表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絆〜僕と君を結ぶ鎖~  作者: 綾瀬 椎菜
22/24

【導く二つの廻る螺旋】10

*





良かった。綾兎も亜梨栖もこれ以上辛い目に逢わなくて済むんだね。


本当に良かった。


綾兎も亜梨栖が……彼が一緒ならゆっくり前に進める。


亜梨栖も何時かは綾兎を殺した罪の意識を埋め付くし、幸せになれるだろう。


黒主と真白は二人が居れば大丈夫。


わたしが本来やるべきだったことを二人に押し付ける形になってしまったのは残念だったけれど、前を向いて歩き出せる背中を押すことが出来たのなら良かった。


母らしいことが出来るのは、これが最初で最後だろう。


背中を押して意識を浮かび上がらせたのは間違ってなかったんだね。


【不思議の国のアリス】のラストはアリスのみ元の世界に戻ったけれど、時計ウサギが一緒でも構わない。


始まりをくれたヒトが傍に居てくれた方が幸せなんだよ。


だから忘れないで。


傍に誰かが居てくれる嬉しさを。


そして其れは絶対無くしてはいけないモノだと――――


わたしからの想いが伝わるのなら、どうか伝わってほしい。


もう役目に縛られず、ゆっくりで構わないから未来の扉を開いて。


たった一つの魔法の言葉。


貴方達に届くようにもう一度伝えるよ。





【愛してる】





*



キーンコーンカーンコーン


聞き慣れた音に吸い寄せられるように僕は瞳を開けた。


真っ白な天井。同色の壁。


何かを掴もうとして空中に伸ばした手が視界の端に入る。


一体何を掴もうとしたのだろう?


無意識に行っていた事に自覚を持てないまま、僕は身体を起こす。


大切な何かを伝えられた感覚。


少しずつ思い出す。


眠りに落ちた僕に誰かが話しかけていた。


…………誰かは分からない。けれどきっと綾兎達に近い存在だろう。


『愛してる…………か』



呟いて苦笑する。


少し羨ましく思えてしまった。


僕は言われた事がないからかもしれない。


【好きだ】と言われるよりも嬉しく思える言葉。


無くしたくない大切な気持ち。


僕は伝えた事のない大切な言葉。


何時かで構わないから、一度位言われてみたいな…………


視線を窓側に向ける。


薄いカーテンが夏の陽射しを和らげていた。


なんとかなったんだ。誰も犠牲を出さず――――


『違う、犠牲はあったじゃないか』


拳をギュッと握り締める。


綾兎と真白にとって大切な黒主を眠りに付かせた。


彼が眠っている間は、力が暴走しなくても良いけれど…………そんなの一時的に凌いだだけで、何時かは目覚める時が来てしまう。


壊れた身体は精神を支える力なんて無い。


そうなるとまた――――暴走するだけだ。


其の前に僕が出来る事は…………


ベッドから降りて、荷物を探す。


体調は完全に戻った訳では無いけれど、あまり無理をしなければなんとかなりそうだ。


額に手を当てる。


どうやら熱は下がったらしい。


身体に残る倦怠感と、喉の乾きを感じる。


食欲はないけれど空腹感もあるし、胃に優しいモノなら食べられそうだ。


購買で何か売ってるかな…………


枕元に外されて置かれていた腕時計は午後五時を指していた。


…………かなり眠ってしまったようだ。


荷物や着替えを入れる用の藤篭に誰かが持ってきてくれたのか、鞄があった。


鞄を開けて中身を漁る。


携帯電話の電源を入れてメールを確認すると、バイト先と図書室の司書の方からメールが入っていた。


どちらにも、『今日の異常気象の関係で仕事を休みにする』というもので…………


司書の手伝いは兎も角、バイト先(書店)までも休みになるとは思っていなかったので驚いてしまった。


大丈夫なのか、売上…………


ま、もしかしたら雪で配送時間や日数がずれたのかもしれない。


どちらのメールにも『了解しました』と返信する。


水無瀬達からのメールがなかったのに一寸残念な気持ちになったけれど、皆して黒主の力で眠りに墜ちていたのだから仕方無いか…………


何時もの学生鞄と別に持ってきたトートバッグに、一応夏服を入れてきててよかった。


気候が戻ったのは良いけれど、冬服じゃ暑い。


『今なら誰もいないみたいじ、着替えてしまおう』


汗をかいてベタベタしているし、さっぱりすれば少しは気分的にも楽になるのかもしれない。


ブラウスのボタンを外し、バイト帰りに新装開店の宣伝か何かで配られていたウェットシートが入っていたいた事を思い出し、鞄を漁って取り出す。


封を開けてブラウスを脱ぎ、身体を拭こうと――――





カシャッ ピロピロリーン♪





「えっ!?」


「ニヤリ(含み笑い) 良い角度で撮れたわね。待ち受け設定して睦月ちゃん達に一斉送信――と♪」


「ちょっ、待って!!」


「睦月ちゃんなら絶対喜ぶわね。あ、落書き機能で『お着替え中〜 押し倒される準備万端(*≧ω≦*) 早く僕を温めて?(はーと) 』って淡いピンクで書いとけば良かったわね。じゃあ、そのバージョンも一斉送信しといてっと。あ、キョウ、もう少しスボンのベルトを緩めてチャックを―――――」


「一寸、其処の変態おねーさん!? 何でベッド下から顔を出して恍惚な表情で指が見えない速さでメール送信してるのっ!!? ていうか今睦月以外の誰に一斉送信したのっ!!!」


何時から其所に居たのだろう。


何時から僕を見ていたのだろう。


何時から…………盗撮されていたんだろう…………考えたくない。


「え? 駄犬と亜梨栖と綾兎くんとわたしのSSと杏の父親(涼我さん)とその他数名だけど何か問題あるかしら?」


「っ!!?」


関係ない人達にまで送られたメールを見た人物の、記憶ごと抹消する力が欲しいと思ったのは此れが初めてだ。


抑僕の父親に送る意味が分からない。


相変わらず、彼女の本心が読めない…………


はぁと溜め息を付く。


そんな彼女の性格をある程度知っているからこそ、僕は彼女に甘いんだ。


「もういい……好きにすれば良いよ。で、一体何しに来たの?」


普通なら、もう帰宅時間だから彼女は本宮家に帰らないといけない筈だ。


ベッド下から這い出て僕に向き合う桜果。


「なによ。従弟の心配をしたらいけないのかしら? 只でさえぶっ倒れる迄無理しすぎるのに、期待に応えようと頑張ってしまうお馬鹿さんを放っておける程、わたしは強くないわ」


「桜果…………」


「だって、キョウが大切だもの」


彼女はギュッと僕を抱き締める。


「え」


背中に回した手で僕の後頭部や背中を慰めるように撫で始めた。


「お、桜果?」


彼女の行動に思わず戸惑ってしまう。


「キョウ…………わたし達はもう一度やり直せる? あの日、割れた硝子からわたしをを庇ったせいでキョウは怪我をして…………わたしの怪我の事まで理音さんに責められて…………貴方の家庭を壊してしまったわ。ごめんなさい」


寂しげに話始めた彼女の言葉を僕は訂正する。


「何で桜果が謝るの? 僕が……僕は桜果が大切だったし、傷付いて欲しくなかったから庇っただけ。其れでも完全に守れなかったんだ。母さんに責められても仕方無いよ…………母さんにとって大切なのは桜果――――」





「違うっ!!」





『え――?』


抱き締めた時に僕の肩に預けていた顔を上げる。


至近距離で視線が合い、剃らす事が出来なかった。


「あの人はわたしを母さんの身代わりにしているだけだった。大切に思っていたのなら、大好きだった親友の形見だったからよ!!!」


「っ」


食い入るように僕に語りかける彼女。


其の内容は、桜果が未だ僕の家で暮らしていた頃、薄々感じていた事で――――


母さんはよく桜果の母――――千桜(ちはる)さんの形見の服や小物・装飾品をしきりに使わせたがっていた。


母娘の趣味に余り大差が無かったから、大体の物は使っていたけれど、押し付け願望も度が過ぎていて、髪の長さまで指定する程だった。


そう、桜果の言う通り…………母は桜果を千桜さんの身代わりにしたんだ。


「彼の人は、自分が千桜母さんを守れなかった責務をキョウに押し付けただけ。あの日の事はキョウは全然悪くないのよ…………」


桜果の目尻に涙が溜まる。


僕は指でそっと拭ってあげた。


「……キョウ?」


「やり直す事は出来ない」


「っ」


「あの日、彼の事件が無かったら僕等は離れる事は無かったかもしれない。だけど、彼の事件があって…………離れたから、僕等は別の人生を進めたんだ。もしかしたら僕等を取り巻いている今の関係性が大きく変わったかもしれない……けどね」


一息付いて想いを口にする。





「ゲームの選択肢同様に人生にも選択肢は沢山ある。あんな母さんでも居てくれたから僕はこの世界に生まれる事が出来たんだ。あの性格に振り回されていたから打たれ強くなったし、自立も出来た。綾兎達にも出逢えたんだ」





勿論、桜果とも再会できた。


耳許に顔を寄せ、小さく呟く。


桜果は僕の言葉を聞いて安堵したようだ。


ほんのり顔に浮かべられた笑顔は昔の



ズキッ 「っ」



「どうしたの?」


『以前の彼女と変わらない素敵な笑顔』


そう思おうとした途端、頭痛がした。


体調は完全回復している訳じゃないから、そのせいかもしれない。


だけど……なんだろう。この胸に溜まるモヤモヤした感情は。


「キョウ? もしかして引き摺ってでも病院に連れて行った方がいいかしら?」


「いや、一寸頭痛がしただけだから大丈夫」


思考を切り替えた途端、痛みは収まった。


モヤモヤした感情はそのままだけど、少し気を使いすぎただけかもしれない。


「…………本当に?」


「大丈夫だって」


疑いの視線を向ける彼女にそう答えると同時に両手で顔を挟まれ、桜果の額に自分の額を重ねられた。


「桜果!?」


「じっとしてなさい。おまじないよ。瞳を閉じて」


「う、うん」


強制するよう僕に指示する桜果の瞳は真剣で、おとなしく従う事にした。





「【貴方の心が晴れやかに清んで、ほんわりと温かい気持ちになります様に。其れが心の影を抹消する程強く照らしてくれますように】」





コツンと一度、額同士をぶつけられ……手が離される。


後半の内容が何処か殺伐としていた気がするのはスルーしよう。


それにしてもおまじないなんて彼女がしてくれた事なんて今まであっただろうか?


「さて、効き目は分からないけれどこんなもんかしら? 気の持ちようでどうとでもなるわ」


「あはは……」


成る程、気の持ちようでカバーしろという所が彼女らしい。


「そ・れ・と♪」


何時の間にか持っていた紙袋を桜果は僕に渡す。


「? なにこれ?」


赤いチェック模様の小さな紙袋からほんのりと甘い香りが漂ってくる。


「結依さんの手作り焼きプリン。駄犬に頼んで持ってきてもらったわ♪ 食べましょう?」


久しぶりに心からの笑顔を浮かべる彼女を見て僕は安堵する。


あの件が起こる直前、彼女が僕に謝ろうとしていた事。



それは『結依さんから貰った手作り焼きプリンを僕の分まで食べてしまった事』だったから。



僕としては盗撮・覗き(視姦)の方が謝ってほしかったけれど、数年経った今でも其の癖は治っていないようだから諦める。


というか、抗議するだけ無駄だろう。


「キョウ? 食べないの?」


「食べるよ。折角桜果が用意してくれたんだから」


紙袋から取り出したパステルカラーの二つの容器。


中身が入った其れを一個ずつ分けて。


一緒に入っていたスプーンで掬って口にした其れは、今まで食べたものよりも美味しく感じられた。


「美味しいわね……キョウと一緒に食べているからかも」


『!』


微笑みかけてくれる彼女も同じ考えでいた事が凄く嬉しくて…………久々にリラックスして楽しい一時を過ごせた。





*





「あ、そういえばキョウに頼みたい事があったのよ」


焼きプリンを食べ終わり、体調もある程度回復してきた頃――――ふと桜果が鞄から何かを取り出した。


「亜梨栖と綾兎君に渡してほしいの。なんなら加工してもわたしは文句は言わないわ」


「……え?」


ハイッと渡された其れは、二つのストラップ。


それだけだったら気にしなかった。


白い兎と黒い兎の………ぬいぐるみを模したモノでなかったら。


「なんで……これ……」


「前に亜梨栖が『綾兎から黒うさぎのぬいぐるみを貰ったんだ!』と騒いでいたのを思い出してね。わたしもなにかあげられないか探していたのよ。そしたら同じキャラクターのシリーズでマスコットタイプのストラップがあったから買ったわけ」


「あ、白うさぎと黒うさぎのシリーズのやつか」


「そう! 確か亜梨栖のぬいぐるみを取ったのはキョウだって聞いたんだけど……持ち運び出来る方が【利用価値】があるかなと思って」


「え?」


一体どういうことだろう。


彼女は思案し、口にする。


「例えば中身を切り裂いて綿の代わりに何かを積めるとか……憎む相手に例えて傷付けるとか……連想される大切な相手の身代わりにするとか…………ぬいぐるみには色々な使い方が出来るのよ」


『一度目は買って(または貰って)、二度目は愛でて、三度目は引き裂いて楽しむ』


ぬいぐるみに課せられた定め。


彼女の言っている事はこういう内容だろう。


「桜果……君は何を……」


何時もなら気にならない事。


だけどタイミングが揃いすぎている。


二つのうさぎのストラップ。


中身を切り裂いて何かを詰める。


其れは僕が思案していたやり方を分かりやすく・やりやすくしたものだった。


君は一体何処まで彼等の事を知っているの?


そう聞こうとすると、彼女は人先指を立てて唇に添えるジェスチャーをした。


「うさぎさんの居場所を作ってあげたいのなら、帰る家(場所)を創りなさい。余計な感情は、辛い気持ちになるだけだわ」


ヒント終了とばかりに下校を促すチャイムが鳴り響いた。


「さて、流石にそろそろ帰りましょう。もう聞きたい事は無いわよね?」


「今の話関連なら聞きたい事は沢山あるけれど、桜果は教えてくれないよね」


ガタッとベッドから腰を上げる彼女。


僕もつられて立ち上がり、鞄を肩に提げ歩き始める。


彼女は僕を眺めながら、先を歩き始めていた。


「対価次第かしら」


含み笑いをする桜果。


さっきされた仕打ちを思い出した。


「嫌な予感しかしないから、其れは止めておくよ。じゃあ、別件で」


「何かしら?」


肩を竦めて気になっていた事を問いかける。


桜果はドアノブに手をかけた状態で立ち止まった。





「亜梨栖とは何時出逢ったの?」





「…………言わなきゃいけないかしら」


一瞬、瞳を見開き沈黙した彼女。


まるで、弱い所を突かれた表情をしていた。


突っ込んではいけない事だったのかもしれない。


其れでも聞きたい。


だって――――





「桜果の事が知りたいから、教えてほしい」





「!」


カァァッとみるみる顔が赤くなる彼女。


一寸可愛い。


パクパクと口を動かしてから、唇を尖らせて呟く。


「其の頼み方は卑怯だわ。思わずキュンッとしちゃったじゃない…………」


「え?」


余りにも小さな声だったから聞こえなくて聞き返してしまう。


ふいっと顔を背けられてしまった。


「な、何でもないわ…………そうね、彼女とは二年位前に逢ったわ」


「そんな前から?」


「時間がないから手短に言うわ」


「うん」


カチャッと扉を開け、殆んど物音のしない廊下に僕を導く。


コツンッと音を立てて、彼女と共に踏み出した時、彼女は言った。





「ある日の夜、満天の星空を眺めていたら――――彼女が降ってきたの」





『…………っ!?』


一瞬、何を言ったか理解出来なかった。


落ちてきた? 空から??


「丁度、真下には物干し竿があってね。その上に腹部から落ちたもんだから、ショック死しかけてて…………介抱したのが始まりよ」


何処か遠い目をする桜果。


思い出に浸っている顔は、『あの時は大変だったわ……色んな意味で』と物語っていた。


「介抱するにもどうして良いかよく分からないし、まず彼女のことが視える者が周りには居なかったから…………わたしのベッドに寝かせて一緒に眠ったのが始まり」


「そ、そうなんだ」


其れは亜梨栖にとって、かなり身の危険が及ぶ状態だったのでは……


「服を脱がせてお互いを慰め合いながら過ごしたのを彼女は忘れてしまったから、お仕置きしたりしてわたしに逆らえなくしたの」


「……一寸聞いてはいけない内容が聞こえた気がするんだけど…………聞かなかった事にするね」


相変わらず暴走しすぎだ!


でも、どうして桜果に視えたのだろう。


彼女は普通の――――いや、一寸ずれてるけど只の人間の筈だ。


僕の表情で察したのだろう。


彼女が続きを口にした。


「わたしは本宮(もとみや)家の中で二番目に神力が強いから…………私の父もかなり強い神力を宿していたと聞いたわ」


「え……」


初めて知った内容。


彼女が巫女? どう見てもそんな神聖なイメージからはかけ離れているような…………


「本宮家は代々巫女が居るの。わたしは当主の代行者。只の人間ではないのよ」


「そう……なんだ」


「キョウもそうでしょう? じゃなかったら綾兎くんと出逢える訳ない」


「っ」


今までも彼女の言葉に何度か違和感を感じた事はあった。


やっぱり彼女は気付いてた。


亜梨栖と一緒に居たのだから、もしかしたら深い所まで勘づいているんじゃないだろうか。


「わたしは只終わらせたいの。余計なことに振り回されて生きなきゃいけないなんて、人生損してる。失ってからじゃ取り戻せないもの………だから」


一息おいて続きを口にする。


「キョウは後悔の無いように動きなさい。姉からの忠告よ」


其の表情は凛としていた。


有無を言わせない圧力をかけるモノ。


何時もの彼女とは違う、巫女としての彼女の言葉。


「…………分かった」


「顔が納得してないんだけど」


ずかずか踏み込んでくるのは相変わらずだ。


「急に言われても直ぐには出来ないよ」


「っ、だから貴方は――――」


一方的に口調が強くなっていく彼女。


怒りを表すのは珍しい。


「桜果」


冷ややかな声でこれ以上彼女が怒るのを制する。


ハッとなり自分の状況を理解したのか、少し考え込み俯く彼女。


今、一体何を口にしようとしたのだろう。


慌てて其れを話すのを止めた所をみると、僕を傷付ける言葉だったのかもしれない。


確かに聞かない方が良い事だろうけど、かえって気になるし…………そういう態度を取られる方が傷付くんだよ……


「…………何でもないわ。わたしもう帰るわ。後はお願いね」


自己完結し、話の流れを断ち切る彼女。


其の言葉が本心からではない事位、僕にも分かる。


「わたしにとっても、二人は大切な存在だから」


「うん。僕にとってもそうだよ」


「……そう」


寂しげな瞳に宿る想いの行く先は僕ではない。


何故そんな表情をするんだろう…………


昇降口を抜け、校門へ足を進める。


タイミングを図ったようにスーッと黒塗りの車が僕達の前に付けられた。


「お嬢、お帰りなさい」


「さっさと出して。其れじゃ。また明日」


「うん」


運転手が開けたドアから車内に乗り込み平然と構える桜果。


こういう家の位の差だけは、どうする事も出来なそうだと身に感じた。


ペコリと会釈する彼はひょっとしたら桜果のSSだろうか…………


光の加減で色合いが変わる紺色の髪。


染めたんじゃない、地毛だろう。


そしてサングラスから微かに覗く桜色の瞳。


光の加減によって、宝石のように輝いた。


僕ににこやかに会釈をする黒服の彼は淡々と仕事をこなしていた。


桜果を乗せた車は僕から遠ざかるように帰路へ走る。


僕は只其れを見送ると同時に――――無くなった筈の隔たりを感じた。



*


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ