別れの前日 昼
昼になると、1次会として入学者とその家族、入学者のすむ地域の責任者(親戚の叔父か叔母)、領主夫婦、で昼食会がはじまる。
入学者のいない地域の叔父叔母は、少し後に始まる2次会のホストを頼んでいる。今年は私の見送りで入学者と関係ない親族も多く来ているので、弟やうちの家宰が楽だろう。
送る会は結構弛い。都会に行って頑張ろうとする若者を皆で励まし応援する雰囲気に乗じて楽しく飲み会しよう、というのは主に2次会だ。なので誰でも参加する。
勿論、領主側の目的もある。それが1次会。優秀で将来有望な若者がそのまま中央に行ったまま返らない事がないように繋ぎを強化しておきたいし、もしも困窮した時は変な所に頼らず王都にある領主別邸に駆け込んで助けを請うように言い聞かせる。うちの領民を救う意味もある。そのため領民証を手渡して絶対無くさないように厳重注意しておく。
コレが田舎者にとっては非常に大切な拠り所になることもある。
なので、中央に行く大体の者はうちを通って領民証を貰っていくので、この入学生達が祭が興る程に特別と言うわけではないんだけど、送る会は時期が決まっているので祭に繋げなりやすかったんだろうか・・・、と、少しずつ2次会に集まってくる人達を見ながら思っていた。
まあ田舎者には娯楽が少ないので誰でも賑やかなのが好きなのだ。
ある程度の酒や食べ物は領主家から出すが、人々は祝いの品を持ち寄って集まる。酒や肉やパンやケーキ、スープ。得意な人は楽器や歌声で盛り上げる。
人によっては領主に許可を貰って屋台を出す人もいるが、祝賀の気持ちからか安い。殆ど材料代だ。
私達学生を王都まで随伴してくれる商隊の人たちも集まってきた人たちに対し、ささやかに商いする。
昔は家の中のだだっ広い食堂でしていたが収まらなくなってから、前庭が1次会会場になり、今では領の衛兵達が普段使う修練場までが2次会会場と広がっている。
あと何年か後には街の中央広場も使うようになるのかな…まあ皆楽しそうでなによりである。
新入生達は前庭に置かれたテーブルに座らされ、領主や自分の村や街の長と昼食をとる事になっている。
この時に都会でのツテを授けられたり、ノウハウを聞けたりする。
また、逆に学園に入っての抱負や夢などもを披露させられたりもする。
勿論私も、前のめりで話を聞いているし期待の学園生活(夢)を話したりした。
ああ…たのしみ……
今年の新入生は3人。
3つ隣街の女の子で18歳のカーナン、私と同じ学園に入る予定。
動物が好き、獣医学を主に学ぶ。
彼女のお母さんに、
「こん子は集中すると食べず眠らずで…動物の事ばっかりになるけん、寮では、朝御飯だけでも一緒に見とってもろてもよかですか?」
とお願いされるほどの勉強好き
南の港がある街の子は今年一番遠いところからの子。ちょっと肌の色が濃いのはお母さんが別の南国の出身らしい。髪は黒のストレートで瞳が明るい青。ハッとするような美人さん、16歳マーシュラ。
うちの4歳のはとこが真剣に摘んできた花をプレゼントするくらい可憐な美少女だ。
彼女が行く学園は王都内にあるジョダイ女学校。私とカーナンが行く学校とは違う。立地も王都なので隣の都市になる。
森の奥にある村からは、これまた隣都市の王都の学園に行く男の子、15歳タウス。
私が行く学園とは少し違う風潮で、自国の伝統・歴史・文化や行儀見習い、マナーのほかに周辺国の言語・風習等も習う。その他は経営学・帝王学何かもあるらしいが、つまり統治や管理などの修学が主となるので学生の大半が貴族や貴族を支える側近や官吏を目指す者が多いらしい。勿論平民もいるが貴族に接点がある家の子が殆ど……という学校。
父さんの母校。田舎でも領地持ちであるので必要だったのだとか。
そして、このタウス君。将来は私の弟のカイネの補佐
として勉強したいため学園に行くことにしたらしい。
王都についても1ヶ月位は学校が始まるのを待つ間、タウンハウスのお祖父様の手伝いもしてくれるらしい。
隣で森を管理してる叔母さんは「真面目すぎなのよね~」とため息をはいていた。
うちは助かるけどね。
紹介がてらのご飯会(1次会)が終わる頃、入学者達の友達や親族達が前庭に集まりだし、其のままみな徐々に場所を移動し2次会への流れになる。
2次会会場である演習場は既に結構町の人たちも集まり、各々に飲み食いしていた。
そこに入学者の簡単な挨拶と、領主からの激励の乾杯がされ、開幕である。
私達入学生達はばらつく前に、明日からお世話になる商隊の方達と顔合わせした。
音楽も流れ出す。
私も今日はホストではなく主役の一人。今日の主役たちはとにかく皆から激励を受ける役だ。
私は、領主家の図書館に行きたいというカーナンと、そこに居るだけでキラキラしいマーシュラ、気付くと2歩も3歩も後ろに下がりそうなタウスを連れて、会場を回る。
あと、ワタシの左手側にはずっと涙目の弟カイネもいて、時々鼻を啜っている。
町の人は旅立つ私達に『頑張れよ』『無茶すんなよ』と声をかけてくれ、優しく心強い。………ついでにカイネにも『ねーちゃん行くからって泣くな』『ヨシヨシ寂しいよな』とのお言葉をくれる、なんだかすみません。
そうこいつは公然のシスコンなのだ。恥ずかしい奴め。でもまあ、バカな子ほど可愛い…と思うほどに私もブラコンなのかもしれない。
マーシュラは美人過ぎて同じ歳位の男子達は固まってしまって話しにならない。カーナンは挨拶を受けつつも休み無くご飯を食べていて、タウスはカイネを一生懸命励ましている。
何だか今年の新入生達は面白いな、と思いながら会場を巡る。歳が近いから気安さを感じるのかしら。
………
領主夫婦はジオ率いる挨拶巡りの様子を見ていた。
母がいう
「あの子、今年もやっぱり新入生たちを挨拶回りに連れてったねぇ」
父は応える
「あの子の性分たいねぇ。でもあの子がこうして引っ張る姿が入学生達が困ったときに領主家ば頼ろうと思ってくれる切っ掛けにもなるけん、助かるばってんね」
「でもデメリットもあるとよ?」
「へぇ?どんな?」
母が周りを見回してさりげなく父の視線を導く
「ほらっあっち。あの子」
「ああ。家の仕入れ先の一つの」
「そう。あの子、ジオに気のあるばってん、回りに人の多かけん話しかけれんでおる」
「え!」
ちょっと声が大きく出た父に、母は少し眉を上げるが、また気付いて教えた
「んーと、ほら、あっちも」
「ええ!?うちのジオそんなモテてんの」
「えー知らんやったと?あ、あのこも」
「えええ!」
父驚きの連続。
母はどこか自慢げに言う。
「見た目もそこそこ良かし。面倒見の良かやろ。そこに落ちる子もおるとかもねー」
うんうんと納得顔で頷く母に、父の素朴な疑問
「でもジオって、女の子にしては口悪いよねぇ」
(そこそこじゃなく、めちゃくちゃ可愛いけど)とは口に出さない父
「見よるだけじゃ判らんとこけんね、でも今ジオが声かけた子」
と、また見つけて父の視線を促した
「えーと。見たことがあるね。初学校のクラスメイト?」
「そう!あの子とジオ、仲良かとさ。良く他の子込みで遊びよったばってん、私は恋が訪れるのかと思っとったっちゃけどね~」
首を振りながら言う母を見て、父も察する
「ダメだったと?どっちが?」
「どっちがって言うと、どっちも!」
父がはてな?と首を傾ける
「なんと言うか…どこまで言っても仲の良い…良すぎる友達なのよ。どっちかが異性ってのを意識する前に今日がきた感じ?」
父はまた首を傾けつつ言った
「良いも悪いも無かけど、なんかもどかしい?」
「そう、それ。どがんねーー?ってなる」
「ふうむ」
「周りからもちょくちょく突っつかれたみたいけど、本人たちは、キョトンとしとったよ」
「まあ、タイミングってあるもんね。各々で違うしさ」
そう言いながら父が見た幼馴染は、挨拶が済んで去っていく我が娘の背中を見つめる姿。
娘は引率に夢中で気付かない…かぁ。これ、意識芽生えとるんじゃなか?とはいえ、娘は明日から3年は帰ってこない。
ちょっと切ないねぇ、
と思いつつ酒をのんだ。
獣医師・医師 カーナン
美人さん マーシュラ・マーライト
執事見習い タウス・バートン
弟 カインイルーシュ・カナリー子爵令息
主人公 ジオルド・カナリー