地球は侵略されました
宇宙人による地球侵略から半世紀。
ここは東京の一等地にあるオフィスビル。
「オ~イ!!アイカワ!」
妙に甲高い、電子合成された声が社内に響き渡る。課長が呼んでいるのだ。呼ばれた青年は、急いで課長席に向かった。
青年は一般的な日本人体型で、すこし頼りない感じだった。
そして課長席には、ヌメヌメと紫色に光る肌に、巨大な単眼の宇宙人が座っていた。
宇宙人に首や身体のくびれなどはなく、体にぴったりの不思議なスーツを着ている。
課長の声は、口の部分についている翻訳機で日本語になって、課長席の横に設置されたスピーカーから出ている。
課長は様々な色で塗り分けられた紙を前にして、青年を叱る。
「コノ ブンショウ ムチャクチャ!
コレダカラ チキュウジンハ ダメダ…」
(また始まった…)
青年は心の中でため息を吐いた。
課長の小言はすぐに脱線し、主に地球人全体の批判となる。
「チキュウジンハ チャントシタ ブンショウ ツクレナイ!!」
「きちんと文章チェックしてから、コンバーターにかけましたが。」
「コンバーター カケタ アトモ チェックシロ!」
課長は、器用に触手で紙を投げ捨てる。青年は不満をおくびにも出さず、紙を拾い上げて席に戻る。
隣の席の同僚とひそひそと愚痴を言い合う。
「文字が形じゃなくて、色で判別するってのが理解できん。」
「微妙な色の差で意味違うなんて、無理だよな。」
「白黒印刷できないじゃん。」
課長の地球人批判はまだ続いている。
「ソモソモ チキュウジンハ ユウセイセイショク ミタイナ ヒコウリツナ シンカ シテルカラ…」
「分裂で増えるあんたらのほうが。よっぽど単細胞だっての!」
同僚と2人で声を殺して笑う。
その時、パーティションの向こうから、もう一体の紫のヌメヌメが現れた。
「ブチョウ ドウシマシタカ」
部長と呼ばれたヌメヌメは、紫の色調が少し薄く、赤みがかっている。色が薄いほど年長ということらしい。
二つのヌメヌメは、何か高音のノイズを出しあって会話している。部長は何を言っているか分からないが、課長は翻訳機をつけたままなので、課長の言うことだけはスピーカーから聞こえてくる。
「ナント! ワレラガ シンリャク サレタ!?」
「ボセイニ テッタイスル?」
「チキュウモ テバナス!」
それを聞いて同僚たちは手をとり喜びあった。
こんな理不尽な生活も、これで終了する!
***
一年後、今度は課長席に黄色のブヨブヨが座っていた。
「を~ゐ!!ぁぃヵゎ!」