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絆〜僕と君を結ぶ鎖~  作者: 綾瀬 椎菜
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第一章~始まりは日常から~

何もない静かな一時


そんな当たり前の事が平和だということを今まで忘れていたのかもしれない


普通の生活


普通の出来事


朝のニュースでやっていた事件などの起きる確率は殆んど無い


異質なものなどこの世には存在しないのだから……


そんな事を思いつつ、日々の生活を少しだけ退屈に思っていた僕・氷月杏(17歳)は当たり前の生活を取り戻したいと願うようになった


そう……雪代綾兎によって……



第1章――始まりは日常から――



晴々と澄んだ青空


小鳥の囀ずる声がとても心地よくて……と感じなくなった今日この頃


ありふれた毎日に少しずつ飽きてきた


昔からそんなに辛い人生を送ってきたわけではない


そこそこの中流家庭に生まれ、そこそこの人生を送っている


ゲームの様に、隣の家の幼なじみの女の子が窓から入ってくるという展開はないけど、男の子の幼なじみなら居るし、クラスには仲の良い女の子が居る


成績は割と良い方だし、運動も平均的に出来る


中性的な顔立ちだけど、其れで困った事といえば、良く女の子に間違えられて過去に何回か告白(同性から)された位だ


勿論断ったし、相手も分かってくれた


少しネガティブな性格だけど周りは受け入れてくれる

そんな人生が心地よくて……少しだけ疎ましくて


でも、普通の生活を過ごしていれば面倒な事はない


そこそこの高校・大学を卒業して、収入の安定してる公務員になって、知り合った人と結婚して……其れなりの生活を送る


其れが、この世の中で一番幸せな事なのかもしれない

何時からか、そう思える様になっていた


日々の生活が疎ましくなってきたとは言えど、別にこの世から居なくなりたい、消え去りたい訳じゃない


自殺する気は無いし、つまらない人生に飽きたから何かやろうと言って、犯罪に手を出すつもりもない


ただ……少しだけアクションやサプライズが欲しいだけ


と言っても、そこそこのレベルの私立高校に通う高二の男子高校生が特殊な力など持っているはずは無く、学校に通う事が仕事のような僕に世界を変える事など出来るはずも無く……


ただ、ひたすらつまらない毎日を送っていた



その日の朝も、起床して朝食を作って食べ、歯を磨いて顔を洗い、用を足してから着替え、身仕度を整えてから家を出るという、いたって普通の生活を送っていたはずだった


登校途中までは……



僕の通う私立聖桜高校は、家から徒歩5分の駅まで行き、其処から都会に出るのとは逆方向の電車に乗って3駅目で降りる


都会に向かう電車は満員なのに此方は比較的空いている方だ


乗客の多くが聖桜高校の生徒か地元の人だ


そして駅から真っ直ぐ続く桜並木の道を15分位歩くと高校に着く


桜並木の道自体が商店街になっているが其れは駅周辺だけで、少し歩くと閑静な住宅地に変わる


街灯があるからまだマシだけど、真っ暗な時には出来るだけ通りたくない場所だ


いつも通り桜並木の道を一人でてくてく歩いていると、急に辺りが暗くなった


「……え?」


ざわざわと音を立てる木々達……生暖かい風が身体にまとわりついて気持ち悪い


『……此れはもしかして雨でも降るのかな……』


通学鞄の中にはちゃんと折り畳みが入っているけど、朝から雨って嫌だなとか考えつつ桜並木の道を歩く


辺りが暗い時は自動的に街灯が灯るはずなのに何でか今日は灯りが点かなかった


故障しているのだろうと考えたが、一本なら未だしも辺り一帯の街灯が故障する事などあるのだろうか


「…………?」


何故だろう、かれこれ15分位歩いているのにどうして高校に到着しないのだろう



「道にでも迷ったかな……?」



すぐに考えを消す


一年と少し通っている高校までの間で今更迷うはずは無い


『じゃあ、僕は今何処に居るんだろう?』


思えば何でこんなにも辺りが暗いのか


時計を見ると今は8時を過ぎた位だった


何で夜じゃないのにこんなにも暗いのか


まるで大きな闇に飲み込まれた様な……


そういえば、駅周辺にはあれほど聖桜高校の学生が居たのに何で誰も居ないのか……


今、此処に居るのは僕だけ……?



だけど――



『此処……違う……?』


高校の通学路だけど何かが違う


木々がざわめく音と自分の声以外は何も聴こえない


『嫌だ……此処に居たくない!!』


辺りを包んでいる闇が自分の存在を消してしまいそうで、恐怖を覚えた


闇がどんどん深くなる―――


周りにあったはずの桜並木が音も無く闇に飲み込まれていって、無と化していく


逃げるにも足がすくんで動かない


そして目の前に闇が迫る


抵抗なんてしても無駄


抗うことなんて出来るはずが無い


『最後に自分が異質に巻き込まれるなんて思わなかったな……』


消える覚悟を決めて僕は目を閉じた



刹那―――



『緋桜・封縛』



キィン



落ち着いた声と共に金属がぶつかるような音が響き渡る


何事かと思い目を開けると白い光に包まれた少女が立って――


「って、うわっ!?」


いや、宙に浮いていた


そりゃもうフワフワと目の前を漂っていらっしゃるよ


スタッ



「ふう―っ、危ないところでしたね……彼のままだったら貴方、闇に存在を消されていましたよ?」


少女は地面に降り立ち、持っていた杖らしきものを縮小し、空間に消した


当たりの闇が消えたところをみると、さっき唱えた呪文みたいなもので闇を消したようだ


「き、君は……?」


白い光はいつの間にか弱まり、其処には長い黒髪の女の子が居た


見た目は16〜17歳位で服装はシンプルなモノトーンの服を着ている


顔立ちは良い方でいわゆる美少女だ


「たまたま此処を通り掛かったら、人間の気配がして……こんな所で何をしてたのですか?」


僕の顔を覗き込んでくる美少女


「いや『何』って、聖桜高校に登校している最中に急に辺りが暗くなって……彼の、此処って何処ですか?」


「……ふえっ?此処を知らないんですか?……もしかして貴方……」


「え?」


「いや、其れよりも……取り敢えず、さっきからボクの事を『少女・美少女』とか考えないで下さい。気持ち悪いですよ」


「うぐっ!!」


何で口に出していないのに考えた事が読まれてるんだ……?


はっ、もしや――


「君はもしかして超能力者?」


「あんな嘘っぽい連中と一緒にしないで下さい。迷惑です」


「ご、ごめん……」


思った事をそのまま口に出して言うと、ギロッと睨まれた


そのせいか何故か此方が謝るはめに……何で?


「まあ、似たようなものなんですけどね」


肩をすかして言う少女――って


「うぉい」


「? 怖い顔なさっているんですけど、どうかしたのですか?」


疑問符を浮かべ、不思議そうにする少女


ああ……怒りを通り越して何か呆れてきたよ……


「はあ……」


精神的に辛くなり溜め息を付く


「むぅ、溜め息ばっかりついてますと、幸せが逃げますよ?」


「良いよ、別に……」


「良くないですよ。良いですか? 幸せというのはですね、一人一人が持つ量は違いますが誰もが持ち合わせているもので人によって価値感も違うのです! 其れを逃がすって事は―――」


いきなり少女が語り始めた『幸せ理論』は途中から聞き流すことにした


ふと腕時計を見ると、現在8時半ってなって―――


「ってやばっ!?」


あと10分で遅刻になる


一応今まで無遅刻無欠席で通している身とすれば、その記録に傷が付くことになる


「どうしたのですか?」


「お願いだ、今すぐ元の世界に返してくれ」


「嫌なのです」


「はあ!?」


ツンッと顔を背ける少女


「元の世界に戻りたかったらボクと契約してください」


「はい? 契約??」


「そうなのです」


さっきとは裏腹ににこやかに微笑む少女


「契約ってなんだよ!?」


内容を聞きだす


『契約』という言葉自体に違和感を覚える


「そもそもボクは只の人間ではありません。光の世界の人間です」


「光の世界?」


聞いたことがない……


「はい、この世には『現実世界』、『光の世界』そして今居る『闇の世界』があるのですよ。今まで貴方が居た世界は『現実世界』でした」


成る程って……『でした?』何で過去形??


「実は貴方が『闇の世界』に居るって事がちょっとイレギュラーでして……困っているんですよね」


「僕がイレギュラーな存在? 一体どういう事??」


少し考える少女


「本来、世界は中立を保つために、『光の世界』『闇の世界』は『現実世界』を支えています。しかし最近、時々今回のように『闇の世界』の一部が『現実世界』に流れ込んでしまうようになって……互いの世界に住む住民が流れ込んでしまった部分を刈り取る事になったのです」


な、何か話が壮大になってきた様な気がするんだけど……


「住民と言っても『光の世界』と『闇の世界』にはそれぞれ10人しか居ません。そして住民達は元々は人間でした」


「人間が……?」


住民に? どうして……


「昔、死ぬ直前にまだ生きたいと願った霊能力者が住民になるみたいです。対の方々は特に……」


対の方々って双子の事?


昔は双子って『忌み子』って言われていたからかなぁ?


でも、少女の言っていたことが本当だとすると……少女も死ぬ直前に生きたいって願ったのかな?


こんな女の子が『光の世界』の『住民』に……


「……貴方の思ってることは大体当たっています。ボクの姉……『アリス』はボクと一緒に『現実世界』を旅立ち、『闇の世界』の『住民』になりました。それ以降は時々会って話をしていたんです。二年くらい前までは」


『二年くらい前』


その言葉に僕はドキリとする


二年くらい前……いや、僕が中学三年生の時はちょっと色々あって、其れが理由でこの世に興味があまり無くなってしまったのだ



まさか――



「あの、何か考えているところ悪いんですけど、話を進めても良いですか?」


「あ、うん」


ニコリと微笑み、話を聞く


「二年くらい前の冬、何時も連絡がとれていたアリスと突然連絡がとれなくなってしまい、『光の世界』のお偉いさんに頼んで、『闇の世界』に行ったのです。すると――『闇の世界』は跡形もなく消え去っていました……『闇の住民』は一人として残って居なくて……アリスは何処にも居ませんでした」


「………」


唯一の双子の片割れが居なくなったとき、この子は一体どんな感情で居たのだろうか


辛かったはすだ


何処を捜しても見付からない……それでも捜し続けて……だけど見付からなくて……


「……後で一人だけ何とか生き延びていた闇の住民を見つけ問いただした所、何らかの力の影響で、『闇の世界』が分散されたと聞きました」


「世界が分散……」


「『闇の世界』は欠片となり、こうして『現実世界』に溶け込み始めていて……このままだと『現実世界』は闇に飲まれてしまうのです」


世界を分散させるほどの力……其れは一体何処から来たのだろう


それさえ分かれば、きっと何かが分かる気がする……


で、


「君の話は良く分かった。君自信、とても辛かったと思う……でも、其の話と『契約』は一体何の関係があるんだ?」



思った意見を率直に言う


「ボクが貴方と結びたいと思っている契約は大したものではありません。貴方の許可さえあれば平気ですから……むしろ、契約しないと貴方は……」


意味ありに呟く


「え?」


脳内に?マークしか浮かばない


「この際だから言いますが、貴方はもう……只の人間ではありません。我々『住民』と同じ特殊な力を持っているようです」


「……へ?」


少女の言っていることが良く分からない。特殊な力? そんなの、凡人の僕には……


「力が無かったら、この世界に入れませんし……闇を視た辺りで『死んでいます』よ?」


「……はい?」


少女は『にぱーっ』と笑顔で言う……楽しそうに言われると凄く怖いんだけど……


「貴方の力の能力は今のところどういうものなのかは分かりませんが、鍛えればなんとかなりますね☆ 後は……ボクがサポートしましょう。」


「ちょっ、ちょっと待って!!」


「? どうかしました?」

不思議そうに僕を見る


「その……契約しないと僕は……」


「ずっと力が覚醒しない限り、此処から出られません。力が覚醒しても力を制御出来なければ……自分の力に飲み込まれ死にます」


「…………」


もう言葉が出ない


ついさっきまで普通の高校生活を送っていたのに……勝手に巻き込まれてしまった


何で僕ばっかりこんな目に……


「はぁ……」


「さっきも言いましたけど溜め息は――」


ガシッと僕は少女の肩を手をおき告げる


「少女よ、今だけは見逃してくれ。この状況について行けること自体、結構凄いんだぞ」


「だから『少女』って言わないで下さいっ!!」


僕があまりにも『少女』と連呼するせいか少し涙眼になっていた


うるうるうるうる


少女は僕にうるうる目線を送る


「ご、ごめん……君の名前分からないから……」


僕は俯きつつそう言う


駄目だ、うるうるした眼を直視したら危ない方向に走りそうだ


氷月杏・変態ではない……はず


「そうですね、自己紹介が遅れました。『少女』って連呼されるのはもう嫌なので、名前言いますね。ボクは雪代綾兎と言います」


「あ、僕は氷月杏。杏って呼んでくれれば良いよ」


少女……綾兎はうるうる目線を止め、自己紹介をしたからか少し落ち着きを取り戻した


「杏ですね。いい名前です……これからよろしくです♪」


「綾兎……此方こそよろしく」


「で、契約なんですか……ボクが詠唱するので、その後に……その……」


どうしたんだろう……綾兎の言葉の歯切れが良くない


「ボクに……く、口づけしてください」


「ああ、わかっ――――ってぇえっ!!」


「……あうぅ……」


僕が叫ぶなか、綾兎は顔を真っ赤にして俯く


「あ、綾兎……その……綾兎にキスをすれば此処から出られるの?」


口づけ=キスと言うことは分かっている


因みに僕、氷月杏は昔から恋愛感情が普通の人より乏しいらしく、ファーストキスさえもまだだ


恋愛に興味が無い訳じゃないけれど、好きという感情がよく分からない


両親は恋愛結婚では無かったということも関係してるのだろう……たぶん


思考を止め綾兎を見ると、真っ赤な顔をして『あうあう』呟いていた


『この子に僕のファーストキスを奪われるのか……』と女の子みたいなことを考えつつ、いかにも『口づけ位慣れてますよ』と態度で示そうかなと思う


その方が綾兎も僕に口づけしやすいだろう


……うん、なんか悲しくなってきたよ


僕の人生=巻き込まれ人生なのは昔からだから諦めはつくんだけど……なんだかなぁ


「うーう、あうあうあう……あぅぅ」


……うん、某な〇頃にシリーズのオヤ〇ロ様と、少女が合わさったようなキャラになってるよ


綾兎って魔女の仲間じゃないよねぇ?


一種の超能力者なんだよね?


……何処かで魔女と友達になっている気がするのは僕の気のせいだよね?


……綾兎……恐ろしい子


「あううーう……ふう、少し落ち着きました☆」


「そう……」


変なこと考えたのばれてないよね……?


ばれていないなら良い――


「……杏、……流石に魔女の友達は居ませんよ?」


「だから勝手に心視ないで―――――っ!!」


「むう、減るものじゃないし、良いじゃないですか」


「此れはプライバシーの侵害にあたるだろ、綾兎っ!!」


裁判所に訴えたら勝てる自信があるよ


あ、でも綾兎は一種の超能力者だから難しいのかな?


「『……私の前に膝まずいて許しを乞いなさい、この駄犬がっ!!』」


「綾兎っ!!?」


「……此れがアリスのボクに対する口調ですね。ちょっと真似してみました♪」


「……性格が歪んだ姉を持っているんだね……」


……あれ……?


何でだろう……溢れた何かで視界が歪んで綾兎がよく見えないや……うぅ……


「杏っ!! どうしたのですか?」


「綾兎……今までよく耐えたね。良い子だね」


あたまを撫で撫でしてやる


アリス……こんな可愛い妹に何てことを……


ぐいっと制服の袖で涙を拭い、改めて綾兎に向き直る


「綾兎……僕は覚悟が出来た。契約して良いよ」


ニコリと微笑み、そう伝える


アリス……見つけ次第、性格を直す必要があるなぁ


「……そうですね。ボクも決心がつきました」


『そのまま目を閉じてください』と言われ、僕は瞳伏せる


「『……封印されし魂の力よ。今新たに力を構築せよ――我、契約者雪代綾兎により、力の構築を増幅させる――我の力の一部となれ――其の名は氷月杏――今、契約の口づけを交わす』」


ふわりと甘い香りが鼻を掠める


小声で『少ししゃがんでください』と言われ少しだけ膝を折ると、直ぐにやわらかいものが唇に触れた


「ん…………っ」



ドクンッ



綾兎の唇から注がれる力(?)が僕の体内を駆け巡る


身体中の血液が熱くなり、細胞が少しずつ変えられていく感覚がした


「ふ……ぅ……」


……うん、思った以上にキスが長いんだけど……空気何処から吸うの?……やっぱり鼻から? でもキスしてる間、鼻息が凄くなるのは嫌だなぁ


そんなことを考えているうちに意識がふわふわして来た


血が熱を持ってるからのぼせたのかな……?


「……ふ……はぁっ」


綾兎の唇が僕の唇から離れたとたん、全身の力が一気に抜けた


「『契約完了。此れより氷月杏は我が僕となる』」


そう綾兎が告げると、身体中の熱が引き、ふわふわした感覚が収まった


「杏……契約は終わりました。……大丈夫ですか?」


瞳を開くと綾兎が心配そうに顔を覗き込んでいた


「うん……ちょっとふらふらするけど……たぶん平気」


「そう……ですか」


ほっと胸を撫で下ろす綾兎


……契約が終わったということは、僕は完全に人間じゃなくなったんだ


仕方ないことなのかもしれない


でも、此処数年は退屈な日常に飽々してたんだ


だったら少し位サプライズがあって、退屈しなくて済むだろう


「改めて、よろしくですよ杏」


「此方こそよろしくね、綾兎」


お互いに言葉を交わし、握手をしようと――――



ざざっ



「……え?」


何故か綾兎は僕から離れていく


「杏……すみません。ちょっと……顔を直視出来ない……」


「あ……」


顔を直視出来ないのは此方もだ


「綾兎……僕のファーストキスを奪ったんだから、責任を取ってくれるんだよね?」


「ふえっ?」


ニヤリと笑い、綾兎を見る

冗談半分で言ってやる


「杏……それは無理ですよ……ボク男の子ですし」


少し俯き加減で綾兎は呟く

責任を取ってというのは冗談なのにな……でも、無理なのか


ちょっと残念


仕方ないよね……綾兎は双子の姉アリスが大事なんだし


それに――男の子だし………えっ?


ちょっと頭の中を整理する


今、綾兎は何て言った?


えっと……


『杏……それは無理ですよ……ボク男の子ですし……』


……え? 男の……子?


だって目の前に居るのは黒髪でモノトーンの服を着ている少女……


顔をジーッと見つめる


声の高さが僕同様中性的の声質だから気付かなかったけど……喉仏がある


ってことは、綾兎って……本当に男の子?


氷月杏・ようやく理解


え……じゃあ、僕は男の子とキスを――


「ぅわあぁぁぁぁぁ―――っ!!」


「杏っ!?」


「僕はホモじゃない―――っ!!」


頭を抱え、叫びながら走り出す僕


さっき綾兎に対して襲いそうな衝動があったし、何となく綾兎なら良いかと思ってキスしてた……かなり長めの……


……母さん、僕は人として重大な間違いを犯しました

……ファーストキスを知り合った変な男の子に同意の上で奪われました……うぅ……



えぐえぐと泣いていると、距離をとっていた綾兎が少しずつ近づいてきた


「杏……大丈夫ですか?」


「綾兎……僕のことは暫くほっといてくれ……」


もう綾兎の顔をまともに見えない……恥ずかしくて世界から消えたいなという想いが巡る


「杏……大丈夫ですよ☆ いざとなったら、少――――しだけ、受け入れて上げます♪」


「…………遺書、書いて良いかな……?」


溢れる涙を拭いながら、ごそごそと鞄からルーズリーフとペンケースを取りだし、今の自分の想いを書き込もうと――



「ていっ」



ビシッ



「あうっ」


綾兎にチョップされてしまった……痛い……


「全く……最近の男の子は心が弱いのです。それよりも杏……学校に行かなくて良いんですか?」


「……え?」


慌てて腕時計を見る


あれっ? 八時半のまんまだ


「途中で時間を止めました☆ まだ、間に合いますよ?」


「本当に……?」


もう少し早く能力を使ってほしかったよ

そしたら教室でゆっくり出来るのになぁ


「皆勤目指しているのなら、早く行くのですよ」


「綾兎、でも――」


此処から出ないと僕は



『解杖』



「わっ!?」


ブアッと舞い上がる白い光と共に、空間がガラスのように砕け、代わりに何時もの桜並木の道が現れる


聖桜高校はもう目の前だった


「わあ……、ありがとう綾――あれっ?」


振り返ると、黒い少女――いや、綾兎と名乗る少年は居なかった


全く……自分勝手だなぁと思うも、今までのは夢じゃないと実感する


鞄からルーズリーフが出てたから……


地面に落ちてた鞄と遺書を書くときに取り出したルーズリーフを拾う


「あ……」


よく見ると、まだ何も書いていなかったルーズリーフに短く言葉が綴られている


その言葉を書くために使われたであろう一本のシャーペンが、いつの間にか開いてたペンケースから転がり落ちた


短い文章に目を通す



小さく一言


『またすぐに会えますよ』



「勝手だなぁ、もう……」

クスッと苦笑した後僕はルーズリーフを小さく折り畳んでペンケースと共に鞄の中に仕舞い、高校に向けて歩き出す


異空間にいたせいか、其れとも綾兎のおかげなのか……何時もよりほんの少しだけ世界が明るく見えた



   ♪



綾兎のおかげもあり、僕は急いで校門を潜り、下駄箱で上履きに履き替える

僕の在籍している二年A組は五階建ての校舎の三階に位置するため、上り降りが大変なんだ


まあ、来年は二階になるので少しは楽だろう


大学のキャンパスが縮小したような形の高校なので其れなりに広い


校庭の隅に大きな講堂と築六十年の古い図書館がある


学校の敷地内は緑にあふれ、学校の校章にもなっている桜の樹が多い


カフェテラスや購買もあり、機能は其れなりに充実している


いじめも今のところ無いし……本当に平和な学校だ


運動部はあまり強くないけどね


学校にはそれぞれ寮もあり、二人で一部屋与えられるらしい


僕は、両親が仕事で殆んど家に居ないので、家の管理も含め自宅から通っている


部活に入っていない代わりに、図書館で書庫整理のアルバイトをしてる


だからこそ、今考えると綾兎に構っている時間は殆んど無いんだけど……そもそも綾兎『またすぐに会えますよ』ってメモを残して消えたけど、何時逢えるの?


突然空間から登場っていうのは出来るだけ避けたいんだけど……


そんなことを考えているうちに、階段を上りきり、教室の前に着いた


ガラッと扉を開けると、和やかな空気が流れ込んでくる

僕のクラスは常識人があんまり居ない気がするけど、一人一人が個性あふれるクラスだ


ちょっと行き過ぎている人も居るけど……


僕も前に説明した通り、顔と性格が中性的だから、小さい頃からよく『僕口調の女の子』と認識されることがあった


普通ならそういう場合、いじめとかに巻き込まれるのだろうけど、僕の場合はからかう人は居なかった


むしろ、男女問わず好かれて……その頃は今のような性格じゃなくて明るかったし、なんでも出来る良い子だった


今は少し歪……いや、物事に無関心なところがあるせいか、周りから『ツンデレ氷月』と呼ばれている


気にしてないから良いんだけどね


……うん、みんな僕の気持ちを少しは分かってほしいなぁ


まともな呼び方にしてほしいです


「おう、氷月おはよー」


「あ、水無瀬おはよー。部活お疲れ様」


別の男子と話してた水無瀬が声をかけてきた


水無瀬は隣の家に住む幼なじみで、本名水無瀬十夜


サッカー部の期待のエースで二年部員の纏め役。次期部長だ


性格は明るいというかやたら僕にかまってくる

顔は中の上位……密かにファンクラブが有るとか



「ああ、今朝も頑張ったぜっ!!……って、杏……今朝は遅かったんだな」


「あ、ちょっと部屋の掃除してたら時間忘れて……」


あははと笑いを浮かべ、自分の席に移動する


そんなわけない。平日は使い捨てのク〇ックルワ〇パーで軽く床を掃除する位だ。休日にモップがけとか時間のかかる掃除をするし……


「一人だと大変だよな〜」


「そうだね」


ごめん水無瀬……本当のことは言っても信じてもらえないだろうし、話して良い内容じゃないと思う


幼なじみに嘘は付きたくないけど、仕方ないよね?


「ああ、でも杏」


「え?」


名前を呼ばれ、思わず振り返る


「時々、俺ん家に飯食いに来いよ? ま、お前の作る飯も旨いけどさ」


「……うん、分かった」


ここは素直に言っとくべきだろう


水無瀬のお母さんのご飯凄く美味しいし♪


自分で家事やってると凝るところは凝るけど、料理には特にこだわりないからなぁ……僕


栄養バランスは気を使っているんだけどね


好き嫌いは特に無いし……辛いもの以外は


休みの日は本屋のバイト入れてるし……


「あ、そういえば杏、今日うちのクラスに転校生が来るらしいぜ?」


「転校生? こんな時期に……??」


「なんでも、家庭の都合で学校の寮に入るとか……」


水無瀬は新しい話題が好きだ。でも、この時期に転校生なんて……



ゾクッ



あ、あれ? 何か凄く嫌な予感が……


「水無瀬、転校生ってもしかして男の子?」


「さあ、其処までは……って杏? 珍しいな、お前が興味を持つなんて」


「そ、そうかな?」


ちょっとあせる。知り合いかもしれないなんて言えるわけないよ……ましてや相手が綾兎かも知れないけど、はっきりしている訳じゃないし……


「俺のイメージだと杏って『何時も舞踏会では壁の花でいます』って感じだからな」


「その例えが理解できないんだけど……」


ジロッっと水無瀬を見る


『舞踏会の壁の花』って何時の時代だよ


「簡単に言えば『杏=杏』って事だっ!!」


「もっと分からなくなってき……もう良いや」


言ってることは何となく分かるんだけど、例えが悪い


そんなことをしている間にチャイムが鳴り、僕達は席に着いた


机の上に鞄を置き、中から教材とルーズリーフ・ペンケースを取り出し、机の中にしまう


綾兎が書き込んだルーズリーフは敢えて鞄の中にしまったままにしておいた


水無瀬とかに見付かるとややこしいしね


からかわれるのはなんか嫌だし……『面倒くさい事この上無し』だ


「はあ……」っと溜め息をつき、机に顔を伏せる


今日はこのまま寝ていようかなぁ


朝の件といい、もう疲れたよ……


……あれ? なんか何時もより静かだなぁ


そう思い、隣の席を見る


何時もなら「おっはよーっ!!」と言いながら僕に飛びつい……いや、抱きついてくる少女が居るのに……ああ……お疲れなのかぁ


隣の席にはぐったりした少女が臥せっていた


少女の名は天宮睦月


よく僕をいじってくるキャラクター


十七歳という若さにしてライトノベルのイラストレーターの仕事をしているから、僕の尊敬する一人だ


ただ……仕事を片付けた翌日は今のように机に顔を伏せているときが多い


昨日も仕事に追われ、授業を早退していたから徹夜でやったのかなぁ……南無


手をあわせ、深く祈りを捧げる


微かに隣から「うーっ」と言う唸り声が聞こえたが気のせいだろう


僕の席は窓際のため、日差しが入って心地いい



「嗚呼……今日もいい天気だなぁ(棒読み)」



「いま、凄く棒読みで言ったよね。気持ちがこもってないし……」


隣から声が聞こえ、振り向く


「あ……睦月起きたんだ。おはよー」


ふわりと微笑みを浮かべながら言う


「『おはよー』じゃないよっ!! 全く……」


「え? だって未だ朝じゃないか」


「そーいう意味じゃなくてっ!!」


何で怒っているんだ? 睦月


「むぅ……何がいけないんだよ」


そもそも、疲れて臥せっていたんじゃないの? 睦月

其れに、僕が窓を向いて一言(棒読みで)言うのは何時もの事じゃないか


何を今さら……綾兎に会って、少し自分のキャラクターを忘れていたが、僕にとって『平凡な日常』はどうでも良いことだ


『平凡な日常』に興味を持たないのが僕の主義だし……


「……杏のバカ――っ!!」


「何でそうなるっ!?」


恐いっ 最近の突然キレる若者恐いよ!!


「だって杏、学校来るの遅かったんだもん……」


「それは、ちょっと色々あって……」


「嘘だっ!! 杏はそんなキャラじゃないでしょっ」


「ええ――」


突然僕のキャラクターを全否定されました


「じゃ、じゃあ睦月から見て僕って……」


「うーん、理想は背景がキラキラしてて、『お早う、マドモアゼル』とか言ってる貴族みたいな――」


「却下」


「えーっ、なんでよ」


「そんなの現実にいたら凄いって……僕がそんなことするわけないでしょう?」


「まあ、確かに……でもっ」


「頼むから自分の理想を押し付けないで……そのキャラだけは出来ないから」


「うう……分かったよぉ」


すごすご引き下がっていく睦月


やっと落ち着けるよ……


ガラッ


「おい、お前らさっさと席に着け――っ」


先生が教室に入ってきて、皆は席に戻る


「あー、聞いてる奴も居るだろうが、今日このクラスに転校生が来る。なんでも、私自身知らなかったことなのでちょっと焦ってるがスルーの方向で行くぞ――っ」


『其れで良いのっ!?(クラス全員)』


「ほれ、転校生さっさと入れ」


「……もう少し、配慮して欲しいです」


……うん、聞き覚えのある声だなぁ。顔を伏せておこう


「自己紹介だ」


「もの凄くサバサバしているんですね……えっと、初めまして。雪代綾兎と言います。こう見えて一応男です。よろしくお願いします☆」


教卓の方からほわほわとした空気が伝わってくる……うん、名前を其のまま言ってるあたりがすごく綾兎らしいけど……何で学校に? そして何故僕のクラスに転校してきたんだ?


「杏――っ!! 可愛い子だよぉ お持ち帰りしたいなぁ♪」


「睦月……落ち着け」


隣で睦月を押さえつつ、少しだけ顔を上げる


綾兎の外見はさっきと違って、髪も普通の男の子の長さになってる……黒髪・黒瞳の男の子


制服をしっかり着込んでるし……何処から調達したんだろう?


バチッ


「うおっ」


「杏? どうしたの??」


「な、なんでもないよ?」


ヤバイ……綾兎と目があった


「えっと、雪代の席は……」


「先生、あの臥せっているよく分からない男の子の隣が良いです。丁度空いてますし……」


「げふっ」


「杏……さっきから一体どうしたのよ」


「だ、大丈夫だよ」


睦月にはそう言ったけど大丈夫ではない


綾兎め……絶対嫌がらせだよな……それによく分からない男の子って僕らしいし……


「氷月――雪代の面倒よろしく」


「………」


先生の言葉をスルーし、顔を伏せたままでいる


綾兎なんて知るか


皆に弄られてしまえば良いんだ


「……ほう、良い度胸しているなぁ 氷月?」


恐い、先生からドス黒いオーラが伝わってくる


「うぅ……分かりました。その……えっと……雪代さんでしたっけ? 一から叩き込んでみせますよ。この学校の心得ってやつを……」


此れを言ったときの僕の顔は凄くひきつっていたことだろう


「氷月くんですね。此れから宜しくです☆」


「……此方こそ宜しくね」


綾兎が空いていた後ろの席に座る


「『逃げられると思うなですよ』」


「うう……」


綾兎からテレパシー(らしきもの)が伝わってきた


……もしかして綾兎ってストーカー?


「『杏……クラス全員の前でボクとキスしたことばらされたいですか?』」


「……スミマセンでした」

後ろの綾兎にしか聞こえないくらい小声で呟いた


こうして僕は雪代綾兎によって日常を大いに変えられることになるのであった


第2章に続きます

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