【導く二つの廻る螺旋】3
〜閉じられた居場所〜
片割れは。
光の世界に住み、闇がどんなものか知らなかった。
暗闇の絶望感も、飢餓も。
全てのモノが清浄で純粋なのが当たり前だと思っていた。
側には何時も【他人】が居て。
何にも不自由な思いをしたことがなくて。
白の世界から出られないこと以外は全て――――許された。
片割れは。
闇の世界の中で生き、光を恐れていた。
孤独と絶望に苦しみ。
何かを望むにも。些細なことでも。
渡すものは【自分】しか無かったから。
虐げられ、弄ばれ――――そんな中生きていた。
お互いに無知で。
お互いを知らなくて。
其れでも。
ほんの一瞬だけでも良い。
誰かと共に生きたいと願っていた。
本来の。
本当の自分だけを見てくれるヒト。
其のヒト以外居なくなっても構わない。
叶うはずのない願い。
だけども、どちらも。
ずっと望んでいたんだ――――
第三章〜ココロのキズに燈【ともしび】を〜
「綾兎、脱げ」
「嫌です。なんで脱がなきゃいけないんですかっ!!」
とある場所の薄暗い部屋の中。
ギシリとスプリングの鳴り響くベッドの上で、ボク・雪代綾兎は突拍子のない言葉を聞きました。
無論、即座に否定します。
「よし……じゃあ、脱がす。うりゃ」
「えっ、ちょっと―――っ///!? ダメですっ!!! 下は脱がさないで下さいっ!!!」
シュルッと服のリボンをほどき、手早くブラウスの釦に手をかける姉。
あわふたしている間にズボンのファスナーに手をかけられた辺りで我に帰る。
「ちっ」
「『ちっ』じゃないですよっ!!」
実の双子の姉を身体から引き離し、慌てて側にあった毛布を引き寄せて身体を隠す。
さ、流石に女性に脱がされるのは凄く恥ずかしいです……もう……///
男としてのプライドをぶっ壊された気がします。
確かに……黒々した髪と瞳。
中性的な外見・肉体。
声までもが高く、男らしさなんてないのかもしれない。
もし、脱がしたのが男性なら?
という質問は避けます。
凄く気味悪いじゃないですか…………
「うりゃっ」
「っ!?」
双子の姉・緋桜亜梨栖は、隙を付いてガバッとボクを押し倒し……ボクにのし掛かってくる。
訳が分からなく、戸惑ってしまう。
折角引き離したのに…………果鈴様といい、亜梨栖といい…………何でボクの周りには肉食系の女性が多いのでしょう。
そして何故ボクはされるがままになって――――あ、半分は『どうしようもない』と諦めているからでしょうか?
亜梨栖はボクの上に馬乗りになり、見下ろしてくる。
髪を纏めていたリボンがほどけ、銀糸のような白髪が広がり、まるで光の塊のようで思わずみとれてしまった。
男性にとって嬉しい展開の構図らしいのですが、ボクにはよく分かりません。
果鈴様に押し倒されるより、亜梨栖の方が断然(体重が)軽いのでマシですかね。
「ワタシにはオマエが必要なんだ」
「亜梨栖。この状況でそんなことを言われると、性的な意味で捕らえられますよ?」
亜梨栖が男で、この光景を天宮さんが見ていたら『鬼畜攻めキターッ!!』とか叫んで喜びそうな展開です。
「だからって脱がせる必要は無いでしょう!!」
そう、最大の謎はそれなのですっ!!
亜梨栖がボクから視線を逸らし、明後日の方向を見ながら気まずそうに呟いた。
「あ――……バレたか。ワタシも脱ぐから問題ないだろ? 脱ぎ脱ぎ」
苦笑した後身体を起こし、徐に自分の上衣に手をかけ始めましたっ!?
慌てて止めようとしますが、脱ぐ速度が異様に早いです。
「何で亜梨栖も脱ぐんですかっ/// 理由が分かりません!! 女の子が異性に裸を見せちゃダメですっ!!!」
幾らツルツルペッタンのまな板とはいえど、駄目なものは駄目なのですっ!!
言いながら腹筋を使って――――お腹に無い筋肉に無理矢理力を入れて身体を起こし、亜梨栖へ向き直るボク。
明後日の方向から正面へと向き直った亜梨栖はあっけらかんな顔で言う。
「いや、すまない。オマエの事は異性と見なしてないが?」
「がーんっ!?…………どうせ、どうせボクはプニプニのツルペタですよ……」
相変わらず、酷い言われようです…………此れだけは何度言われても馴れません……
「男でツルペタは当たり前だと思うが。ツルペタ……ツル……ペッタン……ツルツルのペッタンコ……ワタシにとっては悲しい言葉だ」
自分の胸に手を当てて悲しげな表情をする亜梨栖。徐々に自己嫌悪に陥っていく様子が見て分かった。
其の言葉が何を指したのか気付き、然り気無く傷付けた事を理解する。
半分わざとなのはスルーしましょう。後が怖い。
「胸の件は置いといて…………だってこの方が早いじゃないか。オマエも下着は着けてていいから脱げ」
「嫌です。亜梨栖は何時の間にアブノーマルな変態になったんですか…………」
大方、杏の従姉の桜果さんなのは検討がつきますが。
【闇の災厄】の後、亜梨栖は暫くさ迷い桜果さんを見付けて一緒に過ごしていたらしい。
杏は然り気無く桜果さんを避けていますし、水無瀬さんがウンザリしている様子を見ると、かなり変わった方なのは確かみたいです。
亜梨栖の手癖の悪さは桜果さんが原因ですね。
服を脱がせるのが上手くなっても、特は無いと思いますが。
桜果さん……亜梨栖に何処までどうでもいいことを教えたのでしょうか……謎です。
そうそう、桜果さんって杏以外には冷めてると思います。
なんと言いますか、【わたしに必要以上に関わらないで。消えたいの?】というオーラが伝わってくるような……そんな感じがします。
たまにボクが杏と一緒にいると睨んできますし。怖いです。逆らったら【現実世界】から消されそうです。
よく杏はあんな方と幼少期を過ごせたのか……感心します。
「おい馬鹿綾兎。話を聞く気はあるのか?(黒微笑)」
「ありませ―――――い、いえ。ちゃんと聞いているのでご安心下さい」
「ちっ」
また舌打ち…………亜梨栖が苛々しているのをこれ以上無視したら刺されそうです。
姉が怖いです
コホンと咳払いをしてから、亜梨栖は言い直す。
「綾兎。【身体検査】だ。意味…………分かってるよな?」
「!」
「…………分かったなら脱げ。此方だって恥ずかしいんだから」
俯く亜梨栖の顔が赤く染まる。
【身体検査】
其れはボクたちにとって大事なこと。
双子だからなのか、どちらかが傷付くと相手も痛みを憶えることは時々ある。
其の要因は未だに不明だけども、魂の片鱗が繋がっているのかもしれない。
其れにボクたちは。
互いが傷付くのを恐れていた。
だからこそ互いに傷付いて居ないか確認する。
背中とかは自分では見ることは出来ませんからね。
でも。
「亜梨栖、スカートは穿いたままでいいのですが………寧ろ其のままで居てくれると助かるんですが……その、胸を隠すものは着けたままでも…………」
亜梨栖の格好…………はだけたシャツを脱ぎ捨て、上半身が裸体。
スカートのみを穿いていて、他は生まれたままの姿。
脱いだとたんに慌てて目を逸らすのは不自然ではないのです。断言します。
何度やっても此れだけは慣れない。
服の上からじゃ変わったところは分からない。
そうだとは言えど……///
僕も毛布を脇に退かし、脱がされかけたシャツを脱ぎ去る。
…………じゃじゃーん!!←やけくそ
半裸で向き合う双子の禁断愛的な構図ができました。
すっごく逃げたいです。
亜梨栖は顔を赤らませて居たのが嘘のようにスッキリした顔で居る。
胸は相変わらずツルペタのままでした。
ボクと大差無いです。
「どう見たって必要ないだろ? キャミソールで十分」
「身体年齢を考えて下さいっ!!」
ざっくばらんに男らしい所は認めますが、無い胸を張って言うことでは無いです。
学校の体育中に、汗を欠いたりして服が透けたら大変なことになりそう。
流石に弟でもそこまではフォロー出来ません。
「そうか……近々天宮達と下着を買いに行くか、サラシを巻こうと思うんだが…………どっちが良いと思う?」
「前者でお願いします」
胸を見ながらそんなことを言う亜梨栖。
【今】を生きるフリをするののだから【今】に感覚を合わせないといけない。
其れだけは忘れてはいけません。
「さておき、…………これでお互い脱いだな?」
亜梨栖の表情が不意に変わる。
ドサッ
「な、何でまた押し倒すんですか!?」
抗議の声を上げてビクッとする。
冗談など一切ない。
真紅の瞳がボクを――――ボクの心を【視る】ように捕らえていたのだ。
亜梨栖はボクの身体を食いるように見渡してから、トンッとボクの左胸に―――心臓の上に人差し指を当てた。
「ほんと、変わらないよな。オマエは」
「え…………?」
直ぐに亜梨栖の言葉が理解できなかった。
変わらない――――ボクが?
「何もかも全部――――とまではいかないか。氷月杏の影響は少し受けたみたいだ」
言葉を聞き、ゆっくりと解読し…………ああ。と思う。
確かに杏に逢ってから変わったことはある。
杏には一緒に居るにあたって、この世界の常識を教えてもらった。
ボクが間違えて憶えていたものの半数以上を杏に訂正された。
流石に『森のくましゃん』や『花〜散り行く様は儚くて〜』を歌っているときに杏が然り気無く引いていたのは理解してましたし。
直す気はなかったけれど。
『綾兎が其のままで居たいのなら訂正しなくていい。困るのは綾兎だし。だけど――――大切なおねーさんが教えてくれたものを全部は変えては駄目だよ? おねーさんの存在した証が無くなってしまうから…………』
閑崎観柚さんの件が解決し、杏が受けた傷を治療しているときに、杏が優しく話してくれた。
彼の言葉でボクは亜梨栖が存在している可能性を持ち直した。
後日、杏が亜梨栖に逢っていたことを黙っていたのを知ったときは怒りましたが。
亜梨栖が口止めしていたようなので許しました。
「無論、本性は出すつもりないみたいだが」
間を置かれて繋がれた言葉を聞き、ボクは思考を止める。
【其れは仕方の無いこと】
何度言っても彼女は理解してくれない。
だからボクは何度も。言う。
「出さなくて平気だからです。出したら……代わったらまた【繰り返す】事になりかねませんから」
「…………そうだな」
もう二度と繰り返したくない過去。
その為にボクたちは存在している……はず。
確かに杏の影響は大きいです。
杏は対になった僕に自分の過去を打ち明けた。
其の過去が嘘にまみれて居るかもしれないけれど。
そろそろ……ボクも亜梨栖以外に過去を打ち明けてみましょうか…………
杏だったら。
氷月杏だったら優しく受け止めてくれるはずだから。
ふと、ボクは気付く。
ずっと……死んでからを考えると杏よりは長く側に居た亜梨栖以上に。
ボクは氷月杏に依存しているのかもしれません。
「…………姉としては複雑なんだよ。時々どっちが綾兎なのか分からなくなる…………其の性格は【クロ】の影響だろ?」
【クロ】
ボクの中で一番側に居るもの。
亜梨栖とは違った意味で、ボクと共に――――ボクの中に生まれた。【緋皇家の守り神】
又の名を黒主【クロス】。
クロは【自然を操る力】を持ち、緋皇家では――――破滅を導く神とされていた。
ボクの容姿も・性格さえ、生まれたときにクロが創ったもの。
自分の力を一番出しやすいように、遺伝子そのものを狂わせた。
「そうですね……其れだけでは無いですけど……ね。貴女はその事ばっかり気にしてる。本当にボクを理解してますか?」
「…………其れは……其の……」
亜梨栖が口をつぐむのは分かる。
だってボクは亜梨栖の前で本来のボクを晒したことはなかった。
だって……………もう。
【本来のボク】は壊れている。
出せるわけがない。
壊れたまま、本来のボクに戻ったら…………また世界を壊してしまうだろう。
そんなことをすれば、今度こそ…………契約に基づき、果鈴様と拓海様に亜梨栖共々消されてしまう。
避けなければいけない。
実の姉に嘘はつきたくないし、本来のボクとして関われないのは辛いけれど。
其れがボクの【存在理由】だから。
姉の前ではずっと道化の仮面を被るんだ。
そして一緒に【存在する】んだ――――
「【解】」
灰色の光がボクを包み込む。
髪が伸び、瞳の色が…………闇色から藍色へと変わる。
亜梨栖の透き通るような白髪。苺のような赤の瞳。
姿を戻すと実感する。
ボクたちは…………正反対なのだと。
「…………おい、今何を考えてる?」
「視たらいいじゃないですか」
ひねくれた言葉を投げ掛けてみる。
「ワタシは膨大な霊能力しかない。稀に過去・未来が視えることがあるが…………流石に心までは視えないことは知ってるだろう?」
「はい♪」
「こんにゃろーっ!!」
亜梨栖の怒りをスルーしながらあははと笑う。
満面の笑みで答える。
誰にも言わない。
言うつもりも無いけれど、ボクたちの関係は異常なのだ。
お互いにどう接して良いのか分からない。
お互いの事が理解できない。
ずっと…………お互いの事を亡きものにして、お互いの存在を疎んでいたから仕方無いか。
今でこそ触れ合えるが…………其れはボクに宿るクロのお陰で。
光の住人になったから色んな力を使えるようになって。
其れでも、まだ。
彼女には追い付かない。
時々杏が羨ましくなる。
あんな風に物事を分かりあえたら、どんなに幸せなことか。
自分の中に眠る過去を消せたらどんなに――――
『ワタシはオマエに出逢えたから今存在できるんだ』
過去に亜梨栖が言ってくれたこと。
あの言葉だけで何れだけ救われたのだろう。
「其の言葉だけは消したくないですね」
「ん、何か言ったか?」
「いえ、別に」
「そうか……【解】」
亜梨栖も本来の姿に戻る。
亜梨栖自身はほとんど変わらない。
「じゃ、身体検査だ」
ギシッ
亜梨栖の体重がボクに掛かり、ベッドが軋む。
「んぅ………ゃ……ひゃぁっ///」
「エロい声だすな」
身体のあちこちをまさぐられ、擽ったくて変な声が出る。
真剣な表情で少しの照れもなくボクの身体中を嘗めるように見る亜梨栖。
な、なんだか他人が見たら卑猥な関係に見えるんじゃないでしょうか……
「ん………ぁ……」
「肩・背中・腕・顔は……問題なしだな。足はっと」
「涼しい顔で、足持ち上げないで下さいっ!! く……うぁ……」
「ん、どうやら大丈夫そうだな」
ボクにのし掛かりながらニヤリと微笑む亜梨栖を見て、わざと感じやすい所を触られていたことに気付く。
全く…………この姉は――――っ!!
「っ〜〜〜〜/// つ、次は亜梨栖の番です」
ドサッ
場所を入れ代わり、ボクが亜梨栖を押し倒す。
「亜梨栖も大丈夫みたいですねぇ…………良かったです。胸も成長してないですし」
女の子の半裸を眺めるのは気が引けて、軽く流し見程度にする。
「ははっ。性機能と色素以外オマエと変わらないからな…………って、ジブンで言ってて虚しくなってきた……」
「あ……ボクもなんで気にしないで下さい。筋肉付かないせいでプニプニしてますし」
胸の件をスルーしたことに驚きです。
さっきボクを弄ったからでしょうか…………
「氷月杏も変わらないだろ?」
「其れが杏はさりげなーく付いてるんですよ。というか、引き締まってる感じなんです。むぅ」
勉強と家事とバイトをしているからだろうか…………アレだけは真似できませんね。
「ワタシなんて……オーカと一緒に居て…………あのスタイル抜群の変態は最早同じ女としては尊敬するよ……」
確かに桜果さんはボン・キュッ・ボン(死語の気がします)ですからねぇ…………
「『力を制御するためには仕方ない体型なのです!』と基底願念をブッ壊して諦めてください…………【守り神】が成長前の体型が一番落ち着くからと、遺伝子を狂わせたのが原因なんですから」
「只でさえ、外見に影響が出ているのにな」
溜め息を付く亜梨栖。
亜梨栖の外見は亜梨栖に宿る守り神…………【シロ】
又の名を真白【マシロ】の影響を受けている。
神様らしい異端な外見のせいで、亜梨栖は外に出ることが叶わなかった。
ボクは目を閉じていれば普通に見えるけど、亜梨栖は見た目も特殊な為、奇異な視線を向けられやすい。
現代ではアルビノと呼ばれる亜梨栖の体質。
強い日射しに当たる事ができず、夏の外出時は日傘を差すしかない…………筈なのに、亜梨栖は平気らしい…………
一度死んでるからか、ボクたちは現世の干渉は受けない。其れが関係しているのかもしれません。
お腹が空く事はないし、日焼けすることもない。
食べなくても生きていける…………食べることはボクの趣味の一環なので止めませんが。
只、魂が留まっている罰なのか…………実体化出来、痛みは感じる。
『一度目は肉体の死。二度目は魂の消失』
前に果鈴様に言われたこと。
「亜梨栖…………護りますよ?」
「綾兎……」
頭は杏のことで占めることが増えたけれど――――
大事で、大好きな亜梨栖。
今度こそ――――絶対に護ります。
亜梨栖の顔に手を当て、顔を近づけ――――――
「あーちゃん、あやとくん。水城せんせーたちがよんで――――っ!!?」
ガチャッとドアが開くと共に声が聞こえ、動きを止めるボク。
ダラダラとかき始める冷や汗に内心焦りながら視線をドアの方へと向ける。
聞き覚えのある声の主――――閑崎観柚は顔を真っ赤にして硬直していた。
「…………」
「「あ…………」」
え、えーと…………そ、そういえば聖桜の寮から引っ越しして…………夕飯は果鈴様・拓海様、そして新人として入った閑崎さんと召し上がる予定でしたっけ。
で、別件でボクの部屋に来た亜梨栖がついでとばかりに【身体検査】を始めて…………
数時間前に飾ったばかりの壁掛け時計を見る。
予定していた夕飯の時間を幾分過ぎていた。
で、なかなか来ないボクたちを閑崎さんは呼びに来た……と。
納得――――この状況で、納得なんて出来ませんよっ!!
「綾兎、退け」
「あ、はい」
亜梨栖に身体を押され、慌てて退く。
亜梨栖は側にあった毛布を引き寄せ胸を隠すと、閑崎さんの方を向く。
「カンザキ」
「うにゃっ!!Σ(・・;)」
「回れ右して部屋から出ていけ。直ぐに向かうとアイツ等に伝えろ」
真剣な表情のまま閑崎さんに言う。
「ふ、ふたりとも。ゆっくりいちゃついてて良いからね? 観柚邪魔しないようにあっち居るにゃ。じゃねっ」
バタンッ パタパタパタッ…………
勢いよくドアを閉め、掛けていったのが分かる。
「「…………あー……」」
亜梨栖と顔を見合せ、少しの沈黙。
やがて、お互いに苦笑しながら服を着始め――――
ピタリと動きを止める。
徐々に何が起こったのか思いだし――――そして叫んだ。
「「閑崎さん(カンザキ)に一見危ない(ヤバい)シーン見られました(覗かれた)っ!!?」」
亜梨栖自身もことの大きさに気付いて無かったみたいです…………
……………さて、どうやって誤解を解こうか。
一番の悩みになってしまいました…………
♪
「水城せんせーっ。神城せんせーっ!! あーちゃんとあやとくんがえっちぃことをしてたーっ(≧ω≦)!!」
パタパタと危なかっしい足取りで螺旋階段を降りて、階下に居るふたりの元にむかおうとして――――観柚はピタリと足をとめた。
あの…………観柚がぼーそーしたあと(詳しくは絆〜僕と君を結ぶ鎖〜を参照にしてね☆)、あーちゃん……緋皇亜梨栖さん(のことを無許可で観柚が勝手に呼んでる)が戻ってきたのと観柚が仲間になったのをりゆーに、神城せんせーが家――――というには大きすぎるお屋敷を買った。
絶対に一億はかかったんじゃないかなーというくらいの立派なお屋敷。
なんでも教師としてのおきゅーりょー以外に過去にためたおかねがあるらしー
よくわからないし、なんか怖いから踏み込みたくないんだけど。
『ほかの仲間(まぁ、よくにいう闇と光のじゅーみんさんだね)が来てもいいように』というからか、部屋だけで十個近くはあってどこも広い。
ほかに何れくらい仲間がいるか観柚はしらない。
とくにしらなくてもいいしー。おしえてもらってないしー。
なんかイライラするのはきのせいだろうけどっ
観柚には『おねーさま』というとくべつなあるじがいた。
だけどもおねーさまは観柚が命令をすいこーできなかったからか、いっぽーてきに契約をはきした。
さんざん尽くしてきたというのに、扱いがひどい。勝手すぎるよね。まったくー(`△´)
契約をきられたせいで観柚は力をぼうそーさせ、観柚共々消しかけたの。
ころそーとしたきょーてきのきょーくん(氷月杏くんの事を観柚が勝手にそうよんでいる)がいなかったら…………そう思うと辛い。
そのあとは、観柚が闇をあやつる力を持つからか、あやとくんのすいせんでこちら側に【闇の住人】となって…………おねーさまとは決別し、観柚のしっているおねーさまの情報を洗い晒しにはきだした。
なんでも、おねーさまは過去に水城せんせーたちの世界に手を出して、えらいことをしてしまったらしい。
観柚はおねーさまと居たのは一年未満だから知らなくても仕方なぃ(´ω`)
観柚はおねーさまに直にあったことはない。
たまに頭にこえが響いてくるだけ。
光のりんかくが女のひとっぽく見えることがあったから、其れがおねーさまだったのかと思う。
りんかくでもぼやけていたから、男性だったかもしれない。ちょうはつのひとのシルエットならみまちがうかも。
確定はないしー……なんともいえない。
んと、話をもどすよ?
お屋敷に引っ越してきてからは部屋を一人一室あたえられた。
あやとくんとあーちゃん、もちろん観柚の部屋もちゃんとあるのぉ。
血飛沫のよーに赤茶けた色に染まってるのはきのせいであってほしい。
まさか、けっかんじゅーたくなんじゃ…………あやとくんたちって浄霊できるみたいだし。
…………みゅ〜(´・ω・`)
取り敢えず、女の子らしい部屋に少しずつかえていくつもりだよぉ……みゅみゅみゅ。
せんせーたちはそれぞれ仕事部屋と二人一緒の寝室を持って……え、一緒にって…………キングサイズのベッドが一つしかなかったような……みゅぅぅ///
よく考えたら水城せんせーたちも大人なかんけーなんだよねぇ…………
あやとくんたちもただならぬかんけーだし
「なんか……観柚だけなかまはずれ(´ω`)?」
観柚には対の存在が居ないからかちょっと寂しい。
いや、ただならぬかんけーはいらないんだけどね。うらやましいけどめんどいし。
でも、以前の…………おねーさまに出逢う前はひとりぼっちだったから。
誰にも気付いてもらえにゃいで、ひとりぼっちだったから。
家族も死に。ゆーじんも来なくなり、教会からでれない女の子だったから。
それに比べたら今はじゆーだし。
買い物と仕事以外、お屋敷から出れないけど…………ちょっと楽しくなったの……かな♪
実体化出来るしね〜
「閑崎ー、煩いぞー?」
「観柚さん、急ぎたいのは分かりますが、危ないので落ち着いてくださいね?」
「うみゅ、すみません。せんせーたち(´・ω・`)」
ツンツン・生意気な水城せんせーと温厚な神城せんせーは、観柚のことをどう思っているのかはわからない。
おねーさまとつながっていた観柚をかんししてるのも観柚はきづいている。
でも、必要最低限には観柚のことを心配してくれる。
むかしの…………教会にうまれて育ち、学校帰りに斬殺された【閑崎観柚】じゃなく、【今】の【閑崎観柚】を見てくれている。
それがなんだかうれしくて(≧ω≦)
なんとなくおとーさん、おかーさんみたいだなと思うのぉ
おとーさん(水城せんせー【女性】)……おかーさん(神城せんせー【男性】)なのはひみつ〜みゅ〜♪
観柚はメイド服を翻しながら歩く。
あ、メイド服を着ているのは仕事のとき以外、このお屋敷の家事全般をするからなのぉ。
中世風(というかきぞくの別荘?)のいめーじにあわせて、濃紺の生地の服に真っ白なエプロンドレス♪(ミニ丈)
それと、シマハイソックスは欠かせないね☆
スカートはボタンで捲れて動きやすくできている。
ぜったいりょーいき(絶対領域)は大事だし♪
可愛い服は着るのも楽しい。
あ、家事はね。観柚は教会が家だったから、カトリック宗教の学校に通ってたから修道女並みには何でもできるんだよぅ。
学校に行けなくて睦月ちゃん(むーちゃんと観柚は勝手に呼んでる)に逢えないのは悲しいけれど、観柚が亡くなってからかれこれ七・八年は経ってるし…………もう十分だったのかも。
むーちゃん大丈夫かなぁ…………どきどきひーとあっぷすると大変なことになるから、観柚が息抜きをしてあげてたんだけど。
炭酸で酔っ払って、むーちゃんときょーくんに炭酸かけたのははんせーしてるけどね。
あれはないわー(--;)
観柚だって怒るもん(`ω´)
ま、きょーくんがなんとかするかなぁ…………
そういえばあやとくんたちって一体幾つなんだろう…………とか考えながら観柚はリビングの扉を明け――――
「果鈴さん…………」
「拓海…………」
「ん……ぁ」
せんせー二人がお互いを抱き締めて絡み合っているところに出会してしまった。
え、えと……さ、さすがに観柚もねっ。
すっごくもやもや……やっぱりいらいらしてきたよっ
息を吸い、心の中を吐き出す。
「あやとくんもあーちゃんもだけど、みんなして観柚の前でいちゃつくのはやめて――――っ///!!」
…………
………………………
今は亡きおとーさま。おかーさまへ。
観柚のいばしょは本当にここであってるのかなぁ…………
♪
「遅くなってすみませんでした」
「すまない」
衣類を着て姿を何時も通りに戻し、亜梨栖と共に階下に降りて…………不機嫌な表情をしながら腕組みして仁王立ちしている役立たずな果鈴様・腹黒い(本当に裏では何を考えているか分からない、果鈴様大好きな)拓海様・現代用語でいうと【ヤンデレ】という言葉が当てはまる(と杏が言っていました)らしい閑崎さんに謝ります。
誤解を解けたらと思ったけれど、身体検査は定期的に行っているため、今なんとかなっても…………次に行う時に誤解されると面倒ですし、閑崎さん以外は理由を知っているのでスルーすることにします。
亜梨栖なんか閑崎さんに見られたのがショックだったのか、暫く顔を紅潮して固まっていましたし。
『あ、綾兎…………もいっそのことワタシを犯してくれ……【何もなかった】なんて幾ら言ってもカンザキには通用しないと思う……〜〜〜〜〜〜っ///』
中途半端に初なんですよね〜。其処が可愛いのです。まだまだ犯すつもりはありませんが♪
実はどういう手順を踏むのか分からないですし…………勉強しようとすると亜梨栖に『お、オマエは知らなくていいっ!!』と言われますし。
杏にでも相談してみましょうか…………何故か『ぼ、僕用事あるから。じゃっ!!』とか言って逃げられそうな気がします。
そんなことを考えながら席についた所で、『待ってましたっ!!』とばかりに目立ちやがりな果鈴様が立ち上がる。
この屋敷では果鈴様が一番偉い立場になるからでしょうか。
因みにお屋敷の表札にちゃっかり『水城【神城】果鈴』と彫ってありました。
其れを見た果鈴様が顔を赤くして訳も分からない言葉を吐いたあと、拓海様に食って掛かっていたところをみると、拓海様の陰謀らしいです。
拓海様……相変わらず腹黒い。です。
一応、ボクたちと閑崎さんのも書いてありましたが…………『どんだけ他人が居るんだ』というツッコミが入りそうな表札になりました。
「こほん。【神城邸】にようこそ諸君。此れから宜しく頼むぞ(色々な意味で)」
「()内は一体どう意味ですかっ!? ……あ――、やっぱり答えなくていいです。聞きたくありません」
とんでもない発言をされました。
厄介なことになるので言葉を封じますっ
「拓海……綾兎が苛める」
(恐らく)苛めてはいないのにボクが悪くなりました。果鈴様が(演技なのが見え見えなんですが……)拓海様に泣き付いています。
拓海さんは楽しそうにクスッと笑い、果鈴様の頭を撫でる。
温かな雰囲気をまとった眼鏡青年は、優しく口を開きます。
「私というものがありながら、綾兎さんを弄る果鈴さんが悪いです(黒微笑)」
「た、拓海が怖いっ」
ジリジリと拓海様に距離を詰められる果鈴様。
拓海様に愛されてます。
そして果鈴様…………自業自得です。
ボクは、目の前に置かれた紅茶を一口飲み、お茶請けに何故か大量にある【んまい棒】に手を伸ばします。
一つ取って封を明け、かぶり付く。
んまい〜♪ です♪♪
はむはむ食べながら考える。
大量にあるのは、ボクは人一倍食べる量が多いからでしょうか…………よく見ると、このお菓子ってボクが寮生活をしていたときに大量買いしたものですね。
買ったはずのお菓子が無くなったと思ったら、こんなところに…………これも拓海様の陰謀でしょうか。
てっきり果鈴様が勝手に持ち出しているのかと…………ボクも上司を完全に信用しているわけではないですし。
お腹空いてきました。
マシュマロも摘まみましょうか…………はむっ もきゅもきゅ……はぅ♪
「あやとくんって小動物みたいだねぇ……そんなに頬っぺたに詰め込まなくてもとったりしないから」
「う?」
マシュマロをいっぱい頬張っていたら、口の中がぱんぱんです。
閑崎さんに指摘されました。
「綾兎……飢えてないならあまり食べるな。見てる此方が恥ずかしい」
「わいすひははんけーありまへふっ(亜梨栖には関係ありませんっ)」
ボクが飢えて亜梨栖を困らせたことはない……はず。
食べ物に関しては生きていた時から欲求が強いですよね…………何故でしょう。
「お前らガキじゃないんだから騒ぐな」
「「「水城(果鈴(様))には言われたくない(な)(よぅ)(です)」」」
果鈴様に言われたくないからか、亜梨栖と閑崎さんとで言葉を返します。
確かに見た目は十代半ばですが、実年齢はかなり…………で、ですが、何時までも我が儘を通すような大人(其れもかれこれ数百年は生きてるだろう方に)に言われたくないです。
「お、お前らなんか嫌いだ――――っ!!!」
プルプルと拳を震わせながら叫ぶ果鈴様を三人で楽しそうに眺め――――っ!?
果鈴様の側から、冷たい視線を感じた。
「果鈴さん、果鈴さんには私が居ますから。…………綾兎さん達も、これ以上果鈴さんを苛めないように。果鈴さんを苛めて良いのは――――その先は言わなくても分かりますね?」
『『『(! こくこく)』』』
ガタガタ震えながら首を縦に振るボクたち。
拓海様…………目が笑ってないです。怖いですっ!!
「お前ら…………最低だっ!!!」
果鈴様が又もや訳も分からない言葉を叫んでいます。
拓海様に腕を絡ませ抱き締め、ボクたちを威嚇するように唸っている。
さっきまで拓海様から逃げていたくせに…………よく分からないひとです。
そんな果鈴様を見て、拓海様は満足そうに眺めています。
本当に愛されてますね……いいな。
ふと、隣にいる亜梨栖を見る。
「? どうした綾兎」
「たまには甘えてくれてもいいんですよ?」
「いやだ。なんか貧弱だし」
「…………聞かなかったことにします」
本音を言ってもこの態度は正直凹みます……姉が冷たいです。
折角抱き締める体制を取ったのに…………冷たいです。
空しく手を下ろします……良姿位を取りましょうか……手はお膝の上に。なのです。
「あれ、そういえば夕飯は何ですか? お菓子じゃ…………無いですよね?」
無理矢理空気の流れを変えるべく、ボクにとっての本題を告げる。
お腹空きました。
グーグーなってます。
食べなくても生きていけますが、ボクは絶対無理です。餓死します。流石に餓死でこの世を去りたくないです。
飢餓で亡くなっている方を差別しているようで申し訳ないですが、其れだけは嫌なのです。
ボクのハングリーな視線を感じ取ったのか、唸っていた果鈴様がゴソゴソと何かを取りだし、ボクたちに突き付けます。
「夕飯は出前だ。さぁ、この中から好きなのを選ぶといい」
全く……偉そうに言わなくても分かるのです。
それにしても……むむむ。
「……お弁当とピザと麺類だけしか無くないですか?」
「おすしはー?」
「甘味はないのか?」
渡されたレパートリーが余りにも少なく、各々不満をいう。
因みにボクは全部食べたいです。
甘味好きな亜梨栖はいぶかしげな表情をしています。
和菓子好きですしね…………いっそのこと、引っ越しパーティーでもすればいいんじゃないでしょうか…………
「ふむ…………果鈴さん、全部頼みます?」
「頼むから予算を考えろっ!! 特に綾兎は一般人に食欲をあわせろ。分かったか?」
せっかく拓海様から素敵な案が出たのに却下されてしまいました。
恨めしい視線を送りながら果鈴様に言う。
「知りません。食べることが何故いけないことなんですか? 【お腹を満たす=肉体面の幸せ】でしょう?」
空腹を満たさないと身体は動かせません。
ボクのハングリー精神は伊達じゃないのです。
スペシャルな理論を醸し出してあげますっ!!
拓海様が少し考えるそぶりをし、『確かにそうですね…………』と呟いた。
「ま、別の事でも【肉体面は】満たされますがね。ね、果鈴さん」
「私に聞くなっ/// 拓海、ワザとか? ワザとなんだよなっ!?」
食べ物以外で肉体を満たす――――? どういうことでしょうか?
「亜梨栖、別のことって何ですか?」
「綾兎…………ワタシに聞かないでくれ…………」
姉に聞いたら、顔を背けられました。凄く嫌そうです。
「あー、あはは( ̄▽ ̄;)」
亜梨栖の隣で閑崎さんが苦笑しています。
「取り敢えず、大勢で食べれるものを用意しましょうか? パーティーセットとお寿司とピザをつけて。飲み物と甘味は三人で買ってきてください」
「「「え――――っ(なのです)」」」
「良いですよね?(黒微笑) 好きなものを買ってきて構いませんが、人数分お願いします。お酒は無しで」
「りょーかい(^-^ゞ」「分かった」「分かりましたです」
拓海様の表情の変化を察し、ほぼ同時に返答するボクたち。
夜は暑さも幾らか緩和されてるので、むしろ出掛けるのには丁度良いのです。
「気を付けていってこいよ?」
「あまり遅くならないようにしてくださいね?」
ボクたちは立ち上がり、リビングを出る。
各々の部屋で着替え――――ボクは長袖の白いシャツに半袖の黒いパーカーを重ね、ジーパンを穿くというそれなりの服装をしてスニーカーを履く。
亜梨栖は水色の長袖(肩が出て、キャミソールの紐(黒)が見えるもの)とデニムのショートパンツ。紅い石が付いてるサンダル。
閑崎さんは、グレーの木地に黒と赤のチェックが入ったワンピースの上に、薄手のカーディガンを羽織っています。
麦わら帽子の小さいの(カンカン帽?っていうんでしたっけ?)を被り、白の紐編みサンダルを履いていかにも『夏らしい』格好だ。
「なんというか…………今更ツッコむが避暑地に行くみたいな格好だな」
スーパーで食べ物を買ったあと、飲み物が入った袋を持ちながら亜梨栖は閑崎さんに話しかける。
亜梨栖が他人に話しかけるのは極度に少ない方なので、ボクは耳をたてながら(ウサ耳が付いていたら、ピンッと立っていることでしょう)話を聞く。
「んしょ、アイスって以外に重いねぇ……観柚のなつのいめーじはこれだもん(`ω´) …………みぃ、もしかして似合ってない?」
「分からなくもないが…………もう薄暗いし帽子は要らないんじゃないか?」
「今更おいてくるのはめんどいよ……それにしても……みゅみゅみゅ」
「な、なんだ?」
怪訝な顔をする亜梨栖に閑崎さんはズバリ言う。
「あーちゃんはもっと可愛い服を着るべきだよっ。ふりふり・ヒラヒラしたやつ」
「あーちゃん言うな……服なんてシンプルなので充分だ。スカートなんて穿きたくもない」
そういえば亜梨栖はシンプルな服装……ボーイッシュ的なのを好みますからねぇ…………フリフリ・ヒラヒラ似合いそうなのに。
「だって制服スカートじゃないの?」
「あれは仕方ないからな…………足がスースーするから嫌だ」
ふいっとそっぽを向く亜梨栖。恥ずかしかったのか顔が赤い。
……確かにそうですね。以前杏と天宮さんの買い物に付き合ったときにコスプレさせられてスカートを穿かされたことがあるので気持ちは分かります。
そうです、あのあとに撮ったプリクラ(というんですか?)を亜梨栖に見られないうちに安全なところに隠しましょう。
じゃないと亜梨栖に何を言われることか…………『男なんだから男らしくしろっ!!』とか言われてしまうかもしれません。
…………男らしく、か。
其れが出来ないボクは……まだ過去を引きずってるからなのでしょうか…………
「はぁ……」
「どうした綾兎。溜め息なんかついて、氷月杏の真似か?」
「亜梨栖の中では溜め息=杏なんですね。特に深い意味はないです」
「じゃ、なんでなのかな?」
杏と一緒に居ることが多いせいか、仕草が似た感じはします。
流石姉さん、察しましたね。
閑崎さんの疑問に心底からの想いを口に出す。
「どうしたら『男らしく』なれるんでしょう…………」
「「あー」」
一瞬、二人に諦めの表情が見えましたっ!!
「な、なんですかっ。その『そんなの考えるだけ時間の無駄なんじゃ…………』といいたげな視線はっ!!」
「だって……なぁ?」
亜梨栖は閑崎さんに話を振ります。
閑崎さん…………冷や汗掻いてます。
「み、観柚はそんなのかんがえてないよっ? あやとくん可愛いから…………男らしくなくても【もんだいなっしんぐ〜(≧ω≦)d】だよっ」
「可愛いって言わないでください」
グッと親指を立てなくて良いですっ
「なんで?」
なんでって――――そんなのも分からないのでしょうか。
「男で可愛いのは嫌です。せめてカッコいいと――――」
「「ないない」」
「二人とも酷いです……」
グサッと心に突き刺さる言葉。
そうですか…………ボクはそんなに男らしく無いのですか…………ずーん。です。
「そ、そろそろかえろっか? アイス溶けちゃう(>_<;)」
『よいしょ』と飲み物とお菓子が入った袋を抱え直し、ボクたちは歩く。
暫く歩いていると、見覚えのあるお店が目に入る。
『あぁ、杏がアルバイトしている書店ですね』
他のお店に比べ、モダンな雰囲気の書店。
紺色のエプロンがお店のユニフォーム。
胸元に名札と漫画雑誌の付録についているようなキャラクターのバッチが付けている人も居る。
そんな中に居る杏は、独特な雰囲気を醸し出していた。
薄い色素の髪。うっすら深緑がかかる瞳。
杏は、中性的な顔立ちで黙々と棚に本を並べている。
「杏です」
「あ、ほんとだ〜」
薄い色素の瞳に光の加減でうっすら深緑が掛かることに気付いたのはつい最近。
『光の加減でしょうか?』と思って杏に聞いたところ、実は杏は日本人とイギリス人のクォーターらしい。
薄い色素の髪は遺伝の関係でなったものみたいだ。
本人はそんな外見を気にしているらしい…………確かに日本人としては浮いていますからね。
視線を集めちゃうのは其れだけではないと思いますが。
普段の氷のように冷めた表情が、お客さんが来ると花が開いたような愛らしい満面の作り笑い(所謂営業スマイル)に変わる…………なんだか別人に見えますね。
「あ、いらっしゃいませ〜」
杏、語尾が伸びてて声が変に甲高くなるんですね。
「すみません、取り寄せて戴いた本を取りに来たんですが…………」
杏と同い年くらいの方が、おずおずと話します。
杏は爽やかな笑顔で
「少しお待ちいただいて宜しいでしょうか? 今お持ちします(ニコッ)」
優雅な動きでカウンターの奥に下がります。
「はぅ……///」
あ、お客さんが杏の笑顔でノックアウトされました。
杏も罪作りですねぇ…………本人は気付いてないでしょうけど。
「やっぱり杏はカッコいいですねぇ」
「綾兎…………なんかこの状況…………ストーカーみたいだぞ」
「きにしたらまけだとおもうー(´ω`;)」
亜梨栖は周りの視線を気にしている。
閑崎さんに関しては諦めているみたいです。
「ありがとうございました〜(ニコッ)」
「ま、また来ますっ///」
バビュンッ
音にしたらそんな早さで少女は走り去っていきました。
「……はぁ。一体なんなんだろ…………ん? あれ、綾兎?」
「っ!?」
杏と視線がぶつかりました。気付かれましたっ!?
えーと、えーと…………こんなときは……
ボクはうろうろと視線をさ迷わせ、助けを求めるように亜梨栖と閑崎さんに視線を――――あれ?
振り返った先には二人が居ません。
遥か彼方に走り去っていく人影が――――えぇっ!? ボク、置いていかれましたっ!!
「綾兎? どうしたの?」
杏が近付いてきます…………ええと、こういう時は…………、だ、駄目です。考えがまとまらない…………いっそのこと亜梨栖のフリをして誤魔化して――――って色素が違う時点でバレ――――
「〜〜〜〜っ/// べ、別に杏のことなんて見てないんだからですっ ストーカーなんて、全然してないんだからねっ ですっ!!」
「なっ!?」
「っ!!?」
な、なんか変な台詞が出ました。電波受信っ!?
だらだらと掻き始める冷や汗。
杏なんか固まってます。
も、もうこうなったら――――
「じゃ、じゃあまた明日。 なのですっ!!」
「あの、一体何が――――」
杏が何かをいいかけていたけれど、それどころじゃないので無視します。
兎に角、こういう時は――――逃げるが勝ちですっ!!!
バビュンッ
さっき走り去っていった少女のように、ボクはハングリー精神と羞恥心を抑え込みながら、地平線の果てへ走るのでした。
『覗き見は止めよう』
つくづくそう、感じさせられました。
♪
「もう…………なんなんだ……?」
偶々出会っただけなのにあんな態度はないんじゃ…………しかも
『何故……ツンデレ?』
あたふたしながら頬を紅潮させて言われると、一寸ドッキリす―――――いやいやいや、落ち着こう。
あんな外見だけど、綾兎は男。そう、【漢】なんだ。
僕はノーマルで、アッチ(BL)には興味ない。
【女の子大好きっ】と言うわけでもないけれど…………
「氷月ー、サボってるなら給料無しだぞー。さっさと棚整理に戻れ」
「あ、すみません。直ぐに戻ります」
給料無しは流石に嫌なので、仕事に戻る。
だけど、綾兎の挙動不審が気になって、仕事に身が入らなかったのは言うまでもない。
…………綾兎が楽しそうだったので、一寸羨ましかったのかな……?
綾兎は、僕が持っていない何かを手にしていたから……………
この時は未だ気付かなかった――――いや、気付けなかったんだ。
彼の心があんなにも…………哀しみで満ちているなんて。
夢にも思わなかっんだ…………。