12、答え合わせ
「これはどういう事ですか?」
「あ、ああ、篤輝さん。」
「美桜さんを離してください。」
またあのビリビリとした声だ。スーツ姿のもやしは髪もちゃんと整えていてやっぱりあのまま仕事には行かないんだと場違いな事を考えていた。
「美桜ちゃんはどうしたい?愛しのあっくんと居たい?」
ニヤニヤと敦が言う。
「嫌よ離してってさっきから言ってるでしょ。」
「んーどうしようかなぁ。だって結局、俺はあっくんになれたわけだし。俺のものにしちゃいたいし。最後の一押しだったのになぁ。」
「だからあんたじゃないって!」
「美桜さん彼が好きなんですか?」
もやしは電気を切ったか位の確認をするみたいに私に聞いた。
「え?どうして?」
この状況で何故そう見えるの?
「美桜さんが選ぶなら僕に口を出す権利はないですから。」
「美桜ちゃんはあっくんが好きなんでしょ?俺を選ぶよね。」
「あっくん……。」
「そっ意外と俺にそっくりなあっくん。美桜ちゃんが作り上げた俺に似せたあっくんが好きなんでしょ?優しくて怒らないけど人に好かれようと計算しててずる賢くて意外と乱暴なあっくん。君そのものじゃないか。君は篤輝さんが喜ぶように振舞ってるそうすればお金も手に入るし安定した生活が送れるからね。心のどこかで本来の俺が見えてたんだねありがとうそんなに想ってくれて。」
「私はそんな。」
「俺がしてたように友達を作って言葉を選んで関わりたくない人間には言葉や行動が乱暴になるのに篤輝さんには猫を被って喜ばせてる。」
「私はそんな人じゃない。」
「へえそうかな?でも俺そっくりだ。」
敦は私を抱き締めたまま言う。私は敦の腕の中で項垂れる。
「そんな…………い。」
「なあに美桜ちゃん?」
「そんな…そんなあっくんはいらない!私がそんなあっくんを作って理想にしたなら!そんなあっくんは捨てる!私が人をそんな風に見てたなんて!あっくんなんていらない!もう一生あっくんを見本にする事はない!」
その瞬間、敦が腕を離して私を篤輝の方に突き飛ばした。体勢を崩し篤輝が支えてくれる。いつもみたいに触れる事を恐れていない。
「美桜さん本当はどう思ってたんですか?僕が馬鹿みたいにあなたがしてくれた事に喜んでるのを内心馬鹿にしてたの?あの人が言ったみたいに。」
「違う!そんな事思ってない!」
「でも僕が喜ぶって思ってやってたんでしょ。お金の為だったんでしょ。」
篤輝は自嘲気味た笑みを浮かべている。
「違う!違うの!そういうんじゃなくて!お願い私の話を聞いてほしい!」
「聞いてるよ。けど彼の言う事も一理ある。」
「……私は……急な父親の借金とこいつの会社への嫌がらせで無職になって…追い込まれててあなたが言った仕事をありがたく受けた。あなたがお金を稼がせてくれたから私はほっとして久しぶりに安心できて……。嬉しかったの、そう私嬉しかった。」
「僕がお金をあげたから?」
「それもある…けど、あなたのおかげでこいつら借金取りと関係が切れて、とてもほっとした。それであなたに不思議な気持ちを抱いた。安心させてくれたあなたに恩返しがしたいと思った。」
「恩返し?」
「ええ、だからお金とか…そりゃありがたいけどそれより安心させてくれた、安全な場所も。ありがたくて私からは返せるものがないからせめてあなたを喜ばせようって思った。それから……。」
「それから?」
「あなたを元気づけたり勇気づけたり安心させてあげたいって思い始めた。私にしてくれたように。」
「そんな風に思ってくれたの?」
「うんそれで少しずつ返したいって。お金は稼ぐという形でさせてくれたからお金を返すのは嫌かもしれない、でもせめて心を返したいって思った。」
「心を。」
「ええだから敦が言った事は少し違う。確かに計算したり喜ばせようって思ってたけどそこにそんな後暗い気持ちなんてなかった。」
「それはどういう気持ちで?」
「気持ち……そう好きなのよ。だからあなたの為にしてあげたいだけだった。」
「分かった信じる。美桜さんを信じるよ。」
篤輝がやっといつもの穏やかな笑顔に戻った。
「ねえ抱き締めてくれないの?」
「じゃあおいで。」
という腕を広げる篤輝に飛びついた。その腕の中で呟く。
「そうよ私あなたが好きなんだわ。」
「僕はずっとずっと昔から好きだったよ。」
いつの間にか敦は居なくなっていて私は篤輝に支えられて2人で部屋に戻った。
「僕は絶対に君を守るからね。何からも全て僕が。」