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4、お家にて


「さあどうぞ入って!うわぁここに美桜さんがいるなんて信じられない!嬉しい!パジャマ姿だからお家に合うし何より可愛いねぇ。ふわぁ倒れそうだよぉ。美桜さんもう帰したくないよー。」


もやしが興奮した様子で早口でまくし立てている。もやしの家はやはり高級なマンションで通されたリビングは20畳近くある気がする。なんというかモデルルームのようにオシャレな家具でまとめられていて意外だったが、そんな事よりも私は広い玄関に座った着物姿の目隠しをした女性が目に入り近付いた。前回と同じ女性のようだ。


「あの、おかず全て美味しかったです。本当に助かりましたありがとうございました。」


とお重を女性の手に触らせると、ニコリと笑い受け取り膝の上にのせた。


「美桜さん早くこっちに来て。」


もやしがいつの間にか前髪をあげて手を出している。本当に顔がいい。それなのにどうしてストーカーなんて?


「勿体ない。」


「何が?美桜さんエプロンを着けて。」


満面の笑みでフリフリの白いレースのエプロンを差し出すので受け取りもやしに見せる。


「ひえっ。か、可愛い過ぎる。」


もやしは鼻血を出したので慌てて駆け寄る。


「大丈夫?」


「かっはっやだ近付かないで!今こっちに来たらとんじゃう。」


もやしが慌てて後退り私から距離を置く。


「ハアハアハアハアハアハア。美桜さん早速ご飯作ってくれる?」


何故、急に呼吸が?とにかく仕事として切り替えよう。


「えっと何が食べたいんですか?簡単な物ならある程度は作れますけど。」


「ひえっどうしよう?初めて……美桜さんの初めて……。」


もやしがブツブツと何かを考えている。ていうかあの女性の料理の方が遥かに上手だが…。


「えっと何にされますか?ご主人様?」


あまりにも待たされるので少しふざけて聞いてみる。シュバっと顔をあげてまた荒い呼吸をし始めた。


「ハアハアハアハア。美桜さん別途料金を出すので今だけ僕をそう呼び続けてください。」


血走った目で言うので気圧されながら頷く。そしてまた料理を悩み始める。もう10分は悩んでいる。


「美桜さんの手料理。何がいいか……。ハアハア。でも何を作ってくれたって美味しいに決まってる。」


「ご主人様オムライスはいかがですか?久しぶりなのでオムレツが上手くいかない可能性はありますが。」


「良いね!じゃあオムライスで!」


やっと決まった。それからリビングからキッチンに移動する。もやしは料理中もずっと隣に居るつもりのようだ。


「美桜さんここにあるものは全て美桜さんのだよ。どうぞなんでも使って。」


「えっああはい。」


とりあえずご飯を炊き始める。コンソメをいれて炊飯のスイッチを押す。その間に具材を切ってしまうと、もうする事が無くなってしまった。そのタイミングを見計らってもやしが話しかけてくる。


「美桜さんは食べ物は何が好き?」


食べ物?急だな。


「だし巻きが好きです。」


「おおー美味しいよね分かる。じゃあ嫌いな物は?」


「嫌いな食べ物はないけど甘い物は少し苦手です。」


「僕は甘い物も好きだなぁ。ケーキとかクッキーとか。」


「私も嫌いではないですが。」


あっくんが嫌いだったから。私もあんまり好きじゃない。


「そうなんだ。じゃあ趣味は?」


「趣味は読書。」


とかくれんぼ。あっくんの好きな事。


「僕も本を読むよ。後は体を動かすのも好きかなぁ。」


「そうなんですか。」


「ねえ美桜さんどうしていつもお金に困っているの?」


うっどうしよう。名前も知らないもやしに言うべきか?黙っておくか?


「…父親が借金をつくるので。」


「…それは…苦労するね。」


もやしが自分の事みたいに俯き落ち込んでくれる。いつもなら同情なんて、と思うが今は嬉しかった。名前も知らないストーカーだが私の大変な状況をただ大変だと思ってくれる事が素直に嬉しい。


「美桜さん泣かないで大丈夫。大丈夫だから。ねっ?」


頬を落ちる涙をもやしが人さし指で掬うように拭ってくれる。このもやしは私に必要以上に触れてこないのが信用出来る。


「泣いてない。これは涙じゃない。」


私が強がり言うともやしが先程より悲しそうに、


「そっか。」


と言い拭い続けた。そのまま少しの間2人並んで床に座っていると、ピーッピーッという炊飯器の音で我に返り立ち上がった。涙も止まり炊飯器を開ける。もやしが後ろで、


「美桜さんの涙、綺麗だったな。あのまま標本にしたい。」


と真面目に言っていたが以前より気持ち悪いと思わずにただ流し、私はまたオムライス作り始めた。




「はいどうぞ。」


なんとか綺麗ではないが卵で包む事に成功したオムライスをもやしの前に置くとどこから出したのか大きなカメラでバシャバシャと写真を撮ってからやっと一口食べた。


「ふわぁぁ美味しいよ!今まで食べたどのオムライスより美味しい。美桜さんは天才です。あぁそんな人が僕のお嫁さんになってくれるなんて…感激でもう…。」


と涙を流してオムライスを食べている。私はその姿が可笑しくてクスクスと笑った。


「美桜さん!笑った!初めて素直に心から!ああシャッターチャンスだったのに!しまったぁぁ!」


急に大声を出されたので笑いも止まる。


「わあー!ごめんなさい!笑ってねえ笑って!」


と言い出したので、


「オムライス冷めますよご主人様。」


と冷たく言うと。


「ひんっ!美桜さんのゴミを見るような目。僕…。ふぅ。」


と冷静に私の写真を撮った後、少し落ち着いた。


「美桜さん本当に素敵です。早く一緒になれるように僕も準備しますね。」


と言うので、


「絶対にお断りです。」


と笑顔で返した。



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