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絆〜僕と君を結ぶ鎖~  作者: 綾瀬 椎菜
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第七章~過去の記憶、そして(後編)~



「はぁ…………どうしましょうか」


『だね』


「…………そのわりにはお前達は落ち着いてるな」


取り敢えず地面(?)にぺたんと座り、杏の汗をハンカチで拭ってあげながら会話。


『「だって(だから)(ですから)」』


「…………今時の子供は……」


「今時ではないですけどね。死んでますし」


「……はぁ」


嘆息しながら僕たちを見るカリン様


此処で年齢の話をするのは…………やめときましょう


それよりも、


「カリン様はタクミ様に会えなくなってもいいんですか?」


「そんなわけないだろっ!! 私は彼奴に逢えなくなるのは……その……ぅ……」


ああ……純情乙女が此処に居ました



『「はふぅ〜♪」』



「そこっ、ニヤニヤしながら此方を見るなっ!!」


『「え〜」』


ツンデレ具合が可愛いから観察してたのに……残念


「この短期間でよく意気投合できたな…………」


『それは……ねぇ?』


「ですね」


本当によく此処まで意気投合できましたよ……教師と生徒という関係は生徒の方が立場が上の気がするのは……何故でしょう


この場合は只単に『カリン様を弄りたい』だけですが…………


「……二人とも消してやりたい……」


『「やれるものならやってみろっ(だね)(です)」』


「…………早く出たい」


ズーンッとカリン様がへこんだ…………


弄られて、自分が勝てないと落ち込む辺りの仕草に、タクミ様は惹かれたのではないのでしょうか


あの人はカリン様に対して忠犬な部分がありますから…………時々共感できるんですけどね


アリスってカリン様に似ているから…………


ジーッとカリン様を見つめる


「ん? どうした。私に惚れたのか??」


「黙っていればマトモなのに……残念な方ですね」


「お前って、段々氷月杏に似てきた気がする。毒舌なんか真似なくたって良いんだぞ?」


「杏は人生の見本ですから」


「お前の方が年上だろ」


「…………にこり(微笑)」


「…………何気に気にしていたんだな。年齢問題」


んー、ボクと杏では最低五十位離れていますからね。それを言ったらカリン様なんかおばさん通り越しておばあさん――――今、カリン様に睨まれましたっ!? え……あれ?



「…………そういえば、さっきから息苦しくないですか?」


肺と喉に違和感を感じる


まるで、山の上に来たような息苦しさが身体を襲う


『そうだね……観柚もさっきから息が……あ、そうだ。実体化モードを解除すれば大丈夫かも』


闇がある程度身体から抜けてから、身体の状態を学園に通っている時のように戻した彼女は、自分を実体化させていた力を解こうと小さく詞を呟く


だけど――――



バンッ 『やっ!?』



「閑崎さん!?」


闇に身体を弾かれた彼女を慌てて支える


『うぅ…………力を全部闇に吸われたみたいで無理だったよぅ』


「じゃあ、僕たちも……」


「ああ……このままいくと確実に死ぬ……いや、私達は死んでるから次は【消滅】するな」


「そんなっ!!」


『光の住民』と『闇の住民』は、本来実体を持っていない


だが『現実世界』に来るために、特別に実体を持つことが許される


簡単にいうと某死神漫画の黒髪の死神が現世の学校に通っている時の状態だ


…………僕たちは閑崎さんの実体化に近いですが……


自分の肉体を全てのものから認識され、接触を可能にしただけ


一度目の死は身体の死。二度目の死は……魂の焼失


其れは……生まれ変わることもなく、此の世から消える事を意味している


「そうなると、氷月杏は一度に二回死ぬ事になるな……可哀想に」


「『可哀想』と言っておきながらニヤニヤしているのは何故ですか……」


まるで実験の検体を見るように杏を眺める


あっ……今、僅かに杏の身体が震えましたっ!! まさか……本能で察知した!?


カリン様は、人差し指で杏の頬をつつき、にんまりしながら言葉を続ける


「死んだら無理矢理此方側に引き込んでやろうと思ってな。今、此方は人手不足だしな」


「……【消滅】したらそれは無理ですよ?」


「…………はぁ。本当に残念だ」


グリグリと頬を指で弄られる


日焼けを知らない少女のような顔を弄るのは凄く楽しそうです


見つめつつ、ふと考える


確かに、『二年前の闇の災厄』の影響で『闇の世界』は崩壊し、『光の住民』の殆んどが片割れを失った


対の十人(正確には二十人)のおよそ半分が消えた事になる


それ以前に何人かが『転生』したため、ボクが知っている限りでも数える程しか居ない


カリン様とタクミ様は『現実世界』の指揮をその上に居る『正マスター』から指示を得て行っている


其れをボクたちが動いて解決するのが仕事だ



『現実世界』の中に散らばっている住民達。


【仮契約】をして、杏は『闇の住民』の代役になっていますが…………十字架の光といい、彼はなんなのか分からない


「そういえば、先程杏が結界を壊したときに貴方が言った『まさか……氷月杏は彼の……』とは一体どういう意味ですか?」


「ああ…………それはだな。暇潰しに読んでいた古い文献に、氷月杏がさっきしたような事について書いてあったんだ」


『「え?」』


閑崎さん共々、疑問符を浮かべる


「私も興味を持った内容でついつい暗記をしてしまったんだが…………まさか実在するとは思わなかった。これから話すな? 『それは、光の住民の世界……つまり光の世界の存在が揺らいだとき』」


人間界に一人の聖者が生まれるという予言が降された


住民の偉い方々は自分の世界の力にしようと、我先に予言の場所を訪れた


月の照らされた海の中


聖なる海に蒼白い光を放つ球体が浮かんでいた


その球体の中には赤子がおり、すやすやと眠っていた


住民達は赤子を自分の力にしたいがために争い……多くの血が流れた


住民達が争いに集中している間に赤子は球体の中で瞬く間に成長し……球体を割って外に出て、人間に被害が及ばないように結界を張った


どんな攻撃を受けようと結界は攻撃を浄化させた


そして代表の二つの世界の住民を殴り、事を収めさせた


その赤子だったものは自分で居場所を創った


光でもなく闇でもない者



「性別は分からないが……その者は力を次の世代に写していく。私達に似ているだろう?」


「確かに……」


言われてみればそうかもしれない。


「力の格は私よりも上だろうがな。その場に私が居たらどうだったか分からないがな」


「そんな事を言ったら、タクミ様は悲しみますよ? 今だって心配していると思いますし」


「だよな……タクミ……会いたいぞ」


ぷるぷると身体を震わせ、涙を堪えるカリン様


そんな彼女を見つつ……閑崎さんと溜め息をつく


杏の力で此所から出れればなぁとは思うんですが、傷を塞いだとはいえど……失血死寸前の身に何が出来るのだろう


彼の存在で誰かを救えるのなら…………僕たち住民も救われるのだろうか


でも、あくまで伝説の存在だ


本当に存在しているのなら



『僕たちが死ぬのを救ってくれたはずです……』



暗い牢獄の中でも、生きる事が出来たのなら…………


閑崎さんも同じ事を思ったらしい


俯いてますが、何処か辛そうに見えた


殺された時のカッターナイフを持ってさ迷っていた位だ。生への執着があってもおかしくないですね


そんなことを考えているうちに息苦しさが悪化してきました……そろそろ不味いですね


まるで気管支を押し潰していくような苦しさは……自身が死んだときの苦しさに似ていて――――


カリン様も閑崎さんも、息苦しさで顔を歪ませていた



『アリス姉さん……傍に居られなくてごめんなさい……』



瞳を伏せ、心の中で念じた瞬間





キィンッ 「「『っ!?』」」





蒼白い光が、辺りを包み込んだ






〜直前・異世界にて〜



「む。お前の出した条件は凄いものばかりだが……確かに了承した」


「おお……了承するなんて太っ腹なんですね」


昂月に提案した条件を全て述べたところ、意外にあっさりと聞いてくれた


「でも、本当に良いのか。特に…………最後のは」


確認とばかりに聞いてくる昂月


僕は彼を直視し、告げる


「構わないよ。その条件は保険の様なものだし。さあ、さっさと力を下さい。そして元の世界に返せ」


「お前さ……我の事をどう思っている――――」





「え? 下僕」





「…………もういい。我の近くに来い。力を解放してやる」


「分かりました」


「其所は素直なん――――すみません、今振り上げた拳を下ろすなよ?」


若干昂月が震えていた


拳を納め、昂月の傍に立つ


思った以上に弄りがいがある人だった


「いいから大人しくして、一歩も動くな」


「む」


「目を閉じろ」


「…………分かった」


ぎゅっと目を閉じる。真っ白だった世界が黒く見えた


「……まあいい、始めるか」


ひたりと僕の額に指先を当ててくる昂月


頭の中で鈴の音が響いた


いや、鈴の音というより澄んだ金属音の様に聞こえた


「彼の者の中に眠る力よ。闇の変換を移行し、真の力となれ」



額に当てられた指先から、ピリッと痺れるような感覚が流れ込んでくる


前に綾兎に変換されたときとは違い、全身に冷たく心地よい何かが巡る


其れは何処か懐かしく……今まで眠っていた何かが目覚めたという感覚がする


ずっと……体内に眠っていた力



僕が使える――――力っ!!



「後は自分で出来るだろう」


額に当てられた指先を外される


「もう瞳を開けていい」


「……もう、終わったの?」


恐る恐る瞳を開け――って


「身体が光ってるっ!?」


僕の身体が蒼白く光っていた


力が目覚めたからなのだろうか


「さあ、体内に感じる想いのまま動け。座すれば力は想うままに働く」


「其れだけで良いの?」


「力は鍵で制御しろよ? 闇の住民の姫に貰ったものがあるだろう? 使い方は魂が憶えているからな」


「鍵……?」


闇の住民の姫=アリスに貰った(というか渡された)もの。


鎖の長い銀の十字架。


本能で分かる……あれが鍵。


「あくまで体内の力を目覚めさせただけだから、それ以降は自分で解放しろ。鍵を使いこなせ。鍵こそが己の力の媒介だ」


「其れくらい分かっています」


昂月の『ちょっと上から態度』が気にくわなくて少し剥れる


「じゃあ、意識を身体に飛ばすぞ」


「条件――忘れないで下さいね」


「ああ……あ、氷月杏。ちょっと待て」


「? なんです―――っ!?」


ふいに頬に伸ばされた昂月の手が――僕の頬を引っ張った


ぐにぐにと弄られる頬


「その高いプライドをさっさと崩せ。だから『ツンデレ氷月』とか呼ばれるんだぞ」


「うるふぁいっ、ふぉほひぃなふぉせわだっ!!(五月蝿いっ、大きなお世話だっ!!)」


頬を弄られているせいで、上手く反論出来ない


「其所が可愛いところでもあるんだがな」


「?」


フッと苦笑する昂月に違和感を覚える


「さあ、飛ばすぞっ!! 『転移』」


身体から放たれる光が増幅し、僕自身を包み込む。


キラキラと輝く蒼白い光はまるで満月の光のようだった


「氷月杏。もしお前が――――――――」


「…………ありがとうございます」


光に包まれて消える直前、昂月が僕に言った言葉


途中から聞き取れなかったが、恐らく最後の条件だろう


彼に礼を言ったのは、彼に背負わせてしまうからだ


他の誰かに頼めない願い


昂月だから許せた事


本当は彼にも背負わせたくなかった事


でも、力を持つと事実を知ったと同時に決めた事だから…………


さあ、皆を助けよう



僕の――――力で






「行ったか……」


真っ白い花が咲き誇る空間――『月の果て』に一人残る


氷月杏の投げた鏡を探し、見つける


鏡は傷一つ付いていない


其れを見ながら……ぽつりと呟いた


「氷月杏……お前は我と別の路を歩むといい」


鏡の中では閑崎観柚の造り出した空間が蒼白く光輝いていた


「魂に受け継がれるんだな。『夜の支配者』は『自分よりも他人を大事にする』という事が…………私が前代の『夜の支配者』に言った条件をお前も言うんだな……」


鏡を力で拡大させ、別の空間を映す


生命の母なる海を…………



満月が空に浮かび、水面を照らすのをただただ眺めながら、瞳を閉じ……詞に力を乗せた





「氷月杏……彼に幸多くなる事を――」







瞳を開けると、辺りは蒼白い光で照らされていた


其れは僕自身が放つ光


身体が宙に浮いている


「杏……?」


名前を呼ばれてくるりと振り返ると、横たわった綾兎達が居た


「綾兎……僕の傷を治してくれてありがとう。助かったよ」


「いえ……あの、杏……貴方は一体……?」


僕の今の状況に驚きを隠せない表情をする綾兎


「その説明は後でする。取り敢えず今は――――」



光で照らされているとはいえ、闇に閉ざされた空間の中に居ることには変わらない……それでも





「此処から出るっ!!」





キィン 「っ!?」


いつの間にか握っていた十字架が、僕の心に反応したかの様に強い光を放つ


僕は両手を前につきだし、十字架を包み込んだ



キィン キィン


十字架に付いている鎖が音をたてる


僕は瞳を伏せ、昂月が言っていたことを思い出す



「あくまで体内の力を目覚めさせただけだから、それ以降は自分で解放しろ。鍵を使いこなせ。鍵こそが己の力の媒介だ」



そう昂月は言っていた


でも、その前に予兆があった


綾兎に連れられて祠の封印に行ったときに脳裏に浮かんだものと詞


闇に溶けゆく光のおぼかげ――


逆に考えると、光を闇が包み込んでいるようにも見えた



其れは片方だけでは成り立たなくて、二つの意味があったんだ


「……『闇よ……光を支える糧となれっ』」


あの時の詞はまだ完全じゃなかった



ドクンッ



脳裏に浮かんだ詞


昂月は「魂が憶えている」と言った


その意味が――――少しだけ分かった気がする



想いを乗せて詞を唱える



『闇よ光を支える糧となり、光よ闇を照らす道標となれ。我、夜の遺伝子を継ぎし契約者・氷月杏の名の元に【絆の鍵】よ。我が想いに答えよっ!!』



ドクンッと僕の鼓動に合わせて鍵が震える


辺りを照らしていた蒼白い光が鍵に集まり、十字架の中心に付けられていた半透明の石に吸い込まれた


だけど其れは一瞬のこと


鍵は蒼白い光を放ち、僕自身を包み込む


身体中を力が巡り、自分が変わっていくのを感じた



『解』



口がその詞を言ったと同時に鍵は姿を変え――――柄が長めの剣となった


「夜剣・蒼月」


キンッと光るその剣の名は、無意識に口から出たもの


魂が覚えている――僕の相棒


蒼月を手に取り、構えてみる


……ん?


なんか服装まで変わった気がするんだけど気のせいだよね?


制服のデザインが何となく違うような…………深く考えると、僕自身が魔法少女(少年……?)になったみたいで嫌なので、此の件はスルーしよう


『きょーくん……? だよね?』


ぽかんとした表情で僕を見る閑崎さん


其れは水城先生も綾兎も同様で…………


「ええ、氷月杏ですよ? って、あれ? 水城先生?? …………貴女が居て、何で此処から出れないんですか…………」


「うぐっ」


だらだらと冷や汗をかき始める水城先生


「……って、何で私が居て無理なんだ……とか言ったんだ?」


「だって、水城先生って綾兎の上司じゃないですか。其れも結構上の。聞いたときに綾兎が可哀想だと思いましたし…………僕の上の人も変人で変態ですけどね」


「聞いた? 綾兎にか??」


「ボク……其所まで話しましたっけ?」


怪訝そうに僕を見てくる二人……情報源がアリスだったような……


「やだな、綾兎。話した内容は忘れちゃ駄目だよ?」


「そうなんですか……疑ってすみませんでした」


めっとたしなめると綾兎がしゅんっと項垂れた


綾兎……ごめん。自分の姉が情報を曝したんだよ?


其れはさておき


「閑崎さん……此の世界を創った力の源は何?」


彼女は僕を見て、ビクッと震えた……怖がらせてしまったかもなぁ……


『……此処は観柚の中なの。心に広がった闇で創られた世界に、お姉さまから貰った力を注ぎ込んだモノ。出口は観柚にしか開けない……だけど、力が暴走してしまって、主導権が観柚じゃ無くなってしまったみたいで…………』


「嗚呼、じゃあ閑崎さんの心の闇を浄化――――」


『綾兎くんがやってくれたんだけど、もう此の空間は観柚のモノでは無くなってしまったから……無理だよぅ』


最後の方の言葉が小さくなっていく……彼女の瞳には涙が光っていた


『きょーくん、巻き込んじゃってごめんね……痛かったよね……? 苦しかったよね…………?』


「確かに痛かったけど……悪いのは閑崎さんじゃないし。その、『お姉さま』が閑崎さんに力を与えたんでしょ?」


『う、うん…………でもっ!!』


「全然悪くなかった訳ではないから、罪は償わなくちゃいけないけど…………まあ、いざとなったら其所に居る二人が何とかしてくれるよ」


「「勝手に決めつけ(るな)(ないでくださいっ)!!」」


なんか二人が怒っていた


『そ、そうだね……うん、難しい事は二人に任せよう』


「その息だよ、閑崎さん♪」


『うんっ!!』


「おわっ!?」


にこやかに頷く閑崎さん


テンションが上がったのか、持っていたカッターナイフごと腕を振り回す


怖かったので後方にジャンプ


ほっと息を付くと、閑崎さんが顔をしかめていた


『何で離れるのよぅ……』


「危ないからっ!! 一回刺されてるからカッターナイフ自体にトラウマ持ってるしっ!!」


睦月の原稿を手伝いさせられるたびにカッターナイフを持つしかないのか…………それ以前に料理するときに思い出さないと良いな


『此れは『お姉さま』に貰った大事なモノなのっ!! 此れで観柚は実体化してるの』


……え? 今何て??


「……閑崎さん、其れを『お姉さま』に貰ったの?」


『そうだよ。だから観柚が使えるのはこのカッターナイフだけだもん。観柚自体は闇に惹かれやすいだったみたいだし。周りの闇を逆に使って攻撃したりしていたからね』


「そのカッターナイフこそが力の源…………?」


『そうなるかもね♪』


納得した。カッターナイフが…………もしかしたら


「閑崎さん……カッターナイフを渡してもらえるかな。たぶん其れがこの空間の――――核」


『「「えっ(なっ)!?」」』


驚愕する三人


でも、これ以外核と呼べる物は無い


『核なら仕方ないね……きょーくんの好きなようにするといいよ』


「意外にあっさり渡された…………良いの?」


思ったよりあっさり事が進んだことに吃驚する


そんな僕を見ながら閑崎さんは苦笑した


『いやぁ、最近女の子がカッターナイフを振り回すのは危ないと思ってたの。実体化解けたって別に構わないもん』


閑崎さんの言葉を聞いて、夕方の睦月の行動を思い出す


担当さんに向けてスタングレネードを投げていたし…………桜果は桜果で料理でダークマター作るし…………女の子は怖いです


「じゃあ、貰います。たぶんこれを破壊すれば良いんだけど…………水城先生や綾兎は破壊できる?」


神崎さんから鈍色に光るカッターナイフを預かり(内心は冷や汗かいてる…………これが槍状になって僕の身体に刺さったのか…………今すぐ消したい)、二人に話を振る


「「相方(アリス)が居ないと無理だな(です)」」


其れほど膨大な力が必要なようだ


僕も力が目覚めたばかりだけど、破壊できるかな…………


ふと、ある考えが脳裏に浮かんだ


カッターナイフの刃をしまい、床に置く


次に蒼月を違う物質に変えるイメージをしてみる


蒼月は僕の想いを其のまま象ったもの



なら、もしかしたら…………



案の定、蒼月は淡い光を放ち…………足首から爪先にかけてのサポーターに変わる


「なんだ氷月、そんなの造ってどうするんだ?」


怪訝そうに僕を見つめる水城先生


僕はサポーターを足に装着し、軽く足を振る


そして、勢いが着いた状態で足を振り上げ――――





カッターナイフの上に降り下ろした





パリンッ



砕け散るカッターナイフ


踵には鈍痛が来るだろうと思っていた割にそんな感覚は無く、【夜の支配者】の力が凄いものだと改めて知った


『「「……………………(ガタガタガタ)」」』


三人が僕を見て震えていた


そんなに怖かったかな…………カッターナイフを振り回す少女や、三角定規やシャープペンシルを武器にする【光の住民】さん達の方が怖い


よし、此処はスルーしよう


砕けた闇が辺りに散らばる


三人が震えて役に立たないので、思うがままに事を進める


「『浄』」


瞬時に蒼月を剣の形に戻し、詞を呟く


詞に反応するように蒼月が浄化の光を出した


閑崎さんの心で出来た闇の空間は、蒼月から放たれる光に溶け込むように薄れて消えた


光が徐々に増幅していき、辺りが真っ白になる


眩しさに目を伏せ、一瞬身体が浮く


其れは束の間の事で、次に目を開いた時には見覚えのある…………綾兎の部屋居た


「戻れたのか……?」


水城先生が辺りを見回す


閑崎さんと綾兎も、少しの間呆然としていたけど、戻れたと分かってホッとしてる


硝子片が散らばっているけど、そのままの状態になっているのだから仕方がないんだけど


ま、水城先生とかがなんとかしてくれるだろう


で、


「閑崎さん…………これからどうするの?」


『……うん、どうしよう…………』


しゅんっと俯く閑崎さん


カッターナイフが砕かれたから実体化が解け、半透明な状態で宙に浮いている


変身(というか力を解放)して地面から数センチ上をさ迷っている僕達も人のことは言えないけどね


「カリン様、閑崎さんを雇いませんか?」


「「『へ(え)?』」」


綾兎の不意打ちの発言に驚く僕達


「今回の件で二年前の件に閑崎さんを上の方が敵側なのは分かりましたし。人質――いえ、閑崎さんの力を伸ばして人手不足を補いましょう♪」


「何気に黒い(な)(ね)、綾兎(くん)


キラキラと目を輝かせながら言う綾兎に、ほぼ同時に返す僕達


『でも、観柚のしたことを考えると…………良いのかな』


自分を殺した相手を倒して、僕を殺しかけて…………だけど、どちらも仕方ない事だと思う…………よね?


「閑崎さん」


『きょーくん?』


「…………今までは感情で動いていたんだから、此れからは閑崎さんの好きにすれば良いと思う」


『っ……うん!』


嬉しさで涙を浮かべる閑崎さん


瞳から溢れる涙がポロポロ落ちる


暫し考えてから閑崎さんは水城先生に向き直り、深々と頭を下げる


『水城せんせー、此れからはお願いします』


「うむ、存分に使えるがよい…………まあ、閑崎は闇の力の方が使いやすいだろうから、師匠はタクミだろうなぁ」


『……なんか言い方が酷い』


「あ、責任は私と綾兎が取ることになるな。綾兎……後は任せた」


「カリン様、一方的に押し付けないで下さいっ!!」


『酷いよぉっ!!』


二人で水城先生に言い分を訴える


その光景を眺めつつ僕は――――



キィン



……あれ?


体内を巡っていた何かがふいに止まる


急に視界が歪み、身体から力が抜ける


瞳が徐々に閉じていく…………嗚呼、そういえば失血死しかけたんだっけ…………


キィン



耳許でそんな音が響いたと同時に意識が遠ざかる


瞳が閉じる瞬間に、三人が慌てて駆け寄ってきた気がした



ごめん、ちょっと眠いんだ


少し休ませて………………ガクリ






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