは綾兎と僕だけが巻き込まれていれば良いと思うんだ
未だ、自分に秘められている能力が何なのかは分からないけれど……そろそろ僕の出番かな
最近綾兎に対しての接し方が酷いように周りには見えるかも知れないけれど
其れは――
『もう少し『雪代綾兎』という存在を知りたい』
という気持ちが僕の中にあるからだと考えたいな
そういう考えを頭の片隅に置きながら鞄を持って睦月の部屋を出る
「じゃあ、気を付けてね」
「うん。また明日」
僕を見送る睦月にひらひらと手を振り、ガチャリと扉を閉める
廊下に居た寮の生徒数人が僕に対し興味と驚きの視線を向けてくるのをスルーして、寮母さんに頭を下げて女子寮を出た
外に出ると、満月の月明かりがとても綺麗で
そんな中
『……今頃綾兎は何をしているのかな』
と考える僕が居たんだ
♪
「杏は今頃どうしているんでしょう……?」
何度目かの溜め息を付き、街を歩く
最初はどの場所に何があるのかを知るための探索だったが、いつの間にか『飲食系巡りの旅〜街編〜』になってしまった
「其れは別に構わないんですけど……うぅ……」
ちょっとした小路が気になって入ったまでは良いが、すっかり迷った……新ためて自分が方向音痴だと実感!!
「まあ、此れくらいなんとかなるんですけどね」
周りに誰も居ないことを確認し、『詞』を紡ぐ
『風華・アルセプス』
キィンという音と共に風が身体を包み込み、身体が宙に浮く
『空から見上げれば此処が何処か分かるでしょうか』
そんなことを考えつつ、意識を空に向ける
すると身体が一気に上昇し、二十階建てのマンション位の高さ迄浮いていた
ふうっと息を付き、身体を元に戻す
『解』
制服からシンプルなモノトーンの服に変え、紙を元の長さに戻す
身体つきをはっきり見なければ分からないだろうというくらい、自分の外見は『少年』より『少女』だ
其れは元からで、仕方ないことかもしれない
だってボクは……
『前世では『女の子』として生きていたから……』
大きな霊能力を持つ家系に『忌み子』として産まれたボクとアリス
時代的に片割れが殺されてもおかしくない状況
本来なら産まれて直ぐ殺されるはずだった
しかし、ボクらのときは十二歳という境のときまで同等の扱いを受け、大事にされながら不自由の無い時間を過ごした
お互いどちらかを亡くすという思いを常に感じながら
そして――十二歳を迎えた秋
アリスは膨大な霊能力を持ち、ボクは自然を操る『異端な力』を持っていた
『今までに無かった異端な力』は周りに恐怖と混乱を招く可能性があった
無くすには惜しい力……その為殺されることは無くなった
其の代わり、自由を封じられ……ボクは幽閉されることになった
其れでも、彼のときはアリスが傍に居たからやってこれた
だけど……今は何処に居るのかさえ分からない
ボクよりもアリスの方が能力が高いから、自ら能力を使って気配を消してるのだったら仕方がないことだ
だけど……
「早く逢いたいよ……アリス姉さん」
心に浮かんだ言葉を吐き出し、立ち尽くす
二年前にアリスが居なくなったときに気付いた
自分を支えてくれていたアリスの存在の大きさに
今でも自分にとってアリスが一番大切な存在で
其れに、新たに『氷月杏』という存在が占めてきたと思うようになった
スウッと顔を撫でる風を感じ、自分の気持ちを乗せるように……
どうかこの気持ちを大切なアリスに届けてくれますように……
満月が輝く満天な星空の中、まるで流れ星に祈るかのように瞳を閉じる
流れ星の代わりに溢れた雫が頬を伝った