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絆〜僕と君を結ぶ鎖~  作者: 綾瀬 椎菜
23/24

【導く二つの廻る螺旋】11

        *




闇の中を満ちていく光。


光は闇に。闇は光に。


過去も未来も――――全てを包み込んで。


【夜の支配者】の力が覚醒してから、そんな【月の光】のような存在に成れたら良いと思っていた。


だからこそ、誰もが幸せになれる世界を願ってしまうのかもしれない。


悲しい結末を見たくない・知りたくない。


けれど…………何時までも知らないままではいられない。



『本当に残酷すぎるよね。人生って』



月の光が満ちる場所で、僕は想いを馳せながら彼等を待った。




         *




其れから数十分後――――



「杏、来ましたよ」



「…………待たせたな」



月の光に照らされた境内に彼等は現れた。


高台にあるこの場所を帰宅前に綾兎に会って教えておいた。


日付けが変わる時刻――――深夜に此処に来るように伝えた。


十八歳以下で夜間出歩いている所を誰かに見つかったら補導されるだろう。


こういう時、只の人間じゃなくって良かったと思う。


複雑だけど。



「二人とも夜遅くにごめん。誰も居ない時間じゃないと一寸ね……」



「大丈夫です。保護者には許可を貰いましたから」



「そっか……」



ぎこちないのは綾兎と僕のどちらだろう。



「亜梨栖もありがとうね」



「別に……元はワタシのせいだし」



「…………亜梨栖は悪くないよ」



張り付いた笑みが剥がれそうになるのを押さえる。


此れから起こる事は、僕にも予測出来ない。


万が一力が暴走しても、住宅地から離れた此処なら大丈夫だろう……たぶん。



「にしても…………どうして此処なんですか? 此処って以前杏とボクで浄化したところですよね」



キョロキョロと辺りを見渡す綾兎。よく覚えてたな……



「そう、あれから知ったんだけど…………僕の力の管轄内の場所みたいなんだよね」



「「え」」



流石双子、息がピッタリ。


僕を見つめる双子に、説明する。



「此処、【月読(つくよみ)神社】って言うんだって。夜の神様【月読命(つくよみのみこと)】を奉っている場所。【夜の支配者】の始祖が月読命だから…………【夜の支配者】の次期当主である僕の力を引き出しやすい場所」



「あ、え、そうだったんですか…………」



戸惑う綾兎を放置しながら話を続ける。


大丈夫、僕自身完全には理解してないから。短時間で覚えきれてないから。



「今言った事は、現当主の昂月に聞いた事だから大体合ってると思う。更に今日は満月だ。僕の力の源は夜と月だから、何時もよりはずっと力を解放出来る」



「っ、其れじゃ」



「と言っても何処まで出来るかは分からないけどね」



苦笑すると二人の表情が暗くなった。


だから言いたくなかったんだけど……仕方無い。


数時間前に桜果を見送り、綾兎にこの事を伝えた後、図書館で幾つかの書物を借りた。


【月・神様・力・光・闇・夜】そして【月読命】


昔読んだ神話に登場しているこの国の神様。


パソコンで検索を掛けて本を探し、一致するものを書き出してリストを作り幾つか借りる。


帰宅後に昂月とコンタクトを計り、尋問を始めた。



「昂月、此れは一体どういう事?」



ベッドで瞳を閉じながら話す。



《いや、我に聞かれても詳しくは》



「知ってる分だけで構わないから話せ」



彼に対しては偽りのない本来の僕で接する。


口調がキツいのは気を使わないからだ。



《っ、ああ…………我等の力の元は月と夜だ。其れは薄々察しているな》



「うん」



《昔々、【月読命】が居た》



「いきなり神様登場!?」



淡々と話す内容が突飛していて飛び起きてしまう。


力の意識が切れ掛かるのを慌てて再度繋いだ。



《【月読】には【天照(あまてらす)】と【素盞嗚(すさのお)】という兄弟が居た。特に【天照】は【月読】にとって対の存在だ。【月読】の力を持つ子孫が我等【夜の支配者】だ》



「おい、一寸内容が飛躍しすぎじゃない?」



一気な許容量オーバーしてるんだけど(汗)



《氷月杏。詳しい話はまた落ち着いてからだ。お前にはやる事があるだろう》



「まあ、其れはそうだけど…………」



なんだろう、上手く避けられた気がするんだけど。



《確か学校も長期休暇に入るだろう。その期間にでも詳しく語ろうぞ》



「長期休暇……夏休みの事か。その間なら多少時間取れるし、気になる内容でもあるから課題研究の題材にするよ」



よし、卒業レポートのテーマ決定♪



《おい、学業と分けて》



「やるより効率良いし、勉強だと思えば詳しく調べられる。一石二鳥だよ。何か不満でも?」



本人が居たら満面の笑みで圧力を掛けている。


肝心な時は傍に居ない彼。


基本的に【月の果て(彼の場所)】から動けないらしいから仕方無いんだけど、もう少手段は無いものか。



《…………無いな。じゃあ其の件は放置して。今回の件だ》



渋々同意し、本題に入る。



「綾兎と亜梨栖と黒主と真白達が一緒に居たいという願いを叶える為に僕等に出来る事」



《無い》



「即答するな」



冷たくあしらうと、動揺が伝わってきた。



《…………別に八百万の神様の内、二人欠けても支障無いだろ?》



「そうは言っても神の力は持ってるし、守護神は憑いたヒトから離れる事が出来ないよね」



だって守護神として土地かヒトに憑くのは定義だから。



《だからヒトと神の魂同士が結び付いているからな。だから其れを利用する》



「え、どういう事?」



《魂同士が結び付いていても、身体からある程度離れる事は出来る。だからヒトとは別の媒介になる身体があれば良い。力の大きさにもよるが、お前が持ってる鍵みたいなアクセサリーでも大丈夫だろう》



チャリっと僕の鍵に触れる。


長い鎖が付いた十字架【蒼月そうげつ


十字架の中心には半透明の石 (おそらくムーンストーン)が埋め込まれたもの。


桜果がどうして亜梨栖経由で僕に渡したかは分からないけど、力の媒介として使っている。



大切な【絆の鍵】。



「力の大きさ…………か」



「後はお前次第だ。我が助言するのはここまで。これ以上は自分自身で考えろ」



「……分かった。あ、そうだ」



「何だ」



「其れって、昂月も僕の傍に付ける方法として使える――――」



「訳無いだろう。我と兎を比べるな。月読は天照の対だと言っただろ。格が違う」



「そうなんだ……」



と言う事は僕はゆくゆく月読の力を完全に継ぐわけで、兎達よりは力が強い?


なら、何とか出来る? 思うがままに・僕の望むがままに…………


誰も傷付く事のない未来を築ける…………?



「お前は人一倍創造力に長けている。其れと力の双方を組み合わせるのなら、誰よりも強くなる。世界を統べる程に」



「いや世界を統べる気はないよ。興味ないし。只……」



僕の思うがままに事が進んでしまうのは嫌だ。


ヒトの感情は機械じゃない。個人個人ちゃんと意思がある。


其れを無くしてしまったらもうヒトではないだろ?


只流されるだけの人生は楽だよ。


与えられたレールの上を進み、決められた選択肢通りに生きれば良いのだから。


けど、其れって楽しい?


僕じゃなくても出来る事だよね?


なら僕は…………僕に出来る事をしたい。


僕にしか出来ない事を――――


其の為の力を持っているのは僕だけなのだから。


綾兎達の目の前に、ポケットから取り出した二つのストラップを取り出す。


兎のぬいぐるみ(マスコット)が付いた、二色の可愛いデザイン。



「綾兎・亜梨栖。黒主と真白を呼んで。僕も準備するから」



ジャラッと音を立て鎖の先にある鍵を取り出し、手をかざした。



『闇よ光を支える糧となり、光よ闇を照らす道標となれ。我、夜の遺伝子を継ぎし契約者・氷月杏の名の元に【絆の鍵】よ。我が想いに答えよ!!』




キインッと音が響き、蒼白い光と共に現れる【夜剣やけん蒼月そうげつ


ちゃきっと音を立て、構える。



《ヒヅキキョウ、やれ》



《オマエに委ねよう》



黒主と真白の姿を捉え、





ザシュッ 「「えっ (なっ)!?」」





――――僕は蒼月で、黒主と真白の身体を引き裂いた。



彼等は抵抗無く其れを受け入れて…………黒主は黒の・真白は白の光の粒子に変換されて薄れていく。



「おいっ、このままじゃ消えて……」



「そうですよっ、杏此れはあんまりにも酷い――――」





「【変換】そして、【ビー玉サイズの魂に圧縮】」




「「はっ?」」



頭の中に構造を描き、黒主達の周りに自分の【夜の支配者】の力を一緒に漂わせて、黒主達を包み込んで圧縮していく。


イメージはビー玉位。


それ以上は入らないから。出来るだけ極度に小さくをイメージして。



「くっ……もう少し小さくっ!!」



イメージを実体化させて展開する。


最初は口を出していた二人も、今は光景を見守っている。


やがて、光の粒子は消えて…………宝石のような結晶が二つ残った。


地面に落ちる前に掴み取り、掌に乗せる。


真珠のような真白の魂。


黒曜石のような黒主の魂。


「二人とも、少し持っててくれる?」


綾兎に黒主の魂を、亜梨栖に真白の魂を持たせ、ソーイングセットを取り出す。


手にしていた蒼月を【よく切れるメス】に変換して――――


桜果から二人にと渡されたストラップの兎の腹を裂いた。


「杏が何をしたいのか、ボク分かってきましたよ。ですが…………」


「やり方が凄くエグいな」


「言わないで。他に方法が浮かばなかったんだから」


良いながら、亜梨栖に白兎のストラップを持たせ、彼女に渡した真白の魂を腹の中心に詰める。


何かあってもマスコットの中に詰められている綿が護ってくれるだろう。


車に轢かれたり、燃やされなければある程度は大丈夫な筈。


「一応、血を少し分けて貰って良いかな? 一度切れた繋がりを修復するのは中々難しいし。新たに契約した方が良いと思う」


「そうですね…………今度は家や土地に縛られるんじゃなくて、彼等の意思でボク等の傍に居られるように。過去よりも大切なのは…………未来なのですから!」


「じゃ、綾兎のも黒主を詰めてっと」


黒兎の腹部に黒主の魂を押し込む。


「二人の血を……願いと共に染み込ませて」


こくっと頷く彼等を見守る。


指先を噛み、傷口から溢れ伝い落ちる血液が、魂と綿を濡らす。


「ワタシは今度こそ違えない。オマエ達が護ってくれたからこそ」


「新たな力と共に生まれ落ちた世界で、貴方達と……亜梨栖と居られるように」


「「二匹の魂の再構築を!」」


パアアッ


血液に濡れた魂が、光輝き姿を創る。


白と黒の光が混ざって、彼等が姿を表した。


「あ、意外に姿は変わらないんだ」


「「第一声がそれ (ですか)!?」」


《いや、お陰様で魂は安定したぞ》


《これならそう簡単に暴走しないだろう。感謝する》


「良かった。お腹塞ぐから一寸待ってて」


裂いた場所を縫い合わせる。ん、よし。これなら大丈夫そうだ。


「後日、レースかリボンでも付けて補強するね。万が一解れて中身が出たら大変だし」


《《そ、其れはイヤだな》》


「杏、やっぱり言い方がエグいですよ」


「他の説明方は無いのか」


苦笑する綾兎と呆れる真白。


其れを見てる二匹の兎神達は、二人を見て微笑んだ。


「二人とも、このストラップは桜果が二人にくれたやつなんだ。だから大事にしてね?」


「「大事にするぞ(します)!」」


《《オマエ等、大切にしてくれるのは良いが、本宮が恐いだけじゃ……》》


「彼女を的に回したら、地獄を味わいますよ?」


「真白は分かるだろ! オウカがどんなに恐ろしいか!!」


「あのさ、僕の従姉の悪口止めてくれない?」





「「《《じゃあオマエ (杏)が何とかしろ (してください)!!!》》」」




「あはは、中良いのは良いんだけど…………彼女は僕の手に余ります」


「「《《…………》》」」


「桜果に逆らえるわけないでしょ。彼女、綾兎達の事気付いてるみたいだし。敵に回さない方が良い」


溜め息をつく僕。


もし、この展開を彼女が読んでいて僕にストラップを託したとしたら。


『まさか……ね』


閑崎観柚を救い出した【お姉さま】が、今回何もしてこなかったのが気になる所。


桜果、無関係なら良いんだけど……………


兎に角、事は一応解決した。


此れで良かったかは分からない。


だけど、最悪の事態を防げたのなら。


僕も少し報われたかな…………?


「帰ったら準マスター達に報告しないとですね」


「アイツ等なら受け入れてくれるだろう。駄目だったら…………」


「杏の家にエスケープしましょう」


「いや、だから捲き込まないで!」


非日常だけど楽しい時間。


僕等を見守るように、月が輝いた。





         *




「『旧約聖書』の創世記では、天地創造の四日目に、神が空の中に【二つの巨いなる光】、すなわち太陽と月を創り上げて、それぞれに昼と夜を司らせ、光と闇を分けたという日月の創造が語られている。』…………なんて綺麗な例えなのかしら」


月が照らす室内。


真っ白な部屋に差し込む光は、優しげで儚くて…………


「ね、そうは思わない?」


「思えたら素敵ですけどね」


入り口付近に立つ彼女に話を振る。


苦笑気味な表情を浮かべたまま、彼女はそこから動かず立ち尽くしていた。


「だけど【お姉さま】、光は片割れだけじゃ輝きが鈍くなるのよ。闇が…………光を支えるモノが無いと…………世界の理が崩れる」


「…………」


「【お姉さま】だって気付いているでしょう? このまま微睡みに浸っていたら何も変わらないどころか犠牲者が出る。閑崎観柚みたいに、今度は【お姉さま】自身の影響で残存する魂を狂わせてしまう。其れはわたし――――わたし達【天照あまてらす】が抑えなきゃいけないのよね?」


「そうですね…………抑えきれないで溢れた分は【現実世界げんじつせかい】から【真実世界しんじつせかい】に影響が出始めています。桜果さんには未だ暫く氷月杏への監視をお願いできますか?」


「其れは構わないわ。決断は早目にお願いね? じゃないと取り返しのつかない事に…………もう、なってるわね」


「ですね…………」


「【月読つくよみ】の力の覚醒はほぼ出来てる。後は…………自ら起きるだけ」


生命維持装置を繋がれた身体を眺めながら呟く。


青白く見える肌。薄い色素の光に透けそうな茶色の髪は眠りについている間に伸びていて…………森の色の瞳は閉じられたまま。


「早く目覚めて、キョウ…………」


「…………」


眠り続けて起きる気配すらない氷月杏の手を取り、ぎゅっと握り締めた。



         *



【導く二つの廻る螺旋】、完結です。

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