11、神様
「そういえば気になるな。」
部屋に戻っても敦の言葉が頭から離れなかった。確かにもやしは私の事についてとても詳しい。ストーカーだからだと片付けていたけど、盗聴してたにしても私は鼻歌ばっかりだろうし一人で暮らし始めてから誰かを家にあげた事なんてほぼない。業者の人を呼んだ事もないし友達も外でお茶をする位。服の好みは外を出歩く時の服を観察すればいいが家の中の物までどうやって調べたのか疑問だった。
そしてまたピロリンと携帯にメッセージが届いた。勿論もやし…じゃない…誰だ?
恐る恐る開くと件名は敦と一言。中身は、登録してね。また会おうね。俺怪我は本当だったよ。だけだ。
「怖い。敦は何があったの?私本当に何かした?」
そして結局すぐに会う事になった。
もやしが毎朝、私の部屋に来ては玄関で少し話をしてお小遣いをくれて私の部屋から仕事に行くようになった。もやしはいつもTシャツとジーンズで髪もボサボサだけどあれで仕事へ?と毎日思うが…。
毎日くれるお小遣いはとても貯まっていてもやしにもういいから大丈夫だからと言っても毎日玄関に置いて行く。
「僕はあなたが何処にいるか分かるだけで幸せなんです。美桜さんは僕のメッセージに絶対返信くれるでしょ。あれとっても嬉しいんです!それに毎日行ってらっしゃいって言われるのも……うふふ……本当に……いい……んです。」
と前屈みになる。
「はあそうですか。えっと篤輝さんお仕事頑張ってね!今日は早く帰って来て!夜ご飯一緒に食べたいなぁ。」
と上目遣いで言う。いつも本当によくしてもらっているしこんな事で喜んでくれるならたまにはこういう事もはさんでいこう。
もやしはシャキッと背中を真っ直ぐにして泣き出し私に近付き言う。何故泣く?
「う、嬉しいです!美桜さん好きです!早く一緒になりましょう!結婚したら毎日定時で帰ります!あなたの為に死ぬ程稼いできます!好きです!」
「うふふ篤輝さんって面白いですね。結婚は考えます。私もちょっと好きですよ。」
もやしが私の好きという言葉に目を丸くさせている。そんな言葉が私の口から出た事が意外だったらしい。そしておずおずと手を広げて言う。
「あの美桜さん…抱き締めても良いですか?」
なんだかその言い方が可愛くて笑ってしまう。
「うふふいいですよ。」
と私ももやしの真似をして手を広げる。もやしは顔を赤らめ少し近付き体は触れ合わせず腕だけを私の背中にまわす。私の胸には当たらないように配慮しているようだ。なんだかそれが可笑しくて少し悪戯してやろうと私は体をくっつけた。もやしはビクリとした後そのままもう少しぎゅっと私を抱きしめた。
「篤輝さん。」
「美桜さん。」
「篤輝さん。」
「美桜さん。」
「いやそうじゃなくて仕事行かないんですか?」
「行きたくなーい。ずっとこうしてたーい。」
「こんな事でいいなら毎日しますか?どうせ毎日お小遣いを置きに来るんでしょ?」
「良いんですか?」
「良いですよ。嫌なら言いません。」
「じゃあお願いします。今日は我慢して行きます。夜ご飯楽しみにしてます。」
もやしが前髪を少しかきあげて優しい笑顔で言う。本当に顔がいい。
「ええ行ってらっしゃい。」
玄関から出てもやしを見送って私は部屋の掃除と洗濯を終わらせて夜ご飯の買い物へ出かけた。
スーパーまでの道で敦に出会ってしまった。面倒だ。
「やあ美桜ちゃん昨日ぶり。」
「はいどうも。」
私は歩くのを止めなかった。その態度が気に入らないのかまた乱暴に私の腕を掴む。力加減もできないのか!
「ちょっと愛想ないんじゃない?」
「あんたに愛想振り撒いてどうすんの?」
「えーあの社長には優しいじゃん。朝からさあ。」
見てたのか?ていうか家がバレてる。社長?
「だって私に優しいもの。優しくしてくれるなら優しく返すそれがあっ……。人として大事な事。」
「はははっあっくんね。君の理想のあっくん。俺考えたんだ偶像って事は崇拝してるって事でしょ?あの写真のあっくんを、神様な訳だ。あっくんのようになりたいってあっくんならって考えてる。じゃあ俺が君の理想に近付けば、俺は君の神様になれるんだって思ったんだ。賢いでしょうふふ。」
「……。」
「おい無視すんなよ!俺はさあなんて言うかなこの気持ち。君の部屋に俺の写真があった時、気持ち悪いっていう感情の後、こいつは俺のもんなんだって支配欲って言うのかなぁ?そういう気持ちが湧き上がってこいつには何しても良いんだって思った。だってそうでしょ俺が言う事全てが嬉しいんだから。でも君はなんにも喜ばなかった。」
腕により力が入る。折れそうだ。腕をどれだけ振っても離してくれない。
「暴れんなよ。あっくんあっくん言う割に俺に気付かねーし、言っても会えた事に喜ばず俺は関係ないって。そんなのありなの?なあお前は俺のもんだろ。」
「だから何度言えば良いの?あっくんは私の心の支えだった。彼が私を助けてくれた事だけを糧に生きてきた。けど色んな事を思い出してきて悲しい思い出もあった。でもあっくんが私を支え続けてくれたのは事実よ、確かに最初はあんただったありがとう、でも今はもう違う。あんたは私のあっくんじゃない。」
「だからそれが意味わかんねえんだよ。」
と乱暴に私を抱き締めて口付けてくる。敦の胸を叩いても押してもビクともしない。腕ごと抱き締められたので動く事もビンタもできない。こいつの気が済むまで口付けられる事になった。
「あはははは、ねえ気持ちいいでしょ?俺こういうの得意なんだぁ。もう一回してあげようか?」
「やめて気持ち悪い。」
しまったまだ抱き締められたままなのに悪態なんてついたらと考えていたらまた口付けられ今度はすぐに唇から離れたと思うと耳や首、胸元を舐められ噛まれ口付けられる。
「ちょっともうやめて!」
「やだ。俺を好きになるまでやめない。ふふかあーいねー。それにおいしい。」
とシャツのボタンを外されて胸の近くまで舐められる。
「おい本当にやめろよ!」
「美桜ちゃんって本当は乱暴だよね。理想のあっくんより俺に近いんじゃない?」
「えっ。」
私の胸の上で話すので息がくすぐったい。
「うふふっそれにあの人を利用してる狡さや賢さも俺そっくりじゃん。今着てる服もぜーんぶあの人のお金なんでしょ。ようは人の金で生きてるんだから俺と一緒じゃない?」
「そ、それは。」
「なんだやっぱりあっくんは俺じゃん。俺も優しいしあんまり怒らないし、それは一緒に居て分かったでしょ。」
ホラー映画の事と洗濯してしまった事を言ってるようだ。
「違う、違うもん。」
「違わないよ。なんだ本当の俺の事ちゃあんと見てくれてたんだぁありがとう。やっぱり俺が好きで君は俺のもんなんだね。可愛い。」
耳元で囁かれてぶわっと熱くなる。なんでどうしてこんな男に!
「ええ可愛いって言われて嬉しかったの?もっと言ってあげるよ可愛い。もっと舐めてあげるね。」
「離して!離して!」
「嫌だよ。そいつに見せ付けないと。」
えっそいつ?
と抱き締められたまま体を後ろに向けられる。
「美桜さん?」
そこに立っていたのはパリッとしたスーツ姿のもやしだった。