13、夢を見ている
「やっと終わりましたね。」
抱き合う2人を見て俊が言う。せっかく金髪に染めたのに気に入らなかったのかもう黒髪に戻している。
「そうだな。」
「それにしても今回の役は大変でしたね。敦さんは自分だけど自分じゃないし。ああ、でも勝手に家に上がり込んだのは冷や冷やしましたよ!あの執事さん怒らせたら怖いんですから!誤魔化すのが大変でしたよ!」
「すまない。でもあの人の希望は美桜ちゃんの中のあっくんを殺す事だったからな。少し近付く必要があったんだよ。」
「またまたぁ、俺には本当の事言ってくださいよ。敦さんも好きだったんでしょ彼女の事。」
「あははは、有り得ないよ。俺は彼が名前を出すまで忘れてた。」
「嘘だぁ、だって俺らの事務所の住所渡したでしょ。来たら言うつもりだったんでしょ。俺達が役者だって事。それに最後の話、もし敦さんの方に転べばそのまま一緒にいるつもりだったでしょ。目がマジでしたよ。」
「そんな事ないよ。」
気持ちを認めない事に諦めたのか俊が話題を戻す。
「彼女可哀想ですね。借金もあの人のヤラセだしストーカーだって全部。あーあ、お父さんは何処に行っちゃったのかなぁ?」
「知ってるだろうが、あの人の所に居るって。」
「そりゃそうですよね、彼女の情報の出処は父親でしょうし。」
「美桜ちゃんも厄介なのに愛されたなぁ。」
「それ!それだけが分からないんです!あの人いつ彼女を好きになったんです?会社も関係なかったし大学も違う。どういう関係?」
「これだからガキは……分からないか?美桜ちゃんに影響を与えたもう1人だよ。」
「影響?なんの?」
「あっくんを作る事になった発端だ。」
「母親が出てった事?」
「そうじゃない俺はイジメを庇った。じゃあ逆の影響は?」
「まさか…彼女をいじめた?」
「好きな子程いじめたくなるって奴だ。だけど美桜ちゃんが俺を見習って拒絶した。そこで初めて自分の気持ちに気付いたんだろうなぁ。俺は好きだったから彼女を庇ったでも茶化されて離れた。」
「やっぱり好きだったんじゃん。敦さん彼女を助けようとしてましたよね、家に泊まったり抱き締めたりキスしたり無茶苦茶でしたけど。ずっと後悔してたんでしょ子供の時最後まで庇わなかった事、引っ越した事。いやそれより怖かったんでしょ?あっくんとして現れて自分も拒絶されるのが。」
「はは、随分お喋りだな。俺の気持ちなんてどうでもいい。美桜ちゃんが可哀想だっただけだ。仕事も失って篤輝の思うままになっていくのが不憫だった。何も知らないまま好きになるのが。」
「自分じゃなくて篤輝さんを好きになっていくのがでしょ。」
「……あいつも可哀想な奴だよ。あいつは拒絶された恐怖から髪で顔を隠し美桜ちゃんに触れるのを恐れた。もし美桜ちゃんが全てを思い出したらまた拒絶されるかもってそんな恐怖を抱えて。」
「うーん…でもやっと全ての謎が解けましたよ。篤輝さんはどうして敦さんにこの役を頼んだと思います?」
「そんなの俺があっくんだからだろ。」
「それもそうですけど、1番の理由は復讐ですよ。」
「復讐?」
「ええ。篤輝さんはあっくんになりたかったんですよ。いじめた側じゃなくて庇った側の彼女の神様になりたかった。敦さんみたいに彼女を庇ってあげたかった。羨ましかったし多分敦さんの気持ちにも気付いていた。自分は忘れられているのにあっくんは彼女の中に生き続けていた。だから彼女の全てだったあっくんを捨てる瞬間を見せたかったんですよ。敦さんが自分と同じように拒絶される瞬間を見せて、同じ地獄に堕としたかった。だからわざわざ敦さんを捜し出して仕事を持ちかけた。」
「そうか…そうかもな。結局俺もあいつも昔から彼女に囚われたままだったんだ。」
「次の恋は実るといいですね敦さん。」
「ははは、もう恋愛はこりごりだよ。」
美桜ちゃんが嬉しそうに微笑み篤輝と手を繋いで歩いて行くのが見える。
幸せになってほしいと心からそう願う。どうか何も知らないままどんな綻びにも気付かずに幸せになってほしいと心からそう願う。