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6、スーツの男


「ありがとうご馳走様。じゃあもう少し寝かせて。」


朝食を食べて流しまで食器を持ってきた後また眠りについた。まだ10時半、暗くなるまでって夜の7時過ぎまで明るいですけど!と文句を言える筈もなく。

少し小さな音量で音楽を流す。父親が昔誕生日にくれたコンポはまだ現役で動いていてお気に入りのCDをこれで聞いている。


「掃除もできないし、仕方ない履歴書を書いておくか。ていうか外にも行けないじゃん。鍵を渡す訳にも行かないし。」


履歴書を書きながらいつの間にか少し歌を口ずさんでいた。3枚書き終えて時間を見ると11時半だった。男はまだ眠っている。仕方なく薄手の毛布をかけてやり本を読み始める。図書館で借りてきた少し怖い話がまとめられた本だ。あっくんは怖い話が好きだった。私は怖いものが苦手だけどあっくんに近付きたくて定期的に怖い話を読むようにしている。



「おーい姉ちゃん。」


「き、きゃぁぁぁ!」


集中して怖い話を読んでいたので急に肩を叩かれ声をかけられて大きな声を出してしまう。


「な、な、きゅ、急に話しかけないでよ!」


「泣かなくてもぉ。ごめんねぇ。何読んでるの?」


私は涙目になっているようだ。


「これよ。」


と本の表紙を見せる。


「あぁそれ面白いよねぇ。俺も読んだぁ。怖いの好き?」


「そ、そうなの。私はす、いいえ苦手。」


「ふーんじゃあどうして借りたの?」


図書館のシールが見えたらしい、目ざとい男だ。


「言いたくないわ。嘘をつきたくないし。」


あっくんは嘘をつかない。


「そっかぁ偉いねぇ。嘘をつくのは良くない事だもん。でも自分の苦手なものより好きなものを読んだ方が良いよぉ。ストレス発散にもなるし何より楽しいからぁ。」


「えぇ分かってるけど。克服したいから。」


「ふーんそうなんだぁ。じゃあ俺が一肌脱いであげよぉかなぁ?」


「いいわ遠慮しておく。」


どうせろくな事じゃない。こんな男の言う事なんて。


「まあまあ、あのさ定期的にホラー映画を一緒に見てあげるよ。ねぇーいい案でしょぅ。1人じゃ怖いでしょ?」


「そうだけど。」


こんな男と仲良くなりたくないし、と思ったけどあっくんなら人の好き嫌いなんてしないし映画は怖過ぎて見られないけど克服するなら映像の方が良いに決まっている。


「だから協力してあげるよぉ。俺優しいから。」


「でもそれって貴方になんの見返りがあるの?」


ふと疑問に思った。私はあっくんに近付けるというメリットがあるがこの男にはメリットがない。


「ここを隠れ家にできるし姉ちゃんのご飯美味しいし。」


俺が来たら入れろと。図々しい奴。


「まあ良いわ。貴方達のせいで暇だしね。」


仕事を失った嫌味を言うが流された。


「そうと決まればDVD借りに行こうよぉ。俺が出すから。」


「それは良いけど、外に出ていいの?」


暗くなるまでとか言ってたくせに。


「えぇ優しいぃ。大丈夫だよ多分。何があっても守ってあげるし。」


じゃあ帰りなさいよ!とは言わずに立ち上がり言う。


「はぁ、じゃあ行きましょう。」


「うわぁ大抵の女の子は今ので落ちるのに手強いなぁ。」


小声で男が言った言葉は私には聞こえなかった。

私達が家を出たのは12時前の事だった。



「とりあえず最初はあんまり怖くないのを選んであげるね。コレかコレどっちにする?」


差し出されたDVDの表紙はどちらもとても怖かった。


「ど、どっちも怖いわ。なるべく怖くないのを。」


「えぇ!じゃぁコレにしよっ!行こうか美桜ちゃん。」


「えぇ。」


結局こいつが選んだホラー映画はとんでもなく怖かった。この男をいっそ殺してやろうかと思う程には怖かった。


「どうして?」


「なにがぁ?」


「私あんたを助けたよね?何か気に障るようなことした?」


「えー何もされてないし、俺は美桜ちゃん結構気に入ってるよ?」


「じゃあどうして?こんなに怖い映画にしたの!!」


「えーこれはそんなに怖くないよぉ。」


と不思議そうに言う。


「分かりました。貴方と映画を見て克服はこれで終わりです。ありがとうございましたさようなら。」


「えぇ早口だねぇ。大丈夫だよ慣れるって。ねぇ?」


「慣れないこれだけは無理なんだわ。よく分かった。あっくんごめんなさい。これは諦めるわ。」


「あっくん?俺の事?」


「違うわ。幼なじみよ。」


「へぇそう。あの写真の?」


壁の写真を指さす。


「ええそうよ。」


「そっかぁ。」


と男はなんとも言えない表情で笑った。


「俺、敦だよぉ。藤村敦。」


「だから何?」


「ふふ、ううんなんでもなぁい。」


そう言って先程脱いだスラックスを探り携帯電話を取り出してどこかに電話をかけ始めた。


「うん、うん、えぇ!うん、そうか。分かった何とかするから。ああじゃあな。」


深刻そうな顔で携帯を見ている。私は昼食の用意を始める事にした。


「ちょっと聞いてくれる?」


「嫌よ。」


「えぇ!ひどぉい!あのね俺をこんな体にした男が1週間後には捕まるんだけど今は会社の近くや俺の家に居るらしいのだから。」


「嫌よ。映画の契約は切れたしホテルにでも泊まりなさいよ。」


「お金くれるの?」


「あんた達に借金返してるんだから無理よ!そうだ100万用意したわよ!これで良いでしょう!」


「うわぁ美桜ちゃん偉いねぇ。」


と受け取り、そのまま私に握らせて。


「じゃあこれで1週間世話してもらおうか姉ちゃん。」


と低い声で言われて私は絶対にこいつを好きになれないと思った。



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