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絆〜僕と君を結ぶ鎖~  作者: 綾瀬 椎菜
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第七章~過去の記憶、そして(中編)~



「……う……此処は……?」



闇に飲み込まれた後


ボクは瞳を開けた


視界の先に広がる真っ暗な世界


全てが闇に覆われて、不安と恐怖が身体を蝕んでいく


杏が放つ光によって、かろうじて杏とカリン様は見えますが……全員して飛ばされたんですね。準マスターの座を持つカリン様まで…………役立たずなのです!



『……そういえば閑崎さんは何処でしょう……』



身体を起こし、キョロキョロと辺りを見渡しても、漆黒の闇が広がるばかりで……彼女の姿は見当たらなかった


視力は良いハズなんですけど……【今】はボクたち以外の気配はしない


「おい綾兎、無事か?」


「カリン様……此方はなんとか……うっ!?」


カリン様の声に反応した途端、ズキンッと閑崎さんの攻撃を受けた所が痛んだ


背中の痛みに顔を歪ませいると、何故かカリン様はボクの前に――ストンッと座り直した


そして少し何かを考えた後――カリン様はボクの瞳をジッと見つめ、口を開く





「綾兎……今から服を脱いで上半身を私に晒し出せっ!! 今だからこそ、サービスシーンを入れるんだっ」





「っ/// 突然真顔で何を言い出すんですかっ!!」


教師に予想外の事を言われました


そして、言われた内容があまりにもボクの予想を上回った事だったので……卑猥な内容だったので恥ずかしさで死ねるんじゃないかと思いました



まあ、ボクは……一回死んでますが……もう死にたくないです



此の人、本当に空気が読めない――――


「四十九パーセントは冗談だが?」


「……残りの五十一パーセントはなんなんですかっ」


ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら言ってくるカリン様に言い返す



まあ、大体は予測できますが…………



「ふむ……其れは趣味だな」


「趣味なんですか…………はぁ。(まる)」


何故か溜めてから告げられた言葉に嘆息し、ザザッと後ずさる事にする


此の人が自分の上司だと考えたくない……もはや拒絶反応ですね。これ


「おい、今から一パーセントの考えの中の行動をするぞ。傷を治してやるからサッサと脱げ。お前……自分の傷は治せないんだろ? 氷月杏の傷を治すのにかなりの力を使っただろうしな」


「う」


相変わらず感は鋭い。其れ以外は駄目駄目ですのに……


「だからサッサと脱げ」


「っ/// 其れは断言なんですね……くっ……分かりました」


渋々服を脱ぎ始める事にする。逆らったら何をされるか分かりませんしね


住民の制服=聖服。ボクの場合はモノトーンのシンプルな服装……黒が殆んどの木地の服の裾に白いラインが入っていたり……ネクタイはアリスが勝手に変えたので可愛らしい水色だったりします。もう慣れました


上着のコートがちょっと長めで隙間から半ズボンとロングブーツがチラリと見える。過去にアリスに『絶対領域を無くすなっ』と言われ、ズボンの裾を少しだけ切られました



おかげで膝がちょっぴり見えます……動きやすくなったので良いんですが……良く考えたらアリスに好き勝手やられていましたね



長いコートさえ脱いでしまえば中は無難なブラウスなので脱ぎ着は結構楽――――あ



「あの……カリン様」


「何だ? 服が脱げないなら私が脱がしてやるが」


「其れだけは勘弁です」


「じゃあ、何が不満なんだ?」


背中に謎の冷や汗をかきながら、ボクは脳が感知した信号を文章にして口に出した





「いえ……その……貴女位の力の持ち主だったら服の上からでも傷を治せるんじゃ――――」





「ちっ」


「舌打ちですか!?」


此処に皮を被った変態の狼さんがいらっしゃいました! ボクは今来た道をリターンしたいですっ!!


「まあまあ、……ええじゃないか」


「ひぅっ!?」


棒読みのセリフを口にし、暗く瞳を光らせたカリン様の手付きが……何かいやらしい


手をワキワキさせていますっ!!


慌てて服を着直し始めたボクにゆっくり近付いて(迫って)くるカリン様


上司からセクハラを受ける部下の気持ちが今なら分かります



はっ、むしろ『光の世界』は一種の秘密結社なのではないのでしょうか?



思いがけない謎が解かれそうで――って、何時の間にか移動したカリン様に押し倒されましたっ


身動きが取れません〜(泣)!!


「ちょっ、カリン様っ!? 今はそんな事をしている場合じゃ……」





『その通りだよ、あやとくん』





「「っ!?」」


頭の中に直に響く声


其れと別にヒタヒタと響き渡る音


音は段々大きくなっていき――――ボクたちの傍でピタリと止まる



「なっ!?」 「っ!?」



音のする方向に視線を向けていたボクたちは――言葉を失った



目の前に居る少女





頭の上の方で結ばれていた髪は片方だけリボンがほどけていて……ビリビリに切り裂かれたセーラー服を身に纏い……頭や身体のあちこちからは血が流れている





胸……ちょうど心臓の場所の辺りには大きな血痕が付いていた



【其れ】はボクたちのよく知る閑崎さん……だった『ヒト』



『死んで』から『闇に魅せられた』モノ


つまり『閑崎観柚という存在』は――――





「此の世には『もう居てはならない存在』だった――のか」





「!?」


カリン様の言葉の意味を理解したボク


『うるさいなぁ……今の状況分かって言ってるのかなぁ?』


彼女の放つその言葉に背筋がゾクリとする


彼女の瞳は絶望に染まっていた



そう、閑崎観柚は『誰かに殺された』んだ



で、成仏出来なくて此の世をさまよっていた間に闇に魅せられた


彼女は捕まった


其れも……恐らく『闇の世界の一部』の『欠片』の影響を受けたものに…………



『此処は観柚の中だもん。だから逃げられないよぅ……』



「閑崎さんの中……『闇の欠片』が創った世界……」



『ふうん、あやとくんって意外に目敏いんだ。でもね……観柚のタイムリミットはもう来ちゃった……だから』


表情を歪ませ、瞳を細める閑崎さん


瞳がキュッと引き締まると同時にボクは本能的に身を引いた



『だからね……あやとくんも水城せんせーも……死んじゃえっ!!』



「閑崎さんっ!?」


シュッと彼女の手にはカッターナイフが現れ、刃先が虚空を切り裂く


其所はさっきまでボクが居た所だった


「閑崎さんっ、止めて下さいっ!!」


ボクは叫んだ


閑崎さんはギュッっと両手でカッターナイフを握り直し、ボクに向けて構える


そして、ポツリポツリと言葉を放った


『あやとくん、『光の住民』のきみには分からないだろうけど、観柚は死にたくなかった!! ちゃんと勉強して、普通の生活を送ってたのっ!! なのに…………学校の帰り道に……知らない高校生位の人が突然やって来て……突然カッターナイフで観柚の身体を切り裂いた……『痛い、痛いよぅ』って傷を手で押さえながら訴えても……叫んでも……誰も来ないような公園で押し倒されて……何度も……何度も刺されたのぉ…………相手はそんな観柚を見て笑っていた……歪な笑みを浮かべてたのっ!!』


「え…………」


『観柚の家は教会だったから、観柚はかみさまを信仰してたっ だけど……どんなに願っても最後まで誰も助けに来なかった。身体中を切り裂り裂かれて、胸を抉られて観柚は殺されたのぉ……パパもママも観柚が死んだ後に車で崖から投身した……観柚はそんなこと望んでなかった。二人には観柚の分まで生きていてほしかった……傍で何度も叫んでも……『死なないでっ!!』て言っても、二人には聞こえてなかったのぉ…………二人は観柚のお骨と一緒に海の藻屑になった……なのに観柚だけは教会に取り残された……だって教会には見えない結界みたいなのが貼ってあって出れなかった……ずっと独りだったなぁ』


「閑崎さん…………」


彼女の過去は確かに重い。辛い産物だ


それは彼女の姿を見れば、人目で分かる


襲われ殺され……家族を失い、一人だけ残る



でも、彼女は知らない



ボクたち『光の住民』と『闇の住民』は、一度死んでいるって事を…………



『ずっとずっと独りだった。でもね、ある日観柚を外へ出してくれた人が居た……その人は観柚に膨大な力と身体を与えてくれた……嬉しかったぁ〜、おかげで観柚を殺したヒトをあっさり殺すことができたもん♪ だからね……その人の望みのために観柚は存在して――――』


「そんなの間違っていますっ!!」


咄嗟に口に出た言葉にボク自信が戸惑う


二人がボクの声に驚いている中、ボクは彼女に想いをぶつけた


「閑崎さんっ、確かに貴女の人生は酷いものだったと思います。だけど…………自分を殺した相手を殺してまで、貴女は新しい人生を手に入れたかったんですか!? 其れじゃ、貴女も貴女を殺した人と【同じ人殺し】です!!」


『あやとくんに観柚の何が分かるのよっ!!』



ザシュッ 「っ」



閑崎さんのカッターナイフがボクの腕を切り裂き、空間に紅い蝶が舞った


『あやとくんや、水城せんせーは良いよっ!! 『住民』として生きられるんだからっ!!』


「閑崎さんっ!!」



パンッ



空間に乾いた音が響く


其れは……ボクが閑崎さんの頬を叩いた音だった


込み上げてくる怒り


其れは閑崎さんに対して…………いや、自分に対しての怒り


『イッターい。何するのよぅ』



ブチッ



解いてはならないパンドラの箱


閑崎さんの言葉がボクのストッパーを……壊した





「…………何も知らないのはそっちじゃないですかっ!! 誰が好きで『光の住民』なんかになったと思ってるんだっ!!!」





『何!?』 「綾兎っ!? 駄目だっ!!」



カリン様がボクの腕をつかんで止めようとする


それを振り払う


抑えられない怒りが力に変換され、『聖杖・クロスセリア』が光を放つ。


其れは弧を描くように……いや、光の矢となって彼女に向けられていた



「『住民』という枷はボクたちには一番の【地獄】なんだっ!!」



只、ボクは『死にたくない』と願っただけだった


生前に……魂に込められていた『力』のせいで


成仏する事も、生まれ変わる事も出来ないまま……『住民』という役割を果たさなければいけない


其れは一種の……【出口の無い牢獄】だ


ボクは閑崎さんに向けて、光の矢を放つ



『やぁっ!!』 ドウッ



戸惑った閑崎さんに矢は見事刺さり……彼女の中に宿っていた闇を浄化させ始めた


その光景を眺めていると……少しだけ怒りが収まってきた



「……閑崎さん、生きたい気持ちはボクたちには分かります。だけど……本当は、『死んだ』事を受け止めた方が……『楽』なんですよ……」



『あやとくん……?』


閑崎さんの瞳に僅かに光が戻る


そう……いっそのこと、受け止めてしまえば『楽』になれたんだ



誰も……『大切な人』を巻き込まずに済んだ…………



閑崎さんの身体に刺さった矢は一応光の塊なので、本人自身を貫いていない


まるで某エクソシストさんの剣みたいですね


だけど……彼女の中に宿っていた闇は想像以上のモノだった





空間から出れない





閑崎さんも何か違和感を感じているみたいで…………さっきから頭の上に『?』のマークが浮かんでいるように見える


杏の光はそのままなのに……本人は目覚めませんし


すやすや眠ってますし。貧血で起きられないのかもしれませんね



さて、どうすれば…………



『ねえ、あやとくん。観柚は何処から間違っちゃったんだろうね…………』


「お前に身体と力を与えた奴に会ってからだろ」


『「いやいや、水城せんせー(貴女)に聞いてない(です)から」』


「……うぅ……」


話に割り込んで来たカリン様に二人でつっこむ


あ……、カリン様がへこんだ


『ま、あってるんだけどね』


「ですね」


「お前ら……私をからかいたいだけだろ……」


『「まあね(ですね)」』


「…………っ」


二人でカリン様から答える気力すら奪ってやった


ちょっと満足。何時も弄られていますからねぇ


『……ごめんね。あやとくんときょーくんを巻き込んじゃって…………』


「其れは杏が目覚めてから言ってあげて下さい」


しゅんっと謝る閑崎さんにボクは言う


此の件は杏が一番の被害者ですね…………



『……そうだね。だけどもう無理なの。』



「……無理ってどういう事ですか?」


なんとなく……いや、ほぼ確実的に分かっている事だけど…………閑崎さんに疑問を投げ掛けた


閑崎さんは辛そうに……そして何処か諦めた表情を浮かべ、小さく呟いた





『ごめんなさい。観柚はきょーくんを殺せなかったから、お姉さまに捨てられちゃったみたい…………タイムリミットも過ぎちゃったから、力が暴走してる……だからもう此の闇の世界からは出られないやぁ…………』





「「っ!?」」


閑崎さんの言葉にボクたちは言葉を失い…………全てを理解し諦めた



闇の牢獄



此処でのボクたちはもう【籠の中の鳥状態】だった






「……う……?」



瞳を開けると、僕は…………真っ白な空間に居た



『……いや、違う……』



真っ白な花が咲き誇る……純白な世界に飛ばされた



思い出すは謎の声


僕が桃源郷の近くで「大きな力が欲しい」といかにも中二病(そういえば中二病って具体的に何? いや、詳しくは知りたくないけど)的な発言をした所、





『ふぅ……仕方ない。其の願い叶えてしんぜよう』





といかにも仙人みたいな人にお告げされました


多少は驚いたけど……もう慣れました


綾兎に出会ってから、毎日が波瀾万丈だったから…………


「……さて、声の主でも探しに行くか」


中性的な声の持ち主に飛ばされたんだろうから、この辺に居るはずなんだけど……おかしいな


「…………まさか新たなフラグって『もう良いんじゃね? じゃあ来世にGOーっ!!』って意味じゃないよねっ!?」


避けていた桃源郷はもしかして此処だったのかもしれない



タイムリミット…………来ちゃったんだね



此処まで来ちゃったらもう『現実世界』に戻れないだろうし



綾兎、ゴメン☆ てへっ♪



「…………はぁ」



自己嫌悪に陥り始める


性格上の問題か、せめて刺された後の処理(病院に行くとか……止血するとか……)をしたかった


父さん……吃驚するんだろうなぁ


そして遺品の整理をして「……えっちぃ本は無いのか」って探し出すのだろう



父さん、ごめんなさい。興味ないので買いません



「それはそうと…………此処って足場が悪いなぁ」


此処に来てから足から妙な感触が伝わってくる


ぐにぐにとしていて、ふかふかの畑の土を踏んだような…………


……あ、そういえば知っています?


ふかふかの土の所は、実は栄養が豊富でミミズさんが耕しているんですよ。ミミズさんが悪いものを食べてくれるので草花や野菜がよく育ちます


天国の土壌も、夏にアスファルトの上でのたうち回って死んで(干からびて?)いったミミズさんが耕しているのかな…………



ミミズさん、成仏しろよ……



僕の想いがミミズさんに伝わっている事を願います



「…………流石に気付いたよな。そろそろ退いてくれ」



「綾兎……僕こと氷月杏・享年十七歳は空の上から見守って居るから……アディオス!!」


「フラグ立てなくて良いから退いてくれっ」


「うわっ!?」


急に足元の地面が揺れ、慌てて離れる――――ん?


辺りに生い茂る花でよく見えなかったけど……え……人?


其所はさっきまで僕が居た場所で…………あれ?



…………空想で全く気付かなかったけど、もしかして僕……声の主踏んでた?



ダラダラとかき始める汗。冷や汗が止まらない



「ふぅ……氷月杏……お前は意外に酷いやつなんだな…………最低だ」



「うっ…………すみません」


僕が悪い事が確かなので謝っておく


声の主は『全く……』とブツブツ呟きながら、服に付いた汚れを払っていた



其れにしても…………綺麗な人だ



中性的な声の主……長い髪の一部を細い布で縛り、思わず見とれてしまう凛々しい顔。女の子だったら絶対惚れているような…………そんな青年


只……瞳の色が凄く綺麗な深い蒼。髪の色が銀色という人間離れした色素の持ち主だった


そんな彼に見とれつつ、頭に浮かんだ疑問を投げ掛けてみた


「……もしかして、貴方が僕を呼んだんですか……?」


「うむ。そうだ。我が名は昂月【たかつき】。夜の支配者だ」


「『夜の支配者』……?」


光の世界や闇の世界、住民については綾兎から聞いたことがあるが、昂月と名乗った青年が言った言葉は初めて耳にするもので…………内心、『まだ能力者っぽいのが存在するのか』と考えた


質問の続きをする


「昂月……貴方は何故僕を――?」


夜の支配者さんに知り合いは居なかったはずだけど……最近、厄介事に巻き込まれるからなぁ


面倒な事じゃなければ良いな


昂月(何となくだけど此の人に敬語を使うのは身体が拒絶しているので呼び捨て……何でだろう)はそんな僕を見ながら……フッと意味ありげな表情を浮かべる


そして、いかにもナルシストの人のように『ビシッ!!』とポーズを決める……事無く(つまらない)、さらりと述べた





「其れは氷月杏……お前が『夜の支配者の次期当主』に選ばれたからだ」





「………はい?」


あの…………其れは一体どういう事でしょうか……?


微妙な表情を見て察したのか、徐に説明を始めた


「簡単に言うとだな、『二年前の事件』でちょっと予定が狂っていた。本来はお前が十六歳になった時に能力が開花するはずだったんだが、『闇の欠片』が散らばっている状態だった事と我の力が不足していた為、お前に干渉できなかったんだ」


自分の事を『(われ)』っていう人を初めて見ました


顔は良いのに……残念


昂月の話を聞いてると、どうやら僕は『夜の支配者』として覚醒するはずだったらしい。だけど、事件の影響で出来なかった


まあ、干渉されなくて良かったけど


「今のホッとしたような表情に嫌悪感を覚えたんだが……話の続きをする。覚醒前の『夜の支配者』は光と闇に強く惹かれやすい。だが、『闇の住民』の姫が言っていたように、お前は誰かに狙われているみたいだ」


惹かれやすいとなると、僕のせいで桜果は…………


分かっていた事とはいえ、結構辛いなぁ……


『闇の住民』の姫ってアリスの事かなぁ……あれは姫っていうより……純情乙女かと思うんだけど


「で、ついでに言うと……我もそろそろこの立場から解放されたい、だから氷月杏…………次はお前の――――」





「断る」





「……は?」


今、ややこしい事を押し付けられそうになった


今まで散々振り回されといて、そんなものになりたいなんて思うわけないじゃないか


「……おい、今がどんなに危険な状態か分かって居るのか?」


「いや、全然。むしろ……さっきの説明では理解できません」


声に重みを乗せて話されると、なんだか叱られてるみたいだ


でも…………僕は悪くない


将来『夜の支配者』になることが僕の宿命だとしても……『ならない』という選択肢もあるはずだ


まして急に押し付けられて、誰が引き受けるのだろう


「ふむ……仕方がない。愚かな少年の為に交換条件を出してや――――」





「貴方……最低ですね」





「うぐっ!?」


ジロリと昂月を見る


昂月はダラダラと冷や汗をかきはじめていた……結構分かりやすいなぁ


「我と契約すれば、もう一度生き返れるぞ? 後の事は知らんがな」


「…………」


無言のまま、くるりと昂月に背中を向け、辺りを見渡す


お、さっき見えたお花畑がある


とりあえずあっちに行くか


「まて……お前、死ぬ気か?」


ガシッと肩を掴まれ、身動きが取れなくなる。さっさと放して欲しい。


冷めた視線を彼に向けつつ、僕は思うままに言う



「自分のせいで他人を巻き込んですごすご戻っていけると思いますか? 僕は周りから向けられる視線に耐えられなくて自殺しますよ?」



「うっ」


どうやらこれも正論だったみたいだ


更に付け足す


「人間って一度死を決意すると、それ以上に恐いものは無くなるし、このイベントは終了したいし」


「今、凄く引っ掛かる言葉を聞いたが……おい、氷月杏。お前は自分の人生をなんだと思っているんだ」


掴まれた肩に力を入れられて痛い……あれ? 痛みを感じる


それは一旦置いといて、僕は無理やり昂月の手を振り払い、思うがままに口にする


「そんなの決まってるじゃないですか」


「なんだ。分かっているなら良いんだ――――」





「色んなフラグ満載のゲーム!!」





僕は昂月に向き直ってはっきりと断言してから、くるりと振り返ってお花畑へ近付いていく



「…………なんというか、お前痛い奴だな」


「五月蝿い」


…………僕はスタスタとお花畑に向かう事にする。いや、自分でもこの考え方はどうかと思うんだけどさ



なんというか……最近、非日常すぎて自分がゲームの主人公に思えてきたんだよ…………



「あっちに行ったって今の状況は変わらない。ただ消えるだけ…………それでもいいのか?」


「…………」


背後から掛けられる声が、心にグサリと刺さる


「現に雪代綾兎と水城果鈴、閑崎観柚は大変な事になっているんだか」


「なっ!?」


ガバッと振り返り、思わず昂月を見る



ねぇ……僕が死んでから何があったんだよ…………って



「何であっち(現実世界)の状況が分かるんですか!?」



「ん? 嗚呼……この鏡を使えばな。彼方を視る事が出来る」


八角形の鏡を見ながら話す昂月の鏡を瞬時に奪い取り、鏡を見る


真っ暗な空間の中に三人と僕の身体(あれ? 傷が無くなってる……そしてなんか光ってるっ!?)写っていた


「だってさっき、「『闇の欠片』が散らばっている状態だった事と我の力が不足していた為、お前に干渉できなかったんだ」とか言っていたじゃないですかっ!? 干渉出来ないのなら『現実世界』は見えなかったんじゃ……」


思うがままに話すと、昂月はさらりと述べる



「それは鏡を割ってしまって修理に――いや、何でもない」



どうしよう…………鏡の角で頭を割ってあげたい


プルプルと震える手で鏡を握りしめ…………昂月の頭に向かって投げた


「「あ」」


それは昂月をかわし、ヒューッと弧を描いて…………花畑に埋もれた


「…………さて」


うん、見なかったことにしよう。ミラーチョップを出来なかったのが残念だけど…………



覗きって犯罪だよなぁ…………



「お前、自分が何をしたか分かっているのか!?」


「それよりも…………はぁ」


犯罪をしてしまった事に罪悪感を感じつつ…………ふと、ある事を考える


これならもしかしたら…………


「溜め息をつきたいのは此方だっ!!」


「これから僕の出す条件の全てを受け入れてくれるのだったら、貴方の要望を聞いてあげます」


「なっ」


思ったままの事を断言してみる


此方が出す条件を昂月が納得するのなら……此方が上に立つ事ができる


「…………やけに素直だな。気持ち悪い」


「五月蝿い。さっさと元の世界に帰せ、この役立たず」


ザサッと三メートル位引いた昂月に更に言葉を付け足す(罵るの方があっているような……別にいいや)


「お前って、我に対してだげ性格悪くないか?」


「…………フッ」


「その、人を下に見る態度は直した方が――――」


「五月蝿い。今から条件を言うので、一回で覚えてください」


余計な発言はさせない


常に此方が指揮を握る


これで、中学時代の先生の弱味を握って脅したときのように、僕が昂月を支配する!!


…………


…………あれ? なんだか此方が悪者に思うんだけど……気のせいだよね?


「嗚呼……お前の周りの奴等にこの場面を見せてやりたい……」


「尚、条件を受け入れなかった場合……さっさとあの世に行きます」


選択肢を消した答えを言う


そんな事を皆に言われる前に、いっそのこと、昂月を消してやりたい


「選択肢の余地ないな……仕方ない。条件を呑んでやる」


「分かりました。その条件は――――」





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